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59.やってしまった、後悔
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麻璃亜はあれから何も言わない。黙っていられても困るんだが。
俺はこれから、どんな顔をしてゲームをしたらいいんだ。他のメンバーに、どんな態度をとったらいいんだ。この思いを殺して、いつも通りの態度でゲームをする自身なんかない。
そうなったら、どうした?って聞かれるに決まっている。でも、こんなの、答えられる内容じゃない。いっその事、騙し続けてくれれば良かったのに。何も、聞かされない方がどれだけ楽だったか。
その方が、ゲームだけ楽しんでいられたんじゃないか。
こんな・・・
「余計な事しやがって・・・」
俺は、その言葉を口に出していた。呟くように言っただけだが、麻璃亜には聞こえていたようで、苦しさから今にも泣きだしそうな顔に見えた。
自業自得じゃねぇか。
そう思って、俺は麻璃亜から目を背けた。
なんだよ、これ。
こんな思いするために俺は此処に来たのか?馬鹿馬鹿しい。これなら、家で携帯のゲームをやっていた方がどんなに楽だったか。
本当に、余計な事をしてくれたよな・・・
・・・
余計な事って、なんだよ。
俺は、何をされたんだ?
その言葉を繰り返し考えるうちに、その言葉が何を意味しているのか分からなくなった。
騙し続けてくれれば良かった?
やろうと思えば出来る事だろう。だったら何故、麻璃亜は俺に話したんだ?
オルデラを倒すために、装備集めから打倒までずっと付き合ってくれた。
それは、余計な事か?
本人を確認しないと信用できないと、わざわざ素性を明かしてまで会いに来たこと。
それは麻璃亜のリスクでしかないんじゃないか?
オルデラ後からもずっと参加してくれている。今ではメインアタッカーなのは間違いない。
もし、アリシアの件で居るのだとすれば、加わる必要は無いんじゃないか?アリシアだって常に俺らに同行しているわけじゃないんだから。
だったら、何のためにパーティに参加しているんだ?
【ぞんざいな扱いは、後でかならず後悔する事になる。】
ふと親父に言われた言葉を思い出した。アリシアだけじゃない、俺は麻璃亜にも同じ事をしているんじゃないのか?
このまま何も知らずに、投げ出して、後で本当の事を知った時、俺は後悔しないのか?
目の前で苦しそうな顔をしている麻璃亜を、このままにしておいて、後味が悪いのは俺自身じゃないのか?
「馬鹿だな俺・・・余計なのは、俺の方じゃねぇか・・・」
気付いたら、余計なのは俺の浅慮だ。みっともないというか、恥ずかしいというか。それに気付くと、嫌な気分は無くなっていた。
むしろ、親父の言葉をもっと早く思い出せていたら、麻璃亜に嫌な思いをさせて後悔なんてしなかっただろう。本当にその通りだな、ぞんざいに扱って後悔してら。
「ごめん、嫌な思いをさせて・・・」
「ううん。」
だけど麻璃亜は俺から目を逸らしたままそう言うだけで、苦しそうな顔は変わっていない。まぁ、俺の態度が悪かったんだ、戻って欲しいと思っても、虫のいい話しだよな。
「なぁ、麻璃亜。」
「うん?」
そこで、やっと麻璃亜は俺の方に顔を向けた。
「麻璃亜の事情も聞かずに、俺の勝手な思いばかり言ってごめん。ちゃんと、話しを聞かせてくれないか?」
「いいよ。」
「その、本当にごめん・・・」
返事はしてくれたが、やっぱり麻璃亜の表情は変わらない。やっちまったよな・・・
「晶社くん、勘違いしてるよ。」
「え?」
「私が辛いのは、晶社くんを苦しませてるから。」
なんだよ、それ。そんな事、無いっての。
「自業自得だ、これは。麻璃亜が気にする事じゃない。」
俺はそう言って、自嘲するように笑った。
「そういうとこ。」
そうは言われてもな、自分でもどうしていいか分かんねぇよ。
「いつも通りでいいの。」
「まぁ、努力するわ。」
「うん。」
麻璃亜はそこで、いつもの笑みを浮かべてくれた。その笑みを見れた事で、ほっとすると喉が渇いていることに気付き、コーラを飲んだ。
もう、温くなっていていまいちだったが。
「話す前にひとつ承知して欲しい事があるの。それは、内容によっては答えられないものがある事。」
「あぁ、それは分かってる。」
「それで、何から聞きたいの?」
何から、か。改めて言われると、何から聞いていいやら。とりあえず、始めからかな。
「何故、俺のところだったんだ?」
麻璃亜は紅茶を一口飲むと、真面目な表情で俺を見た。
「晶社くん、この前話した事を覚えている?」
「強制ログアウトの事か?」
「そう。もともと私は、その調査のためにゲームをする事になったの。」
あれの調査?前から報告なんかはあると聞いてはいたが、俺は運営にそんな報告はしていない。麻璃亜はどうやって俺が、強制ログアウトになった事を知ったんだ?
それに、調査をする事になってからゲームを始めたってのは、サービス開始から事象があったって事か?
「それって・・・」
俺が思った事を聞こうとすると、麻璃亜は掌を俺に向けて止める。
「それについては今から説明するね。その後に、何かあるなら聞いて。」
「あ、あぁ。」
「まず、ゲームを始めたのはあのオルデラ戦から。」
なんだって?
「つまり、管理者から晶社くんのパーティと同等の進捗度のプレイヤーを用意してもらったの。装備はあの時点で持てる最高ランクのものを用意してもらって、ソロ記録は初めてゲームをしたときに、動きを確認するために戦った記録を見せただけよ。」
・・・
変態だ。
初めてゲームをして、装備が揃ってるとはいえ、LV9のボスをソロだなんて・・・
「次に、晶社くんが強制ログアウトを受けた事については、管理者側で監視をしていたからよ。」
「監視だって?」
まさか、プレイヤーをわざわざ監視してるのか?何時ログインして何時ログアウトしたのかとか、プレイヤーの数を考えると出来るとは思えないが。
「そう。でも、それは晶社くんを監視していたわけじゃないの。」
俺じゃない?という事は・・・やっと話しが見えてきた。そういう事か。
「アリシアなんだな。」
「えぇ。」
麻璃亜が頷くのを見て、やっと理解した。
つまり、アリシアを監視している中で、強制ログアウトの事象が確認されたんだ。その調査のために、麻璃亜が俺たちのパーティに参加した。
それなら、事前にその事象を知っていて、蜘蛛戦の時に麻璃亜が俺を庇った理由も納得できる。いや、出来るか?
「蜘蛛戦の時、なんで俺を庇った?」
「もともと私のキャラは管理者が用意したもでしょう?状況を探るなら、私が受けないと意味がないと思ったのよ。」
あぁ、そりゃそうだよな。
「それに、晶社くんを守りたかったからかな。そんな理屈を考えるより先に、身体が動いていたから。」
・・・
そこの説明は不要だな。
「そこまで聞いてねぇよ。」
「えぇ、告白しろって言うから告白したのに、酷い。」
やめろ。
紛らわしい言い方をするな・・・
俺は周囲を横目で確認すると、何人かがこちら見ているように見えた。被害妄想かもしれないが、勘弁してほしい。
「それで、アリシアは一体何なんだ?」
「それについては、答えられないわ。」
何となく予想はしていた。アリシアの存在は強制ログアウトとは次元が違うんじゃないかって気がして。強制ログアウトは、ゲームのバグ程度かもしれないが、ゲーム内に生身の人間がいるなんて、あり得ないからな。
「分かった。それじゃ、どうやって生活しているのかってのも、ダメだよな。」
「そうなるわね。」
半年くらいか、アリシアと出会ってから。人間、生活するためにはいろいろと必要になる。それがゲーム内で可能という事に驚きを隠せない。
時間が止まっているから何も食べなくていい、なんて事は無いだろう。それなら本人も動いてないよな。動いているのは、本人に流れる時間が動いているからだと思うし。
「俺に会うのは、ゲームを円滑に進めるためとかか?」
麻璃亜の仕事は概ね分かった。
それよりも、本人に会って確認しなければ信用できない。そこは分かったが、その後は会う必要も無いよな。こんな話しでもなければ・・・
「え、女の子にそんな事を言わせるの?」
麻璃亜はそう言って頬を両手で抑えると、恥ずかしそうに俯いた。
「あぁ、聞いた俺が馬鹿だったよ。」
「むぅ、つまんない。」
知るか。
「だけど、重たい話しを聞いてしまった気がするな。」
「ごめん、私の所為、だよね・・・」
ほんの少し、また苦しそうな顔をする麻璃亜は、俺を巻き込んだという責任を感じているんだろうか。だが、俺はそうは思ってない。
「そうじゃないだろ。発端は、俺の前にアリシアが現れた事だろ。だから、麻璃亜の所為じゃない。」
「うん、ありがと。」
麻璃亜は微笑むと、紅茶を飲もうとしてカップに手を付ける。だが飲み終わっていたようで、そのカップが口に運ばれる事は無かった。
「他に聞きたい事は?」
他にねぇ・・・
アリシアの事に関しては知りようが無い、という事は分かった。だから、これ以上は何を聞いても無駄だろう。
強制ログアウトに関しても、調査中だと言っているので、俺に分かる事はない。城之内の頭痛との因果関係も含めて。
「特に無い、かなぁ・・・。」
「そう。」
麻璃亜は手持無沙汰なのか、また紅茶のカップの取っ手を掴んでは、離した。俺もコーラは一口くらい残っているが、氷が溶け薄くなった温いコーラは飲む気には慣れない。
そろそろ帰るか。
「ねぇ。」
「ん?」
「場所、変えない?」
・・・
と、言われてもな。俺にはもう話すことも無いんだが。
「どうせ、まだメンテ中だよ?」
メンテ・・・そうか、メンテな。その内容もちょっと気になるな。
「それとも、お姉さんにはもう付き合えない?」
「そんな事ねぇよ。だけど、行くったって、何処に行くんだ?」
「そこはお姉さんに任せて。いいお店を知っているんだ。」
それならいいか。高校生の俺に、どっか良い店がないかと聞かれても分からない。そもそもが、家と学校の往復だし、外食する余裕も無い。精々、コンビニでの買い食いくらいだ。
「俺に聞かれても、コンビニの場所くらいしか出ないからな。」
「うん、じゃぁ行こう。」
苦笑する俺に。麻璃亜は楽しそうに言うと席を立った。
「なぁ、カフェバーって書いてあるような気がするんだが・・・」
店の前に着き、此処と言うから見てみればそう書いてあった。何を考えてんだ。
「っておい・・・」
そんな俺の言葉は無視して、麻璃亜は店に入ろうとする。
というか、もう入っていた。
慌てて付いて行き、中に入ると、抑えられた照明にジャズだかなんだか分からないが、そんな音楽が流れる落ち着いた雰囲気の店だった。
俺はまったく落ち着かないが。
(完全にバーだろ、ここ。テレビで見たことがあるような感じだし。)
麻璃亜を探すと、カウンターの前で俺を手招きしていた。
「高校生が入っていい場所じゃない気がするんだが・・・」
「そんな事ないよ。カフェでもあるし。特に中高生には見た目も綺麗で美味しい、ジュースカクテルが人気かな。」
「へぇ・・・」
そんな世界もあるんだな。ってか、中高生がこんな店に来て何を楽しむんだ?
「晶社くんは、ゲームばっかだから、興味ないかな。」
俺の考えを見透かしたように麻璃亜が言ってくる。まぁ、その通りだよ。余計なお世話だ。
「とりあえず、座ろ。」
麻璃亜に連れられ、俺はカウンターの端に座った。カウンター内に居る店員が、こっちに近付いて来る。
緊張するなって方が無理だろ、これ。
「これは黒咲様、いつもありがとうございます。」
「こんばんは。」
・・・
常連かよ。
「お連れ様が御一緒とは、珍しいですね。」
店員が俺の方を見て言うと、麻璃亜が急に腕を掴んでくる。
「そう、恋人よ。」
「ちげぇだろ!」
慌てて腕を振り払う。
「おや、お熱いですね。」
「えぇ。」
熱くもねぇし、えぇでもねぇよ、アホか。勝手に盛り上がるなっての。
「いつもので宜しいですか?」
「えぇ。それとあれ、二つお願い。」
「畏まりました。お連れ様のお飲み物は如何致しましょうか?」
「晶社くん、コーラ?それとも、カクテルでも飲んでみる?」
ぽんぽん会話が進んでいるが、まったくついて行けねぇ・・・それに、カクテルとか意味が分かんねぇよ。
「コーラがお好きなのですね?」
「え・・・まぁ。」
聞かれると恥ずかしいな。子供かよって思われてるんだろうな。
「それでしたら、私にお任せ頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
俺は緊張から、言われるまま返事をしてしまった。
「あ、はい。だって、ふふ。」
うるせぇ。
「緊張するだろ、こんな所・・・」
「いつも通りで大丈夫だよ。此処のね、渡り蟹のリングイネが凄く美味しいの。」
何を言っているか分からん。渡り蟹は、カニだろうが。
「リングイネ?」
「パスタの種類。」
「へぇ・・・って、飯食うのか。」
「そうだよ、もう夕方だし、丁度いいでしょ?」
うっかり流れで付いて来てしまったが、何も考えてなかったよ。でっきり別のカフェでも行くのかと思っていた程度だ。
いや、ここもカフェだったか。
そうじゃなく、この店高そうだし。
「ごめん、俺の分キャンセルしてくれ。」
「えぇ、どうして?一緒に食べよ。」
「いや、金が足りるかどうか・・・」
「それは気にしなくていいから。」
気にするに決まってるだろう。今日のカフェだって、出させてくれなかったし。いつもいつも奢ってもらってばっかりだ。
「気にするよ・・・」
「私が付き合わせているからいいの。このまま、付き合って欲しいな。」
顔を逸らしている俺に、回り込んで覗き込むように言ってくる。
「それは、構わないけど・・・」
「うーん、こうしない。晶社くんがバイトしたり、社会人になってお給料もらったら、私に御馳走して?」
何時になるか分からない約束は、在って無いようなものだろ。高校を卒業して働くとしたって、2年以上先だ。だったら、バイトするしかないよな。
それはいいんだが、そんな不確かなものでいいのだろうか。
「分かったよ。」
麻璃亜は、俺が分かったと言いやすいように気を遣ってくれたんだろう。本当は、気になんてしていないんじゃないだろうか。
「うん。」
「あ、それだと家に連絡しないと。」
俺はそう思って携帯を取り出す。まだ晩飯の用意はしていないだろうから、今のうちに連絡しておかないと。
「あぁ、おれ。晩飯食って帰るからいらない。」
会話アプリを起動して携帯に向かって言う。文字が自動変換されて、母さんへメッセージが自動送信された。
「あ、いいなぁ。私も登録して?」
「え・・・」
「なんでえって言うの?私、嫌がられてるみたいじゃない。」
麻璃亜は頬をちょっと膨らませながら言った。そういうつもりじゃないんだが。
「ごめん、ちょっとびっくりしただけ。」
「あ、返信来てるよ。」
慌てて言い訳をしていると、画面を見ていた麻璃亜が母さんからの返信を見る。
『分かったわ。ただ、まだ朝帰りはダメよ。』
「しねぇよ!」
何処まで話しを飛躍してんだこのババぁ・・・
「残念だね。」
それを見た麻璃亜は、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。残念じゃねぇよ、そんなに俺で遊んで楽しいか?まぁ、楽しいんだろな、くそ。
「それより、はい。」
と言って麻璃亜は携帯を出してくる。会話アプリに登録しろという事だろう。俺なんかのIDを登録しても何の得にもならだんだろうに。
「いいのか?」
「良くなかったら出してないよ。」
IDを交換して程なく、頼んでいた料理が来た。
「これ、コーラ?」
逆三角形のグラスに透明な炭酸が入ってる。なんじゃこりゃ?グラスの端にはオレンジが刺さってるし、レモンの輪切りも入っている。底には何か沈んでるな・・・
「レモンを漬けたシロップが沈んでおります。かき混ぜて、甘さは調節してください。」
「あ、あぁ・・・」
俺は恐る恐る透明な炭酸を飲む。コーラっていうか、ただの炭酸水じゃないのか?
「・・・コーラだ。」
すげぇ、味はちゃんとコーラだ。普通のコーラよりも甘さはかなり控えめだが、そのためのシロップか。
「美味しい?」
「あぁ、うまい。」
「ふふ、良かった。」
レモンの香りが爽やかな感じで、コーラなのに甘くないけど飲みやすい。かなり衝撃的な飲み物だ。
次に渡り蟹のなんとかが来た。カニの匂いがすげぇ。
「これがねぇ、凄い美味しいの。」
麻璃亜が早速、フォークとスプーンを使って、パスタを綺麗に巻いて口に運ぶ。やった事がない俺は、見様見真似で口に運んだ。
なんか、家で食べるパスタは何なんだろうな・・・こんなの食った事ねぇよ。初めて知ったが、旨い物を食うと、にやけてくるんだな。
「満足そうで良かった。」
・・・見られたのか。まぁ、いいか。
「そう言えば、もう一つ聞きたい事があったんだ。」
「なに?」
食べ終わると、俺は気になっていた事を切り出す。
「今日のメンテって、何やってんだ?」
内容的にはクエストの修正、としか案内がされていない。ただ、具体的に何をやっているのか気になっただけなんだが。
「ごめん。私ね、システム的なところ、まったく分からないの。」
「そうなんだ。」
それじゃしょうがないな。
「あとさ。」
「質問、一個じゃないんだ。」
「いや・・・」
揚げ足取りかよ。顔を見ると笑っている事から間違いないだろう。
「それで?」
「あぁ。なんか、喋り方違くね?」
ずっと引っ掛かっていたんだ。誰かと話すとき、仕事の話しの時はお姉さんっぽいんだが、雑談の時はちょっと違うというか。
「んー・・・変?」
「いや、そうじゃなくて、何なのかなって思っただけで。」
麻璃亜は顎に指を当てて天井の方に目を向ける。考えるような仕種をしたあと、そのままの姿勢で口を開いた。
「多分、この話し方は夢那と晶社くんだけかな。」
「ユメナ?」
「うん、私の姉、みたいなものかな。」
みたいな、って事は、姉妹ではないって事だろうか。
「私と夢那は孤児でね、小さい頃からずっと一緒だったの。だから、夢那の前では自然体でいられるというか。」
「そうなのか。」
孤児とか、思ってもみなかったよ。普通に親が居て、一緒なり何処かで暮らしている。それが当たり前だと思っている俺には、刺激のある話しだった。
自分の考えの狭さが、ちょっと恥ずかしい。
「晶社くんはどうしてだろうね、何か落ち着くのかもしれない。」
「俺が?」
何が落ち着くのかさっぱり分からないんだが。
「だって、他にこんな話しする人居ないもん。」
聞いて良かったのかどうか、よく分からない。ただ、麻璃亜自身が話したって事は、悪くは無かったんだろう。なんか、聞かなくてもいい事を聞いてしまったようで、気まずい気分になる。
「私の事は、気にしなくてもいいよ。」
それを察したのか、麻璃亜はそう言った。
「それより。」
「ん?」
「ヒナちゃんだっけ、妹。」
何故今、突然妹の話しを出した・・・俺は明らかに嫌そうな顔になる。
「なにそれ。」
俺の反応を見て、麻璃亜はくすっと笑った。
「いや、妹がどうしたんだよ。」
「仲良いのかなって。」
あぁ、普段の会話を見せてやりたいくらいだよ。
「俺は普通に接しているつもりなんだが、ヒナは俺を悍ましいものを見るような目で、汚物扱いするんだ。」
「そう、なんとなくゲーム内で見ていて思ってたけど、やっぱり仲が良いんだね。」
・・・
「何処をどう聞いたらそうなるんだよ・・・」
「うん。」
麻璃亜は俺の方を見るとそれだけ言って、微笑んだ。
意味が分かんねぇよ。
「ご馳走様でした。」
それから程なく、俺たちは店を出た。
「私の方こそ、楽しかったよ。ありがと。」
「そうか、なら、いいけど。」
そのての言葉は、面と向かって言われる事に、やっぱり慣れない。
「お姉さん、今度は晶社くんの方から誘って欲しいなぁ。」
何をアホな事言ってんだよ。
「気が、向いたらな。」
「おぉ、ふざけんなとか言われると思ってた。」
麻璃亜は一瞬、驚くとそう言って笑った。そこまで自分勝手でもねぇし、恩知らずでもない。と、自分では思ってるんだが。
「じゃ、気を付けて帰ってね。」
「あぁ。」
家に帰ると、21時近かった。
俺、そんなに麻璃亜と話していたのか・・・
(確か、メンテって20時までだったよな。)
とりあえず、DEWSでもやるか。
そう思って確認すると、DEWSのメンテは延長に入っていて、終了時刻は未定になっていた。
俺はこれから、どんな顔をしてゲームをしたらいいんだ。他のメンバーに、どんな態度をとったらいいんだ。この思いを殺して、いつも通りの態度でゲームをする自身なんかない。
そうなったら、どうした?って聞かれるに決まっている。でも、こんなの、答えられる内容じゃない。いっその事、騙し続けてくれれば良かったのに。何も、聞かされない方がどれだけ楽だったか。
その方が、ゲームだけ楽しんでいられたんじゃないか。
こんな・・・
「余計な事しやがって・・・」
俺は、その言葉を口に出していた。呟くように言っただけだが、麻璃亜には聞こえていたようで、苦しさから今にも泣きだしそうな顔に見えた。
自業自得じゃねぇか。
そう思って、俺は麻璃亜から目を背けた。
なんだよ、これ。
こんな思いするために俺は此処に来たのか?馬鹿馬鹿しい。これなら、家で携帯のゲームをやっていた方がどんなに楽だったか。
本当に、余計な事をしてくれたよな・・・
・・・
余計な事って、なんだよ。
俺は、何をされたんだ?
その言葉を繰り返し考えるうちに、その言葉が何を意味しているのか分からなくなった。
騙し続けてくれれば良かった?
やろうと思えば出来る事だろう。だったら何故、麻璃亜は俺に話したんだ?
オルデラを倒すために、装備集めから打倒までずっと付き合ってくれた。
それは、余計な事か?
本人を確認しないと信用できないと、わざわざ素性を明かしてまで会いに来たこと。
それは麻璃亜のリスクでしかないんじゃないか?
オルデラ後からもずっと参加してくれている。今ではメインアタッカーなのは間違いない。
もし、アリシアの件で居るのだとすれば、加わる必要は無いんじゃないか?アリシアだって常に俺らに同行しているわけじゃないんだから。
だったら、何のためにパーティに参加しているんだ?
【ぞんざいな扱いは、後でかならず後悔する事になる。】
ふと親父に言われた言葉を思い出した。アリシアだけじゃない、俺は麻璃亜にも同じ事をしているんじゃないのか?
このまま何も知らずに、投げ出して、後で本当の事を知った時、俺は後悔しないのか?
目の前で苦しそうな顔をしている麻璃亜を、このままにしておいて、後味が悪いのは俺自身じゃないのか?
「馬鹿だな俺・・・余計なのは、俺の方じゃねぇか・・・」
気付いたら、余計なのは俺の浅慮だ。みっともないというか、恥ずかしいというか。それに気付くと、嫌な気分は無くなっていた。
むしろ、親父の言葉をもっと早く思い出せていたら、麻璃亜に嫌な思いをさせて後悔なんてしなかっただろう。本当にその通りだな、ぞんざいに扱って後悔してら。
「ごめん、嫌な思いをさせて・・・」
「ううん。」
だけど麻璃亜は俺から目を逸らしたままそう言うだけで、苦しそうな顔は変わっていない。まぁ、俺の態度が悪かったんだ、戻って欲しいと思っても、虫のいい話しだよな。
「なぁ、麻璃亜。」
「うん?」
そこで、やっと麻璃亜は俺の方に顔を向けた。
「麻璃亜の事情も聞かずに、俺の勝手な思いばかり言ってごめん。ちゃんと、話しを聞かせてくれないか?」
「いいよ。」
「その、本当にごめん・・・」
返事はしてくれたが、やっぱり麻璃亜の表情は変わらない。やっちまったよな・・・
「晶社くん、勘違いしてるよ。」
「え?」
「私が辛いのは、晶社くんを苦しませてるから。」
なんだよ、それ。そんな事、無いっての。
「自業自得だ、これは。麻璃亜が気にする事じゃない。」
俺はそう言って、自嘲するように笑った。
「そういうとこ。」
そうは言われてもな、自分でもどうしていいか分かんねぇよ。
「いつも通りでいいの。」
「まぁ、努力するわ。」
「うん。」
麻璃亜はそこで、いつもの笑みを浮かべてくれた。その笑みを見れた事で、ほっとすると喉が渇いていることに気付き、コーラを飲んだ。
もう、温くなっていていまいちだったが。
「話す前にひとつ承知して欲しい事があるの。それは、内容によっては答えられないものがある事。」
「あぁ、それは分かってる。」
「それで、何から聞きたいの?」
何から、か。改めて言われると、何から聞いていいやら。とりあえず、始めからかな。
「何故、俺のところだったんだ?」
麻璃亜は紅茶を一口飲むと、真面目な表情で俺を見た。
「晶社くん、この前話した事を覚えている?」
「強制ログアウトの事か?」
「そう。もともと私は、その調査のためにゲームをする事になったの。」
あれの調査?前から報告なんかはあると聞いてはいたが、俺は運営にそんな報告はしていない。麻璃亜はどうやって俺が、強制ログアウトになった事を知ったんだ?
それに、調査をする事になってからゲームを始めたってのは、サービス開始から事象があったって事か?
「それって・・・」
俺が思った事を聞こうとすると、麻璃亜は掌を俺に向けて止める。
「それについては今から説明するね。その後に、何かあるなら聞いて。」
「あ、あぁ。」
「まず、ゲームを始めたのはあのオルデラ戦から。」
なんだって?
「つまり、管理者から晶社くんのパーティと同等の進捗度のプレイヤーを用意してもらったの。装備はあの時点で持てる最高ランクのものを用意してもらって、ソロ記録は初めてゲームをしたときに、動きを確認するために戦った記録を見せただけよ。」
・・・
変態だ。
初めてゲームをして、装備が揃ってるとはいえ、LV9のボスをソロだなんて・・・
「次に、晶社くんが強制ログアウトを受けた事については、管理者側で監視をしていたからよ。」
「監視だって?」
まさか、プレイヤーをわざわざ監視してるのか?何時ログインして何時ログアウトしたのかとか、プレイヤーの数を考えると出来るとは思えないが。
「そう。でも、それは晶社くんを監視していたわけじゃないの。」
俺じゃない?という事は・・・やっと話しが見えてきた。そういう事か。
「アリシアなんだな。」
「えぇ。」
麻璃亜が頷くのを見て、やっと理解した。
つまり、アリシアを監視している中で、強制ログアウトの事象が確認されたんだ。その調査のために、麻璃亜が俺たちのパーティに参加した。
それなら、事前にその事象を知っていて、蜘蛛戦の時に麻璃亜が俺を庇った理由も納得できる。いや、出来るか?
「蜘蛛戦の時、なんで俺を庇った?」
「もともと私のキャラは管理者が用意したもでしょう?状況を探るなら、私が受けないと意味がないと思ったのよ。」
あぁ、そりゃそうだよな。
「それに、晶社くんを守りたかったからかな。そんな理屈を考えるより先に、身体が動いていたから。」
・・・
そこの説明は不要だな。
「そこまで聞いてねぇよ。」
「えぇ、告白しろって言うから告白したのに、酷い。」
やめろ。
紛らわしい言い方をするな・・・
俺は周囲を横目で確認すると、何人かがこちら見ているように見えた。被害妄想かもしれないが、勘弁してほしい。
「それで、アリシアは一体何なんだ?」
「それについては、答えられないわ。」
何となく予想はしていた。アリシアの存在は強制ログアウトとは次元が違うんじゃないかって気がして。強制ログアウトは、ゲームのバグ程度かもしれないが、ゲーム内に生身の人間がいるなんて、あり得ないからな。
「分かった。それじゃ、どうやって生活しているのかってのも、ダメだよな。」
「そうなるわね。」
半年くらいか、アリシアと出会ってから。人間、生活するためにはいろいろと必要になる。それがゲーム内で可能という事に驚きを隠せない。
時間が止まっているから何も食べなくていい、なんて事は無いだろう。それなら本人も動いてないよな。動いているのは、本人に流れる時間が動いているからだと思うし。
「俺に会うのは、ゲームを円滑に進めるためとかか?」
麻璃亜の仕事は概ね分かった。
それよりも、本人に会って確認しなければ信用できない。そこは分かったが、その後は会う必要も無いよな。こんな話しでもなければ・・・
「え、女の子にそんな事を言わせるの?」
麻璃亜はそう言って頬を両手で抑えると、恥ずかしそうに俯いた。
「あぁ、聞いた俺が馬鹿だったよ。」
「むぅ、つまんない。」
知るか。
「だけど、重たい話しを聞いてしまった気がするな。」
「ごめん、私の所為、だよね・・・」
ほんの少し、また苦しそうな顔をする麻璃亜は、俺を巻き込んだという責任を感じているんだろうか。だが、俺はそうは思ってない。
「そうじゃないだろ。発端は、俺の前にアリシアが現れた事だろ。だから、麻璃亜の所為じゃない。」
「うん、ありがと。」
麻璃亜は微笑むと、紅茶を飲もうとしてカップに手を付ける。だが飲み終わっていたようで、そのカップが口に運ばれる事は無かった。
「他に聞きたい事は?」
他にねぇ・・・
アリシアの事に関しては知りようが無い、という事は分かった。だから、これ以上は何を聞いても無駄だろう。
強制ログアウトに関しても、調査中だと言っているので、俺に分かる事はない。城之内の頭痛との因果関係も含めて。
「特に無い、かなぁ・・・。」
「そう。」
麻璃亜は手持無沙汰なのか、また紅茶のカップの取っ手を掴んでは、離した。俺もコーラは一口くらい残っているが、氷が溶け薄くなった温いコーラは飲む気には慣れない。
そろそろ帰るか。
「ねぇ。」
「ん?」
「場所、変えない?」
・・・
と、言われてもな。俺にはもう話すことも無いんだが。
「どうせ、まだメンテ中だよ?」
メンテ・・・そうか、メンテな。その内容もちょっと気になるな。
「それとも、お姉さんにはもう付き合えない?」
「そんな事ねぇよ。だけど、行くったって、何処に行くんだ?」
「そこはお姉さんに任せて。いいお店を知っているんだ。」
それならいいか。高校生の俺に、どっか良い店がないかと聞かれても分からない。そもそもが、家と学校の往復だし、外食する余裕も無い。精々、コンビニでの買い食いくらいだ。
「俺に聞かれても、コンビニの場所くらいしか出ないからな。」
「うん、じゃぁ行こう。」
苦笑する俺に。麻璃亜は楽しそうに言うと席を立った。
「なぁ、カフェバーって書いてあるような気がするんだが・・・」
店の前に着き、此処と言うから見てみればそう書いてあった。何を考えてんだ。
「っておい・・・」
そんな俺の言葉は無視して、麻璃亜は店に入ろうとする。
というか、もう入っていた。
慌てて付いて行き、中に入ると、抑えられた照明にジャズだかなんだか分からないが、そんな音楽が流れる落ち着いた雰囲気の店だった。
俺はまったく落ち着かないが。
(完全にバーだろ、ここ。テレビで見たことがあるような感じだし。)
麻璃亜を探すと、カウンターの前で俺を手招きしていた。
「高校生が入っていい場所じゃない気がするんだが・・・」
「そんな事ないよ。カフェでもあるし。特に中高生には見た目も綺麗で美味しい、ジュースカクテルが人気かな。」
「へぇ・・・」
そんな世界もあるんだな。ってか、中高生がこんな店に来て何を楽しむんだ?
「晶社くんは、ゲームばっかだから、興味ないかな。」
俺の考えを見透かしたように麻璃亜が言ってくる。まぁ、その通りだよ。余計なお世話だ。
「とりあえず、座ろ。」
麻璃亜に連れられ、俺はカウンターの端に座った。カウンター内に居る店員が、こっちに近付いて来る。
緊張するなって方が無理だろ、これ。
「これは黒咲様、いつもありがとうございます。」
「こんばんは。」
・・・
常連かよ。
「お連れ様が御一緒とは、珍しいですね。」
店員が俺の方を見て言うと、麻璃亜が急に腕を掴んでくる。
「そう、恋人よ。」
「ちげぇだろ!」
慌てて腕を振り払う。
「おや、お熱いですね。」
「えぇ。」
熱くもねぇし、えぇでもねぇよ、アホか。勝手に盛り上がるなっての。
「いつもので宜しいですか?」
「えぇ。それとあれ、二つお願い。」
「畏まりました。お連れ様のお飲み物は如何致しましょうか?」
「晶社くん、コーラ?それとも、カクテルでも飲んでみる?」
ぽんぽん会話が進んでいるが、まったくついて行けねぇ・・・それに、カクテルとか意味が分かんねぇよ。
「コーラがお好きなのですね?」
「え・・・まぁ。」
聞かれると恥ずかしいな。子供かよって思われてるんだろうな。
「それでしたら、私にお任せ頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
俺は緊張から、言われるまま返事をしてしまった。
「あ、はい。だって、ふふ。」
うるせぇ。
「緊張するだろ、こんな所・・・」
「いつも通りで大丈夫だよ。此処のね、渡り蟹のリングイネが凄く美味しいの。」
何を言っているか分からん。渡り蟹は、カニだろうが。
「リングイネ?」
「パスタの種類。」
「へぇ・・・って、飯食うのか。」
「そうだよ、もう夕方だし、丁度いいでしょ?」
うっかり流れで付いて来てしまったが、何も考えてなかったよ。でっきり別のカフェでも行くのかと思っていた程度だ。
いや、ここもカフェだったか。
そうじゃなく、この店高そうだし。
「ごめん、俺の分キャンセルしてくれ。」
「えぇ、どうして?一緒に食べよ。」
「いや、金が足りるかどうか・・・」
「それは気にしなくていいから。」
気にするに決まってるだろう。今日のカフェだって、出させてくれなかったし。いつもいつも奢ってもらってばっかりだ。
「気にするよ・・・」
「私が付き合わせているからいいの。このまま、付き合って欲しいな。」
顔を逸らしている俺に、回り込んで覗き込むように言ってくる。
「それは、構わないけど・・・」
「うーん、こうしない。晶社くんがバイトしたり、社会人になってお給料もらったら、私に御馳走して?」
何時になるか分からない約束は、在って無いようなものだろ。高校を卒業して働くとしたって、2年以上先だ。だったら、バイトするしかないよな。
それはいいんだが、そんな不確かなものでいいのだろうか。
「分かったよ。」
麻璃亜は、俺が分かったと言いやすいように気を遣ってくれたんだろう。本当は、気になんてしていないんじゃないだろうか。
「うん。」
「あ、それだと家に連絡しないと。」
俺はそう思って携帯を取り出す。まだ晩飯の用意はしていないだろうから、今のうちに連絡しておかないと。
「あぁ、おれ。晩飯食って帰るからいらない。」
会話アプリを起動して携帯に向かって言う。文字が自動変換されて、母さんへメッセージが自動送信された。
「あ、いいなぁ。私も登録して?」
「え・・・」
「なんでえって言うの?私、嫌がられてるみたいじゃない。」
麻璃亜は頬をちょっと膨らませながら言った。そういうつもりじゃないんだが。
「ごめん、ちょっとびっくりしただけ。」
「あ、返信来てるよ。」
慌てて言い訳をしていると、画面を見ていた麻璃亜が母さんからの返信を見る。
『分かったわ。ただ、まだ朝帰りはダメよ。』
「しねぇよ!」
何処まで話しを飛躍してんだこのババぁ・・・
「残念だね。」
それを見た麻璃亜は、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。残念じゃねぇよ、そんなに俺で遊んで楽しいか?まぁ、楽しいんだろな、くそ。
「それより、はい。」
と言って麻璃亜は携帯を出してくる。会話アプリに登録しろという事だろう。俺なんかのIDを登録しても何の得にもならだんだろうに。
「いいのか?」
「良くなかったら出してないよ。」
IDを交換して程なく、頼んでいた料理が来た。
「これ、コーラ?」
逆三角形のグラスに透明な炭酸が入ってる。なんじゃこりゃ?グラスの端にはオレンジが刺さってるし、レモンの輪切りも入っている。底には何か沈んでるな・・・
「レモンを漬けたシロップが沈んでおります。かき混ぜて、甘さは調節してください。」
「あ、あぁ・・・」
俺は恐る恐る透明な炭酸を飲む。コーラっていうか、ただの炭酸水じゃないのか?
「・・・コーラだ。」
すげぇ、味はちゃんとコーラだ。普通のコーラよりも甘さはかなり控えめだが、そのためのシロップか。
「美味しい?」
「あぁ、うまい。」
「ふふ、良かった。」
レモンの香りが爽やかな感じで、コーラなのに甘くないけど飲みやすい。かなり衝撃的な飲み物だ。
次に渡り蟹のなんとかが来た。カニの匂いがすげぇ。
「これがねぇ、凄い美味しいの。」
麻璃亜が早速、フォークとスプーンを使って、パスタを綺麗に巻いて口に運ぶ。やった事がない俺は、見様見真似で口に運んだ。
なんか、家で食べるパスタは何なんだろうな・・・こんなの食った事ねぇよ。初めて知ったが、旨い物を食うと、にやけてくるんだな。
「満足そうで良かった。」
・・・見られたのか。まぁ、いいか。
「そう言えば、もう一つ聞きたい事があったんだ。」
「なに?」
食べ終わると、俺は気になっていた事を切り出す。
「今日のメンテって、何やってんだ?」
内容的にはクエストの修正、としか案内がされていない。ただ、具体的に何をやっているのか気になっただけなんだが。
「ごめん。私ね、システム的なところ、まったく分からないの。」
「そうなんだ。」
それじゃしょうがないな。
「あとさ。」
「質問、一個じゃないんだ。」
「いや・・・」
揚げ足取りかよ。顔を見ると笑っている事から間違いないだろう。
「それで?」
「あぁ。なんか、喋り方違くね?」
ずっと引っ掛かっていたんだ。誰かと話すとき、仕事の話しの時はお姉さんっぽいんだが、雑談の時はちょっと違うというか。
「んー・・・変?」
「いや、そうじゃなくて、何なのかなって思っただけで。」
麻璃亜は顎に指を当てて天井の方に目を向ける。考えるような仕種をしたあと、そのままの姿勢で口を開いた。
「多分、この話し方は夢那と晶社くんだけかな。」
「ユメナ?」
「うん、私の姉、みたいなものかな。」
みたいな、って事は、姉妹ではないって事だろうか。
「私と夢那は孤児でね、小さい頃からずっと一緒だったの。だから、夢那の前では自然体でいられるというか。」
「そうなのか。」
孤児とか、思ってもみなかったよ。普通に親が居て、一緒なり何処かで暮らしている。それが当たり前だと思っている俺には、刺激のある話しだった。
自分の考えの狭さが、ちょっと恥ずかしい。
「晶社くんはどうしてだろうね、何か落ち着くのかもしれない。」
「俺が?」
何が落ち着くのかさっぱり分からないんだが。
「だって、他にこんな話しする人居ないもん。」
聞いて良かったのかどうか、よく分からない。ただ、麻璃亜自身が話したって事は、悪くは無かったんだろう。なんか、聞かなくてもいい事を聞いてしまったようで、気まずい気分になる。
「私の事は、気にしなくてもいいよ。」
それを察したのか、麻璃亜はそう言った。
「それより。」
「ん?」
「ヒナちゃんだっけ、妹。」
何故今、突然妹の話しを出した・・・俺は明らかに嫌そうな顔になる。
「なにそれ。」
俺の反応を見て、麻璃亜はくすっと笑った。
「いや、妹がどうしたんだよ。」
「仲良いのかなって。」
あぁ、普段の会話を見せてやりたいくらいだよ。
「俺は普通に接しているつもりなんだが、ヒナは俺を悍ましいものを見るような目で、汚物扱いするんだ。」
「そう、なんとなくゲーム内で見ていて思ってたけど、やっぱり仲が良いんだね。」
・・・
「何処をどう聞いたらそうなるんだよ・・・」
「うん。」
麻璃亜は俺の方を見るとそれだけ言って、微笑んだ。
意味が分かんねぇよ。
「ご馳走様でした。」
それから程なく、俺たちは店を出た。
「私の方こそ、楽しかったよ。ありがと。」
「そうか、なら、いいけど。」
そのての言葉は、面と向かって言われる事に、やっぱり慣れない。
「お姉さん、今度は晶社くんの方から誘って欲しいなぁ。」
何をアホな事言ってんだよ。
「気が、向いたらな。」
「おぉ、ふざけんなとか言われると思ってた。」
麻璃亜は一瞬、驚くとそう言って笑った。そこまで自分勝手でもねぇし、恩知らずでもない。と、自分では思ってるんだが。
「じゃ、気を付けて帰ってね。」
「あぁ。」
家に帰ると、21時近かった。
俺、そんなに麻璃亜と話していたのか・・・
(確か、メンテって20時までだったよな。)
とりあえず、DEWSでもやるか。
そう思って確認すると、DEWSのメンテは延長に入っていて、終了時刻は未定になっていた。
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