デッドエンドウォー シンフォニア

紅雪

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86.空虚を纏う、笑顔

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ELINEAの続く攻撃を避けると、後方に跳んで距離を取る。追い掛けて来てもいいように軽い跳躍をしたのだが、予想通り真っ直ぐに追い掛けてきた。迎え撃つために、着地と同時に低い姿勢から前進の払い抜けに移行する。
だが片手剣が当たる瞬間、ELINEAの姿が霞んで消えた。くそ、あの移動は厄介だよな。慌てて振り向くと、背後に現れたELINEAが片手剣を振り被っていた。
(ずるっ!)
間一髪受け止めるが、もう片方の片手剣は間に合いそうにない。ここは一発食らうの我慢するしかないか。夢那曰く、耐えられると言っていたし。
「!!」
そう覚悟を決めた瞬間、ELINEAの横っ腹に光の軌跡が着弾。真横に吹っ飛んでいった。
「俺様に感謝しとけよ。」
「もっと早く撃ってよ!」
「あぐっ・・・」
状況は分からないが、俺を助けた来栖は何故か月下に蹴られていた。ELINEAとの戦闘中だってのに、随分と余裕だな。

吹っ飛んだELINEAに姫の追い打ちが飛来するが、着地と同時に別方向へ跳躍して躱す。その移動先を読んでいたのか、跳躍中のELINEAにアヤカが太刀を振り下ろした。ELINEAは両手の片手剣を交差させて受け止めるが、着地がまだだったようで地面に叩き付けられ転がった。
更に月下が転がったELINEAに槍斧を振り下ろす。が、当たる前にELINEAの姿が霞んでその場から消えた。
「あぁ、もう!」
地面を叩いた月下が、恨めしそうに周囲に視線を巡らす。

通常の敵であれば、ある程度の学習はするにせよ動きは概ね決まっている。だがELINEAの場合は改造したプレイヤーを相手にしているようなもので、なかなか捉えられない。
捉えたところで決定打は無いんだが。それも夢那曰く、だから何とも言えないが、俺より事情を知っている奴が言うのだから間違いないのだろう。事情と言うか、ELINEAに合わせて俺らのキャラ改造しているんだから間違いないか。
(アリシアはまだか・・・)
俺らじゃ牽制にしかならないが、いずれELINEAは確実にこっちを仕留めるだろう。以前のこっちの改造に対応してきた事を考えれば、ログアウト出来ない俺らを追い詰めているのはELINEAの方だ。今は攻撃を受けられるとしても、そのうち中島と同様の目に遭わせられる可能性は高い。

「うぉ!」
来栖の声が聞こえたので見ると、ELINEAの片手剣をライフルで受け止めたところだった。遠距離からの攻撃が鬱陶しいと思ったのか、来栖から切り崩しにいったのかもしれない。
続けて攻撃しようとしたELINEAの背後から、マリアが小太刀で斬り付ける。ELINEAは来栖を攻撃しようとしていた左手の片手剣でマリアの小太刀を受け止めるが、来栖に受け止められていた右手の片手剣を押し返されてバランスを崩す。そこへマリアの小太刀が首に当たり、ELINEAは仰け反った。さらに来栖の銃撃がELINEAの顎に追い打ちをかけ、ELINEAは後方へ吹っ飛んでいく。
「続けて!」
「分かってるよ。」
マリアは言いながらELINEAを追い掛け、来栖は背中から地面に落ち滑るELINEAに照準を合わせた。
ELINEAの身体は弾かれるように、銃弾を受けたあとまた吹っ飛ぶ。姫の炎矢が飛んだELINEAに当たり、火柱が吹き上がった。舞い上がったELINEAに、マリアが跳躍して追い打ちを掛けようとしたが、ELINEA自身はまたも姿が霞んでその場から消えた。

「させませんわ!」
次に姫の前に現れたELINEAに、片手剣を振るより早くアヤカの太刀が襲い掛かる。間一髪受け止めたELINEAだったが、月下の横凪でまたも吹っ飛ばされた。
こっちの連携も悪くない、そう考えるとやはり決め手がないのが悔やまれる。そう思いながら俺も攻撃に向かうが、突然ELINEAが俺たちからかなり距離を取るように後方へ跳躍した。
ELINEAはこちらには目も向けず、何故か上方へ視線を送っている。好機とばかりに来栖は狙撃するが、ELINEAは見もせずにその銃弾を片手剣で弾いた。
「おいおい・・・」
「おのれ・・・またやる気か!」
ELINEAはそう叫ぶと、姿が消えその場から居なくなった。

「何が起きたんだ?」
「分かりませんわ。」
アヤカと目が合ったので言ってみるが、お互いに首を傾げて終わる。
「とりあえず、退いてくれたので、鍛冶屋に向かいませんか。」
「そうだな。」
「あそこからあたしの怒涛の追い打ちが炸裂する筈だったのに。」
はいはい、言ってろ。
「マリアは分かるか?」
「分からないわ。」
と言って、誰も分からなそうなので、プチエリネアを見上げる。
「鍛冶屋はこっちだよ。」
・・・
使えねー。






-都内某所 街頭映像-


「現在、関係性を調査中のため、内容についてはお答え出来かねます。」

「現在もゲーム内に残ったまま戻って来ない人の報告が増え続けていますが、それはどのようにお考えですか?ゲームの所為だとの認識はあるのでしょうか?」

「ゲームが原因かの調査は急ぎ進めております。ただ、システムに不具合が発生していない為、別の原因も含めて調査しております。」

「ALT社の発表では、HMDに不具合は無いとの事でしたが、そうなるとCAZH社のシステム自体に問題があったのではないですか?」

「それに関しても、ALT社と弊社双方で、引き続き調査を進めているところです。」

「ゲームが原因で、意識不明者が発生している事に関してはどうお考えですか?今回の事態も同様の症状は起きるとお考えですか?」

「意識不明の因果関係については確認出来ておりませんが、ゲームに起因するものではないと考えております。」

「でも実際にゲームをしている最中に意識不明になったっていう報告が何件も上がって・・・」


「今までの会見内容でした。現在もCAZH社の緊急記者会見が続いておりますが、ここまでの情報を整理して続きを見ていきたいと思います。実際にゲームで意識不明が起きるんでしょうか?」
「それについて精神分析学会よりお越し頂いております、天草先生に意見を伺いたいと思います。天草先生、今回の症例について、実際に起こりうる出来事なんでしょうか?」

「はい。そうですね、私の見解ではありますが・・・」





-CAZH社 本社ビル地下1階 マシンルーム-

「駄目です、管理コンソールからの操作も受け付けません。」
「こっちもダメだ。CLIからのコマンドも全部弾かれる。」
DEWSを動かしている基盤の回りでは、何人もの社員が慌ただしくしている。本社の大会議室で記者会見を行っている中、ここではその原因の究明をしようとしていたが、基盤自体へのアクセスすら出来ない状態になっていた。
「社内に影響が出る前に、基盤をネットワークから切り離すしかないな。」
「そうだな。影響はプレイ中のユーザーデータが保存されないくらいだろ?」
「あぁ。運が良ければログアウト出来ない事象も改善するかもしれない。」
「幸い、開発側でメンテ後の状況を確認するためログインしている奴がいる。切り離し後、そいつの状態を確認すれば。」

「主任、ネットワークからの切り離し許可を。」
基盤の周囲で作業をしていた主任と呼ばれた男は、その言葉に頷いた。
「いいだろう。こうなってしまってはもうどうしようもない。切り離した後に状況を確認するとしよう。」
「分かりました。では切り離します。」
許可を求めていた社員は、主任からの許可が出ると直ぐに基板からネットワークケーブルを抜き始める。
「全部抜いて、ネットワークから切り離しました。」
「分かった。トラフィックの確認と検証室でログインしている奴の確認を急げ。」
「はい。」

「これは・・・どうなっているんだ・・・」
ノートPCからネットワーク機器に接続していた社員が怪訝な顔をしながら声を漏らす。
「どうした?」
「ファイアウォールを通過しているDEWSのトラフィックが、止まっていません。」
「馬鹿な!基盤のネットワークケーブルは全て抜いたんだぞ!」
報告を受けた主任は、驚きと共に声を荒げた。
「主任!」
「なんだ!?」
「検証室に確認したんですが、ログインしていた社員が戻って来ないそうです。」
立て続けに受ける不可思議な現象に、主任一同言葉を失った。ありえない出来事に、思考が追い付かずに続く言葉が無かったのだ。
「一体、何が起きているんだ・・・」
辛うじて漏らした主任の言葉に、答えを出せる人間は居なかった。




-CAZH社 自社データセンター サーバールーム管理室-

室内で電話をしている美馬津が、驚いたり神妙な顔をしたりしているのを見ていた禍月は、そろそろ見飽きたのでプレッツェルを投げつけようかと思い始めていた。
丁度そこで電話が終わったので、禍月は内心で舌打ちをする。
「そのプレッツェルはどうするつもりだったんだ・・・」
「いや、あっきーに食べさせようかと。」
「あのな・・・」
美馬津は禍月に呆れた目を向ける。
「それより断片的だが、電話で不穏な言葉が聞こえた気がするんだが?」
「そうなんですよ。どうやら本社で、サーバーの基盤をネットワークから切り離したようなんです。」
茶番はいいから本題を言えと八鍬が促すと、美馬津はそうだったと状況を説明する。
「また強硬策をとったもんだな。だが、現状プレイヤーはゲーム内に居るままだが?」
ディスプレイを見ながら言う八鍬に、美馬津も状況を見て頷いた。
「えぇ。見ての通り、理由は分かりませんが切断されないと、水守から連絡があったんです。」
「原因はおそらくあっきーだな。」
「なんで僕なんだよ。」
二人の会話に禍月が割って入ると、美馬津は不服そうに言った。だが、禍月の顔は至って真面目な事に、美馬津は嫌な予感がした。
「移送プログラムだー。」
「・・・」
禍月の態度から、何となくそんな予感はしていた美馬津は、はっきりと聞くと落胆した。自分が蒔いた種は、こんなところまで根を張ってしまっていたのかと。
「まぁ、あくまで予想の範囲だが、データ転送に使われても不思議じゃない。ELINEAはおそらく応用したんじゃないかー。」
「まぁだが、やる事は変わらんだろ。ELINEAを何とかしない限りは、我々の計画も頓挫するわけだ。」
「しゅにんの言う通りだなー。」
禍月は銜えたプレッツェルを上下に揺らしながら同意した。八鍬も美馬津も手は出せない為、やる気の無さそうな禍月に期待の眼差しを向ける。
「んじゃ、また中の方に集中するなー。」
「あぁ、頼んだ。」
背中を向けた禍月に八鍬は静かにそれだけ言う。その言葉には、眼差しだけでなく気持ちも込めて。






「お待たせしましたわ!」
鍛冶屋の前で待っている俺らの前に、出てくるなり抜剣して剣先を天に向けるアリシア。そりゃ良かったな。俺らはそれどころじゃないんだが。
アリシアのレイピアを見ると、白金の刀身はうっすらと白光を纏っているように見えた。贅沢な見た目になってるな。
贅沢と言えば変わったのは武器だけじゃない。その身を包む装備すら白を基調とした服で、何処か高貴な存在にすら見える。

「ついに、伝説の武器を手に入れましたわ。」
俺たちは目に入っていないのか、うっとりするように刀身を見ていたアリシア言った。
「何が伝説なんだよ。」
「見た目ですわ。」
あ、そう・・・
「一応説明しておくが、お姫様は最終兵器だ。だからELINEAへの攻撃は止めの一発のみ。お前らはそのサポートにまわれー。」
あ、戻ってやがる。いつの間に・・・そう思ってプチエリネアを見るが、こっちを相手にする気は無いようだ。
「何ですの、この変な生き物は?」
「ELINEAを倒すためにサポートをしてくれる生物だ。」
と言ったら睨まれた。いいじゃないか、それくらい言ったって。
「ふーん。ですが、好機が来るまで黙って見ている事なんて出来ませんわ。」
「駄目だー。その機会を逃せば、ここに居る全員がどうなるか分からないからなー。」
確かに、夢那の言う通りELINEAを何とかしないと、ゲームから出る事すら出来ない。それに、中島の件もどうにも出来なくなってしまう。
「アリシア、あの生物の言う通りにしてく痛っ。」
おでこに光線を受けて仰け反る。多分、生物って言われたのが気に入らないのかもしれない、さっきも睨まれたし。だけど痛くはないが、マジびっくりするからやめてくれ。ってかなんで俺だけなんだよ・・・

「仕方がありませんわ。わたくしもそれは望んでいませんもの。」
とは言うものの、納得しきれてはいない感じがする。
「武器を使い分ければいいんじゃないか?」
「そうですわね!」
「痛!・・・何なんだよ!」
「余計な事を言うなー。お姫様の存在はまだ知覚されていないんだ。下手に攻撃してきっかけを与えたらどうするんだー?」
確かに。そう言われると、俺の発言は余計だったかもしれない。
「悪ぃ。」
「分かればよい。」
「結局、わたくしは待つ以外にないのですね?」
「らしい。」
態度はむかつくが、夢那の言う事はもっともなのだろう。俺だってこの世界に閉じ込められたり、中島のようになるのは望んでいない。

「それとまりあ。隙を作るのはお前の仕事だからなー。」
「私?」
夢那はマリアの方を見て言うと、マリアはきょとんとした顔で首を傾げた。
「短刀の方に小細工をしておいた。とは言えだ、こっちも何度も効果があると思うなー。」
「分かった。」
話しを聞いていると、この雰囲気は大詰めって気がして来たな。
「んじゃ、後はELINEAを待つだけ?」
「そうですね。」
「俺は早いところ解放されたいんだがな。」
月下と姫の会話を聞くと、来栖はうんざりしたように言った。それに対し夢那が不敵な笑みを浮かべる。
「何の為にプチエリネアが居ると思ってんだー?こっちから打って出るぞー。」
あ、そうか。そういう事な。そんな事も言ってたな。

「ELINEAが来たよ。」
・・・
うぜぇ。もう替わらなくてもいいだろ。何故そこだけプチエリネアにやらせるんだ。
「行く必要もありませんでしわね。」
アヤカが真っ先に太刀を抜いて不敵な笑みを浮かべた。
「だな。ここで終わらせてさっさと出ようぜ。」
「あたしも、そろそろ眠くなってきたし。」
いや、お前は寝てたからな。
「お、奇遇だな。俺も眠いだっ・・・」
奇遇なのが嫌だったのか、月下は来栖に蹴りを入れて離れた。
「お前の妹はなんなんだ・・・」
「いや、俺に言われもな。家でもあんな感じだ。」
「・・・」
来栖は諦めたのか、無言で溜息を吐くと疲れたように肩を落とした。

街路を歩きながら鍛冶屋の方に向かってくるELINEAは、既に両手に片手剣を握っていた。もう、問答無用という事だろう。
平行線で終わった会話は、これ以上は意味が無いと言っているようだった。
それが正解だと言わんばかりに、ELINEAの姿が消える。相も変わらず狙って来るのは俺だったが、何度もやられれば警戒もする。高速の斬撃を受け止める。
(!?・・・)
「ユアキス!」
同時に俺は吹っ飛ばされていた。飛びながら見えたのは、防いだ右手の片手剣の位置は変わらず、左手の片手剣を振り抜いた姿だった。
速ぇよ・・・
他のみんながELINEAに向かい攻撃を仕掛けるのを見ながら、俺も直ぐに態勢を立て直してELINEAに向かう。
だが、いくら速くなったとはいえ、多勢に無勢は変わらない。アヤカと月下がそれぞれ攻撃をして、咄嗟に防ごうとしたELINEAは来栖の銃弾で吹っ飛ぶ。直ぐに姫の追撃が炸裂した。
「待っていたわ。」
爆炎の中から飛び出したELINEAを待ち構えていたマリアが、小太刀ではなく短刀を振り下ろしながら言う。
「!?」
そのマリアの短刀がELINEAの胸を撫でるように通り過ぎると、ELINEAは驚愕の表情となってよろめいた。
「お姫様、出番だ!」
夢那の合図で、近くに控えていたアリシアが踏み込む。電光石火、というのはこういう事だろうか。アリシアの姿は瞬間移動したようにELINEAの前に現れ、踏み込みから渾身の突きが放たれた。

これで終わった。

そう思ったが、ELINEAの頭部を貫いたと思われる一撃は、何もない空を突いていた。
何が起こったか分からず、一瞬の硬直。高速の踏み込みで前方に流れていたアリシアの髪の毛が重力に引かれるように戻ると、アリシアはこっちに顔を向ける。
「逃げられましたわ!」
は?
あの状況でか。
「くっそぅ、すんなり殺らしてはくれんかー。」
物騒な言い方をすんな。
夢那の言葉で、止まっていた時間が動き出したようにそれぞれが夢那の周囲に集まる。
「追いかけるんでしょ?」
「当たり前だー。」
マリアの問いに、腕を組んでいた夢那は腰に手を当てると、不敵な笑みを浮かべて言った。
「んで、俺らは何処に向かえばいいんだ?」
肩にライフルを担いで聞いた来栖に、夢那は目を細める。

「ニベルレイス第25層、白辿の間だ。」
「え、そんなとこ行けないよ!」
「私たちはまだそこまで進んでないです。」
いや、進んでる進んでいないの問題じゃないぞ。月下も姫もそこまで情報を気にしてないのだろう。
「当たり前だー。お前らどころか一般プレイヤーは行くことは不可能だ。」
「まだ実装されてないからだろ。」
「ユアホスの言う通りだー。構築はされているがなー。」
まだ言うか。
お前の方がアホだいたっ・・・
「もう、手は出せないという事ですの?」
「いーや、何のためにあたしが居ると思ってんだー?追いかけるに決まってんだろー。」
マジで、行けるのか?
「行けるの?」
「あぁ、今すぐでも可能だ。準備が出来たら言えー。」
俺の疑問を口にしたマリアに、夢那があっさりと答える。
準備も何も無い。ここでする事なんてあるわけないし。むしろ、今すぐ追いかけた方が正解じゃないか。
そう思ってみんなを見るが、当たり前だというようにそれぞれ頷いた。
「必要なさそうだな。それじゃ、行くぞー。」

言った夢那が得意げに腕を組むと、周囲の景色が歪み始めた。浮遊感のようなものを感じたのと、景色が歪んで気持ち悪い。



それも直ぐに終わると、広い空間に俺たちは居た。
その部屋はかなり広く、眩しいと思うくらい白かった。色合いに違いはあれど、床も、壁も、天井も白い。よく分からない模様がそれぞれに施してあったが、どの模様も収束するように部屋の奥の中央に辿り着いていた。
そこには大きな椅子があり、椅子にはELINEAが座っている。

「何故・・・ここに居る・・・?」
俺たちの姿を見たELINEAが、驚愕の表情で零した。本当に、AIなのか未だに疑問だ。言う事も表情も、俺には人にしか見えない。
「終わらせようか。」
俺は片手剣を抜くと、ELINEAに向かって歩き始める。
「巫山戯るな!」
「こんなの、誰も楽しくないって。ELINEAだってそうじゃないのか?」
椅子から立ち上がり、両手に片手剣を握ったELINEAが俺を睨んで来る。
「そうしたのは、お前たち人間自身でしょうが!」
「やり直す機会があるからこそ、人は前に進めるのですわ。」
アヤカの言葉に、ELINEAは睨み付ける。
「その機会すら与えないのがお前らだ!」
「だったら作ればいいじゃん、あたしが手伝ってあげるよ。」
「私も手伝いますよ。」
何をどうやって手伝うのか不明だが、月下と姫が笑顔で言う。ELINEAが求めていたのは、こういうものなのだろうか。
「おこちゃまには言うより、見せた方が早いぞ。」
「まだ変われるよ。あなたには心があるもの。」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

何度も同じ言葉を叫びながら、ELINEAは真っ直ぐに突進を始める。
だが何故か、その動きはゆっくりに見えた。

ELINEAの右手の攻撃を俺が受け止め、姫の矢がELINEAの左腕を貫いて続く攻撃を止める。ELINEAの表情は、怒りでも、哀しみでもなく、迷子になった子供の様に寂しくて、泣きそうな顔に見えた。
態勢を立て直そうとするELINEAの胴に来栖の銃弾が炸裂、同時にアヤカと月下の打ち下ろしが、銃弾で弾けた身体を地面に叩き付ける。
衝撃で弾んだELINEAの身体の背後に回っていたマリアの短刀が、背中に突きさされた。
衝撃で目を見開いたELINEAは、次の瞬間力なく笑って俺の方を見た。
その意味を知る間もなく、脱力したELINEAの頭部をアリシアのレイピアが貫いた。

白い部屋は白い世界となって、俺の意識も白に包まれていった。






気が付くとそこは自分の部屋だった。真っ暗で何がどうなったかは不明だったが、HMDを外したら気が付いた。
夢を見ていたのかもしれない。そんな感覚に囚われる程、ELINEAとの最後はふんわりしていた。本当に、戦ったんだろうかとすら思える。実感すら湧かない。
本当は夢だったんじゃないかと思いながら、俺はリビングに向かった。同じ場所に居た月下なら、共有できるかもしれない。
キモっ、何変な事言ってんの。
そう言われたなら言われたでいい。夢だったで終わるならそれでも。

リビングに出て月下の部屋に向かおうとしたが、丁度月下もリビングに出てきたところだった。
「あ、おにぃ。」
「あぁ。」
月下も出てきたことにちょっと驚いて、それしか言葉が出なかった。
「あたしたち、ELINEAと戦ってたよね?」
「多分。」
「なんか、夢でも見ていたような気分になっちゃって。」
「ヒナもか。俺もそうなんじゃないかって思って出てきたんだ。」
「うわ、キモっ・・・」
あぁ・・・現実だ。
ヒナの反応で現実を認識する俺もどうなんだ、悲しくなる。そう思った時、携帯にメッセージが届いた。
「綺迦だ。無事だってさ。」
こっちも大丈夫だとメッセージを返しながらヒナに伝える。
「そう良かったね。そうだ、あたしも悠美に連絡しなきゃ!」
ヒナはそう言うと、慌てて部屋に戻って行った。

「大丈夫そうね。」
ヒナが部屋に入るのを見ていると、台所から出てきた母さんが話し掛けてくる。きっと、今の話しも聞いていたんだろう。
「あぁ。何ともない。」
「心配はしたけど、やらなきゃいけない事があったんでしょ?」
「はは。だとカッコいいんだけどな、殆ど見てるだけだったよ。」
本当に、大して役にも立たなかった事を思い出すと苦笑する。
「そう。立場や見方って、変わるものよ。」
母さんの言っている意味は分からなかったが、とりあえず終わった事に実感がわいて来て安堵し始めた。
「雛子もなんともない?」
部屋から携帯を持って出てきたヒナにも、母さんが確認するとヒナは笑顔で頷いた。

「ねぇおにぃ。」
「ん?」
「ELINEA、最後になんか言ってなかった?」
それを見たのは俺だけじゃなかったんだと、ヒナの言葉で知った。もしかすると俺の気のせいだったり、思い込みだったりするんじゃないかと思っていたからだ。
「そうだな。また会える?って、見えた気がした。」
「あたしも。」
それは俺たちの願望なのか、ELINEAの願望なのか分からない。もしかすると言ってないのかもしれない。

ただ、最後にそう思ったのなら、ELINEAに話し掛けた意味もあったんじゃないかと思えた。
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「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

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