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立派な志
しおりを挟む「うう……面目次第もございません……どうかお許しを……」
縄でぐるぐる巻きにされたマインは、芋虫のように這いつくばって頭を下げている。
「で! 先生とマインちゃんはソファーの上で、一体何をしようとしていたんですか? 教えてください?」
キュウはにっこり笑顔で、鋭い質問を投げかけてきた。
めっちゃ怒ってるよな、これ……てか、三姉妹で同時は良くて、アレはダメなんだ……なんだか判断基準がよくわからない……
「トクザ殿は悪くありません! 某が、勝手に迫っただけです! 罰するならば、某のみでお願いします! どうか! どうか!!」
マインはおでこを床へグリグリ押し付けながら、そう叫んだ。
「マイン、お前……」
こうまでされて「全部マインのせい!」なんて言い切るのは、どうかと思った。
俺はマインに並んで、床へ膝をつく。
「マインも反省しているようだ。俺からも3人へは謝る! すまん! だからどうかマインのことを許してやってほしい! この通りだ!」
そう謝罪をすると、ずっと氷のように冷たかったキュウの気配が和らいだような気がした。
「はぁ、もう先生は優しいんだから……」
「まっ、トク兄の良いところだしね!」
「別にトーさんが謝ることじゃない。コイツ、トーさん襲った。それが事実!」
相変わらず、シンの物言いには厳しさが含まれていた。
そんなシンを制して、キュウはマインへかがみ込む。
「なんでこの間から先生に付き纏っているの? 先生、貴方の指導はしないって、何回も言ってるよね? そんなに誰かに指導をしてもらいたければ、他を探すのが良いんじゃないの?」
「某はこれまで様々な方へ師事を仰ぎ、研鑽を積んでまいりました。確かに成長はできました。しかし、今一つ何かが足りないように感じていたのです。そんな中、某は先日トクザ殿と出会いました」
先日とは、きっとキュウ達が勝手に竜の祠へ向かった時のことだろう。
「トクザ殿は一瞬で、某の弱点を見抜き、適切なアドバイスをくれました。初めて何かが噛み合うような、そんな感覚を得たのです。更にトクザ殿は、最強の流派、鬼神流の継承者。トクザ殿こそ、某がずっと追い求めていた、真の、唯一無二の師だと感じたからです!」
なんかえらい褒めようだな……嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。
「じゃあ、マインちゃんは今よりももっと強くなりたいと。それはどうして?」
「少し長くなりますが、聞いていただけますか……?」
マインの真剣な声音に誰もが押し黙る。
確かにここまで切迫した様子を見せられりゃ、気にはなる。
「ありがとうございます。では暫し、某の話へお耳を傾けてください」
⚫️⚫️⚫️
マインの出身地である、コンスコン地方はムサイ国でも有数の豊な土地だった。
更に東方との交易も盛んで、人口が非常に多い。
ようはコンスコンは、ムサイ国では屈指の優良な地方だ。
そこの領主フリッパー・レイヤーの末っ子として、マインは生を受けた。
そしてマインには八剣士と称される、優秀な兄達がいたそうだ。
コンスコンはいずれ、八剣士統治の下、更に豊た地になるに違いない。
誰もがそう思っていた。
だけどそんな中、10年前にムサイ国を襲った大災害ーーいわゆる、「魔群侵攻」が発生した。
これは同時多発的に魔穴が生じ、大量の魔物が国全土へ侵攻した、大事件だ。
その事件に当然、コンスコンも巻き込まれ、八剣士たちは勇猛果敢に戦ったらしい。
八剣士の武勇によって、コンスコンは守られたが……代わりに八剣士全員が命を落とすといった、最悪の事態を招いてしまった。
そこで領主のフリッパーは、唯一生き残り、そして存在が未だ公にされていたなかったマインを、次期当主として祀りあげたのである。
……
……
……
「某は女子ということを捨て去り、兄様方の意思を継ぐ次期後継者として努力をはじめました。そのために、地雷一刀流を収め、更に武を磨くべく、冒険者となって武者修行をはじめました」
「マインちゃんは次期領主候補なんだから、武なんて極める必要があったの?」
キュウの問いに、マインは苦笑いを浮かべる。
「コンスコンには未だに、武の強さが誉とされる文化があるのです。それに兄様方は本当にお強かったんです……ここだけの話ですが、兄様方は普通に戦って破れたのではありません。敵の中に魂と肉体を操る輩がいて、その罠に落ち、そして……」
マインの言葉を聞いて、俺の胸がざわついた。
俺にも同じ覚えがあったからだった。
確かに存在した、そんな魔物が。
そしてそいつの罠にかかって、シオンとサフトは……
「某はどんなに男ように振舞っても、女の体つきをしております。そんな某をみて、コンスコンの将来を憂う、領民が多数いることも承知しております。だからこそ、某は誓ったのです! 領主となるまでに武勇で世に名を轟かせ、こんな貧相な体であろうとも、兄様方のようにコンスコンを立派に統治できると! 安心して将来のコンスコンを任せてほしいと!」
マインの熱の篭った声が響き渡った。
やっぱこの子、真面目ですっごく良い子だ。
すると、突然コンが立ち上がった。
「ふぇ!? な、なにをぉ!?」
マインちゃんはいきなりコンに抱きしめられ、たじろぐ。
そりゃいきなり抱きしめられりゃ、誰だって動揺するわな。
「うう……お前も……お前も、性別に反する体のことで苦労したんだなぁ!」
「え? ええ、まぁ……」
「あたしはマインちゃんと違って、男女とか言われたり、ひっそり"あんなデカ女じゃ政略結婚にも使えない"なんて言われたことがあってさぁ!」
「なんと! それは卑劣な! 貴方もご苦労されたのだな!」
「あたし、コン・サク! 仲良くやろうぜ、マインちゃん!」
「もちろんですとも! 某はマイン・レイヤー! 末長くよろしくお願いいたします、コン・サク殿!」
どうやら友情が芽生えたようだ。
悩みって共有できると、強い絆になるもんだよね。
「なぁ、トク兄! マインちゃんはこんだけ思い詰めてんだ! 頼むよ、指導してやってくれよぉ!」
コンは涙をボロボロ流しながら、懇願してくる。
つっても、キュウとシンは……
「うわぁーん、わかるわかる! 貴族って、貴族ってだけで勝手にハードルあげられちゃうし! でもそれに答えるのがノーブルオブリージュだし!」
「シン、お前誤解してた! 一緒にがむばる! のーぶるおぶりーじゅ!」
なんかいつの間にかすっごい盛り上がりを見せていた。
てか、もうこの状況って……
「先生、マインちゃんのためにお願いします!」
「頼む! トク兄、マインちゃんを助けてやってくれよぉ!」
「トーさん、たのむぅ!」
「トクザ殿! どうか!」
マインちゃんと一緒になって、三姉妹も深々と頭を下げた。
「……分かった。指導をしよう」
「ありがとうございます、トクザ殿!」
「ただし! 鬼神流の継承に関しては、指導の中で検討する。ありゃ、色々とセンスの部分もあるからな」
「かしこまりました! 継承していただけるよう頑張ります!」
マインちゃんは本当に喜んでいるのか、ハキハキ返事をしてくれている。
これだけでめっちゃ嬉しい。否応なしにテンションが上がってくる。
「んじゃ、これにサインをよろしくね。一応、成長の条件は俺の命令を絶対遵守。きちんと報酬も貰うから、そこはよろしくな!」
俺はいつもの契約書をマインちゃんへ渡した。
「はっ! 既に某のこの身、心までもトクザ殿のもの。修行だけと言わず、日常のお手伝いから……ご、ご希望あらば、夜這いのお誘いでも構いませんので……」
「い、いや、夜這いはちょっと……」
でもさっきと違って、マインちゃんから「夜這い」という言葉が出ても、三姉妹は平然としている。
もしかして、友達になったらオッケーってこと……?
判断基準がよくわからん……っていうか、マインちゃんに手を出すつもりはないけどな!
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