24 / 36
某を捧げます!
しおりを挟む「うーん! 久々ぁ!」
「なぁなぁ、早く泳ごうぜ! なぁ!」
「うーみぃー!」
水着姿のサク三姉妹はまるで子供のように、海へ向かって走り出す。
大人のようにみえて、あの子達は未だ子供なんだな。
だけど体付きは……うん、立派な大人だ。
こう水着姿を見ていると、夜な夜なたびたびしている、あんなことやこんなことを思い出しちまう。
俺も案外、まだまだ若いんだなぁ……
「先生も早くぅー!」
「トク兄、沖の外まで一緒に泳ごうぜ!」
「トーさんとうきわー!」
「はいはい、今行きますよっと!」
俺は燦々と照りつける太陽の下、白い砂浜へ年甲斐もなく駆け出していった。
ちなみに今日がクエストでも、なんでもなくバカンスで海に来ているのだった。
たまにはこういう贅沢もしないと、という、我が家の金庫番キュウ・サクからの提案だった。
やっぱこういうところは、元お嬢様なんだぁ……。
「はぁ……はぁ……はぁぁぁ……ト、トクザぁ、殿ぉ……!」
なんか後ろから、死霊(ゾンビ)のような声が聞こえてきた。
恐る恐る振り替えてみると、
「マ、マイン!? なんでお前がここに!?」
「追いかけてまいりました………!」
剣豪のマイン・レイヤーは汗だくだくの、さらにガラガラ声でそう言ってくる。
そりゃ、こんなに暑い砂浜で暑苦しい袴姿でいりゃ、干上がるのも当然だ。
「追いかけてって……もしかしてまだ諦めてないのか?」
「と、当然です……!」
「いや、先週みんなのまえで伝えたとは思うけどさぁ……」
―― 一週間前、月間冒険者やろう共の記事を見て、マインを初め、俺の家に殺到した冒険者達へ俺はこう叫んだ。
『申し訳ない! 俺はこのサク三姉妹の育成に集中したいんだ! だから他の冒険者の訓練は受け付けられない!』
とね。
サク三姉妹でも手一杯な訳だし。
それにやっぱりそんなにがっつりやりたいわけでもないし。
疲れるほど働くのはもう懲り懲りなんだ。
「それでも尚、某はお願い申し上げたい! 頼みます、トクザ殿! どうか某へご指導を! そして是非、鬼神流の継承をぉ……!」
更にマインのお願いは、"鬼神流剣術“の継承でもある。
師匠からは『継承してもしなくてもどっちでも良いからねん♪ トクちゃんのお好きに!』と先代継承者のヤミコ・テイにも言われているし。
「某は……某はトクザ殿のことをぉ……あふぅー……!」
「お、おい!?」
ずっと平伏していたマインが前のめりに倒れ込んだ。
それ以降、ピクリとも動かなくなる。
これ結構まずい!?
「動かさないでください!」
マインに触れようとした俺へ、聞き覚えのある声がぴしゃりと注意を促してくる。
そして颯爽と“青いツインテール"が俺の目の前を過って行く。
「アクト!?」
「え? あー! トクザさんっ! こんにちは!」
「なにやってんだ?」
「売り子のバイトです! 名物のこれの!」
アクトは背中に背負った大きな氷を見せた。
ああ、確かこのビーチじゃ、魔法で作った氷で常に冷え冷えのジュースを売ってるんだっけ。
「相変わらず稼ぐなぁ」
「あはは……苦学生なんで……てぇ! こんなことしている場合じゃなかった!」
アクトは突っ伏したマインへ手早く、しかしそっと触れまくって、色々と調べ始めた。
「熱中症みたいですね。どこか涼しいところへ運びましょう。ゆっくり休ませれば起きるはずです!」
「じゃあ、俺らが泊まってるコテージだな。悪いけど手伝ってもらえるか?」
「もちろんですとも!」
こう言う時、医療に詳しい人がそばにいると助かるなぁ、と思う俺だった。
⚫️⚫️⚫️
「トーさん、なんでコイツとコイツが一緒にいるのぉー?」
シンはコテージへ、ズズッとジュースを啜る音を響かせる。
睨んでいる先は、勿論ぶっ倒れたマインと、彼を介抱しているアクトへだ。
キュウとコンもシンのように口には出さないが、少し不満そうにみえる。
俺はそっと移動し、一生懸命マインをうちわで扇いでくれているアクトの壁になるのだった。
「悪いな、バイト中に」
「いえ、全然。トクザさんこそ、ありがとうございます」
「ん?」
「さすがにじっーっと見られてるのはちょっとアレだなぁ、と思ってまして」
「ううん……トク、ザ殿ぉ……?」
ようやく目覚めたマインは虚げな視線を向けてくる。
「熱中症でぶっ倒れたんだよ。海で暑苦しい袴なんて履いているからだ」
「申し訳ございません……ありがとうございます」
「謝罪と礼は俺だけじゃなくて、隣のアクトにもだぞ?」
「そうでしたか……かたじけなかった、アクト殿。この礼はいずれ必ず。コンスコン領主が嫡子の1人、マイン・レイヤーの名にかけて……!」
マインの大仰な物言いに、アクトは苦笑いを浮かべた。
そして降ろしていた氷を再び背負い出す。
「もう大丈夫そうなんで、私バイトに戻りますね! 今日明日はこの海岸で売り子やってるんで、なにかあったら遠慮なく声かけてくださいね」
「ホント、ありがとな」
俺はジュース代やらもろもろ含めて、アクトへ多めに金を握り渡した。
「良いんですか? こんなに頂いて……」
「遠慮なく受け取ってくれ」
「ありがとうございます。こういうのすごく助かります! それでは!」
アクトは少し逃げるような感じでコテージを出ていった。
やっぱり俺が壁になっていたとしても、三姉妹の視線が気になっていたらしい。
「お前達も悪かったな。マインの面倒は俺が見てるから、遊んでこいよ」
「えー! トーさん、一緒じゃないのぉ!?」
予想通りというかなんというか、シンが不満を爆発させる。
しかし、マインをこのまま放置するわけには行かないしなぁ……
「こら、シン! わがまま言わないの!」
「まっ、せっかく海に来て、ずっとコテージの中だなんてつまんねぇもんな」
キュウとコンにそう言われ、さすがのシンも押し黙る。
「じゃあ、先生。私たちはお言葉に甘えて、また遊んできます。マインさんのことよろしく頼みますね」
キュウを先頭に、三姉妹はコテージから出ていった。
ほんと、こういう時しっかりもののお姉ちゃんがいてくれると助かると思った。
「トクザ殿、せっかくのバカンスに水を刺してしまい面目次第もございません……」
未だ本調子じゃないマインは、それでも精一杯の謝罪を述べてくる。
「まぁ、今はあんまりそういうこと気にせずゆっくり休め。良いな?」
「かたじけない……」
さてさて、様子を見るって言っても暇だし、俺はビールでも飲んでから昼寝でもしますかね。
……
……
……
「はぁ……はぁ……」
こりゃ、マインの呼吸か?
すごく苦しそうに聞こえて心配になった俺は目を開けた。
「なっーー!?」
「お、お目覚めになりましたか、トクザ殿……」
薄闇の中に、ぼんやりとマインの姿が浮かび上がった。
彼は俺の腰上に跨り、上着を降ろして、異様に細い肩を曝け出していた。
……って、彼……? 胸に巻かれたサラシが、ほんのり膨らんでいるような……?
「ひゃう!」
試しにマインの脇腹をつまんでみた。程よい肉感だったが、太っているわけではなさそうだ。
「ト、トクザ殿、なんと大胆な……」
マインは薄闇の中でもはっきりわかるくらい、顔を真っ赤に染めている。
となるとやっぱり、今目の前にある胸の膨らみって……
「もしかしてお前って、マインくん、じゃなくて、マインちゃんだった……?」
「ううう……貧相な体つきで面目次第もございません……」
やっぱりマインちゃんだった。
男の子でも、男の娘でもなく、正真正銘の女の子だった。
で、性別が判明したところで、この状況はまさか……!
「お、おい、マイン! お前は一体何を?」
「今日助けていただいたお礼もあります。なによりも、これが今の某ができる、精一杯の気持ちの開示です」
「いや、何が何だか……」
「某は再三、トクザ殿へ申し上げました! 某を捧げます! ですからどうか、某を弟子に! そして鬼神流の継承を!!」
いつもはこう言われて軽くあしらっていた。
だけど、今発せられたマインの言葉からは、本気というか、妙に切迫したものを感じていた。
「マイン、お前……」
「こちらに関しては全くの未経験で、全く自信がありません……ですから、トクザ殿のお好きになさっていただければ幸いです……」
マインは肩を震わせながら、そう言ってくる。
気持ちはありがたいし、こっちも気分的にはそういう方向に傾きつつある。
だけどいまいち、乗る気になれないのは、やはりマインがすごく不安げな様子を醸し出しているからだろう。
さてどうしたものか……
その時、突然バン! とコテージのドアが開け放たれる。
「やっぱり貴方の狙いはそういうことでしたか! 泥棒猫!」
「あたしらがいるのにトク兄をたらし込むなんて良い度胸してるじゃねぇか!」
「焼却、滅却……シンの闇がお前を焼き尽くす!」
鬼の形相のサク三姉妹が、コテージへなだれ込んで来た!?
10
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる