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魔空の枝道を叩き潰せ!

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「ちょ、ちょっとトーガ君、これどういうこと!? そのソードライガーは……」

ジェシカさんは腰の剣に手を回すといった、臨戦体制のままこちらへ問いかけてくる。

「ピルのテイマー能力で下僕化……いえ、お友達になったらしいので危険はありませんよ」

「ええ!? ソードライガーを!? あの凶暴で、上級テイマーでさえ手を焼くのに!?」

「まぁ、これがピルの、うちの家族の実力ですよ」

「昨夜ね、とーがさまから……お力をいただいたの! だから、この子ともお友達になれたんだよ! ねー?」

「がうぅん」

 ピルとレオパルドくんはお互いに頬を寄せ合って、愛情表現をし始めていた。
それを見てジェシカさんはようやく臨戦体制を解くのだった。

「まったく……トーガ君自身も規格外なら、そのご家族もなのね。貴方たちみたいな逸材が、まだ冒険者ライセンスを持っていなかっただなんて、そっちの方が驚きよ」

「まぁ、色々と込み入った事情がありまして……」

「でもご家族に構ってていいの? 貴方自身の試験は?」

「ああ、もうそれはとっくに」

 俺があっさりそう言ってのけると、ジェシカさんは"やっぱり"と言った具合の苦笑いを浮かべるのだった。

「あなた、その若さで本当にすごいのね……あのさ、トーガ君……」

 ジェシカさんは真面目な表情で、こちらを見つめてくる。
やはりジェシカさんは俺たちに注目してくれている。
そしておそらく、次の言葉は……

「君は知っているかな、王国騎士団付属魔術士っていう存在を……」

 ジェシカさんが言いかけたその時だった。
俺は森の精霊がざわついていることに気がついた。

「ガルルぅ!」

「なにやだ……この気配気持ち悪い!」

レオパルドくんとピルも、このただならぬ雰囲気を感じ取っているらしい。

今は試験中で、未熟者が多く集まっている。
かなり危険な状態だと判断できた。

「すみません、ジェシカさん! 話はまた後ほど! 行くぞ、ピル、レオパルド!」

「はいっ!」

「ガオォォォーン!」

俺は飛行を開始し、ピルはレオパルドくんに乗り、俺と同じ方向へ向けて走り出す。

「あ、ちょ、ちょっと! もう! バカっ!」

ジェシカさんもまた、他の騎士と合流すべく駆け出してゆくのだった。

(あれか、不穏な気配の正体は!)

 鬱蒼と生い茂る木々の中に、暗色の輝きが渦を巻いている。
運の悪いことに"魔空の枝道"が開かれてしまったらしい。

「キキキキィ! キキキィ!!」

 魔空の枝道から禍々しい魔物が次々と溢れ出て、試験の最中だった候補者たちへ襲いかかっている。

――魔空の枝道。
 巨大な魔物の巣である、魔空から枝のように伸びている小さな転移渦を、ケイキではそう呼んでいる。

 発生はランダムで、いつどこに現れるかわからない、災害とも言うべき代物だ。
現在の対処法は、発生したら、その渦へ強力な魔法を叩き込み消滅させる。
その一点のみで、これのせん滅も王国魔導士の主任務の一つである。

 このままでは試験どころではなくなってしまうし、死亡者さえも出てしまう。
俺は候補者たちへ襲いかかっている魔物の群れへ、迷わず急降下してゆく。

最初の目標は"グレーの髪色をした神官職の女の子"へ襲い掛かろうとしている、レッサーデーモン!

「させるかぁー!」

「キキィィーーっ!!」

間一髪、女の子へ襲い掛かろうとしていたレッサーデーモンを風魔法の刃で切り伏せた。

「大丈夫か、君……ーーッ!?」

「ありがとう、ございます……はぁ……」

思わず俺は、彼女の赤い瞳を見て、我が目を疑った。

 グレーの髪という共通点は確かにあった。

しかしあり得ない。

 俺が幼なじみのエマと別れたのは、もう二十年以上前のことだ。
 存命だったとしても、元の俺と同じく中年を迎えている頃合いだ。
だから、こんなにまで若いはずがない。

「あ、あの、私になにか……?」

 助けた彼女は赤い瞳を不思議そうに窄めて、こちらを見上げてきている。

(どうしてこんなところに"エマ"が!? いや、そもそもこの子は"エマ"なのか!?)

「トーガ様! 前、前!」

 幼なじみだった"エマ"によく似た少女へ見惚れていると、傍からパルの声が聞こえてきた。

 なんとか振り返りざまに、風の刃の魔法を放ち、接近していた複数のレッサーデーモンを切り捨てる。

「やっちゃぇー! レオパルドくん、ごぉー!」

「ガガガオォーン!」

 既に現場に到着していたピルは、ソードライガーのレオパルドくんを鮮やかに乗り回し、魔物を駆逐している。

 俺の後ろでは、エマにそっくりな女の子が駆けつけた王国騎士に介抱されていた。

「早く後ろへ!」

 俺はエマによく似た彼女と騎士へ、そう叫ぶ。

「わ、分かった! そら行くぞ!」

「ちょっと、待って!」

 すると神官職の少女は立ち上がるとすぐさま、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございます! 私、"モニカ"っていいますっ! このお礼はいずれ必ず!」

モニカは律儀にそうお礼を言うと、騎士に連れられ離脱してゆく。

(あの真面目な態度に、きれいな声……ダメだ……他人だとは分かっていても、どうしてもあの子が"エマ"に見えてしまう……)

 二十年以上も前の初恋の人。

 同時に守り切ることができず、俺の心に傷跡を残し、転落のきっかけとなってしまった彼女。

 すると、俺があまり集中できていないと感じたのか、パルがやや強めの口調で「トーガ様!」と呼んでくる。

「どうかされたのですか? 先ほどからその、少し顔色が優れませんが……?」

「あ、いや、なんでも……」

「……とりあえず、ここを乗り切りましょう。私はどうすれば?」

「パルはピルと共に候補者達の防衛を! 俺は直接、魔穴の枝道を叩く!」

「承知しました! トーガ様、お気をつけて!」

「パルもな!」

 俺はパルと別れて、再び飛行を開始する。
既に空にも無数のレッサーデーモンが沸いており、行手を塞いでいる。

「邪魔だ。うせろ! 炎の精霊よ、我へその力を貸し与えんーーファイヤーボルトっ!」

 短縮詠唱により、威力を増したファイヤーボルトが行手を塞いでいたレッサーデーモンを焼き尽くす。

 しかし少し進めばすぐさま、別のレッサーデーモンの一段が行手を塞ぎ、遅々として魔穴の枝道との距離が縮まらない。

 そうした状況に歯痒さを覚えていた時のこと、森から無数の魔力を帯びた弾丸ーー魔弾ーーが、空のレッサーデーモンへ向けて湧き出る。

「第二隊、一斉射! 撃てぇーっ!」

 ジェシカさんの指揮のもと、統制の取れた魔銃歩兵連隊が射撃を開始し、魔物を撃ち落としてゆく。

(さすがは王国騎士団だ! これならばーー!)

 俺は騎士団の射撃と、レッサーデーモンの攻撃を掻い潜り、グングンと魔穴の枝道との距離を詰めてゆく。

そしてようやく、魔空の枝道を目下に収めた。

「あの子のことは考えるのはあとだ! まずは魔空の枝道を叩き潰すっ!」
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