拾われた後は

なか

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30.誘われました

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   真夏というがそんなには暑く感じない。あまり湿度がなく、樹々の間を抜けて風も吹く。
   お昼ご飯の後、裏庭に出て小川に足をつけてみた。ここの湧き水はとても冷たくて、気持ちがいい。泉には近付かない約束だけど、小川はダメとは言われていないし、と言い訳してみる。

   新学期も始まって、文化祭の準備がはじまいる頃だ。髪も伸びて、元々そろそろ切ろうと思っていたので、耳も隠れるくらいになった。
   人間の耳が隠れても、僕はここの人たちとは違う。


「ハルカ。」

   少し離れたところから呼ばれ、振り向くとカイルさんがいた。まだ帰宅する時間じゃないのに、寄り道かな。
   足が長いのであっという間に近付いて、そばに腰を下ろす。

「どうしたんですか?寄り道ですか?」

「朝食の時に今日は早く帰るって言っただろ。やっぱり聞いてなかったな。」

   少し寂しそうにカイルさんが苦笑した。

「すみません。」

「今日は夏の夜市がある。今年の警備は俺の隊の担当じゃないんだ。一緒に出掛けたいと思ってな。」

「お祭り?」

「そうだ。秋には大きな収穫祭があるが、この時期にも夜市が出るお祭りがあるんだ。暑い中の息抜きと、これからの収穫を祈る意味もあるんだ。」

「へぇ。でも、僕出掛けていいんですか?」

   行ってみたいような、怖いような気がしてしまう。

「もちろん。屋敷に閉じ込めているわけじゃないんだ。すまない。気分転換も兼ねて行ってみないか。」
   
   僕が最近元気がないのを気遣ってくれているのだろう。僕は行くことを了承して、一緒に屋敷に戻った。


   また、あのフードを被らなきゃいけないのは、ちょっと気が重い。けれど、マリアさんが出掛けると聞いて、とても喜んでくれた。

「まぁ、カイル様と一緒だから大丈夫だと思うけど、耳は隠しとくのが無難かなぁ。何かカモフラージュ出来たら安心なのだけど。」

  マリアさんは何を着ていくか、選びながらも心配しているようだった。
   例えば、せめて猫耳カチューシャみたいなのがあればいいのかなと、ふと思いついた。男子高校生のカチューシャ……、想像すると痛い。思わず、ぷっと小さく噴き出してしまう。

   不審に思ったけマリアさんに問い詰められ、考えたことを白状させられる。

「それよ!ハルカくん。それを作りましょう!日没前まで時間はまだあるわ。」

「マリアさん無茶言わないで。おかしいって話聞いてました?」

「いいじゃない。やってみようよ。ハルカくんは小さいから、耳も小さめでも違和感ないだろうし。何かの毛で耳みたいに整えてさ。」

   単純に楽しんでる気もするけど、僕のために一生懸命言ってくれる。その気持ちを無碍にはできない。
   さらに言い募るマリアさんに、最悪、笑い話になればいいかなって気持ちになる。

「そうだ。これ使う?」

   大事にしていた布の包みを持ってきて、彼女に渡す。中身を見てびっくりしていたけど、笑って受け取ってくれた。

「任せて。こう見えて手は器用なのよ。」

  そう言ってマリアさんは急いで出て行った。初めてのお祭り、少し楽しみになってきた。


   
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