拾われた後は

なか

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29.帰れない

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   時間が経つにつれ、僕はもう帰れないことを受け入れなくてはならないだろうな、という気持ちがしている。

   特に王様に会った後、その気持ちが徐々に増している気がする。カイルさんが色々調べてくれてはいたが進展はないみたいだ。
 
   家族や友人、せっかく頑張って入った高校など、諦めきれない。それに、心配してくれているだろう人たちのことを思えば、苦しくて仕方がない。

   夜中に目が醒めることも多い。

   読み書きを勉強したり、厨房や庭仕事を手伝いをしたりして、あまり考えないようにはしてる。

   それに、どうやればいいかまだわからないけど、独り立ちする方法を探さなくてはならない。
   優しくて仕事熱心なカイルさんは、僕を見つけた義務感や王様の命令もあってか、本当によくしてくれている。

   昔の迷い人が亡くなっているのはショックだったけど、カイルさんの思いを知ったことの方が辛かった。

   いつの間にか、依存していたんだ。しかし、いつまでも甘えていてはいけない。

   王様が言ってたみたいに、家庭教師をつけてもらった方がいい気がする。でも、これ以上迷惑をかけられないしと、言い出せないでいる。

   ちょとずつ風船から空気が抜けていくように、僕は気づかないうちに元気をなくしていった。



   僕はふと夜中に目を覚ました。まだ真っ暗。背中から抱き込まれている。
   あたたかい。


   唐突に、猛烈な寂しさに襲われる。


   ーー僕はもう帰れない。


   唐突に浮かんだその実感に、身体が小さく震えた。1人だったら叫び出したかもしれない。けれど、カイルさんの存在がそれを押し留めた。
  
   急に僕の体に回っている腕に力が入る。

「ハルカ。」

 「……カイルさん?」

   震える声で小さく応える。

「泣いてるのか?」

「泣いてません。ちょっと目が覚めただけです。起こしてごめんなさい。」

   迷惑をかけちゃいけない。負担になりたくない。

「おいで。」

   大きな手で簡単に僕をころんとひっくり返し返す。何も言わず、カイルさんはそっとその胸に抱き込んでくれた。

   額をその固い胸に当てていると、小さく鼓動が聞こえる。あったかい手で背中をそっと撫でてくれる。


   もうちょっとだけ、この人と一緒にいたい。





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