『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第7話 ようやく村につきまして

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※『』が日本語、「」が大陸共通語となります。ご了承ください。


 私たちは夜は道なき道を進み、昼は交互に休憩をした。嫌な気分になった時は、二人でそろって歌を聞いたり歌ったりした。

 それからミネラルウォーターや非常食が無ければ絶対に途中で死んでいたに違いない。ホント、運が良かった。

 異世界に飛ばされたことが幸運だったか不運だったかは分からないけど。

 私達はそうやって三日間も逃げ続けて、ようやく一つの村にたどり着いた。

「村、大丈夫?」

「大丈夫だ」

 グラジオスの反応からすると、どうやら敵の勢力圏には無い村みたいだ。

 ちなみに私は多少ならグラジオス達の話す言葉――大陸共通語――が分かるようになっていた。

 中学英語をきちんとやってて良かったと思う。

 ズィス、イズ、アペン。これ最高。

 主語、述語、修飾語。この並びと多少の単語さえわかれば会話は通じるのだ。

 私、痛い、足。これで歩けない事も伝わる。

 更に単語さえ知っていれば、話してる中から何となく単語を拾うだけで意味は理解できる。

 会話って向こうも理解しようとしてくれるし伝えようとしてくれるから、結構ガバガバでも通じちゃうものなんだよね。

「キララ、体は大丈夫か? 違う。心配はしていない」

 ところでグラジオスと一緒に居て分かったことがある。

 グラジオスは私が聞き取りやすいようになるべく短い文章で話してくれる。その事にはちょっとだけ感謝しているのだが、どうやら生粋のひねくれものらしく、なんかこう、いちいち素直じゃないのだ。未だに歌が好きだってこと認めないし。

 ただ、グラジオスがこんなに私の事を心配するってことは、結構酷い顔してるんだろうな……。

「大丈夫」

 本当はやせ我慢だ。コスプレ衣装の切れ端を突っ込んで固定してても靴擦れは起きる。感覚からして今靴の中は血でぐちゃぐちゃになってると思う。

『ダイジョウブ?』

 ちなみにグラジオスも少し日本語を使えるというか真似出来る様になっていた。大丈夫を真っ先に覚えたのは私の口癖になってるからだろうなぁ。

『大丈夫大丈夫』

 う~ん、なんか今のところ大丈夫だけで会話が成立してる気がしなくも無いけど。

 でも村まであと少しなんだから、ホントに……。

『うわわわわわっ!?』

 急にグラジオスが私の体を持ち上げ、問答無用で背負いあげた。

「何!? 何!?」

「じっとしていろ」

 鎧は既に捨て去っているので、薄い布越しにグラジオスの体と密着して少し気恥ずかしい。

「でも……」

「黙ってろ」

 目的地はもう数百メートル程度だと言うのに、グラジオスはわざわざ私を運んでくれるみたいだった。もしかしたら、気を使ってくれたのかな?

「お、重くない?」

「重い」

 そ、そこは軽いって言うとこでしょ!?

 私の体重は三十ピーキロなんだから! ランドセルとか荷物のせいで後半に突入しちゃうかもだけど……。と、とにかく重くないもんっ。

 とりあえず私は抗議の意味を込めて、短く刈り上げられたグラジオスの黄金色をした後頭部に軽くチョップを叩きこんだ。

「叩くな」

『い~だっ』

 乙女心が分からないヤツへの制裁なのだ。甘んじて受けなさいっ……って思ったんだけど……悪い事したかな? 背負ってもらってるし……。

 一応軽くしか叩いてなかったけど……。

「痛くなかった?」

「チビが気にするな」

 むむぅ~~っ、何それ酷くない!? 人の身体的特徴をあげつらうのって最低っ!

 やっぱりグラジオスってひねくれてるっ。

 私は飛び降りてやろうかと思ったけど、足の傷がじくじくと疼いたので仕方なく背負われたままでいた。

 ようやく私達が村に着くと、ちょうどお昼時だったからか村の人たちは木陰などで休憩しながら何か齧っていた。

 く~っ、とお腹の虫が鳴ってしまう。

『うぅっ』

 きっとグラジオスに聞こえてしまっただろう。私は恥ずかしくなってお腹を押さえた。

「何か食べるものを買って来る」

「ありがとぉっ!」

 でもできれば聞こえなかったふりして欲しかった!

「……何故怒る」

「怒ってないっ!」

 恥ずかしさを誤魔化すために、説得力に欠ける言葉を思い切りグラジオスにぶつける。

 グラジオスは少しうるさそうに頭を傾けたが、それ以上の反応はしなかった。

 適当な木陰まで来ると、グラジオスは私に背中から降りる様促す。私はちょっと不満の籠った小さな声で礼を言うと、足の傷口に注意しながらゆっくりと地面に降り立った。

「行ってくる」

「あ、待って」

 私は急いでランドセルの中から革袋を取り出すと、グラジオスに差し出す。

「お金」

 このお金は一応私が貰ったものではあるが、実質二人の逃亡資金のような物だ。それに私はこの硬貨がどのくらい価値を持つのか分からない。グラジオスに有効活用してもらう方がいいだろう。

「……俺は手持ちがある。だから要らん」

「私の分は、私が払う」

 私は慎重に言葉を並べていく。きちんと通じてるとは思うけど……。

「……お前から水と食料を貰った。その分は返す」

「今じゃなくていいの。帰ってからにして」

 結局グラジオスが折れる形で私から革袋を受け取ると、村人たちの方に歩いていった。



 私は腰を下ろしてしばらくグラジオスを眺めていたのだけれど、どうにも交渉が上手くいってないみたいだ。

 先ほど村人に何かを聞いて回り、どこかへと走っていき、今は目の届く範囲に彼の姿はない。

『あ、ども』

 遠目に、村人の一人が私をじっと見つめていたので軽く頭を下げておく。

 すると村人はそそくさと去って行ってしまった。

 ……内気なのかな?

『……でも、こんな風にゆっくりしてられるの久しぶりかも』

 私は青い空を見上げ、頬を撫でる風を感じていた。――心地いい。

 知らず知らずのうちに、私の口はハミングを刻んでいた。

 しばらくそうして待っていると、グラジオスが小走りに帰ってくるのが見えた。

 だが、彼の手には何も握られていない。

 私は最悪の展開を想像して思わず身構えた。

 グラジオスは帰ってきて開口一番に、

「物と物の交換、だそうだ」

 と告げた。

 あ~、ここがあの王子さまに支配されてて、私達には売らないどころか通報されるとかじゃなくて本当に良かった。

「そなんだ」

 最悪の予想が外れて、私は胸を撫で下ろした。

「金だと相当割高にする、とも言っていた」

「じゃあ買えば良くない?」

「俺の国に帰るまで、あと三週間は必要だ。それだけの量は買えない」

「さんっ!?」

 そんなにかかるの!?

「それは今までと同じ速度で歩いて?」

「そうだ」

 考えればこの世界にある移動手段は限られている。このまま私とグラジオスが歩いて帰れば、そのぐらいはかかるのかもしれなかった。

「じゃあ、ここで少し買って、次の村で……」

「次、運よく村があるとも限らない。その村では売ってくれないかもしれない」

「う……」

 グラジオスの正論に、私は言葉を失ってしまう。そもそも私はこの世界の事を何も知らない。グラジオスがそういうのだから、きっとそうなんだろう。

 現代地球とは比べ物にならないくらい、色々と不便だった。

「キララは服を持っていただろう」

「服? ああ、うん」

 コスプレ衣装だけどね。真っ白いふわもこしたドレスみたいなのと、黒いピシッとした……やっぱりドレスっぽいのだ。

「アレは相当高価なものだろう?」

「え? ま、まあ……」

 材料費だけだと安物の化学繊維だしそんなにでもないけど、改造した労力があるからね。

「見なければ分からないと言っていたが、村長は一着で三週間分用意してくれると約束してくれた」

「そんなにっ!?」

 一食五百円として二人で一日三千円。それの二十一倍だから……九七で六万三千円!?

 え、マジ? 私この道で食べていけるんじゃない!?

「頼ってしまって悪いが、服で交換するべきだと思う。代わりの服は、帰ったら必ず用意させる」

「ん?」

 少し、今の言葉遣いに違和感があった。活用的に今のは……命令?

 グラジオスってそんなに偉いの?

 もしかして貴族のお坊ちゃんとか?

「キララ。聞いているのか?」

「ああ、うん。うん、大丈夫大丈夫。全然いいよ」

「……それはどっちだ」

 あ、日本語の要領で言っちゃったから通じなかったや。えっと……。

「使ってくれて構わないよ」

「……そうか。借りは返す」

 ありがとうって素直に言わないよね、グラジオスって。

『よいしょっ……いててて』

 私は足裏に気を付けながら、慎重に立ち上がった。

「俺が行く。キララは座っていろ」

 そう言って、グラジオスは私の肩をそっと押しとどめる。

 ……口では酷いこと言うのに、行動はこんな風に優しくするのよねぇ。なんだろ、この捻くれ者。

「私の物なんだから、私が行く」

 高く売れるところ、見てみたいし。

 私はグラジオスの配慮を好奇心から跳ね除けると、村長の家に向かった。
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