『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第74話 その裁判、待ったぁっ!!

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 私達は回収したICレコーダーを復活させ、そこに記録されている事を聞いた。

 中には予想通り証拠として十分なものが記録されており、とりあえずは第一関門突破といったところだった。

 だが最悪な事に、私達がその武器を手に入れた時にはグラジオスの裁判は既に始まってしまっていた。

「今どうなってた、エマ!?」

 私は必死に天井の漆喰を火かき棒で削り落とす。

 その天井の上では、今グラジオスの裁判が一方的に行われている。

 次々と似非証人と似非証拠が貴族たちの前に並べられ、グラジオスの寿命は刻一刻と縮んでいく。

 グラジオスの弁護人は証拠も何も持たないオーギュスト伯爵ぐらいだろうか。

 後は全て敵か傍観者のはずだ。

「毒薬の入っていた瓶を見せつけていました。まだ少しだけなら時間はあると思います」

 自己顕示欲の強いカシミールは、裁判の後すぐさま自らの手で刑を執行するつもりらしい。しかもそれを民衆に見せつけるために、わざわざ城の庭に民衆を引き入れ、バルコニーで裁判を行っていた。

 逆にそれが私達に付け入る隙を与えてくれたのだが。

 私が火かき棒を突き入れると、漆喰が大きく削れ、天井からボロボロと白い粉が落ちてくる。

 口や目に入るそれを、何度も吐き出しながら作業を続けた。

「交代します、雲母さん」

「ありがと」

 私は脚立から飛び降りると火かき棒をエマに渡す。

 エマは火かき棒を手に持つと、すぐさま作業に取り掛かってくれた。

 私は顔を拭うと今度は用意した秘密道具の調子を確認する。

 銀線を何重にも巻いて作ったコイルを手のひら大の強力な磁石の裏側に取り付けた代物だ。

 コイルの先は、分解したイヤホンの先にくっつけてある。

「それ、何なんですか?」

 協力してくれている黒髪に眼鏡をかけたメイドさん――確か名前はレーレンだったかな――が私の手元を覗き込んで尋ねる。

 う~ん、こっちの世界の人はスピーカーなんて知らないよね。何て言ったものかなぁ。

「おっきい音を出すための装置、かな」

 大まかな説明をした時、

「雲母さん、石が出ました」

 エマがそう報告してくれる。

 石、つまりテラスの床石だ。

「ありがと。じゃあエマ、頼める?」

 私は巨大なスピーカーもどきがくっつけられたICレコーダーをエマに手渡す。

「はい」

 床石に直接磁石を押し当て、床石をスピーカーにしてしまう。それが裁判に直接音という証拠を届けるためにできる唯一の方法だった。

「手に振動が来て辛いと思うけど、我慢してね」

「殿下の為ならいくらでも」

 エマはそう健気に返すと磁石を天井に押し付け、ICレコーダーの操作を始めた。

 そして……。

『父上、大切な話がございます』

 再生が始まる。

 こちらで聞こえているという事は、裁判が行われているバルコニーにも間違いなく届いている事だろう。

「あとよろしくっ。レーレンさんはドアを絶対開けられないように封鎖しといてください! でもホントにヤバくなったら逃げてくださいねっ」

「分かりました、お任せください」

 丁寧かつ頼もしい言葉に見送られ、私は部屋を飛び出した。







 私は廊下を走る。

 突然どこからともなく響き始めた会話に人々が戸惑っている今なら裁判に乱入できるかもしれないからだ。

 バルコニーに向かう為には二階に上がって専用のドアを潜ればいい。でもそのルートは衛兵が固めていて無理だろう。

 だから私はその上、三階の窓からバルコニーに飛び降りるつもりだった。

 そちらにも衛兵が配置されている可能性はあったが、二階よりは少ないはずだ。

 私は懸命に走り、階段を二段飛ばしで駆け上がり、更に走る。

 呼吸が苦しくなっても速度を緩めず走る。

 昨日から動き続けていたせいで、体力の限界が近かったが、それでも足を動かすのを止めなかった。

 額から流れて来た汗が右目に入ってしまう。私は服の袖口で拭ったら、漆喰の粉と汗が混じり合った泥がべったりと服に付いてしまった。多分、髪も顔もドロドロでひどい状態だろう。鏡で見たら卒倒するかもしれない。

 こんな私を見ても、誰も私が歌姫だなんて思わないだろう。

 構うものか。今の私は歌姫である前に雲母なんだから。

 走る私の前に、目的の窓が近づいてくる。

 運よく衛兵の姿は見当たらなかった。

 私は窓を思いきり開けると、そこに身を躍らせる。

 ――日差しと風が、憎たらしいくらいに気持ち良かった。

「待ったぁぁぁぁぁぁっ!!」

 空中に在る私の体を、重力が掴んで石造りのバルコニーへと引きずり落とす。

 それに抗う術を知らない私は――両足でしっかりと着地し、床を踏みしめ片手を付いて衝撃に耐える。

 私が飛び降りた場所はバルコニーの端っこで、近くには多くの衛兵たちが居る。

 バルコニーの外周で庭、つまり民衆にもっとも近い位置でグラジオスは跪かされている。彼の手には枷を填められ、両足は走って逃げられない様に鎖で繋がれていた。

 服は、捕まった時のままだ。恐らくはずっと放置されていたのだろう。

 グラジオスの隣にはカシミールが立っているのだが、今は顔をこわばらせて私を睨みつけている。

 その二人から少し距離を取る形で、オーギュスト伯爵を始めとした貴族が居並んでおり、短槍を手にした衛兵たちが彼らを取り巻いていた。

 独演会を開いて無理やり聞かせているジャイ○ンみたいな感じだなという少し場違いな感想が私の中に浮かぶ。

 私は未だ虚を突かれて動けないでいる衛兵たちから身を守るためにも、オーギュスト伯爵の所にまで走った。

 ちょっと情けないかもしれないけれど、戦う術を持たないのだから仕方がない。

 近づいてくる私の顔を見たオーギュスト伯爵の顔に困惑の色が浮かぶ。

 変装している私の事が分からないみたいだった。

「雲母、何をやっている。来るなっ」

 グラジオスが叫ぶ。

 ああ、私だって分かるんだ。

 髪を切って、男の子の格好をして、顔は泥まみれでも、グラジオスは見ただけで私だって気付くんだ。

 少し、嬉しいかな。

 でも今はそんな事を喜んでいる暇なんてない。

 私の目的は――。

「グラジオスっ!」

 私は叫ぶ。

 私の声を直近で聞いた事でオーギュスト伯爵が私の正体に気付いたのか、信じられないというように目を見開いて驚く。

 グラジオスは、少しやるせないといった感じで唇を噛み締めている。

 私が何のためにこの場に居るか、グラジオスは分かっているのだろう。

 私が居るという事は、エマも、ハイネも、まだこの王都に留まっているという事だ。

 それはグラジオスの望みとはまったく逆の事で……。

 ――でも私達がアンタの望みをかなえるはずがないじゃない、バカグラジオス。

「大丈夫。絶対助けるからっ」

 私のその言葉がグラジオスに届いたのだろう。

 途端にグラジオスは顔をクシャっと歪めて……泣き笑いの様な、不思議な顔をした。
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