『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
107 / 140

第106話 出来る事をやって

しおりを挟む
 弓矢や刀剣を使う戦争は、銃火器を使う戦争と比べてそうそう簡単に終わりはしない。

 それに帝国の八万という軍勢に対し、こちらは一万ちょっとと数で圧倒的に劣るため、基本はアナグマを決め込むほかない事もあり、更に戦争は長期化していった。

 とはいえそれが悪いわけではない。

 冬が来るまであと三か月。それだけ守り抜けば帝国軍は撤退する他ないはずだった。

 だから私は治療、洗濯、掃除に炊事、歌による慰安と出来る事を必死に行い、歯を食いしばって生きていた。

 出来る限り、精一杯の笑みを浮かべながら。







「ほら~、雲母ちゃんが掃除に来てあげたぞ~! 女の子に見られてヤバいもの隠す隠す!」

 兵たちが眠るのに使っているタコ部屋のドアをゴンゴンと殴りながら怒鳴りつける。

 私の声を聞いて焦っているのだろう。部屋の中からはゴソゴソと何かを隠すような物音や、怒鳴り声まで聞こえて来た。

「ベッドの下もモップ掛けするからね! 袋かなんかに入れて手で持っときなさい!」

 私がそう言うと、部屋の中からは「おいその袋よこせ」や「俺は諦めた……」だとか「いやむしろ雲母さんに見てもらいたい」などいろんな声が聞こえてくる。

 というか最後の変態、ぶん殴るよ?

「ハイ後十! ……九、八……」

 カウントダウンするにつれて騒ぎは大きくなっていき――最後の三カウントは気持ちゆっくりにしてあげたけど――。

「ゼロッ!」

 宣言通りにドアを勢いよく開くと……、なぜか兵士全員が各々の荷物を抱えて壁際で直立不動していた。

 大方壁と兵士の間に見られて困る物を持っているのだろうけど。

 ……エマの絵姿とかエロ本(文字だけ)とかカードとか。

「……なんでハイネもここに居んの」

 私は壁際に並ぶ兵士に紛れる様にして隠れている舎弟を発見してしまった。

 思わずジト目で突っ込むと、ハイネはバツが悪そうに頭を掻きながら誤魔化し笑いをする。

 この部屋で寝泊まりしているのではない以上、賭け事にでも興じていたのだろう。

「……じゃあ掃除していくからね」

 私は手に持っていたバケツを床に下ろすとモップを両手で構える。

 床にぽつぽつと荷物が置いてあるが、退かせば問題はないだろう。

 掃除の準備は万端だ。

『うっす、お願いしますっす!!』

 ハイネの語尾が感染でもしたのか、兵士達全員が独特な語尾で返事をしながら敬礼してきたのだった。

 私は水を含ませたモップを使い、部屋の角から掃除を始める。

 床にこびりついている汚れはモップを上に乗せ、踏んづけてからごしごしと擦って落としていく。

「ベッドの下も拭くからベッド移動させて。ほらハイネ動いて動いて!」

「う、うっす!」

 ハイネやほかの兵士達が協力してベッドを動かし、私がモップで綺麗にしていく。

 彼らが手伝ってくれた事もあって、掃除自体は十数分程度で終わった。

 掃除が終われば洗濯だったり部屋が汚くなる原因を取り除く作業にかかる。

「洗濯物、出してない人は出して。ほらその手に持ってるの違うの?」

「こ、これはもう洗濯してもらったやつです」

「じゃあ綺麗に畳まなきゃ。やったげるから貸しなさい」

 そうでなくとも部屋が狭いのだから、綺麗に整理整頓しなければすぐに汚れてしまう。

 着てもいないのに汚れてしまい、洗濯に出されてはたまらないのだ。

 ちょっと口うるさいかもしれないが、心を鬼にして兵士たちの荷物を整理していった。

「これ誰の? 中ぐちゃぐちゃじゃない」

 私は床に落ちていた袋――中は服や下着が適当に突っ込まれている――を持ち上げて兵士たちに掲げてみせる。

「簡単な畳み方教えたげるから。誰?」

 少し強い口調でそう言いながら、兵士たちを睨みつけたのだが、誰一人名乗りをあげる者は居なかった。

 それどころか、気まずそうに視線を逸らすものも居る。

 それで気付いた。

「……そっか」

 持ち主が既にこの世から居なくなってしまった事を。

「じゃあ、お空に届けてあげないとね」

 胸の内から湧き上がってくる感情が顔に出てしまわない様、必死に無表情を装う。

 私は袋の中身を手近なベッドの上に広げ、貴重品や身元が分かる物がないか探す。

 ちょっと確認したところでは見当たらなかった。

 恐らくそういう物はきちんと家族に届けるために文官たちが回収していったのだろう。

 これはその時の回収から漏れてしまった物だったのではないだろうか。

 私は服一枚一枚を丁寧に畳み、再度袋に詰め直していく。

 財産にならない私物は形見分けとして仲間内で分けあったりするのが通例だが、全部が全部そうなるわけではない。

 ゴミにしかならない物は、焼却処分することになっていた。

 こうやって畳み直す意味は全くないが……気分というものだ。

 できれば彼らに対して真摯に向き合っていたいだけ。

「よし、完了っと」

 言う必要などないのに、そうやって言葉が漏れてしまったのは私の感情を誤魔化すためだろう。

 でも無理はしていない……そう思いたかった。

「他には無い?」

「……姉御、その……」

 ハイネが申し訳なさそうにしているが、その必要は微塵も感じない。

 これはハイネが責任に感じる様な事ではこれっぽっちも無いのだから。

「はい、他に畳んで欲しい人! というかもっと綺麗に暮らしなさいよね、もう」

 私はそう文句を言いながら、みんなの荷物を強制的に整理整頓していった。

 大まかにだが仕事を終えた、確認のために私は周囲を見回す。

 洗濯ものは受け取ったし、掃除もした。兵士全員に配られている布団代わりの布はまだ換えなくてもいい。などと頭の中のリストを潰していき……。

 ――カンカンカンカンと、敵襲を告げる鐘が打ち鳴らされた。

 兵士たちは瞬間的に顔を引き締めると、次々に部屋を出て走って行く。

 彼らはこれから戦って――死ぬかもしれないのだ。

 私のために。

「姉御、行ってくるっすけど……あんま思いつめないでくださいっす」

「大丈夫だよ。ハイネも気を付けて」

 本当は絶対死なないでと言いたかった。

 でもそれはとても難しい事で、誰もが望んでいる事だ。

 一番強い願いのはずなのに、それが一番軽い願いになってしまっているなんて、どんな皮肉なのだろう。

「姉御は悪くないっすから。勝手に奪おうとしてくるルドルフの野郎とカシミールが完全に悪いっす」

 行動は確かにその通りだろう。

 私を求めて兵を貸したルドルフさまと、国を乗っ取ろうとするカシミールが悪い。

 でも原因を作ったのは私だ。私がルドルフ様の感情を煽ったのだ。あれが無ければこんな事になっていなかったかもしれない。

 私の罪は、ゼロじゃない。

 今言っても仕方のない事だけど。

「ありがとう」

 私の礼を背中にうけたハイネは、手を上げて持ち場へと走って行った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...