『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第109話 私達は戦争をしている

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「雲母さん頑張って!」

「そ、そうりゃね……。おくりぇると家令さんにおこりゃれりゅ……。ねむ……」

 薬を飲んでエマと一緒に寝たまでは良かったのだが、今まで寝れなかった分と効きすぎてしまった事が相まって相当な寝坊をしてしまっていた。

 というかまだ頭がぼ~っとする。

「すみません。雲母さんの体の小ささをお医者さんに伝え忘れてました」

「ちっちゃくないもん~」

 私は未だ眠気の残る頭を振りながら、エマにも手伝ってもらってメイド服に着替えていく。

 身だしなみもきちんとしないと怒られてしまうため、少し乱暴に櫛を使って髪の毛を整えていった。

 うぅ……ブチブチ千切れる音がするぅ……。髪の毛痛んじゃうよぉ。

 でも怒られるよりマシかも……。痛みで目も冴えて来たし。

「よしっ、起きたっ」

 私は頬をパンッと張って気合を入れる。

 ちょっとまだ眠いけれど、我慢できないほどではないし、眠れなかった時よりはだいぶ調子もいい。

 完全にすっきりとまではいかなかったが、それでも頭痛が無くなって気分もあまり暗くならなくなった気がする。

「ありがとエマ」

「はい、どういたしまして」

 私は気を使ってくれた親友にお礼を言うと、食堂に向けて走り出した。









「すみませんっ、おはようございますっ」

「申し訳ありません、遅くなりました」

 私とエマは二人して食堂に駆け込んでいった。

 食堂とは言っても何か大層な施設があるわけでもない。少し広めの部屋に大きめの長机が一つ置かれているだけだ。

 私は驚いたのだが、貴族は使用人と食事をするのが割と普通であるらしい。

 そうやって自分の度量を示すという目的があるらしいが、モンターギュ侯爵はそういうのとは関係なく使用人の人たちと一緒に食べたいから食べている様だった。

「まだ食べ始めたばかりですからな。落ち着いてください」

「ありがとうございます」

 家令さんの冷たい視線はスルーして自分の席に座る。

 私の座る場所は上座から四番目で、グラジオスの隣という場所だ。

 その隣はハイネのお父さんであるロイ・モンターギュ子爵、その奥様、ハイネ、家令さんと続いていく。

 上から数えた方が早いその位置に遅刻して座るのは、なんとも気後れしてしまうのだが……。

「失礼します」

 何度も頭を下げながら私は自分の席に着いた。

 今日のメニューは鶏足と白パンかぁ。新鮮なお野菜食べたいなぁ……。

「おはよ、グラジオス」

「ああ……って眠れなかったのか?」

 私の顔を一目見たグラジオスが、ちょっと驚いたように聞いてくる。

 ああそっか。今日は目元に顔料塗ってないから隈が隠せてないんだ。ファンデーションとかあったらもっと簡単に隠せたんだけどなぁ。

 どうしよ。

 まさか、今までずっと眠れませんでしたなんて言えないし。

「ちょっとエマと遅くまで話してたんだ」

 ごめんエマ。言い訳に使っちゃって。

 今度お礼するからね。

「そうか、あまり無理するなよ」

「うん、ありがと」

 軽く会話をした後、私はパンをもそもそと食べ始めた。

「それにしても殿下はずいぶんと愛妻家ですなぁ」

「ぶっ! ……えふっえふっ。な、なんですか急に」

 まだ結婚してませんからっ!

 あ、グラジオス背中撫でてくれてありがと。

「いえ、初めてお二人がいらっしゃった時はお互いの仲を随分と否定なさっておりましたのになぁと、ふと思い出しましてな」

 モンターギュ侯爵は少し遠い目で昔を懐かしんでいる。

 確か……三年くらい前だったかな。

 あ~、私が異世界に来てそんなに経ったんだ。なんか昔っからこの世界に住んでる気がしてたや。

「あの時は卿が雲母の事を子どもと誤解して大変だったな」

「でしたなぁ……」

 要らない事思い出さないでいいのに、もう。

 確かにあの時は誤解だったけど、それが今は本当になっちゃったんだよね。

 なんというか感慨深いものがあるなぁ。

「雲母様はあの時から全くお変わりなく。どのような秘訣があるか教えていただきたいですなぁ」

 日本人だからです。絶対それしかありません。

 私だけが特別小さいなんて事は絶対あり得ませんから。

 日本人、みんな老けない。小さい。

 私の事ピクシーとか言いやがったクラスメイトの男子は今でも許してないからな、くそう。

 なんて色々考えた後、さすがにこれは言えないので無難に、

「運動と健康的な食事ですかね。野菜とかライ麦パンいいですよ」

 と、素知らぬ顔で言っておく。

 野菜を食べる事が健康的なのは事実だし。

 ついでにご飯にもっと野菜を付けてくれたらいいのになぁ。

 お肉とパンだけだとちょっともたれちゃう。

「これは俺も同意しよう。雲母の言う食事に変えてから明らかに体調がよくなったからな」

 お、ナイス援護。

 まあ、それまではひたすら肉まみれの生活送ってたらしいからねぇ……。ビタミンCとか食物繊維どこよ? って食生活してたら体悪くして当たり前だって。

「ですが野菜は庶民の食べ物では? 王の妻ともなろうお方がそのような物ばかり食べているというの考え物かと」

 おお、ノーと言える家令さん、さすがだなぁ。でもこればっかりは私が正しいからなぁ。さて、なんて言いくるめようか……。

「グラジオスはいつまでも若々しい私とお婆ちゃんになった私どっちがいい?」

 グラジオスに話を振ってみると、グラジオスは一瞬空中を見つめてから変な顔をする。

「……お前が歳を取る姿が想像でき……いてっ」

 私が永遠のガキんちょだって言いたいのかなぁ?

 永遠にレディになれないって? こんにゃろう。私だって寄せてあげたら多分谷間ぐらい作れるんだからね。

「はっはっはっ。仲が良くてよろしいですなぁ」

 なんて今が戦争中だと思えない位平和なやり取りをしていて……現実に引き戻された。

「侯爵様!」

 食堂に兵士が息を切らせて駆け込んでくる。

 この食事の時間はモンターギュ侯爵がよほどの事が無い限り邪魔をするなと厳命しているのだ。

 それを破ってなお来たという事は……。

「敵襲か!?」

 思わずグラジオスが腰を浮かせる。グラジオス自身は大した強さではないが、責任感は人一倍強いのだ。

 総大将が前線にどっしり構えているというだけで随分と士気は変わってくるため、グラジオスは前線に居て兵士たちを安心させたいのだろう。

「いえ、山越えを敢行した敵部隊が居る模様です。はっきりとは分かりませんが、敵兵を見かけたと報告が」

「あの山脈を突破しただと?」

 数人の人間が鎧などを装備せずになら突破できなくもないだろうが、それをしたところで何の意味もないはずだ。

 だがもし、敵軍が山を抜ける道を見つけたとなれば話は違う。

 今私達は兵士のほとんどをこの国境に集めているため、敵は無人の野を駆ける様に進軍し、あっという間に王都を攻め落としてしまうだろう。

 そうなれば私達の敗北は必至だ。

「分かった。私が行こう」

 モンターギュ侯爵自らが腰を上げる。

 確かにこの城の中で、いや、世界で一番この国境の事について詳しい人が行くのが安心だ。だが……。

「待て。卿は防衛の要だ。誰か別の者を行かせるべきではないか?」

「いえ、この場は私が適任でしょう。この砦の事に関しては不肖の息子であるロイもよく理解しております故」

 そう言われてハイネに威厳を加えて二十歳くらい年齢を足した感じのロイも、任せて欲しいと主張する。

 勝手の分からないグラジオスがそれ以上の主張は出来なかった。

「分かった。では重々気を付けてくれ」

「はっ、お任せください殿下」

 モンターギュ侯爵はそう畏まった後、颯爽と食堂から出て行ったのだった。
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