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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》

時翔る花嫁は初恋の君 02

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 もしかしたら傑はすでにそのことを知っていたのかもしれない。けれども綾音が“時を翔る”能力をつかうことはなかったのだ。暗示をかけあった半神である双子の妹がそこにいなかったから……待てよ? 過去の世界へ未来から妹の“時を翔る”能力が使えたのなら、その逆も可能なのでは? 傑がこのことを知ったら、音寧はもとの世界へ戻れなくなるのでは……?
 難しそうに首を傾げる有弦を気にすることなく、鏡の向こうでは双子姉妹の会話がつづいている。

『音寧のことだから、資くんに何も話していなかったと思うんだけど』
『だ、だってあやねえさまが死んでしまった状態で“時を翔る”ことなんか二度とないと思っていたから……震災前に静岡から帝都に召喚される可能性は考えていたけど』
『音寧の方が、震災後にあたしを静岡へ召喚しようとしたじゃない』
『でもできなかった……無能なわたしはあやねえさまを救うことができなくて』

 鏡の向こうで繰り拡げられる双子の会話を通して、有弦は納得する。
 音寧が寝言で魘されていたときに見た夢は、このことだったのだと。

『さすがに肉体と魂がはなれると暗示もきかないわよ。音寧は無能なんかじゃない。鏡の魔力を引き出すことに関してはあたしより上手みたいだし、過去からの召喚にも応じてくれた……今度はあたしが音寧にちからを返す番よ』
『返す?』
『そう』
『どうやって?』

 綾音と音寧は互いに見つめ合って、沈黙する。
 嫌な予感がすると有弦が双子を見据えれば、綾音が笑う。

『すこーしだけ、歴史を変えるの』

 震災をなかったことにすることはできない。
 綾音と傑が死ぬことを回避することもできない。
 けれど、綾音は晴れやかに笑って音寧に告げる。


『そうすれば、音寧と資くんの間に可愛いやや子がすぐに生まれるわ』
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