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壱 その六
しおりを挟む「それにしても物騒ね。いつまでその刃物をちらつかせる気? あたしが彼女を害するつもりがないことくらいわかっていて?」
「用心に越したことはございません」
きっぱり応える浅葱は禅に刃先を向けたまま、静を彼女から引き離そうと身体を捻る。
「浅葱。やめなさい」
静は目の前の少女へ懐剣を突きつけている浅葱にきつく命じる。浅葱はなぜ自分が非難されるのか理解できないと主の顔を仰ぎ見るが、静は浅葱を一瞥しただけでそれ以上の言葉を紡がない。渋々浅葱が懐剣を鞘へ納めるのを見送り、静は更に命じる。
「浅葱。わたしはこのひととふたりで話がしたい」
「いけません」
「正体なら、もう掴めている。向こうだってわたしに興味があるだけで、傷つけるつもりはないと口にしているの。この状況が平等ではないことくらい理解できるでしょ?」
「ですが……」
目の前にいる少女は危険な匂いがする。浅葱は自分の主が彼女と関わることで変わってしまうのではないかと胡乱な目つきを隠さない。それを見て、心配性ねと微笑む静。
「行きなさい」
何を言っても無駄よと静が駄目押しのように笑いかけると、浅葱は主と向き合う少女をキッと睨みつけてから、ふいと背を向け、すたすたと去っていく。
「従順な犬をお持ちね」
「その表現は適切ではないけど、誉め言葉として受け取ってあげる。浅葱がきいたら火を噴きそうだけど」
浅葱の姿が完全に見えなくなってから、悪びれることなく静は笑う。主に忠実な侍女とは対照的に、主は侍女をそこまで重くは見ていないのだろうか……禅が不審そうな顔をしているのを面白そうに、静が見つめている。
「それとも、もっと憐れんであげた方がよかった?」
気さくに話す少女は、義経のお飾りの正室でしかない。そう思っていた。けれど。
「……義経があなたの将来を楽しみにしたがる理由がわかった気がするわ」
「そ」
たいして興味もなさそうに、静は応える。
「安心して。あたしは違う」
少女の言葉が、静の内耳をくすぐる。
「だってあたしは、義経の妾でしかないから」
あなたの敵にはなりえないのよと、暗に囁く。
「仲良くしましょう? シズカ同士」
静が目を見開く。
義経に愛されている目の前の少女は、自分と同じ名前を持っていたのかと。
「しずか……そっか、そういうこと」
顔を見合わせ、ふたりは笑いあう。
「義経さまは、しずかなお方が好みなのかしら?」
「たぶん、偶然」
笑いながら、禅は頷く。
自分と同じ名前の少女が、義経に愛されていると知った静は、禅の言葉に落胆するわけでもなく、むしろ面白がっている。
「あたしは京の白拍子、禅。よろしくね、静御前」
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