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* night of before a firstlove / Makoto Michinoku *
chapter,2 + 7 +
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不思議なものだと自由は思う。
医師と患者という関係でありながら、常に反発しつづけているふたり。それでいて、互いのことを認め合っているふたり。
「ミチノクは、奇跡じゃないって言ってた」
「そうなのか?」
僕は奇跡だと思うのにと口にしたら、小手毬は泣きそうな顔になった。奇跡に飽き飽きしているようだ。
「ひとが生きていくのは奇跡でもなんでもない、当然の帰結なんだって。キケツって何?」
小手毬は事故に遭う以前より、こどもっぽく見えるようになった。まるで退化してしまったようだ。
けれど、小難しい言葉をどうにかして咀嚼しようと試みる姿や、おしゃべりなところは全然変わらない。
「帰結ってのは……」
「何らかの事態を原因としてそれから結果として生ずる状態、または一定の論理的前提から導き出される結論」
「あ、ミチノク」
病室に足を踏み入れながら、陸奥は偉そうに呟く。
「もしくは物事が種々の経過の後、おちつくこと」
いい所を見せようとした自由は、陸奥に先を越されて苦い顔をする。
「要するにおわり、ですね」
「そうだ……ジユウ、また姫君に油売ってたのか」
「午後の外来は三時からですよ」
「そうか」
つまらなそうに陸奥は頷き、小手毬の表情をうかがう。
「なぁに?」
「もう少ししたら、早咲先生が来る」
早咲の名を聞いて、小手毬の頬がパッと赤くなる。心底嬉しそうに、瞳を輝かせ、見開く。
それを見て、自由は首を傾げる。
「小手毬は、早咲先生が好きなのか?」
「うんっ。ハヤザキだいすき」
「僕よりも?」
焦った表情の自由を、呆れるように陸奥が制する。
「……へんなとこで張り合うなよ」
うーん、としばし悩んだ後、小手毬はぽんと手を叩く。
「ミチノクよりはすき」
「なんだと!」
ぷっ、と自由が笑う。陸奥と言えば無表情でクールな医師というイメージが強かったのに、小手毬の言葉に正直に喜怒哀楽を見せている。そのギャップが面白い。先輩医師に対して面白いは失礼かもしれないが。
「ジユウ今笑っただろ、笑ったな」
「すいません」
「お、随分賑やかになったんだな」
第三者の声が割り込んで、三人は声の主の顔を仰ぐ。オレンジ色に近いピンクの白衣を着た女性を見て、自由の顔がひきつる。
「ジユウみぃっつけた。まったく、どこほっつき歩いてるのかと思えば」
「……まだ休憩時間内ですよ」
「知ってる。これはちょっとした興味本位」
「興味本位で患者に手を出すな」
「厳しいねぇ陸奥先生は相変わらず。うちの旦那が文句言うのも理解できるわぁ」
どうやら彼女も医師らしい。小手毬は胸元のネームプレートを見て、読み上げる。
「ナラシノ? 女のひとなのにナラシノ?」
「あのナラシノの妻だ」
陸奥は混乱する小手毬に説明する。
「ナラシノの奥さん?」
「そうよ。あなたがコデマリね、お久しぶり」
小手毬はきょとんとした表情でナラシノと呼ばれた女医を見上げる。
「おひさしぶり?」
陸奥が自由と楢篠天、ふたりの表情を見比べながら首を傾げる。学生時代の先輩後輩だったことを考えれば、彼女が小手毬のことを知っていても不思議ではない。
「どこか、で、お会いしました、っけ?」
けれども、小手毬はそれを覚えていない。
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