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弐
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そう言いながら、公暁のことを考える。唯子に恋焦がれている彼も、将軍には敵わない。唯子が実朝の側室になったと知れば、彼は諦めて、剃髪をしてくれるだろうか? それとも、自棄になって秘密を公に晒してしまうだろうか? ……けれど、彼ひとりが吠えたところで、このことを知る義村や政子が黙っていれば、たいした問題にはならないはずだ。義村は公暁と婚姻させることよりも、血縁の問題を無視してまで実朝の側室になるよう勧めていたし、政子も北条の暴走を止めるためなら近親婚のひとつやふたつ、あっさり黙認するのが目に見える。
現に政子からいつ祝言を行うのかと三浦邸へ使者が送られてきたという。年内は難しいので年明けごろが望ましいと実朝側が応えていることから、婚儀は実朝が京都から戻ってからというはなしに落ち着いているようだ。もはや唯子が反論する余地は与えられていない。
「……何も問題ないわ」
乾いた笑みを引きはがすように、唯子は眉子へ向けて、低い声で呟く。
「では、京都行きの件も、すでに承知されているのですね」
「いつ発たれるかは、まだわからないけれど」
これから実朝はしばらく京都に滞在して朝廷へ赴くと聞いた。彼とともに来るよう懇願された唯子もしばらく鎌倉の土地を離れることになる。鎌倉から自分が姿を消せば、公暁も正気に戻って鶴岡八幡宮の別当として落ち着くはずだ。幼いころの初恋を引きずる彼を目覚めさせるためにも、唯子が実朝についていく姿を見せつけてやればいい。
「しばらくって言っても婚儀のことを踏まえると年内には戻るみたいだから、そのあいだ、眉子はゆっくりしているといいわ。あなたも鎌倉どののところへ移るのでしょう?」
唯子の言葉に、なにをおっしゃいます、と眉子は力強く宣言する。
「この眉子、唯子さまのためでしたら、鎌倉から離れた京都でも、お供しますわ!」
秋の京は紅葉が綺麗なんですよ、と心躍らせている眉子を見て、唯子は思わずくすりと笑ってしまう。彼女が持つおおらかさに、唯子は救われた気持ちになる。
「そうね、赤や黄色の紅葉……綺麗でしょうね」
実朝は京都の美しい景色を見て、和歌を詠むだろう、そこまで想像して、唯子は微笑む。
唯子の心からの微笑に、眉子も嬉しそうに頬を緩め、頷く。
「きっと、京で婚礼衣装も見に行くんでしょうね。唯子さまに似合う装束をこの眉子、必ずや探し出しますわ!」
不謹慎かもしれないが、愛しいひととの婚前旅行だと思えばいい。唯子は深く考え込むのをやめて、まだ見ぬ秋の京都へ想いを馳せることにした。
現に政子からいつ祝言を行うのかと三浦邸へ使者が送られてきたという。年内は難しいので年明けごろが望ましいと実朝側が応えていることから、婚儀は実朝が京都から戻ってからというはなしに落ち着いているようだ。もはや唯子が反論する余地は与えられていない。
「……何も問題ないわ」
乾いた笑みを引きはがすように、唯子は眉子へ向けて、低い声で呟く。
「では、京都行きの件も、すでに承知されているのですね」
「いつ発たれるかは、まだわからないけれど」
これから実朝はしばらく京都に滞在して朝廷へ赴くと聞いた。彼とともに来るよう懇願された唯子もしばらく鎌倉の土地を離れることになる。鎌倉から自分が姿を消せば、公暁も正気に戻って鶴岡八幡宮の別当として落ち着くはずだ。幼いころの初恋を引きずる彼を目覚めさせるためにも、唯子が実朝についていく姿を見せつけてやればいい。
「しばらくって言っても婚儀のことを踏まえると年内には戻るみたいだから、そのあいだ、眉子はゆっくりしているといいわ。あなたも鎌倉どののところへ移るのでしょう?」
唯子の言葉に、なにをおっしゃいます、と眉子は力強く宣言する。
「この眉子、唯子さまのためでしたら、鎌倉から離れた京都でも、お供しますわ!」
秋の京は紅葉が綺麗なんですよ、と心躍らせている眉子を見て、唯子は思わずくすりと笑ってしまう。彼女が持つおおらかさに、唯子は救われた気持ちになる。
「そうね、赤や黄色の紅葉……綺麗でしょうね」
実朝は京都の美しい景色を見て、和歌を詠むだろう、そこまで想像して、唯子は微笑む。
唯子の心からの微笑に、眉子も嬉しそうに頬を緩め、頷く。
「きっと、京で婚礼衣装も見に行くんでしょうね。唯子さまに似合う装束をこの眉子、必ずや探し出しますわ!」
不謹慎かもしれないが、愛しいひととの婚前旅行だと思えばいい。唯子は深く考え込むのをやめて、まだ見ぬ秋の京都へ想いを馳せることにした。
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