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畢
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しおりを挟む建保七年、正月。
誰もが実朝に新たな年を寿ぎ、将軍さまの御世に幸あれと跪いている。
明日は鶴岡八幡宮で右大臣拝賀が催される。それが終わればついに唯子は実朝と祝言を挙げることになる。
そのこともあって、年明けから三浦邸にも祝いの言葉や贈り物が数多く届けられており、姫君の輿入れに周囲は沸き立っている。
けれど唯子は未だ信じられずにいる。自分が実朝の側室となって、この大倉御所で寝食をともにするなんて……
御家人の武家屋敷と異なり、将軍がおわす御所は雅やかな寝殿造りの立派な建物だ。実朝とともに京都から鎌倉へ戻ってから信子が暮らす対屋の隣で生活することになった唯子だが、いままでと異なる規模に慣れることができず、眉子とともに今なお狼狽する日々を送っている。だというのに将軍家の行事は迫っており、明日は唯子も鶴岡八幡宮へ行くという話になってしまった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。遠くから見守っていてあげればいいんだから」
一緒に参加する信子はそう言って唯子を励ますが、唯子の表情は芳しくない。
なぜだろう――ひどく胸が騒ぐ。
鶴岡八幡宮。それは生まれる前から自分たち、唯子と公暁を翻弄させた神託が授けられた聖なる場所。そして公暁が別当として詰めている場所。
京都から鎌倉へ戻ってから公暁とは一度も顔を合わせていない。眉子の話だとおとなしく仕えているというが……
「……大丈夫かしら、公暁」
いつの間にか信子が姿を消していることにも気づかず、唯子は呟く。信子だったら心配いらないと優しく応えてくれるだろう。けれど唯子が望んだ応えは、そこにない。
「大丈夫なわけないじゃないですか」
いまの時季にぴったりな薄紅梅の袿を羽織った和泉が辛辣に言い返す。驚く唯子に和泉はなおも言葉をつづける。
「このままでは、実朝さまは公暁に殺されてしまいますよ、暁子」
「……ちょ、ちょっと待って。あなた、和泉よね? いずみってまさか、泉?」
「京都であれだけ傍にいたのに……ようやく気づいてくれましたね。いまは泉次郎という名で実朝さまの御家人をしたり、和泉って名で信子さまの侍女をしたりしているんです。驚いた?」
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