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畢
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「……甘かったか」
雪のなか、公暁は唯子を連れて山を登る。公暁の後見である備中阿闍梨のもとで唯子は血で汚れた法衣を脱ぎ、喪服のような薄墨色の袿に着替えている。公暁は三浦義村へ迎えに来るよう使いを出したものの、義村が愚息の凶行を知り自分に非が向くのを恐れたためか、次期将軍としての迎えではなく、下手人として追っ手を差し向けられてしまった。
阿闍梨に逃げるよう言われ、公暁と唯子は法師たちと別れた。討手は三浦一族の家臣、長尾定景。雪に残る足跡を消す間もなく、四方から追っ手と思しき男たちの声が響き渡る。
もう駄目だと頭巾に包んだ首をきつく抱きしめた唯子は涙目で公暁を見つめ言い放つ。
「義唯。いまならまだ間に合うわ。あなただけ三浦邸に戻って。わたしが源公暁だと真実を明かして投降する」
彼を殺したのは義唯ではなく名乗りをあげた自分だ。知らないふりをして屋敷に戻り、三浦義唯に戻ればまた日常に戻れると、唯子は訴える。けれど公暁はできないと首を振り、お前こそ逃げろと反発する。
「お前を見殺しなんかさせねぇ! もとはといえばおれが企てたことだ。いまさら何食わぬ顔で三浦家に戻れるわけねぇだろ」
ずっと源頼家の息子と偽って生活してきた。いまさら義村を頼って戻っても、公暁として生きた自分が将軍暗殺に関わっていた事実がある限り、三浦義唯に戻ることは叶わない。それに、彼は公暁からの要請を拒み、執権とともに追っ手を放った。まるで最初からそうなることを知っていたかのように。
「そうね……夢みたいなことを言ってごめんなさい……――じゃあ、一緒に死ぬ?」
唯子はどこか儚げに言葉を紡ぎ、公暁を潤んだ瞳で見上げる。
――そうだ、おれはどうせ殺される。
北条義時は実朝を殺して自分が次代の将軍になればいいと嘯いたが、いま思えばそれは公暁を陥れるための罠だったのだ。
そうして、頼朝に連なる男は滅ぶ。白き巫女が下ろした神託の通りに。北条一族は新たな将軍を皇族から迎え入れ、生き残った鞠子を正室として、鎌倉の存続へ動き出す……
もはや自分たちは不要なのだ。秘密を知る政子も義村も、神託とともに厄介払いができたと喜んでいることだろう。
そのことを悟った公暁は、愛する人でありながら親の仇であった男を殺め、求められた男に従い逃げ、死を覚悟した唯子を見て、不憫に思う。
「――暁」
「ごめんなさい」
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