上 下
24 / 53
本章・わくわくえちえち編

#23・【後編】転生TSっ娘が異性と手錠生活するとどうなるのか?

しおりを挟む

いつも通りの朝。モーニングルーティン。
TS談義とお食事のお昼休み。
夕食、夕風呂、勉強会。
その後のソシャゲタイム。

今日も今日とてそうやって何気ない
TSスローライフを過ごして
2度目の青春を謳歌する筈だった。

なのに……なのにっ!
何故俺はこんな屈辱的な
事をしなけりゃいけねぇんだ!!

「あっれ~、急に怖気付いて
どうしたんですかサユキちゃ~ん。
償う気ありますぅ~~??」

ソノハめ。
完全に状況を楽しみやがって。

こういうのは漫画のヒロインやTSっ娘が
主人公君にやるから萌えるのであって、
俺がやった所で誰得の演出なんだよ。

あー、手が震えてエイムが定まらねぇ。
だがここで手を引けば
ソノハに追い討ちかけられるだけだ。

やるぞ! 俺はやってやる!!

「あ、あーん。」

――パクッ。

何でノリノリで頬張ってんだよアックス。
おい、いつも食べてる自炊弁当だろーが。
頬に手を当てて幸せそうに咀嚼してんじゃねーよ。
そんな顔して普段食わねーだろ。

「美味い、美味すぎるぜ……サユ。」

涙流してんじゃねーよ気持ち悪い。
きっとアレだろ。ソノハに毒盛られたんだな。

「ソノハちゃん。
アックスの弁当になんか入れた?」
「入れてないよぉ~。」
「いや、流石にアックスの様子が
可笑しいでしょ。」

「それはねぇ~ふふ。」

勿体振るんじゃねぇ。

「違うんだサユ。聞いてくれ。
可愛いTSっ娘にあーんされるのが
俺の夢だったんだ。それが幸せ過ぎてつい……
TS好きのサユなら分かるだろ?」

「分からないでもないけど、
そこまで変な反応はしないわよ。」
「誰が変だ! 俺は正常な男子高校生だ!」
「TSっ娘専用セクハラ男の間違いでしょ。」

コイツの場合リンナやクローネでも
同じ反応すんじゃねーの。

二口目以上はまともに与えちゃいけなさそうだ。

「ミミアちゃん。
アックの事拘束してくれる。」

――がしっ!

「こんな感じで良いかい?」
「えぇ、上出来ね。」

いやぁ、やっぱ持つべきは頼れるダチだな。
背後からの拘束が完璧だ。

「サユ? 俺に何する気だ?」
「昼ご飯をお口に詰め込みまーす♡
窒息死したくなかったらぁ~
素早く噛んで飲み込んで下さいねっ♡」

「た、助けてくれソノハ!」
「頑張って下さいねリーダー。」

「――ぎぃぁあああっ!!」

こうしてアックスは、一時的とはいえ
飯を口に詰めるだけの機械人形と化した。



昼休憩終了後。

「……はぁ、死ぬかと思ったぜ。」
「思ったより丈夫ですねアック。」
「しょーもない死に様をクラスメートに
晒したくねーだけだよ。」
「ふふっ、確かにそうだよね――ッ!?」

やっ、やべぇ。
笑い出したら急に尿意が……

「ん? 太もも擦り合わせてどうしたサユ。
もしかしてお前。
おしっ……んぐぐっ!?」
「その先は言わせませんよ!?」

両手を上げ白旗を見せたので、
彼の口を解放する。

「わ、分かった言わねーよ。
でさ、その場合俺はどっち行きゃいいんだ?」
「決まってるじゃないですか。
行きますよ、男子トイレ。」

「いやいや何でそうなる!?
今のサユは仮にも……」
「アックが捕まるよりはマシよ。
私だって本来はそこで用を足すべき人間だし
何も変じゃないわ。16年ぶりだけどね。」

「ま、サユがそこまで言うならしょーがねぇな。」

何とかアックスを説得し、男子トイレへ入る。
あぁ、何という懐かしい光景。
トイレの中に小便器がある!!

「何マジマジと小便器見てんだよ。
サユはそれ使えねーだろ。」
「しっ、知ってるわよ!
久々に出会ったから感動しただけ!」
「感動とか意味わかんねーよ。
ほら、さっさと個室へ行くぞ。」

「待って下さい! その前に!」
「今度は何だ。」
「数秒ほど目を瞑ってくれますか。」
「いいぞ。」

素直に指示を聞いてくれて助かるぜ。
これで万が一のトラブルも回避できるな。

俺はアックスの顔面に電気を通した。

「もう開けていいよ。」
「いや、開かないんだが。」
「よかった! 成功のようね。」
「成功?」

「はいっ! 万が一に備えて
瞼の筋肉と嗅覚を麻痺させといたわ。」
「えげつねー事すんなオイ!
あれ? 聴覚は封じなくていいのか。」
「意思疎通手段として会話は不可欠だからね。」

「それは間違いないだろーが。
良いのか、サユの放尿音聞き放題だぞ。」
「アックは真横で男子の小便音聞いて
興奮するんですか?」
「可愛いTSっ娘だと話は別だな。」
「変態のアックに聞いた私が馬鹿でした。」

まー、正直聞かれてもいいや。
男同士だしなんも問題はねーだろ。
連れションし合った仲だしな。

そういや、この狭い空間で2人きりなのも
中々にない機会だな。
どうでもいっか。

さっさと終わらそ。

――ジャバジャバジャバ。

用が済んだので、2人で手を洗う。
アックスの視界と嗅覚も戻しておいた。

「なぁサユ。
これって大の時や風呂の時も同じか。」
「当たり前じゃないですか。
そうしないとアック一線越えるでしょ。」
「何で分かるんだよ。」

「私だって元々男ですからね。
もし男のまま可愛い女子とこんな状況に
なったら理性崩壊するに決まってるじゃん。
……寧ろ、我慢できてるアックが異常。」

「かもな。ってかそれ
褒めてんの馬鹿にしてんの?」
「両方。」
「相変わらず辛辣だなぁ。」



こうしてぎこちない学園生活も過ぎて行き。
気が付けばいつもの宅メンで夕食を囲んでいた。

「なぁサユ、お昼と同じ事してくれるんだよな?」
「まだ懲りないんですか変態。」

「懲りねーに決まってんだろ。
俺はサユとイチャイチャしてーんだ。
イチャイチャすればキュピネも居なくなる。
顔面は毎日壊滅状態だが、取り敢えず俺は
サユとそこそこにイチャイチャして優勝するぜ。」

是非とも地獄に下山してくれ。

「マサ兄、アックは今日利き手が使えないので
彼の食事補佐お願い出来ますか?
キュピネさんは彼を抑えといて下さい。」

俺の指示通り、2人が動いてくれた。

「御意。お嬢の仰せのままに。
――さぁ、愛弟子よ! 食え! あーんっ!」
「サユキちゃん。
この借りはいつか返して貰うわよ。」

「サユ、図ったなぁぁあ!」
「師匠と弟子が仲良くなってとっても嬉しいわ!」
「ちくしょぉおおおお!!!」

アックスは悔しさの断末魔を上げながら、
師匠の愛が籠った飯を頂いた。

その後。
食後の歯磨きをアックスと
同時に行ったのはいいが、
……この先どうしよ。

「サユ、固まってどうした?
口もいい感じにさっぱりしたよな。
確かこの後は風呂入って勉強会だよな。
待てよ、これってまさか……」

あぁ、そのまさかだよ。
手錠に繋がれた異性がこの後迎えるエロイベント。
様々なエロ漫画に
目を通した者同士だからこそ分かる。

――混浴だ。

実質男2人で入ると言う絵面なのだが、
俺が転生TSっ娘な所為で話は変わってくる。
それだけならまだしも、お相手のアックスは
よりにもよってTSっ娘大好き吸血鬼。

このまま入れば一線を越える事間違いなしだ。
以前、ドキドキ水着風呂という
この状況と似た謎イベントを自ら発生させた。

結果はと言うと惨敗。
湯船を冷ますような事はしたくないので
氷雪能力も使えない。
風呂場を故障させたくないので
雷の能力も存分に使えない。

前回は騙し討ちの手動スタンガンが通じて
リカバリーが効いた。
かといって、2度目は上手くいかないだろう。
アックスもそこまで馬鹿じゃない。

「ねぇ、アック。
男子トイレでのやり取り覚えてるわよね。」
「やっぱそーなるよな。……けどよぉ、
前回みたいに水着風呂じゃダメなのか。」

「ダメに決まってます。もしそうしたら……
大事な所が洗えないじゃないですか。」
「……なんか、ゴメン。」

お、今日のアックスはやけに素直だな。

彼が自ら目を瞑ったので遠慮なく
瞼の筋肉を麻痺させる。
少しでも加減を間違えれば失明するが、
吸血鬼なので安心して行える。

良かったな、吸血鬼に転生して。

「おし、これで目ぇ開かなくなったな。
サユ、今の俺は見ての通り盲目状態だからよ。
脱衣とか体洗いとか全部任せていいか。」

それが最初から狙いかよ。
優しさ故の素直だと思ったのに裏切りやがって。

「分かったわよ。じゃ上からね。」
「オナシャス!」

何でそんなテンション高いんだよ。
気にしたってしょうがねぇし脱がしてくか。
お、ヒョロガリだと思ったら意外に
筋肉あるじゃねーの。

シックスパックってやつか。
俺の見えない所で鍛えてんのか。
おもしれーなぁオイ。

「サユ、さっきから俺の腹筋ツンツンするな。」
「なんか面白くてつい……」
「舐めてもいいぞ。」
「はい下も脱がしましょうね~♡」
「無視すんな。」

「……ほぇ?」

下を脱がしたのはいいものの。
予想もしないバケモノが現れた。

「アック、何でフルボツしてんの?」
「このシチュで勃つなとか無理あんだろ。」
「変態。」
「うっせ! サユもどうせびしょびしょだろ?」
「は? そんな訳……嘘。」

「おやおや~図星ですかぁサユちゃ~ん!
実は淫乱TSっ娘とか捗りますなぁ~!」
「アックのこれって再生に何分必要?」

「ナチュラルに
チンコ切り落とそうとするのやめような。
あ、今のサユには切り落とすチンコもねーか。
はっはっは!!」

ムカつく発言は取り敢えず脳の隅に置いとこう。

しっかし不思議だなぁ、
どうしてアックスの図星なんだ。
特にエロい妄想をしてる
訳でもないのに濡れ濡れしてるし……

あー分かった、あれだろ。
授業中にエロい事考えてないのに
勃起する謎の現象。
アレの女バージョンだろ。知らんけど。

考えたって答えは出ないので、
俺も同様に裸となる。

そして、
棒立ちとなったアックスを引いて風呂へと入る。
続けて彼を石造りの風呂椅子に座らせる。

「これは、髪を洗ってくれるっつー事か。」
「正解です。既に瞼が開かない状態なので
目が染みる心配もないですね。」
「なぁ、今のサユってすっぽんぽんなんだよな。」
「いらん事考えないで貰えます。」

――ゴシゴシゴシっ!

アックスのペースに
呑まれる訳にはいかないので、
話を切るように彼の髪を泡立てる。

「おっ、結構上手ぇーな。」
「褒めてもなんも出ませんよ。
ほら、前屈みになりなさい。」

――ジャァァアアア!

手でゴシゴシしながら、
シャワーで泡と頭皮汚れを洗い流す。
もちろん、自分の髪にも行う。

あっさり髪の方が済んだので、
身体の方にボディソープをぬりぬりする。
アックス、俺の順という感じだ。

「やべぇ、サユに身体ベタベタ触られながら
塗られるのめっちゃいい。」
「息を吐くように
セクハラ発言するのやめて貰えます。」

「じゃあ俺のチンコにもぬりぬりしてくれ。」
「切り落としたら
ぬりぬりする必要もないわよね。」

「……すいません、お許しくださいサユ様。」
「さ、下らない事言ってないで洗い流しましょ。
湯船に早く浸からないと風邪ひくし。」

――ジャァァアアア!!

おし、これでお互いの洗浄は済んだ。
後は一緒に湯船に浸かるだけ……

――つるんっ!

嘘っ! 何でこんな所に石鹸が!?
マズいこのままじゃ。

バッ。

「ほうぇうぇうぇっ!?」
「変な奇声上げてどうしたサユ。
風呂に変態男でも湧いたか。」

どうやって転んだらこんな姿勢になんだよ!
つか変態男はお前だよ。
じゃなきゃ俺が押し倒された
みたいな姿勢にならねぇだろうが。

このラブコメみたいな展開も手錠の力なのか!?
本当に悪趣味な性能してんなオイ。

「アック、今自分がどうゆう
姿勢してるか分かる?」
「四つん這いだな。
っつー事は立ち上がれば解決……」

アックスが手錠側と反対の片手を
軸に立ち上がろうとするが、
その手は何故か外側に滑り。

――もにゅんっ!

「~~っ!?」

姿勢を崩した彼の顔が俺の胸に飛び込む。
風呂場の床は水場故滑りやすいのは理解できる。
だが、ここまでくると明らかに可笑しい事象だ。

手錠の力である事がほぼ確定したといってもいい。

アックスはもう一度
片手を軸にして起立する。
そして、あたふたと口を開いた。

「き、聞いてくれサユ!
これはわざとじゃねぇんだ!
……すまん! 偶然とはいえ
おっぱいに顔を埋めた事を許してくれ!!」

「いいですよ。わざとじゃないのは
私だってわかりますし。
全部このふざけた手錠の所為です。」

「ありがとう!」
「感謝しても何も出ませんよ~。
さ、気を取り直して湯船に浸かりましょう。」
「おう!!」



その後。
風呂を終えた俺らはお互いに寝間着に着替えた。

アックスの視界を戻し勉強会をしたが
これといったエロイベントは発生しない。
そうしていつの間にか就寝時間を迎えていた。

未だに手錠は外れる気配を見せない。
文房具の片付けがあるので、
互いの同意の上、俺の自室で共に寝る事にした。

いつも添い寝に来てくれる鶴が
ニヤニヤして部屋から去ったのは予想外だった。
多分アックスの部屋で寝るだろう。

そして現在。
俺らは同じベットで横たわり、
同じ天井を眺めている状態だ。

「なぁサユ。」
「なぁにアック。」

「ドキドキして寝れねぇわ俺。
このガチ恋距離最高過ぎてやべぇ。
サユの可愛い寝顔も見放題じゃねぇか。」

「寝顔や寝息を観察する分には構いませんが、
鶴ちゃんがいないのを良いことに、
私の寝込みを襲うとかしたらぶっ飛ばしますよ?」
「やんねーよ!!
つか観察していいのか!?」

「まぁ……
私の寝込みを襲わないと約束するなら。」
「おし、それ乗ったわ。こりゃ徹夜確定だな!
でよォ、サユ。今寝れそーか?」

「あはは……実は寝れそうにないんだよね。」

そうだよ! 俺も全然眠れそうにねーよ!!

変に緊張して心拍数エグいんだよこっちは!!
いつ襲われるか分からないから、
身体が警鐘鳴らしてんだよ!!

口約束なんてアテになんねーからな!!

くそぉ、これじゃ埒があかねぇ……
ダメ元で聞いてみっか。

「子守唄とか唄えたりする?」
「唄えるぞ。」

唄えるんかい。

「じゃ、じゃあ私の安眠の為に唄いなさいよ。」
「了解。んじゃはじめっぞ。」

アックスは、いつもの印象とは
違う優しい声音で子守唄を唄い始めた。
それは言葉に表せない
安心感とか、安らぎがあって。

早まる鼓動さえも忘れて、俺は夢に沈んだ。
しおりを挟む

処理中です...