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終章・らすとぱーと編

#51・【秋の修学旅行(後編)】食の秋に感化され食べ過ぎるとどうなるのか?

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第1撮影ポイントの記念撮影を終えた。
第1班が次に向かう強制地点。その2。

――〈立秋・食欲の仲見世〉

秋が旬の食材達を全面に押し出した商店街。
最奥にはとても大きな神社があり、
恋結びの神が信仰されてるらしい。

今回は仲見世域でグルメと写真撮影を
するのが目的なので、
そちらは気にしない方面でいこう。
行ったら行ったで嫌な予感しかしないしな。

さて、食欲の秋をメインとした
場なんだしグルメの方に目を向けよう。

運動の後って事と、時間的な理由で
丁度空腹なんだよな……第1班全員。

「うへぇ、お腹空きましたリーダー。」
「凄いよアックス。良い食べ物の匂いばかりだ!」

ソノハやミミアもこの通り、食を求めている。

かく言う俺自身も……

「見て見てアック! 
秋刀魚の塩焼きそばに、焼き芋餅!
美味しそうなものばかりですぅー!!」

――ガッ!

先行する俺の衣服を掴み、アックスは抑制する。

「ぐぬぬぬっ、進めません。」
「進ませたらどっか行くだろサユ。
班行動大事だって何度言ったら分かんだよ。
だから前世で彼女の1人も……あれ? サユ。」

「……はは、そうですよ。
私は魅力の欠片もない男だったんです。
あはははは。」

めちゃくちゃ気分が沈み、
端の壁に指をツンツンした。
ここに辿り着くまで要した時間は0・05秒。

「戻って来いサユぅう! 
古傷抉ってきた俺が悪かった!!
頼む! 限定かき氷奢ってやるから!!」

「――限定かき氷ッ!? 行きましょうアック!」

「……(サユ、めっちゃ分かりやす。)」



俺を宥める為、1班みんなが限定かき氷を
優先してくれた。

今、シャクシャクとお食事中である。

「むふぁ~、これがかの〈紅葉おろしかき氷〉。
うまうまですぅ~♪」

「それ、本当に美味しいのか?」
「ふんっ、気になるなら自分で買って
食べる事ですねアック! ――シャクシャク!」

ふっ、悔しかろう悔しかろう!
さて。
かき氷も平らげたし、主食の方も考えなくてはな。

「へいへい、そこのお嬢ちゃん。」

おっと、考え中に声かけられたぞ。
しかも第1班の面子や同級生と思ったら、
全く知らないお婆ちゃんだった。

「……私、ですか?」
「うむうむ、お主じゃお主。
綺麗な角の生えた雪女のお主じゃ。」

確実にわた……俺の事指してるよな。

あれ、今俺自分の事なんて言おうとした?
き、気のせいだよな。

とにかく。無愛想にこの婆ちゃんを
引き離す真似は避けねーとな。

第1班の連中に後味悪い事したくないし、
後々の飯を美味しく食べれなくなる。
まずは要件を聞こう。

「あのぅ、何の用ですか?」

「嬢ちゃんの食いっぷりを見て確信したよ。
参加するならあなたしかおらんとな。
――秋の食欲大食いイベントにぃ!」

婆ちゃんはニカッと笑い要件を伝えた。

「「「――秋の食欲大食いイベントぉ!?」」」

何を驚いてんだよ。
イベントなんてそこら中で
やってても可笑しくないだろ。

「ま、待てサユ。この人よく見たら……
イベント主催者のカリャバーバじゃねぇか!」
「ふぉっふぉっ! 吸血鬼君、詳しいのぅ。」

「凄いっ! 本物ですっ!」
「ぼ、ぼぼ僕にもサインをッ!」

あのソノハやミミアまで……
俺が世間知らずの箱入りお嬢様過ぎたのか!?

「よし! お主らも結構食えそうじゃのぅ。」

――ババババッ!!

カリャバーバは片手が複数に
見える程素早く動かした。

そして、俺ら第1班の指に謎の紙切れが挟まる。
誰の仕業かであるかは丸わかりだ。

「吸血鬼君、あとお嬢ちゃん達。
私ゃ、そこで待っておる。
……気が向いたら来なさいな。」

それ以上は話さず、カリャバーバは去っていった。

「お前ら、見ろよこれ。」
「リーダー、これって……」
「僕の見間違いじゃないね。」

3人は俺を置いて、悟ったように顔を見合わせる。

「「「イベントの参加券だッ!」」」

「ねぇ、それの何が凄いのアック。」

呆れた顔で俺を見て、アックスが口を開いた。

「サユは分かってねーな。
こりゃ本来何千万レベルの金叩かなきゃ
手に入んねーんだ。
なんせ、一流シェフの秋料理が食べ放題だぜ。
喉から手が出るほど欲しいに決まってんだろ。」

あれ、俺なんかやっちゃいました?
これ、ガチで凄い事じゃん。

「おーしお前ら! 今日の昼飯は……」

アックスはニヤリとし、腕を上げる。
陽光に照らされた参加券が風に揺れた。

「これに決まりだぁぁああああ!!!」



昼飯は秋の食欲・大食いイベントに決定した。
いざ覚悟を決め、
受付嬢に参加券を渡し会場へと入る。

当然、俺らは飛び入りの参加者。
辺りを見れば猛者チームがうろちょろしてる。

正にこの為だけに来たと言わんばかりの
巨漢や大柄な人々が沢山いる。
……場違い感が凄い。

声がかけられるのも、最早必然と言えよう。

「オイ……吸血鬼の小僧ォ。」
「何だよゴツイ兄さん。」

ほら言わんこっちゃない。
早速強そうな奴に声かけられてるよアックス。

「その美少女JK達は何だ?
冷やかしか、自慢か、チアガールか、選手か?
答えによっちゃ……分かるよな?」

頼む、変な解答すんなよアックス。

「俺らと同じチームだ。文句あっか。」

「貴様、ハーレムだけでは飽き足らず
麗しい乙女達を太らせに来るとはな。
男の風上にも置けぬ。
その心意気、後悔させてやる。」

「へっ、やってみろよ。」

馬鹿野郎ーっ! 
何でコイツはヘイト買う事しか言えねぇんだよ!

「あぁ、やってやる。
だが、羨ましいな小僧ォ。
麗しき乙女達を侍らせおって。」

その言葉を聞いたアックスは、
ぷるぷると震え出した。
何が面白いのか分からないが、嫌な予感がする。

心なしか、
込み上げる笑いを堪えてるようにも見える。
その答えは、すぐに出た。

「ぷっ……くはははっ! 
侍らす? そりゃねーぜ兄さん!
ただの友達だっつーの!!
そもそもコイツらをそーゆー目で見るとか無理!
っひひぃ……くぁーっはっはっ!!」

本当に笑ってやがった。
めちゃくちゃ大爆笑してやがる。

「――何っ!?」

「まずそこの雪女居るだろ?
サユって言うんだけどさぁ、
顔は良いけどジョーク通じねぇし
煽り耐性ゼロの大食い暴力女だぜ!
お前だったら1週間で50回病院行き……っひひ。」

よーし、後で思いっきりぶっ飛ばそう。

「……ぬっ。」

「んで、そこの狼っ娘はなぁ。
狩猟と運動大好きの脳筋女!
付き合ったら毎日が筋肉痛確定っ……っくく。」

「……ぬっ。」

「で、最後の駄眼鏡キューピット。
男なんか眼中にないし、
キューピットのクセに百合しか興味ねぇ
ヤベぇ奴なんだ……っくっひ。」

余程ボコられたいらしいな、アックス。
俺らの結束力なめんなよ。

「ねぇアック、ちょっと歯を食いしばってね♡」

「サユ……みんな。どうしたんだ?
俺は至極当たり前の事を――ぶぼべっ゛」

アックスの頭部に3つの凹みが出来た。
俺、ミミア、リンナ以来の3方向クレーターパンチ。
今回もクリティカルヒットである。

「ぼら゛見ろ゛兄貴。
ごれ゛でも゛ま゛だ侍ら゛ぜが!?」

顔面モザイク越しになんか言ってんな。
つか、その顔でどっから声出してんの。

「すまねぇ小僧ォ、俺は勘違いしていたようだ。
お前は好敵手だ。共に〈食の拳〉を交えよう。」
「……あぁ。」

即再生したアックスの顔は、
何事も無かったかのように、爽やかな笑みを向け。
好敵手の男と握手を始めた。

巨漢の男も穏やかな笑顔で応える。

成る程、アックスの目的は〈和解〉。
俺らという舞台装置を罵倒し踏み台にする。
そうする事で場の緊張感を和ませ、
険悪な空気を切り裂いたのだ。

最低な悪知恵であるのは変わらないが、
大目に見てやるか。

……と、ここでひと段落着いたから
試合が終わったワケじゃない。

始まるんだ。

「さぁーお客様ぁぁあんっ!!
お待たせしましたぁんっ!!
司会はこの私、クイクイが進行してきまぁんす!
では、説明の方から……」



「……うぷっ。もうご飯は結構ですアック。」
「リーダー、うっ。
大食いイベントなんて軽い気持ちで
行くもんじゃないですね。」

「僕、鼻が曲がりそうになったよ。」

「おいおいお前ら……うぷっ。
提案した俺が……うっ。悪ぃ。
2度と、うっ、やんねぇから。」

やはり、一般人が介入するべき
イベントでは無かった。
第1班はどのチームより早く脱落した。

女子高生3人に男子校生1人という
軟弱チーム如きが踏ん張った所で、
どう足掻いても大食いの
プロらに敵う筈がなかったんだ。

美味しいものは適度な量で食すに限る。

第1班は皆一様にその結論へ至った。

仲見世域での撮影も終わり、
次なる撮影地点へと歩み出す。



第3地点はかなり距離のある場所だった。
おかげで、
余分に溜まったカロリーが消費された。

第3撮影地点。
――〈芸術の秋・トリッカーパーク〉

食について懲り懲りな思いをした
俺ら第1班に追い討ちをかける外観だった。

食べれるかは分からないがお菓子のような
デザインを施した建造物ばっかりだ。
……勘弁してくれ、この都市は太らないと
いけない暗黙の了解でもあるのか。

と、引き返したい気持ちを
抑えながらも歩みを進める。

辺りを見てると、建造物以外の違和感に気付く。

――そう。周りの人々の服装が奇抜なのだ。
黒を基調色とし、赤、桃、金、
オレンジを意識したゴシック衣装。

はたまた、カボチャをイメージした服装。
包帯をメインにした服装まである。

これじゃまるで……

「ハロウィン?」

「ハロウィン? 何ですかソレ?」

俺が疑問を繋ぎ、イベント推理した所で
怪しい紳士に声をかけられる。

「誰だテメェ、
俺のサユに手出したら許さねぇぞ。」

不意の不審者登場であっけらかんとした
俺を庇うように、アックスが前へと出る。

なんか分からんが助かった……のか?

「ほう。
まさか本物の吸血鬼が現れるとは驚きですネ。」

謎の紳士はちょび髭を引き撫でし、不思議がる。
不思議がりたいのはこちらの方だというのに。

ハロウィン。
秋の収穫をお祝いし、先祖の霊を
お迎えするとともに悪霊を追い払うお祭りで、
日本でいえばお盆にあたる行事。

今や、仮装してお菓子を要求する
秋限定の謎イベント。
本来、地球にしかない文化なのだが
この区域ではイベントとして存在してる。

それなのに、あちらは〈ハロウィン〉を
知らないそうだ。
限りなく近いイベントであるのは間違いねぇが。

くそぉ……考えれば考える程謎が深まる。
そんな俺を置いて、アックスと謎紳士の話は続く。

「驚くこたぁねぇだろ。
さぁ、何故俺らの前に現れたか教えろ。」

「あなた方、仮装はしないんですか?」

あー、そういう流れになると思ったぜ。

「周りがしたいからしてんだろ。
俺らにゃ関係ねぇよ。」

「すいませんね。
この区域では仮装するのがルールです。
しないのなら、追い出すまででございます。」

穏やかな彼の目付きが、警告の眼差しに変わる。
その鋭さに、思わず一歩引いた。

「ったく、しゃーねーな。
追い出されちゃ
ミッションコンプリート出来ねー。
仮装してやるからとっとと案内しろ。」

「了解でございます。」

「っと、その前に。」
「何ですか、吸血鬼の来訪者様。」
「なぜここで
仮装が強いられてるのか聞いていいか?」

あー、俺もそれ丁度気になってた。

「一時的にいつもの自分と違う姿になる事で、
改めて自分を見直す。そのような意図が、
この区域にはあるんです。」

思ったよりまともな答えが返ってきた。

改めて自分を見直す……か。

俺は……私は。
一体どっちなんだろう。

俺は川越・佐雪なのか。
わたしはサユキ・オリバーティアなのか。
近い内に、決まるのかな?

かつての俺なら明確に言えたけど、今は…………

「どうしたんだサユ、
自分のおっぱいなんか見て。」
「あ、ううん。何でもない。
アック! 早く仮装しちゃいましょ!?」

「――だな!」



一旦、区域内にある仮装専用の各脱衣所で
着替える事になった。

仮装の衣装は全部無料で貸してくれる
そうなので、遠慮なく利用する。
ソノハやミミアとワイワイしながら決めてった。

そして、仮装した俺ら第1班のご対面。

「お、おぉ……サユ! それ吸血鬼か!?」
「せ、正解です。」

ハート型の尻尾、偽物の黒き翼。2本のツノ飾り。
黒を基調とし、薔薇に飾られたゴスロリ衣装。
ちょっと親切設計が過ぎたな。

一発で見破られちまった。

「いやぁー、吸血鬼TSっ娘って可愛いよな!
一度でいいから吸血鬼TSっ娘に吸血されてーぜ!」
「分かるぅー!」

「「いぇいっ♪」」

――パンっ!

俺とアックスは
共感の喜びをハイタッチで分かち合った。

「見ろ、俺は何か分かるか?」

この白い翼。頭のリング。あ、多分分かったぞ。

「……天使?」
「正解だぜ! 俺はサユの守護天使だ!!」
「あっそ。」

「じゃじゃんっ! 猫耳ソノハちゃんだぞぉ♪
きしゃぁああっ!!」
「ぼ、僕は天狗な、なり。バサバサぁっ!」

やべぇ、ソノハもミミアもおもしれー。

「おし! 全員揃ったし記念撮影すっぞ!
おい紳士っぽい奴、このカメラで俺らを撮れ!」

「……全く。
あなた方は面倒な来訪者ですね。
では行きますよ。はいっ、チーズ。」

――パシャっ!



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〈報告〉


俺は……私は。
一体どっちなんだろう。
かつての俺なら明確に言えたけど、今は…………

どうも、たかしクランベリーです。
泣いても笑っても次回は最終回。
報告冒頭の気になる言葉を心に抱え、
サユキちゃんは最後を迎えます。

バグみたいな投稿頻度にした理由は、
諸事情により、本日でこの作品を終わらす為です。

アックスや皆と過ごす中で、
本当の自分を見つけつつある彼? 彼女?
……が行き着く先はなんなのか。
胸がドキドキします。

ちなみに、
いつもより文字数マシマシでお送りします。

21:00時頃に公開ッ!!



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