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第二章
②
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その瞬間言いようのない不快感に襲われる。
小学生でもあるまいし仲間外れにされたなんて、そんな大人気ない感情を抱くはずはない。それなのに、気分的には非常にそれに近い感情だった。
どうして二人で飲みに来たんだ。二人で何の話があったのだと、詰め寄りたい気分にさせられる。圭の姿はもう見えなかった。なら、声をかける相手は一人しかいない。
史哉は平静を装って、彼女の後ろに近づいていく。
トンと肩を叩いてそのまま指を差しだした。
彼女が振り向いた表紙に史哉の人差し指が静香の柔らかい頬に突き刺さる。
大人びた風貌なのに、途端にむくれた表情になって史哉を睨んでくる表情が愛らしい。こんな子ども騙しに毎回騙されてくれる静香が可愛くて、いつもいつも同じ弄り方をしてしまうのだ。
「もう……っ、史哉っ!」
「悪い悪い」
悪いとも思っていないのに、口先だけで自分が謝るのもいつものことだ。
「今日は六時には帰ってたろ? こんな時間までどうした?」
圭と二人で飲んでいたことには触れずに聞いた。今日は圭も早く帰っていたが、静香と一緒に銀行を出てはいない。二人はバラバラに帰っていた。
(店で待ち合わせしたってことか……)
静香からの答えを待つが、彼女は多少酔っているのか足元が覚束ない。大丈夫かと細い身体を支えようとすると、静香の手が史哉の腕を掴んできた。
「……っ」
今までにない距離感に史哉の心臓がおかしな音を立てる。息が止まりそうになって、握った手のひらが汗ばんだ。
自分を仰ぎ見る静香の目が熱っぽく潤んでいて、誘われているような気がしてくる。彼女にそんなつもりはないだろう。それなのに、薄くリップの引かれた唇が艶めかしくて、酒のせいか赤らんだ頬が情事を思い起こさせる。
今までになく、静香を女として見ている自分に気づいた。それは自分の中で思いもよらない現象を引き起こした。
(なんだよ……これ……)
触りたい、という衝動だった。彼女を抱きしめたい。キスしたい。そんなはしたない欲望が頭をもたげる。静香は同期で友人だ。恋愛感情を彼女に抱いたことなど一度もない。それなのに、今史哉が抱いているのは間違いなく劣情で、性的な欲求だ。
うっとりと見上げてくる静香の視線は、史哉を誘うように揺れていた。瞬きするたびに、長いまつげがパサパサと動いて、半開きに開いた赤い唇から覗く舌が妙に官能的だった。
口の中に溜まった唾を飲み干すと、自分の中でやたらと大きな音が立つ。ゴクンと喉が上下に動き、それを静香に気づかれやしないかと必死だ。
そのまま「お疲れ」そう言って、いつも通り終わりだ。そうするはずだった。
けれど、静香の手のひらが史哉の腕を撫でるように動いた。本当は撫でていなかったかもしれない。史哉がそう感じただけかもしれない。けれど、たしかに誘われている、とそう感じた。
そしてそれは次の静香の言葉で間違いではなかったと証明されることになる。
「飲みに……行きたい。史哉と」
静香は赤い唇を舌で軽く舐めながらそう言った。ドクドクと鼓動がありえないほど速い音を奏でる。ダメだ、彼女は同期だ。そう思っていても、今日内密に告げられた話が頭を過ぎった。四月からは史哉は本店勤務になる。
万が一、静香と恋人関係になったとしても、同じ支店で働いているわけではないから、仕事に影響を及ぼすことは少ないだろう。と、そこまでの打算を働くくらいには史哉の頭はどこか冷静だったのだ。
静香の誘いがただ酒を飲みに誘っているわけではないことは、自分の経験上よくわかっていた。据え膳喰わぬのならなんとやらだ。史哉も男だ。そういう欲求はある。
それに、ここ最近は誰ともそういう関係を持っていなかった。おもな理由は仕事が忙しかったからだが、圭や静香たちと一緒に飲んでいる方がゆきずりの女と関係を持つよりも有意義な時間だったことも理由にはあった。
史哉がぐるぐるとそんなことを考えていると、静香の手のひらがますます上へと動いていく。胸元を撫でるようにそっと触れられて身体が近づいてきた。史哉の胸元にちょうどくる顔の位置。触れそうで触れない場所に彼女は立った。
(あ~くっそ……やりてぇ)
「ね……行かない?」
もう一度、喉を嚥下させる。この時には史哉の覚悟はほとんど決まっていた。
ただ、自分からホテルへと誘うのには躊躇した。頭のどこかでまだ彼女は同期だと言い聞かせる自分がいたのだろう。
史哉の逡巡を見て取ったかのように、静香が続けていった。
「泊まれるとこでも、いいよ」
喜びと失望がない交ぜになる。どうしてだろう。
静香から純粋な好意を向けられていると思っていたからか、慣れたように男を誘う仕草に、彼女も所詮は普通の女だったのかとやるせない気持ちになった。
「本気か……?」
「本気じゃなくていい」
ああ、やはり、彼女は遊びのつもりなのだ。
そう思ったら、途端に悔しくなった。
遊びならほかでやればいいものを。どうして手近な史哉に声をかけたのだろう。
静香は、儚げな印象のせいで目立ちはしないが、目鼻立ちの整った顔立ちをしている。同じ部署の同僚が可愛いと言っているのを聞いたこともあった。
控え目な態度から男には慣れていないのかと思っていた。隙もないようで、男性からの誘いはすべて断っていると聞いたから。
史哉の知らない一面があった。それだけのことだ。だが、遊びで史哉を誘ってくる彼女にどうしようもなく苛立つ。もしも、この場にいたのが史哉じゃなかったら、別の誰かに声をかけていたのかと。
(それじゃあ……遊びじゃなかったら……俺を好きだったらいいって言ってるみたいだな)
簡単に寝て、後腐れのない相手を探している。史哉は、そんな都合のいい男として選ばれたのだろうから。
「わかった」
史哉は彼女の手を取ると、駅近くから出ているタクシーに乗り込んだ。
数キロ離れた場所にあるビジネスホテルの名前を告げて、隣に座る静香を窺う。彼女はなにを考えているのか、史哉を見ようともしない。苦しそうに寄せられた眉、泣きだしそうに潤んだ瞳はいったいなにを意味しているのだろう。
タクシーの中では一言も話さないまま、目当のビジネスホテルへとタクシーが停まった。精算を済ませてタクシーを降りると、静香の手を引いてロビーを歩きだす。
部屋を取ってエレベーターで上がる間も互いに言葉はなかった。史哉もいつもとは違う空気になにを話していいかわからなくなる。
チェックインをして部屋に入っても、静香は史哉の目を見ようともしない。誘いをかけたのはそっちのくせに、慣れているんだかいないんだかわからない態度が史哉の心を沈ませた。
それなのに、ドアが閉まってすぐ、静香の腕を引いて抱きしめれば身体は自然と反応を示すのだから目も当てられない。
「シャワー入るか?」
小さく頷く静香の服に手をかけた。すると、慌てたように顔を上げて信じられないとでもいうように史哉を見つめてくる。慣れた女になど見えない。きっとそれも、彼女の計算だろうが。
「あ、じ、自分で……」
「俺が脱がせたいんだよ。つか、別々に入ってる時間が惜しい」
それほどに早く静香を抱きたくて仕方がないんだと告げたつもりだったのに、なぜか彼女は傷ついたように目を潤ませた。
「どうした? そんなに嫌か?」
「ち、違う」
「なら、入るぞ。こっち」
脱衣所に連れていき、静香の薄手のオフホワイトニットを脱がせると、史哉が思っていたよりもずっと豊満な胸元に思わず視線を動かしてしまう。これから静香に触れられるのだと思ったら我慢など利かなかった。
タイトスカートのファスナーを下ろすと、さすがに恥ずかしいのか静香が太ももを擦り合わせるようにして腕を前に組んだ。
「んなことしたって、これから全部見るのに」
静香の細い腰を引き寄せて、背中に回した手でブラジャーをホックを外し、史哉はわざと太ももを撫でるように動かしながらストッキングを脱がしていく。
「んっ」
彼女の口から無意識に甘い声が漏れる。自分でも意図していなかったのか、羞恥に頬を染めた静香は、目を潤ませながら史哉を仰ぎ見た。
「お前、感じやすいな」
足先からショーツごとストッキングを取り払い、堪らずに口づける。今までただの同期だとしか思ったことのなかった静香の素肌に興奮しているのか、己の下肢は驚くほどに昂りを見せていた。
「はぁっ……ん、ふっ」
太ももの裏側を撫であげると、重なった唇の隙間から艶めかしい声が漏れる。別に初めて聞くわけでもない女の喘ぎ声に、どういうわけかおかしいほどに身体が熱くなっていく。
「先に、入ってろよ」
そう告げた自分の声は妙に官能めいて掠れていた。静香が頷いたのを見届けてからジャケットを脱ぎ、Yシャツに手をかける。
下着の中で張り詰めんばかりに盛り上がった下肢に苦笑しつつ、シャワーの音が聞こえるバスルームを開けると、所在なさげに立っていた静香がチラリと視線を向けてきた。そして視線が興奮を見せる下肢に移ると、静香の頬はおもしろいほどにブワッと真っ赤に染まる。
「わかるだろ? 我慢できない……洗ってやるから触らせて」
「あ、で、でも……」
なにがでも、だ。誘ってきたのはそっちだ。
静香は史哉に抱かれたいと望んでいるし、史哉は抱きたいと望んでいる。歯切れの悪い静香の言葉は聞かないふりをして唇を塞いだ。
「んっ、ん……ふ」
「舌、出せよ」
本当は慣れていないのかわざとなのか。前者であることを望む自分がいる。
舌先で唇をノックしこじ開け口蓋を舐めると、ハクハクと苦しげに呼吸を繰り返しながら、静香は史哉の腕にしがみついてくる。
ふにゅりと柔らかい乳房が胸に押し当てられて、彼女のすべてを貪りたい欲求に駆られる。唇を甘噛みしながら尻を揉みしだくと、耐えられないとでもいうように静香の身体が震えた。
「はぁっ、はっ、んん」
クチュクチュと口腔を舌でかき混ぜながら、近くにあったボディーソープを手に取った。泡の滑りを借りて背中から尻に手を滑らせると、唇の隙間から漏れる声がいっそう甘く浴室内に響いた。
静香の白い肌はなめらかで触り心地がいい。追い立てられるように乳房を揉みしだき、徐々に尖り始める乳首の上に手のひらを滑らせる。
指の腹で転がして捏ねまわす。白い肌は身体の火照りであっという間に桃色に染まっていった。
「お前、可愛いな」
もっと早くからこうしていればよかった、なんて思うほどに静香の身体に溺れる予感があった。
静香が今、史哉と恋人関係になることを望んでいないとしても、この手に落ちてくるのを待っていればいい。史哉にはそうできる自信があったし、今までそうできなかったこともなかった。
「か……可愛くなんて」
クニクニと押しつぶすように乳頭を捏ねると、静香は浴室の壁にもたれながら両足を擦り合わせていた。
「こっちも洗ってやるよ」
小学生でもあるまいし仲間外れにされたなんて、そんな大人気ない感情を抱くはずはない。それなのに、気分的には非常にそれに近い感情だった。
どうして二人で飲みに来たんだ。二人で何の話があったのだと、詰め寄りたい気分にさせられる。圭の姿はもう見えなかった。なら、声をかける相手は一人しかいない。
史哉は平静を装って、彼女の後ろに近づいていく。
トンと肩を叩いてそのまま指を差しだした。
彼女が振り向いた表紙に史哉の人差し指が静香の柔らかい頬に突き刺さる。
大人びた風貌なのに、途端にむくれた表情になって史哉を睨んでくる表情が愛らしい。こんな子ども騙しに毎回騙されてくれる静香が可愛くて、いつもいつも同じ弄り方をしてしまうのだ。
「もう……っ、史哉っ!」
「悪い悪い」
悪いとも思っていないのに、口先だけで自分が謝るのもいつものことだ。
「今日は六時には帰ってたろ? こんな時間までどうした?」
圭と二人で飲んでいたことには触れずに聞いた。今日は圭も早く帰っていたが、静香と一緒に銀行を出てはいない。二人はバラバラに帰っていた。
(店で待ち合わせしたってことか……)
静香からの答えを待つが、彼女は多少酔っているのか足元が覚束ない。大丈夫かと細い身体を支えようとすると、静香の手が史哉の腕を掴んできた。
「……っ」
今までにない距離感に史哉の心臓がおかしな音を立てる。息が止まりそうになって、握った手のひらが汗ばんだ。
自分を仰ぎ見る静香の目が熱っぽく潤んでいて、誘われているような気がしてくる。彼女にそんなつもりはないだろう。それなのに、薄くリップの引かれた唇が艶めかしくて、酒のせいか赤らんだ頬が情事を思い起こさせる。
今までになく、静香を女として見ている自分に気づいた。それは自分の中で思いもよらない現象を引き起こした。
(なんだよ……これ……)
触りたい、という衝動だった。彼女を抱きしめたい。キスしたい。そんなはしたない欲望が頭をもたげる。静香は同期で友人だ。恋愛感情を彼女に抱いたことなど一度もない。それなのに、今史哉が抱いているのは間違いなく劣情で、性的な欲求だ。
うっとりと見上げてくる静香の視線は、史哉を誘うように揺れていた。瞬きするたびに、長いまつげがパサパサと動いて、半開きに開いた赤い唇から覗く舌が妙に官能的だった。
口の中に溜まった唾を飲み干すと、自分の中でやたらと大きな音が立つ。ゴクンと喉が上下に動き、それを静香に気づかれやしないかと必死だ。
そのまま「お疲れ」そう言って、いつも通り終わりだ。そうするはずだった。
けれど、静香の手のひらが史哉の腕を撫でるように動いた。本当は撫でていなかったかもしれない。史哉がそう感じただけかもしれない。けれど、たしかに誘われている、とそう感じた。
そしてそれは次の静香の言葉で間違いではなかったと証明されることになる。
「飲みに……行きたい。史哉と」
静香は赤い唇を舌で軽く舐めながらそう言った。ドクドクと鼓動がありえないほど速い音を奏でる。ダメだ、彼女は同期だ。そう思っていても、今日内密に告げられた話が頭を過ぎった。四月からは史哉は本店勤務になる。
万が一、静香と恋人関係になったとしても、同じ支店で働いているわけではないから、仕事に影響を及ぼすことは少ないだろう。と、そこまでの打算を働くくらいには史哉の頭はどこか冷静だったのだ。
静香の誘いがただ酒を飲みに誘っているわけではないことは、自分の経験上よくわかっていた。据え膳喰わぬのならなんとやらだ。史哉も男だ。そういう欲求はある。
それに、ここ最近は誰ともそういう関係を持っていなかった。おもな理由は仕事が忙しかったからだが、圭や静香たちと一緒に飲んでいる方がゆきずりの女と関係を持つよりも有意義な時間だったことも理由にはあった。
史哉がぐるぐるとそんなことを考えていると、静香の手のひらがますます上へと動いていく。胸元を撫でるようにそっと触れられて身体が近づいてきた。史哉の胸元にちょうどくる顔の位置。触れそうで触れない場所に彼女は立った。
(あ~くっそ……やりてぇ)
「ね……行かない?」
もう一度、喉を嚥下させる。この時には史哉の覚悟はほとんど決まっていた。
ただ、自分からホテルへと誘うのには躊躇した。頭のどこかでまだ彼女は同期だと言い聞かせる自分がいたのだろう。
史哉の逡巡を見て取ったかのように、静香が続けていった。
「泊まれるとこでも、いいよ」
喜びと失望がない交ぜになる。どうしてだろう。
静香から純粋な好意を向けられていると思っていたからか、慣れたように男を誘う仕草に、彼女も所詮は普通の女だったのかとやるせない気持ちになった。
「本気か……?」
「本気じゃなくていい」
ああ、やはり、彼女は遊びのつもりなのだ。
そう思ったら、途端に悔しくなった。
遊びならほかでやればいいものを。どうして手近な史哉に声をかけたのだろう。
静香は、儚げな印象のせいで目立ちはしないが、目鼻立ちの整った顔立ちをしている。同じ部署の同僚が可愛いと言っているのを聞いたこともあった。
控え目な態度から男には慣れていないのかと思っていた。隙もないようで、男性からの誘いはすべて断っていると聞いたから。
史哉の知らない一面があった。それだけのことだ。だが、遊びで史哉を誘ってくる彼女にどうしようもなく苛立つ。もしも、この場にいたのが史哉じゃなかったら、別の誰かに声をかけていたのかと。
(それじゃあ……遊びじゃなかったら……俺を好きだったらいいって言ってるみたいだな)
簡単に寝て、後腐れのない相手を探している。史哉は、そんな都合のいい男として選ばれたのだろうから。
「わかった」
史哉は彼女の手を取ると、駅近くから出ているタクシーに乗り込んだ。
数キロ離れた場所にあるビジネスホテルの名前を告げて、隣に座る静香を窺う。彼女はなにを考えているのか、史哉を見ようともしない。苦しそうに寄せられた眉、泣きだしそうに潤んだ瞳はいったいなにを意味しているのだろう。
タクシーの中では一言も話さないまま、目当のビジネスホテルへとタクシーが停まった。精算を済ませてタクシーを降りると、静香の手を引いてロビーを歩きだす。
部屋を取ってエレベーターで上がる間も互いに言葉はなかった。史哉もいつもとは違う空気になにを話していいかわからなくなる。
チェックインをして部屋に入っても、静香は史哉の目を見ようともしない。誘いをかけたのはそっちのくせに、慣れているんだかいないんだかわからない態度が史哉の心を沈ませた。
それなのに、ドアが閉まってすぐ、静香の腕を引いて抱きしめれば身体は自然と反応を示すのだから目も当てられない。
「シャワー入るか?」
小さく頷く静香の服に手をかけた。すると、慌てたように顔を上げて信じられないとでもいうように史哉を見つめてくる。慣れた女になど見えない。きっとそれも、彼女の計算だろうが。
「あ、じ、自分で……」
「俺が脱がせたいんだよ。つか、別々に入ってる時間が惜しい」
それほどに早く静香を抱きたくて仕方がないんだと告げたつもりだったのに、なぜか彼女は傷ついたように目を潤ませた。
「どうした? そんなに嫌か?」
「ち、違う」
「なら、入るぞ。こっち」
脱衣所に連れていき、静香の薄手のオフホワイトニットを脱がせると、史哉が思っていたよりもずっと豊満な胸元に思わず視線を動かしてしまう。これから静香に触れられるのだと思ったら我慢など利かなかった。
タイトスカートのファスナーを下ろすと、さすがに恥ずかしいのか静香が太ももを擦り合わせるようにして腕を前に組んだ。
「んなことしたって、これから全部見るのに」
静香の細い腰を引き寄せて、背中に回した手でブラジャーをホックを外し、史哉はわざと太ももを撫でるように動かしながらストッキングを脱がしていく。
「んっ」
彼女の口から無意識に甘い声が漏れる。自分でも意図していなかったのか、羞恥に頬を染めた静香は、目を潤ませながら史哉を仰ぎ見た。
「お前、感じやすいな」
足先からショーツごとストッキングを取り払い、堪らずに口づける。今までただの同期だとしか思ったことのなかった静香の素肌に興奮しているのか、己の下肢は驚くほどに昂りを見せていた。
「はぁっ……ん、ふっ」
太ももの裏側を撫であげると、重なった唇の隙間から艶めかしい声が漏れる。別に初めて聞くわけでもない女の喘ぎ声に、どういうわけかおかしいほどに身体が熱くなっていく。
「先に、入ってろよ」
そう告げた自分の声は妙に官能めいて掠れていた。静香が頷いたのを見届けてからジャケットを脱ぎ、Yシャツに手をかける。
下着の中で張り詰めんばかりに盛り上がった下肢に苦笑しつつ、シャワーの音が聞こえるバスルームを開けると、所在なさげに立っていた静香がチラリと視線を向けてきた。そして視線が興奮を見せる下肢に移ると、静香の頬はおもしろいほどにブワッと真っ赤に染まる。
「わかるだろ? 我慢できない……洗ってやるから触らせて」
「あ、で、でも……」
なにがでも、だ。誘ってきたのはそっちだ。
静香は史哉に抱かれたいと望んでいるし、史哉は抱きたいと望んでいる。歯切れの悪い静香の言葉は聞かないふりをして唇を塞いだ。
「んっ、ん……ふ」
「舌、出せよ」
本当は慣れていないのかわざとなのか。前者であることを望む自分がいる。
舌先で唇をノックしこじ開け口蓋を舐めると、ハクハクと苦しげに呼吸を繰り返しながら、静香は史哉の腕にしがみついてくる。
ふにゅりと柔らかい乳房が胸に押し当てられて、彼女のすべてを貪りたい欲求に駆られる。唇を甘噛みしながら尻を揉みしだくと、耐えられないとでもいうように静香の身体が震えた。
「はぁっ、はっ、んん」
クチュクチュと口腔を舌でかき混ぜながら、近くにあったボディーソープを手に取った。泡の滑りを借りて背中から尻に手を滑らせると、唇の隙間から漏れる声がいっそう甘く浴室内に響いた。
静香の白い肌はなめらかで触り心地がいい。追い立てられるように乳房を揉みしだき、徐々に尖り始める乳首の上に手のひらを滑らせる。
指の腹で転がして捏ねまわす。白い肌は身体の火照りであっという間に桃色に染まっていった。
「お前、可愛いな」
もっと早くからこうしていればよかった、なんて思うほどに静香の身体に溺れる予感があった。
静香が今、史哉と恋人関係になることを望んでいないとしても、この手に落ちてくるのを待っていればいい。史哉にはそうできる自信があったし、今までそうできなかったこともなかった。
「か……可愛くなんて」
クニクニと押しつぶすように乳頭を捏ねると、静香は浴室の壁にもたれながら両足を擦り合わせていた。
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