軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第二十七章 カリブ海海戦

小康状態

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「今から何をやっても遅いだろう。陣形はこのまま維持する」
「……」

 軍艦の速度で精一杯動いたとて、クロンシュタットを援護できるよう陣形を転換するのは難しい。そんな急な動きをすれば僚艦同士で衝突事故が起こるかもしれないし、衝突事故で死者を出したりしたら本末転倒にも程がある。色々な利益不利益を加味した結果として、ゴルシコフ大将はクロンシュタットを放置すると決めたのであった。

「敵機、再び超低空飛行から雷撃を行う模様です」
「耐えてくれるといいのだが……」

 CA海軍からの雷撃が、再びクロンシュタットの右舷を貫く。クロンシュタットは大きく傾き、反対側に注水するも間に合わず、傾斜を回復できない。しかし、数度傾斜した状態で何とか均衡状態を維持することができたようである。

「よ、よかった……。助かった……」

 ソユーズはまるで自分事のように安堵の溜息を吐いた。

「クロンシュタットより入電。我、機関停止。戦闘継続は不可能とのこと」
「やはりか。ちょうど近くに陸地がある。クロンシュタットはジャマイカに退避するように」
「ジャマイカは敵地だと思うのですが……」

 ソユーズは尋ねる。ジャマイカはイギリス女王を君主に戴くイギリスの同君連合である。政府はイギリスと独立している人的同君連合であるが、イギリス側に立っていることは間違いない。つまりは敵である。

「瀕死の軍艦に追い討ちしたりはしないだろう。最悪の場合は拿捕されても、仕方がない。君も名誉を守る為の自沈などは嫌だろう?」

 敵地に救援を求めるなど軍艦として恥ずべき行為。本来なら敵に機密が漏出しないよう潔く自沈するべきである。だがゴルシコフ大将は、船魄が死ぬことを嫌い、或いは他の船魄達の士気に配慮し、クロンシュタットを敵地に退避させよと命令したのである。

 ソユーズは立場上「敵に連邦の機密を漏らすくらいなら自沈させよ」と主張することしかできなかった。もちろん本心では、船魄の命の方が優先と思っているが。

「同志ゴルシコフのご命令であれば、やむを得ません。従います」
「それでいい」
「しかし、同志ゴルシコフの身が危ないのでは……?」

 自沈できる機会が十分にあったにも拘わらず軍艦を鹵獲されるというのは、最悪の場合処刑されてもおかしくない大罪である。

「何、私の代わりなど幾らでもいるんだ。問題はない」
「同志ゴルシコフ自身は、それでよろしいのですか?」
「私がやりたいことは概ねやりきった。クビになっても大丈夫だ」
「はぁ……」

 ゴルシコフ大将はソ連海軍の近代化、特に空母の導入に積極的に関与してきた。空母の数は未だ全く足りていないが、既に種は蒔いている。いずれソ連海軍は大日本帝国海軍にも伍する海軍に成長することだろう。そういう訳で大将は、自身の進退にそれほど興味がないのである。

「そういう訳だ。私のことは気にするな」
「は、はい」
「大将閣下! 敵が撤退するようです!」
「取り敢えずは一隻を行動不能にして我々の出方を窺おうということか」

 CA海軍はこの攻撃でソ連に手を引いて欲しかった訳だが、果たしてゴルシコフ大将はどう判断するだろうか。

 ○

 一九五七年九月三日、フロリダ海峡、月虹の海上要塞付近。

 月虹にエンタープライズを加えた世界最強の空母機動部隊は、フロリダ海峡に鎮座していた。エンタープライズは瑞鶴と一緒にいられないとUSAに裏切るとケネディ大将を脅し、ここにいる。

 月虹の船魄達は海上要塞内の大部屋に集まり、作戦会議を開いていた。エンタープライズもお邪魔している。

「瑞鶴、偵察が終わりましたよ。ソ連海軍はこのまま前進し続けるようです」
「あ、そう。ありがとう」

 エンタープライズは艦載機の数だけは多いので、瑞鶴から偵察を任されていた。

「ソ連海軍はなかなか強気みたいだけど、どうしようかしら」
「ふん。ロシア人共が調子に乗りおって」

 ソ連海軍を撤退させることに失敗したので、月虹の第一段作戦は失敗したのである。ツェッペリンはソ連相手に負けて、極めて不機嫌になっていた。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが」
「……そうだ、今度はもっと大物を狙えばよいのではないか?」
「ソビエツキー・ソユーズを大破させられるの?」
「それは……まあ断言はできぬが」

 あくまで巡洋艦に分類されるクロンシュタットだからこそ轟沈寸前の損害を与えることに成功したが、戦艦相手にそこまで上手くいくとは思えない。ハワイ級はもちろん、ソビエツキー・ソユーズ級を行動不能にすることも非常に困難であろう。

「では、もっと弱い艦を沢山殺せばいいのではありませんか?」

 エンタープライズは提案した。クロンシュタットよりもっと小柄な巡洋艦や駆逐艦を撃沈すればいいという提案である。

「確かに合理的かもしれないけどねえ」

 瑞鶴は呆れたように言う。

 確かに、面子を非常に気にするソ連であれば、艦種を問わず何隻か艦を失ったというだけで手を引くかもしれない。特にこの戦争は、内戦中の国の片割れという、ソ連から見れば遥かに格下の勢力が相手だ。それを相手に軍艦を失うのはソ連の威信に関わるだろう。
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