174 / 221
蠱惑の魔剣
未踏破領域
しおりを挟む
テントでうなされているノルドの汗に濡れた顔と、苦しげにうめく声を聞いて、ヴァルとサラは慌てた。彼女らはすぐに彼を叩き起こした。
ノルドは、ゆっくりと目を覚ますと、あたりを見回す。
喉は乾き、胸の奥にざわめきだけが残っていた。
「ああ、ヴァル、サラおはよう。準備していくよ!」
声は思ったよりも明るく出た。
タオルで顔と体を拭い、悪夢を思い出す。あれは、ラゼルの過去。
テントを出ると、全員、既にテントを片付けて、ノルドを待っていた。
「遅いぞ、荷運び」ラゼルは不愉快な顔で、睨みつけてきた。
祭壇はネフェルが清掃を終えて、灯りは消え、彼女の光魔法で部屋は照らされていた。軽食と水を取り出して配り簡単に朝食を済ませてもらう。
「お待たせしました。行きましょう」
ノルドは、部屋を見回してから、重い扉を開けて、再び、ダンジョンに出る。
ビュアンの気配はずっと無くて心配だが、今の彼には何もできない。待つしか無い。名を呼びかけたい衝動を噛み殺し、足を踏み入れる。
まだ、採掘されていない鉱石が含まれている壁が、近くには溢れていた。
ロッカたちは、手早く作業に取り掛かった。
道具が石を削る甲高い音が、規則正しく響く。
ラゼルは、少し元気がないように見えるが、昨日と同じようにぼっと採掘の状況とダンジョンの先を眺めている。
その横顔に、眠りの浅さの影が差していた。
「ねえ、大丈夫なの? 体調悪いの?」
フィオナが心配げに近寄ってきた。
「はい、寝坊してしまいました」ノルドは、見た夢のことは口に出せなかった。
「そう、私もゆっくり休むことができたわ」
そういうと、担当する見張りの場所に戻って行った。
去り際、ちらりと“無理しないで”という視線だけを残す。
大量に掘り出される鉱石を分別しながら、ノルドはふと気がついた。
袋に詰める手が止まり、耳が静けさを拾う。
※
「あれ? ヴァルとサラがいない……」
「奥の方に駆けて行ったよ。ノルドの指示じゃないの?」
「もう、何をやってるんだよ」
近くの壁で遊んでいると思ったのだが。奴らの五感に、魔物が引っ掛からなかったのだろう。飽きて探検に出かけてしまった。
「お疲れ様でした、大量ですよ。報酬期待していて下さい」
しばらくして、昼の休憩をとらせ、弁当を配った。
「ああ、そうだな。楽しみだ」
「これで、もう帰れるくらい目標資金も貯まったかもね」
ロッカたちは、喜んでいる。採掘担当とは言え、今の彼らの実力から言えば、次の階層で限界だ。
弁当の匂いを嗅ぎつけて、ヴァルたちが帰ってきた。
「お腹減ったぁ、疲れたぁ」
「ワオーン!」
元気で怪我をしている様子は無いが、着ているコートはかなり汚れと傷が付いている。
弁当と干し肉を差し出し、新しいコートを着替えさせる。
「勝手に持ち場を離れちゃダメじゃ無い!」
フィオナの小言を無視しているサラに、フィオナは拳骨を落とした。
「だってえ、魔物いないもん」
「いつ、魔物が近くに来るかわからないでしょ」
「そしたら、すぐに戻ってくるもん」
呆れるフィオナ。そのやりとりは、我儘な妹と姉のようだ。
「それで何があったんだい?」
未踏破領域であるダンジョンの奥。
「うん。何とね、坂道があった。それと蝙蝠の巣。でも、途中で帰ってきた」
整然と階層が並ぶこのダンジョンは、ほぼ平面で高低差が無いのが、特色だ。階層間を繋ぐのは、階段のみのはず。
常識から外れた“坂”は、異変の印だ。
「それは気になるな、採掘はこの辺でそこに向かおう」
ラゼルに会話を聞かれていたらしい。まずいことになった。
「それは……」
「荷運び、お前が反対をする時は、進んだ方が良い結果になる」
「さすがラゼル王子、行こう行こう!」
いや、もしヴァルとサラで問題無く突破てきるのなら、途中で帰ってくるようなことはしない。サラは何かを隠して楽しんでいる。
もはや、ただの従順な奴隷の犬人族ではない。
ノルドは、無意識に、サラの大人になった背中を見ていた。
ラゼルは、一言、「進むぞ、サラ、案内しろ!」と言って立ち上がった。
迷路のように、入り組んだ狭道を迷いもせず進んでいく。ノルドは、手帳を取り出して地図を書く。このダンジョンで狭道が珍しく彼は警戒レベルを引き上げる。
荷運び人のスキルに、マッピングがあるが、彼は取得していない。それよりも、優先するスキルがあったからだ。
代わりに、彼は紙と鉛筆で世界を縫い留める。
角を曲がると、広いなだからな坂道の頂上に出た。
坂道には、ヴァルたちが、倒したであろう蝙蝠、スコーチバットの大量の死体が転がっている。
そして、坂の下には、死体を喰う獣のアンデッド、コープスハイエナの大群がこちらを睨んでいる。
牙の隙間から泡立つ涎。骨がこすれる乾いた音。
「こら、サラ、ヴァル。お前たちの目的はあいつらか?」
ノルドは、深く溜息をついた。自分たちだけでは苦戦するのがわかったサラたちは、仲間を呼びにいくという感覚なのだろう。
「シルヴィアさんとリーヴァさんは後方で投石を。フィオナさんは僕の出す罠を一緒に投げて下さい。ロッカさん、ダミアーノさんは、守りをお願いします」
残りのメンバーには、自由に動いてもらう方が良いだろう。
「ええ、 ノルド。私が罠を投げるの?」
フィオナは嫌そうな顔をした。いつものように姿をくらませて、安全圏から攻撃をするつもりだったようだ。
「すいませんが、適任者があなたしかいないのです」
「……まあ、そうね。か弱いつもりなんだけど」
きっと、サラの方が得意なのだろうが、彼女に直接攻撃に参加してもらった方が良い。そして、冒険者としての、その次に力があるのは、ラゼルでは無くて、フィオナだからだ。ロッカたちとは、レベル違う。
ノルドは収納魔法で投網型の罠を取り出した。
網はずっしり重く、端についている錘が手にひんやりと心地よい。
コープスハイエナが、ボスを先頭に坂を登って、戦いが始まった。
ノルドは、ゆっくりと目を覚ますと、あたりを見回す。
喉は乾き、胸の奥にざわめきだけが残っていた。
「ああ、ヴァル、サラおはよう。準備していくよ!」
声は思ったよりも明るく出た。
タオルで顔と体を拭い、悪夢を思い出す。あれは、ラゼルの過去。
テントを出ると、全員、既にテントを片付けて、ノルドを待っていた。
「遅いぞ、荷運び」ラゼルは不愉快な顔で、睨みつけてきた。
祭壇はネフェルが清掃を終えて、灯りは消え、彼女の光魔法で部屋は照らされていた。軽食と水を取り出して配り簡単に朝食を済ませてもらう。
「お待たせしました。行きましょう」
ノルドは、部屋を見回してから、重い扉を開けて、再び、ダンジョンに出る。
ビュアンの気配はずっと無くて心配だが、今の彼には何もできない。待つしか無い。名を呼びかけたい衝動を噛み殺し、足を踏み入れる。
まだ、採掘されていない鉱石が含まれている壁が、近くには溢れていた。
ロッカたちは、手早く作業に取り掛かった。
道具が石を削る甲高い音が、規則正しく響く。
ラゼルは、少し元気がないように見えるが、昨日と同じようにぼっと採掘の状況とダンジョンの先を眺めている。
その横顔に、眠りの浅さの影が差していた。
「ねえ、大丈夫なの? 体調悪いの?」
フィオナが心配げに近寄ってきた。
「はい、寝坊してしまいました」ノルドは、見た夢のことは口に出せなかった。
「そう、私もゆっくり休むことができたわ」
そういうと、担当する見張りの場所に戻って行った。
去り際、ちらりと“無理しないで”という視線だけを残す。
大量に掘り出される鉱石を分別しながら、ノルドはふと気がついた。
袋に詰める手が止まり、耳が静けさを拾う。
※
「あれ? ヴァルとサラがいない……」
「奥の方に駆けて行ったよ。ノルドの指示じゃないの?」
「もう、何をやってるんだよ」
近くの壁で遊んでいると思ったのだが。奴らの五感に、魔物が引っ掛からなかったのだろう。飽きて探検に出かけてしまった。
「お疲れ様でした、大量ですよ。報酬期待していて下さい」
しばらくして、昼の休憩をとらせ、弁当を配った。
「ああ、そうだな。楽しみだ」
「これで、もう帰れるくらい目標資金も貯まったかもね」
ロッカたちは、喜んでいる。採掘担当とは言え、今の彼らの実力から言えば、次の階層で限界だ。
弁当の匂いを嗅ぎつけて、ヴァルたちが帰ってきた。
「お腹減ったぁ、疲れたぁ」
「ワオーン!」
元気で怪我をしている様子は無いが、着ているコートはかなり汚れと傷が付いている。
弁当と干し肉を差し出し、新しいコートを着替えさせる。
「勝手に持ち場を離れちゃダメじゃ無い!」
フィオナの小言を無視しているサラに、フィオナは拳骨を落とした。
「だってえ、魔物いないもん」
「いつ、魔物が近くに来るかわからないでしょ」
「そしたら、すぐに戻ってくるもん」
呆れるフィオナ。そのやりとりは、我儘な妹と姉のようだ。
「それで何があったんだい?」
未踏破領域であるダンジョンの奥。
「うん。何とね、坂道があった。それと蝙蝠の巣。でも、途中で帰ってきた」
整然と階層が並ぶこのダンジョンは、ほぼ平面で高低差が無いのが、特色だ。階層間を繋ぐのは、階段のみのはず。
常識から外れた“坂”は、異変の印だ。
「それは気になるな、採掘はこの辺でそこに向かおう」
ラゼルに会話を聞かれていたらしい。まずいことになった。
「それは……」
「荷運び、お前が反対をする時は、進んだ方が良い結果になる」
「さすがラゼル王子、行こう行こう!」
いや、もしヴァルとサラで問題無く突破てきるのなら、途中で帰ってくるようなことはしない。サラは何かを隠して楽しんでいる。
もはや、ただの従順な奴隷の犬人族ではない。
ノルドは、無意識に、サラの大人になった背中を見ていた。
ラゼルは、一言、「進むぞ、サラ、案内しろ!」と言って立ち上がった。
迷路のように、入り組んだ狭道を迷いもせず進んでいく。ノルドは、手帳を取り出して地図を書く。このダンジョンで狭道が珍しく彼は警戒レベルを引き上げる。
荷運び人のスキルに、マッピングがあるが、彼は取得していない。それよりも、優先するスキルがあったからだ。
代わりに、彼は紙と鉛筆で世界を縫い留める。
角を曲がると、広いなだからな坂道の頂上に出た。
坂道には、ヴァルたちが、倒したであろう蝙蝠、スコーチバットの大量の死体が転がっている。
そして、坂の下には、死体を喰う獣のアンデッド、コープスハイエナの大群がこちらを睨んでいる。
牙の隙間から泡立つ涎。骨がこすれる乾いた音。
「こら、サラ、ヴァル。お前たちの目的はあいつらか?」
ノルドは、深く溜息をついた。自分たちだけでは苦戦するのがわかったサラたちは、仲間を呼びにいくという感覚なのだろう。
「シルヴィアさんとリーヴァさんは後方で投石を。フィオナさんは僕の出す罠を一緒に投げて下さい。ロッカさん、ダミアーノさんは、守りをお願いします」
残りのメンバーには、自由に動いてもらう方が良いだろう。
「ええ、 ノルド。私が罠を投げるの?」
フィオナは嫌そうな顔をした。いつものように姿をくらませて、安全圏から攻撃をするつもりだったようだ。
「すいませんが、適任者があなたしかいないのです」
「……まあ、そうね。か弱いつもりなんだけど」
きっと、サラの方が得意なのだろうが、彼女に直接攻撃に参加してもらった方が良い。そして、冒険者としての、その次に力があるのは、ラゼルでは無くて、フィオナだからだ。ロッカたちとは、レベル違う。
ノルドは収納魔法で投網型の罠を取り出した。
網はずっしり重く、端についている錘が手にひんやりと心地よい。
コープスハイエナが、ボスを先頭に坂を登って、戦いが始まった。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる