完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
52 / 221
外伝

リコと秘密基地

しおりを挟む

 
 リコが目指しているのは、オルヴァ村の外れにある古ぼけた家だ。

 外観は古びているが、家の中は手入れが行き届いている。誰も住んでいないこの家は、今はリコが留守を預かっている。

 セラ親子の家だ。

 ノルドはシシルナ島の中央にあるダンジョンの町に引っ越してしまった。冒険者稼業を優先するためだ。

「リコ、家の管理をお願い! 休みには帰るから」
 
 時間があると、リコはこの家に足を運び、簡単な掃除を済ませると裏の魔物の森へ出かける。

 家には落とし穴や罠が仕掛けられていて、簡単には入れない。家の中にも罠があり、ノルドらしい工夫が至るところに見られる。

「ノルドらしいなぁ」と思いながら、リコはひょいひょいと罠を回避し、家の前に到着した。

 ノルドから預かった鍵を使って扉を開ける。無理に開けようとすれば、大怪我は避けられないだろう。

「異常なし!」

 リコはメイド服を脱ぎ、セラが作ってくれた冒険者の服に着替える。気持ちが引き締まるのを感じた。

 次にノルドの薬が詰まったポシェットを探し出し、襷掛けにする。薬はノルドが帰るたびに補充してくれている。

「さっすが、ノルド。今日も頑張って行こう!」

 裏庭の小屋に向かい、必要な道具を袋に入れて背負うと、魔物の森へ足を踏み入れる。仕掛けた罠を一つずつ確認していく。

「あちゃー、また逃げられてるよ~」

 なかなかノルドのように魔兎をうまく捕まえられない。それでも、いくつかの罠には数匹の魔兎がかかっている。

 習った通り、川に行き魔兎を綺麗に捌く。

「へへん。ノシロにお高く買い取ってもらいましょう」

 そう言いながら、魔兎をノルド特製の保管箱に入れた。

「さて、次は経験値稼ぎの時間ですな~」

 リコは持ち前の素早さを活かし、目につく魔物を次々と倒していく。最初は毒蛇や蝙蝠などに噛まれて失敗ばかりだった。心配性のノルドはリコの為に山ほど薬を準備した。

 それがさっきのポシェットだ。セラが作ってくれた服は、動きやすくて頑丈だったが、さらに改良してくれて、両腕にアームガードが追加された。ノルドの心配性は、セラ譲りかも知れない。

「お前さんの動きは、わかってますよ~」

 ナイフを手に、敵の死角から静かに近づくと、素早く仕留めた。春になり、魔物も活発に動き出す季節となったので、気を抜く暇もない。

 しかし、それがリコにとっては心地よい刺激となっていた。

「あー、疲れた。休憩ターイム」

 森の中にある、湖に面した小屋につくと、ひと休憩だ。ノルドの第二作業小屋である。ここも、ノルドから預かった鍵で開ける。

「異常なし!」

 リコは安心し、お湯を沸かし、紅茶に蜂蜜を入れてゆっくり飲む。少し落ち着いたところで、「あ、忘れてた……」と蜂蜜を見て思い出した。冒険を切り上げ、ノルドの裏庭にある蜂の巣箱を目指した。

 作業小屋で、養蜂用の服装に着替える。

「お世話、お世話と」春になるので、蜂の活動が活発になっている。巣箱を綺麗にしないと、美味しい蜂蜜にならないもんね。

 川の対岸に咲き始めた花畑と巣箱を行き交う蜂達の姿を見守りながら、リコは作業を進める。

「よしよし!」あと数日で帰ってくるノルドに、きっと褒められるだろうと心の中で頷く。作業を終えると、日も傾いて夕方になっていた。

 鍵をかけて、メイド服に着替え、早足で町に向かう。

 ※

「ノシロさーん! 魔兎ですよ!」

 目的地のノシロの雑貨店に到着すると、赤ちゃんのニコラを抱いたリジェがにこやかに出迎えてくれる。しかし、店内には大きな泣き声が響き渡る。

「おおっと、すみませんね~」リコの声に反応したみたいだ。

 リジェは慌ててニコラをあやそうとするが、泣き声はなかなか収まらず、彼女の顔には少し焦りの色が見える。ニコラは元気に泣きながらも、リジェの胸に顔を埋めている。

「ほら、こうやって……」

 リコはニコラを軽く抱き上げ、穏やかな声でゆっくり揺らしながら言う。「ん~、大丈夫だよ、泣かないで~」

 すると、ニコラはぴたりと泣き止んだ。

「おお、流石ですね、リコ」

 リジェは感心した様子で笑いながら、ほっとした表情を浮かべる。

「それにしても、随分と店舗が広くなった! 食べ物以外も色々ある!」

 リコは店内を見渡しながら言う。

 リジェは微笑んで頷く。「取り扱い品を増やしたのよ。ノシロが『ニコラにちゃんと食べさせないとね』って。でも、従業員も増やしたから……」

 リコはその言葉を聞いて、少し考え込む。

『きっと、働き口がない子供を頼まれて雇ったんだろうね。商売下手なノシロらしい』

 リジェはその表情を見て、苦笑しながら頷いた。

 リコは魔兎を売りつけ、お菓子を買って帰る。

「まいど!」

 ノルドの能天気な声を背後に聞きながら、孤児院への道を歩き出す。

 夕日がシシルナ島の彼方の海に沈んでいくのを見ながら。

 リコの休みの一日は、このように静かに終わりを迎えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...