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外伝
リコと秘密基地
しおりを挟むリコが目指しているのは、オルヴァ村の外れにある古ぼけた家だ。
外観は古びているが、家の中は手入れが行き届いている。誰も住んでいないこの家は、今はリコが留守を預かっている。
セラ親子の家だ。
ノルドはシシルナ島の中央にあるダンジョンの町に引っ越してしまった。冒険者稼業を優先するためだ。
「リコ、家の管理をお願い! 休みには帰るから」
時間があると、リコはこの家に足を運び、簡単な掃除を済ませると裏の魔物の森へ出かける。
家には落とし穴や罠が仕掛けられていて、簡単には入れない。家の中にも罠があり、ノルドらしい工夫が至るところに見られる。
「ノルドらしいなぁ」と思いながら、リコはひょいひょいと罠を回避し、家の前に到着した。
ノルドから預かった鍵を使って扉を開ける。無理に開けようとすれば、大怪我は避けられないだろう。
「異常なし!」
リコはメイド服を脱ぎ、セラが作ってくれた冒険者の服に着替える。気持ちが引き締まるのを感じた。
次にノルドの薬が詰まったポシェットを探し出し、襷掛けにする。薬はノルドが帰るたびに補充してくれている。
「さっすが、ノルド。今日も頑張って行こう!」
裏庭の小屋に向かい、必要な道具を袋に入れて背負うと、魔物の森へ足を踏み入れる。仕掛けた罠を一つずつ確認していく。
「あちゃー、また逃げられてるよ~」
なかなかノルドのように魔兎をうまく捕まえられない。それでも、いくつかの罠には数匹の魔兎がかかっている。
習った通り、川に行き魔兎を綺麗に捌く。
「へへん。ノシロにお高く買い取ってもらいましょう」
そう言いながら、魔兎をノルド特製の保管箱に入れた。
「さて、次は経験値稼ぎの時間ですな~」
リコは持ち前の素早さを活かし、目につく魔物を次々と倒していく。最初は毒蛇や蝙蝠などに噛まれて失敗ばかりだった。心配性のノルドはリコの為に山ほど薬を準備した。
それがさっきのポシェットだ。セラが作ってくれた服は、動きやすくて頑丈だったが、さらに改良してくれて、両腕にアームガードが追加された。ノルドの心配性は、セラ譲りかも知れない。
「お前さんの動きは、わかってますよ~」
ナイフを手に、敵の死角から静かに近づくと、素早く仕留めた。春になり、魔物も活発に動き出す季節となったので、気を抜く暇もない。
しかし、それがリコにとっては心地よい刺激となっていた。
「あー、疲れた。休憩ターイム」
森の中にある、湖に面した小屋につくと、ひと休憩だ。ノルドの第二作業小屋である。ここも、ノルドから預かった鍵で開ける。
「異常なし!」
リコは安心し、お湯を沸かし、紅茶に蜂蜜を入れてゆっくり飲む。少し落ち着いたところで、「あ、忘れてた……」と蜂蜜を見て思い出した。冒険を切り上げ、ノルドの裏庭にある蜂の巣箱を目指した。
作業小屋で、養蜂用の服装に着替える。
「お世話、お世話と」春になるので、蜂の活動が活発になっている。巣箱を綺麗にしないと、美味しい蜂蜜にならないもんね。
川の対岸に咲き始めた花畑と巣箱を行き交う蜂達の姿を見守りながら、リコは作業を進める。
「よしよし!」あと数日で帰ってくるノルドに、きっと褒められるだろうと心の中で頷く。作業を終えると、日も傾いて夕方になっていた。
鍵をかけて、メイド服に着替え、早足で町に向かう。
※
「ノシロさーん! 魔兎ですよ!」
目的地のノシロの雑貨店に到着すると、赤ちゃんのニコラを抱いたリジェがにこやかに出迎えてくれる。しかし、店内には大きな泣き声が響き渡る。
「おおっと、すみませんね~」リコの声に反応したみたいだ。
リジェは慌ててニコラをあやそうとするが、泣き声はなかなか収まらず、彼女の顔には少し焦りの色が見える。ニコラは元気に泣きながらも、リジェの胸に顔を埋めている。
「ほら、こうやって……」
リコはニコラを軽く抱き上げ、穏やかな声でゆっくり揺らしながら言う。「ん~、大丈夫だよ、泣かないで~」
すると、ニコラはぴたりと泣き止んだ。
「おお、流石ですね、リコ」
リジェは感心した様子で笑いながら、ほっとした表情を浮かべる。
「それにしても、随分と店舗が広くなった! 食べ物以外も色々ある!」
リコは店内を見渡しながら言う。
リジェは微笑んで頷く。「取り扱い品を増やしたのよ。ノシロが『ニコラにちゃんと食べさせないとね』って。でも、従業員も増やしたから……」
リコはその言葉を聞いて、少し考え込む。
『きっと、働き口がない子供を頼まれて雇ったんだろうね。商売下手なノシロらしい』
リジェはその表情を見て、苦笑しながら頷いた。
リコは魔兎を売りつけ、お菓子を買って帰る。
「まいど!」
ノルドの能天気な声を背後に聞きながら、孤児院への道を歩き出す。
夕日がシシルナ島の彼方の海に沈んでいくのを見ながら。
リコの休みの一日は、このように静かに終わりを迎えた。
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