完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
115 / 221
外伝

母の待つ島

しおりを挟む
 その夜、キサラギの提案で歓迎会が急遽開かれることになった。窃盗団とイルは、翌朝、支援船でシシルナ島の監獄へと移送される予定だ。

「お前、こういう段取りだけは早いな」
 サルサが呆れたように言う。
「だってぇ、サルサ様が明日の夜には帰るってぇ~」
 掘り返された庭に村民が集まり、支援船のスタッフと屋敷の人々が用意した立食パーティが始まった。リコは張り切って準備を手伝っていた。

「お手伝いしてくる!」
 料理の材料のほとんどが支援船からの提供品。新鮮な魚は、待機中のクルーが釣り上げたものだった。

「ちゃっかりしてやがるな!」とマルカスが笑い、グラスを掲げた。
 パーティの開会とともに、キサラギが島民に向かって深々と頭を下げた。

「このたびは、皆さまに多大なるご迷惑をおかけしました。すべて、私の至らなさ故です」
 長老たちは彼女を叱責するどころか、温かく迎え入れた。

「おかげで心配せず眠れたよ。もうこのまま天国へ行くのかと思ったが……お前の顔が見られてよかった」

「……甘やかしすぎです」
 サルサが苦い顔をしたが、その目に柔らかな光が宿っていた。

 ヴァルは子どもたちと遊び、ノルドは輪に入れず所在なげに立っていた。キサラギはそんな彼を見つけ、にこやかに島民に紹介する。

「この島の薬師がいなくなってしまって……代わりに来てほしいくらいなの」
「ぜひ、お願いしたい!」と島民が歓声を上げる。
 照れたように苦笑いするノルド。そんな彼に、キサラギは首飾りを手渡した。

「サルサ様ご一行には、マルティリア島の褒章を授与いたします」

 それは、かつてこの島で鋳造されていたという金貨をあしらった首飾りだった。価値は高くないが、温かみのある贈り物だ。

「わあ……!」リコの目が輝く。
 サルサやマルカスは静かに微笑み、ノルドとリコの反応を見守っていた。

「ヴァルにも、もちろんあるわ。そして……これを、御方に」

 短いリボンの先には、古びた銀貨のペンダント。宝石が散りばめられ、ささやかだが特別な一品だった。

 その夜、ノルドはそれをビュアンかけてあげる。
「なんだ、小さな銀貨かと思ったら……ほう、これは……」

 ビュアンは興味深そうにそれを見つめ、満足そうにノルドの周りを舞った。


 最終日の昼、皆で島の裏手にあるプライベートビーチへ向かう。波音が優しく打ち寄せる中、リコが元気に声を上げた。

「ノルドにはこれね!」
「僕、海はちょっと……」
「大丈夫、浮き輪あるもん! 泳ぎの練習しましょう!」

 ノルドは魔道具製の浮き輪を渡され、恐るおそる海に入る。体がぷかりと浮かび、思わず笑みがこぼれた。

 リコとヴァルは犬掻きで軽やかに泳ぐ。
「いつ練習したの?」
「んー? 気づいたら泳げてた!」
「ワオーン!」

 日差しは強く、潮風は心地よい。その晩、ノルドは真っ赤に日焼けしたリコのために薬を調合しながら、あるアイディアを思いついた。
「……日焼け止めクリーム、作れないかな?」



 深夜、魔物の森の中心部。エルフツリー、ウインマレのもとに別れを告げに行く。
「それじゃあね、ウインマレ」
「ありがとう、ビュアン様。皆さん」

 周囲を舞う精霊たちが、光を宿した羽を震わせながら挨拶する。
「また来てあげるわね」

 帰り道、ノルドがぽつりと尋ねた。
「……精霊の木って、話すんだね?」
「ええ。でもね、ある程度大きくなると、私くらいじゃ口もきいてもらえないのよ」
「ビュアンでも?」

「彼女たちは、森そのもの、この地そのものなの。話せるうちに、また来ようね」
「うん、絶対に!」

 ノルドは、島の薬師が見つかるまで薬を補充する任を任された。船便でも対応はできるが、時々訪れるのも悪くない。
「私も来るー!」と、真っ黒に日焼けしたリコが元気に手を挙げた。

 その夜、チャーター船が港を離れる。訪れたときは無人だった岸壁に、キサラギをはじめ多くの島民が集まり、手を振っていた。

「また来てねー!」という声が、夜の海に響く。
 船の上では、皆ぐっすり眠っている。
「母さんに、土産話できたかな……」

 ひとり甲板に立ってノルドが呟くと、ヴァルがそっと寄り添ってきた。
 高速の船は、星の海をまっすぐに進む。犬人は卓越した腕を持つ漁師だった。
 船が揺れ、減速する。朝霧の中、シシルナ島の輪郭が姿を現す。

 ノルドの胸に、幼い記憶がよみがえる。セラに抱かれて訪れた、あの朝。けれど、彼女はもういない。

 岸壁に、ひとりの人影が立っている。
 ヴァルが気づいたが、何も言わなかった。

「母さん、ただいま――!」
 ノルドは、大声を出して思い切り手を振った。

 マルティリア島編 完
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...