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#side ルークフォン ~初恋の人を求めて~
初恋とは気付かぬまま・・・ 1
しおりを挟む俺は彼女に出会う迄、笑った記憶が無いーーー。
長年続いていた隣国との戦争が劣勢だった為、王城も王宮もいつも空気が張りつめていて、息苦しい事この上無かった。
父上は心を通わせている愛妾がおり、その愛妾との間に産まれた子供・・・つまり第一王子であるアンドレイを大層可愛がっていた為、俺なんか眼中に無かった。
母上は母上で別の家庭を王宮の離れに持っていた。父上は、母上の美しさと爵位だけがお目当てだった為、恐らく男児を産めば、御役御免という約束で王妃の座に母上を迎え入れたのだろう。
愛の無い結婚など・・・するものでは無い。
俺の様な・・・誰からも愛されない人間が増えるだけだ。この孤独と苦しみは深過ぎる。
俺は、とにかく王宮が嫌いで城下へ降りていた。
勿論、お忍びでだ。
長引き過ぎた戦争のせいか、平和ボケしてしまった警戒心も何も無い街は毎日賑わっている。
(今この時も、命を賭して国の為に戦っている者が居る事など・・・皆、忘れてしまっているのだろうな・・・。)
そう考えてしまうと・・・自分と騎士が重なってしまい、城下へ居るのも何だか苦しくなってしまった。更に馬を走らせて郊外まで足をのばす事が増えたのは、確か戦争が終わる1年程前の事だったと思う。
その少女との出会いは、後に運命だったとさえ思わせる程に特別なものだったーーー。
城と城下を見渡せる小高い丘の上にある木の下が、俺の定位置になりつつ有った日の事だったと思う。
俺はお忍びで来ていた為、乗合馬車を使う事も有るのだが・・・その乗合馬車で懐中時計を奪われてしまい、抵抗した結果殴られて、その日はとにかくもう絶望しか無かった。
「ねぇ、貴方・・・大丈夫?」
そんな俺に話し掛けたお人好しは、ミルクティブラウンの短髪に深みのある赤茶色の瞳・・・腰には模造刀を携えた・・・女か男か分からない俺より年下の餓鬼だった。
「・・・・・・・・・。」
「実はずっと見ててさ・・・えへへ・・・私の家、あそこなんだけど、来ない?」
「・・・・・・・・・。」
(私・・・?女の癖にそんな格好してるのか・・・?)
王族だとバレると面倒だと言う事と、とにかく人間という生き物がこの時は嫌いだった。特に、理由もなく向けられる善意には、底知れない闇が孕んでいるという事を、この時の俺は嫌という程経験していて・・・彼女の善意が気持ち悪かった。
「・・・・・・はっ!!!」
何かに気付いたかの様なアクションを大袈裟にとった彼女は、俺が言葉を話せない奴だと思ったらしく、身振り手振りで言わんとしている事を伝えている。
(やめろ・・・笑ってしまいそうだ・・・)
彼女の大袈裟な身振り手振りに思わず笑ってしまいそうになり、我慢のし過ぎで体がカタカタと少し震え始めると、彼女は俺の傷がひどいと勘違いしたらしく、急に有無を言わさず俺の手を引いて走り出してしまう。
「ちょっ・・・!何処にーーーっ!?」
思わず声を出してしまうと、少し驚いた表情の彼女が振り返り、屈託のない笑顔で家だと答えた。
5分もかからない内に彼女の家に着いたが、『中から誰か出て来るかも・・・』とか、『俺を捕える為の罠かも・・・』とか、色々考えが過ぎってしまい、その扉の向こうへ行く事が出来ず立ち尽くしてしまった。
「お父様は騎士でね、ほとんど帰って来ないの。お母様は畑仕事に行っちゃってて・・・誰も居ないから大丈夫だよ?」
差し伸べてくれた彼女の手を見ると、剣の修行によほど励んでいるのか、マメが沢山潰れた後が出来ていた。そして・・・この手は信頼出来ると何故か思ってしまった俺は彼女の手を取り家に入ると、
椅子に座り彼女が用意してくれた暖かいハーブティーを手に持った。
そして、生まれて初めて心からこの言葉を言う事が出来た。
「ありがとうーーー。」
俺の小さくてか細い『ありがとう』に全力の笑顔を返してくれた彼女はこう言った。
「どういたしましてっ!」
今思えば、俺は多分、この時に一目惚れしてしまっていたのかも知れない。
熱くなった顔の熱を『ハーブティーのせいだ!』と必死に言い訳をしながらも、嬉しくて嬉しくて口元が綻んでしまっていたからーーー。
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