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#side ルークフォン ~初恋の人を求めて~
初恋の予感
しおりを挟む婚約者としてフローラと再会してから、1年の月日が過ぎた頃に王宮茶会は開かれた。
(今日は俺にとっても、大切な一日だ・・・。失敗は許されない・・・。)
最初こそショックを隠し切れず、動揺してしまったが・・・今はもうフローラと対面しても何の感情も動かなくなってしまった。
だって彼女は、本当に何処にでも居る普通のご令嬢になってしまったから・・・。
俺が焦がれてやまなかった『騎士になる!』と、模造刀を振り回していた可憐な女の子では無く・・・王子に媚びへつらう女になってしまったのだ。
それはーーー、
俺が最も警戒し軽蔑している人間の仲間入りを果たしたという事だ。
爵位や肩書きに囚われて、人の尊厳や感情など考えもしない・・・奴らは〝肩書き〟で人を好きになれる類の人間なんだ。俺がどんな暴言を吐こうが、悪業を重ねようがどうせ変わらないのなら、波風を立てない方が俺も都合が良い・・・。
(フローラが特別だったと言うだけで、別にいつもと変わらない。良い王子のフリなら、俺の特技じゃないか・・・)
自分で自分を嘲笑してしまう・・・。
今日の茶会の為にと一層華やかに手入れされた庭園は、考え事をしながら見るのに丁度良く、柱に凭れかかってしまうと、時間を忘れて見入ってしまった。
「殿下、アナスタシア公爵家の馬車が到着しました。」
「分かった。すぐ向かう。」
廊下で何となく庭園を見ていた俺を探していたのか、少し息を切らした近衛兵にそう返事をすると踵を返した俺は、憂鬱な気持ちを何とか押し殺し婚約者の元へと歩き出したーーー。
「殿下、恐れ多いですわ。この様な場所までお迎えなど・・・」
「婚約者を迎えに来るのは当然ですから、気にしないで下さい。」
(・・・・・・・・・ん?)
ほんの一瞬だったが・・・何となく彼女の顬がピクピクと動いた気がした私は、予感を感じ取ってはいたものの・・・結局、気の所為で片付けてしまった。
「「・・・・・・・・。」」
二人分の足音だけが響き渡る廊下ーーー。
(おかしい・・・。いつもの彼女で有れば、鬱陶しい位にずっと話し掛けてきて・・・無言の時間が少しでも続けば、顔を俯かせて居心地悪そうにしていたのに・・・)
ふと彼女を横目で見ると、左側に広がる庭園を眺めており、特に焦った様子等も無く無言を貫いている・・・。
彼女の変わり様に付いていけなかった俺は、思わず自分から声を掛けてしまった。
「花が、好きなのですか?」
「ふふっ。そうですね、嫌いでは有りませんよ?」
この笑い方・・・目付き・・・態度・・・。
何だろう?憑き物が取れたかの様に表情豊かな彼女に、固く閉ざした筈の自分の扉がほんの少し開きそうな感覚を覚える・・・。
「殿下、ご無理をなさらないで下さい。別に会話等交わさずとも、私は充分楽しんでおりますから・・・」
(な、何なんだ・・・?そのドヤ顔は・・・)
(駄目だ・・・笑っては・・・!怒って帰ってしまうやもしれない・・・。)
彼女は気付かれていないと思っているのだろうか?自分の表情が豊かに変わっている事を・・・。
とりあえず、当たり障りの無い事を言っておこう。
「フローラ嬢はとてもお優しい方なのですね。」
笑いを我慢しきれなかった俺は、思わず笑顔でそう返事すると・・・彼女がプイッと顔を背けた。
よくよく見ると耳が真っ赤になっていて・・・照れていると分かると、いつもの彼女らしくないなと・・・予感は疑問へと変わった。
(いつもの彼女で有れば・・・俺が甘い言葉を囁けば、頬を赤らめながら上目遣いで『殿下・・・』とねっとりした視線を向けてくるのだがーーー。)
彼女は『照れてたまるか・・・っ!』と言わんばかりに、百面相を繰り広げていて・・・身長差がそこそこ有る私からは、例え顔を背けていても丸見えなのだが・・・。
(以前までの計算高い彼女がこんな事に気付かないなんて事・・・有るか?それとも、わざと見せているのか?・・・分からない。)
自分がフローラを追い求める余り、都合よく思考を偏らせているだけなのでは無いか・・・?とも思ったが、確かめる術が思い付かずそのまま歩き続ける事しか出来なかったーーー。
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