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#side ルークフォン ~初恋の人を求めて~
初恋の人は茶会にて・・・2
しおりを挟む「ルーク!・・・ルーク、こちらへ!」
そう呼ばれた時、俺の心臓は止まるかと思う程跳ねた。
かつて・・・フローラに名乗っていたその名を・・・フローラが呼んでいる。
もう呼んで貰える事は無いんだろうな・・・と思っていたその名を・・・フローラが呼んでくれたのだ!
(もしかして・・・俺を思い出したのだろうか・・・?)
そんな訳無いとすぐに否定したものの・・・淡い期待を捨てきれないまま、俺は彼女のもとへと向かった。
「ご機嫌よう、ご令嬢方。それで・・・えーと、僕を呼びましたか?フローラ」
本当は御令嬢達などに目もくれず・・・〝ルーク〟と何故呼んでくれたのかをフローラに問い詰めたかったが・・・今日は大事な茶会で、彼女達は客人なのだ。無視する訳にもいかなかった。
「殿下、本日はお招き頂き有難うございます。わたー」
「ルークぅ!とても怖かったわぁ・・・っ!」
キースランド伯爵令嬢の言葉をわざと遮るかの様に、フローラが俺の腕の中に飛び込んで来た。
「っ・・・ー!?」
(どど、どう言う事だ?!!・・・分からん!全く分からんのだが・・・っ!)
腕の中に居るフローラを抱き締めて良いのかどうかも判断出来ず、俺の手は宙を彷徨っていた。
何より・・・フローラの感触、香りに、理性が吹っ飛びそうになるのを何とか繋ぎ止めるのに必死だ。
(落ち着け・・・落ち着け・・・落ち着くんだ俺・・・。)
自分で自分に言い聞かせ続けると少し冷静さを取り戻した俺は、フローラが少し震えている事にようやく気付いた。
(ーーえ?!まさか・・・、泣いて、いるのか?)
が、フローラが御令嬢達に嫌味を言われて泣くなど有り得ない・・・と思い、注視して見れば、涙など一滴も零れる所か浮かんですら無い事が分かり・・・これが〝嘘泣き〟だと分かると少し安心してしまった。
「私がルークの婚約者にふさわしくないと・・・皆様が仰るのです・・・。ルークが本日の為に下さったドレスも・・・〝はしたない〟と言われて・・・!」
(駄目だ・・・。笑ってしましそうだ・・・。何なんだ・・・その演技は、バレバレでは無いか・・・っ!)
だがここで笑い出したら確実に彼女からお咎めが有る事が安易に想像出来た俺は、この猿芝居に付き合う事とした。
「ーーー本当・・・なのですか?」
俺が見るとご令嬢達は、全員が全員、顔を俯かせて黙りを決め込んでしまった。
「否定しないという事は、肯定と捉えますが?」
俺のこの一言を聞くや否や、キースランド伯爵令嬢にいつも纏わりついている御令嬢達の顔色が急変し、口々に弁明を述べて来た。
「わっ、私は何も言っておりませんわ・・・!」
「私もです!たっ、たまたまこちらに居合わせただけで・・・」
「全てキースランド伯爵令嬢のお戯れで、私達は無関係ですわ!」
「なっ・・・?!貴女達、よくもまぁ・・・!」
(本当に虫酸が走る奴等だな・・・保身の為に簡単に人を傷つけられる類の人間だ。)
「分かりました。では、無関係の方は席を外して頂けますか?」
貴族の典型的な行動パターンと思考をお持ちの御令嬢達に嫌気が差した俺は、可能な限り笑顔でお願いをしたが・・・どうやら侮蔑の眼差しを隠しきれていなかった様で、彼女達は焦った様子で立ち去ろうとドレスを持ち上げた。
「ああ、そうそう!もし次も〝たまたま居合わせて〟しまったら・・・その時は同罪と見なしますからね?気を付けて下さい?」
どうせ注意をした所でまた同じ様な事を平気でしてしまうんだろうが・・・忠告せずには居られなかった。
だが、かなり俺の据えたお灸は効いた様子で・・・王族である俺に何の礼もせずに背を向けて走り去った令嬢達は相当焦っていたに違いない。
「ルーク、ありがとうございます。私、もう大丈夫ですわ。」
俺の胸から顔を離し、キースランド伯爵令嬢を真っ直ぐ見つめるフローラに不穏な空気しか感じられず、思わず声を掛けてしまった。
「フローラ・・・?本当に大丈夫なのですか?その、色んな意味で・・・」
(今日は君にとっても、俺にとっても大事な茶会なんだよ?分かってるよね・・・?)
「・・・?えぇ、勿論ですわ。」
(ーーーあぁ、これは絶対に分かってない顔だな・・・。)
既に客人達の視線が集まりつつあるこの状況で、これ以上騒ぎを起こせば人集りが出来てしまうだろう・・・。
何とか穏便に終わらして欲しいが・・・相手はあのフローラなのだ。恐らく無理だろうな・・・。
「私はっ!!謝りませんわよ・・・っ!殿下の隣に立てる様にと、殿下に相応しい女性になろうと、幼い頃より努力を重ねてきた令嬢は、沢山おりますわ!それを・・・急に横から入って来て・・・、奪い取ってしまわれたのですから!僻み位、甘んじて受けるべきですわ・・・っ!それ位、殿下は特別なのですわ・・・っ!」
我慢の糸が切れてしまったかの如く言葉を連ねたのは、フローラでは無く意外にもキースランド伯爵令嬢であった。
大事な茶会でこの様な発言をされた事と、お門違いな怒りに思わず本当の事を言ってやろうかと、口を開こうとしたその瞬間ーーー、美しい手が俺の顔の前で広げられて俺は制されてしまった。
「キースランド伯爵令嬢・・・、だから貴女、間違っていますよ?」
(あれ・・・?フローラも兄上の件の事を知っているのか・・・?てっきり、王族と王宮使いの幹部しか知らない事だとばっかり思っていたが・・・)
「わ、分かっていますわ・・・っ!でも・・・諦めきれませんのよ・・・!」
先程のフローラの嘘泣きと違い、キースランド伯爵令嬢は大粒の涙を浮かべながら、零さぬ様にと必死に拭っていた。
(諦めきれないも何も・・・君は王族で有れば誰でも良いんだろう?兄上が好意を寄せているんだし、そっちとくっ付けば良いだけの話だと思うんだが・・・。)
「諦めなくて良いでは無いですか。そんなに殿下が・・・いえ、この男性が好きならば・・・」
(・・・ん?何だろう・・・何だか凄い嫌な予感がするぞ?この言葉の続きは・・・恐らくどう転がっても俺にとって良い言葉は続かない気がする・・・。)
「私から奪い取って見せなさい!!!」
「なっ?!ご自分が何を仰っているかお分かりですの・・・?!」
(ーーーな?!・・・え?!フローラッ?!!)
腰に手を当てて堂々とキースランド伯爵令嬢に言い放ったフローラは、ドヤ顔だ・・・。
俺はフローラの思考に付いていけず、キースランド伯爵令嬢と全く同じ意見だった。
「え、ちょ・・・フローラ?何を言って・・・」
(・・・え?何で俺が睨まれるの?)
「キースランド伯爵令嬢、貴女のこと今日まで苦手・・・いえ、大嫌いでした。でも、今この場で立ち向かえる強さを持つ貴女は・・・好きになれそうです。」
(・・・・・・え?俺の事は無視ですか?)
「私とお友達になってくれませんか・・・?」
フローラがキースランド伯爵令嬢に手を差し出すと、伯爵令嬢の瞳からは再度大粒の涙が流れ初めた。
(フローラ・・・らしいな・・・。)
途端、ざわざわと周りが騒めき出したのを背中で感じ取った俺は、これ以上騒ぎが大きくならない様にと、メイドや侍従に目で合図を送り事態の収集に向けて動き始めた。
「私・・・だって・・・貴女の事・・・嫌いですわ!私の欲しかった物もっ・・・!望んだものも・・・何も無くなってしまって・・・」
伯爵令嬢はついにしゃがみ込んでしまい、泣き顔を見られたく無いのか顔を俯かせて、しゃくりあげながら必死に声を振り絞っていた。
(フローラの嘘泣きとは大違いだな・・・。だが・・・目立つ!目立ち過ぎる!!あぁ・・・人が集まり出してしまったでは無いか・・・っ!)
「ずっと・・・殿下の隣を夢見て・・・努力し続けたのに・・・!ずっと・・・ずっと・・・!」
(どれだけ俺に好かれようと努力されてもなぁ・・・兄上が好いてしまっているんだ。どうしようもないのだが・・・。)
伯爵令嬢の気持ちは・・・正直な所、ありがた迷惑というやつだ・・・。
何故、俺に固執しているのだ?兄上は彼女にアプローチしていないのか?父上の寵愛を集める第一王子の方が良くないか?
呆れと疑問を繰り返している内に、大事な茶会で騒ぎを起こされた怒りがフツフツと湧いてきてしまい、泣き崩れているキースランド伯爵令嬢をギロリと凝視してしまっていた。
すると・・・、俺の前で立ち尽くしていたフローラが何故かしゃがみこみ、伯爵令嬢の前まで行くと優しく抱擁したのだ。
それを合図にキースランド伯爵令嬢は、痰を切ったかの様に嗚咽を漏らしながら叫ぶように泣き始めたーーー。
(何だろう・・・。とても美しい友情劇を見た筈なのに・・・全く感動出来ないぞ・・・。)
彼女達は・・・此処を何処だと思っているのだろうか?
(俺の大事な大事な茶会を失敗に終わらせる訳にいかないーっ!
フローラとの婚約を確固たるものにする為にもーっ!)
俺は抱き合っている二人の乙女に背を向けると、自分の成すべき事をしに歩き出したーーー。
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