【完結】殿下、5回目の婚約破棄は私の方からさせて頂きます!~やりたい放題していたら、いつの間にか逆ハー状態でした~

ゆきのこ

文字の大きさ
49 / 66
#side ヴァンス ~大切な妹は、僕の初恋の人~

初めての家族

しおりを挟む
「ヴァンス・・・君さえ良ければ・・・俺と一緒に来て欲しんだ。」

瞳を閉じれば・・・真剣な顔で僕の前に跪く若き日の父上の姿を思い出す。
今思えば・・・俺の人生はあそこからスタートしたと言っても過言では無い。


僕の名はーーー ヴァンス・アナスタシア。

僕はヴェストリア王国の人間では無い。
ヴェストリア王国の隣にある、つい十数年前まで長きに渡り戦争していた隣国で産まれた人間だ。
だけど、産まれた時にたまたまその国に居たというだけで・・・僕自身は隣国に対して何の感情も持ち合わせていない。

元々、僕は戦争孤児というやつで・・・物心ついた時には一人ぼっちだった。
だけど別に珍しいって訳でも無くて、戦争に対してヴェストリアの様に騎士団任せでは無かった僕の国は、国民を巻き込んで戦争に臨んでいた為、年々貧しくなり、僕の様な孤児も多かった。

生きる為に必死だった僕は・・・ある日、根城にしていた森でヴェストリア騎士団を見かける。
殺されると疑わなかった僕はパニックを起こしてしまい・・・咄嗟に襲い掛かってしまったのだ。
それが・・・僕の恩人であり今は父である・・・オリナス・アナスタシアだった。

今だから思うが・・・あれが他の騎士だったら叩き斬られていたと思う。

僕の様な戦争孤児が多くいる現実に、敵国の騎士のくせに誰よりも心を痛めていた父上は、
孤児院の設立を隣国の王族に要求し、定期的に今も確認しに行っているらしい・・・。

僕なんかを養子に望んで・・・本当に養子縁組してしまう様なお人好しなんだから、そういう事を望んだと聞いて・・・周りはかなり驚いた様子だったが、僕は驚かなかった。

父上はとにかく優しく、僕を大切に扱ってくれた。

産まれて初めて向けられるその表情が・・・言葉が・・・視線が・・・〝愛情〟なのだと気づいたのは、もっと後の事だったが・・・分からないなりに感じていて・・・幸せな時間を過ごして来たと断言出来る。

だが・・・人生そう簡単には行かないものだーーー。

俺の黒い髪と赤い瞳は・・・隣国を象徴する様な見た目だったらしく・・・
ヴェストリアに来てからと言うもの・・・何処を歩いていても後ろ指を差された。

幼い僕は・・・とにかく落ち込んだ。
ヴェストリアという国に好意を持って来ていただけに・・・受け入れて貰えない絶望に打ち拉がれる毎日だった。

特に父上が戦争の報告の為に立ち寄った王城では・・・露骨に言われてしまい、心が完全に折れてしまった。

だから正直・・・父上の家に行くのは怖かった・・・。
だってそうだろ?他人に拒絶されるのも辛くて仕方ない僕が、
大好きな父上の家族にも嫌われてしまったら・・・
と考えたら逃げ出したい気持ちで押し潰されそうになってしまうのも無理はない。

それでも・・・逃げ出す事も逃げ出す術も持っていなかった俺は、父上と一緒に王都を離れた。

乗合馬車を降りると、父上の帰りを家の外で待っている2つの影を見付けた。
大きく笑顔で手を振り返す父上の後ろで、咄嗟に隠れてしまう僕。

(どうしよう・・・嫌われちゃったら・・・。気持ち悪い髪だって、目だって・・・きっと言われるーーー!)

そう顔を俯かせながら・・・思っていた。

だからーーーフローラの予想外の言葉に凄く救われたんだ・・・。



「とても綺麗な瞳ね!まるでルビーみたいだわ・・・。ねぇ、もっと近くで見ても良い?」



彼女は、キラキラした瞳で僕の近くまでやって来ると、僕がまだ「いいよ」と言っていないのに・・・本当に瞳をじーっと見て来たのだ。

そんな事をされたのは産まれて初めてだった為、僕は思わずそっぽを向いてしまう。

「本当は気持ち悪いんだろう?この黒い髪と赤い瞳が・・・!」

否定して欲しくて・・・放った言葉だった。
どうしてもフローラの言葉が信じられなくて・・・あまりにも王城に居た人たちと態度が違い過ぎてて・・・。



「こら!人が綺麗だって言ったものを汚いなんて言っちゃダメ・・・!失礼でしょうが!人それぞれなのよ?」

泣き出しそうな僕の頭にチョップを落としたかと思えば・・・腰に手を当てて「えっへん」と自慢げに胸を張っているフローラに驚きを隠せずに目が点になってしまう。

「こら!だからってチョップはしなくて良いでしょうが!・・・ごめんなさいね?でもね、貴方の髪も瞳も気持ち悪くなんて無いわよ?」

俺をチョップした事でフローラは母上からのチョップを喰らう羽目になってしまい、思わず「いたー!」と言って両手で頭を押さえていた。

「ヴァンス・・・俺達は今日から家族になるんだぞ?嘘なんかつく訳、無いだろう?」

僕の顔を覗き込んできた父上の優しい笑顔に・・・僕の糸は切れてしまった様で、僕はその後・・・晩ご飯を食べ終わるまで涙が止まらなかったーーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...