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本編 第三部 〜乙女はアカデミーにて〜
一人の女性として・・・好き
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「会長、そこで蹲っている男子生徒ですが・・・如何なさいますか?」
沈黙を破ったのは、私達三人の誰かでは無く・・・こちらに向かって歩いて来ているエレノアだった。
「あ、あぁ・・・!医務室に・・・運んで診て貰った方が良いだろうな。」
「はい。それで?私が運べるとでもお思いですか?」
満面の笑みでそう返事をしたエレノアに、よもや言い返せる人間はこの世のどこにも居ないと思う。
それ位、黒さを孕んだ笑みだったのだ。
「・・・はぁ、仕方ない。俺が運ぼう。」
溜息をついた殿下は、他に良い案が浮かばなかったのか、エレノアの黒い笑みに負けたのか、嫌々という感じで男子生徒の方へと歩き出すと、蹲っている男子生徒を肩を貸す形で立ち上がらせた。
「あの・・・会長・・・勝負は、どうしましょうか?」
去りゆく殿下の背中を弱々しい声でそう引き留めたお兄様に、殿下は背中を見せたまま答えた。
「本気でやる意思が無い者とする勝負など、ただの茶番だ。先ずは覚悟を決める必要が・・・有るのでは無いか?俺と勝負するよりも先に告白しなくてはいけない相手が居る筈だ・・・。」
殿下はそのままこちらをチラリとも振り返る事もせずに、庭園広場を立ち去ってしまった。
「最初で最後のチャンスだと思いますわよ?婚約者から告白のお許しが出るなんて・・・。無駄にしないで下さいませね。」
続いて殿下の後を追いかける様に歩き出したエレノアに、肩を叩かれたお兄様は何か耳元で言われている様子だが・・・私には全く聞こえなかった。
「あの~・・・お兄様?私達も帰りましょうか?」
俯いたまま微動だにしないお兄様に、堪らずそう声を掛けた私は、ベンチに置かれていたお兄様の荷物をいそいそと回収すると、お兄様の手を取り引っ張った。
「待って!!!」
お兄様の叫び声に足を止めた私は、驚きの余り目を見開いてしまう。
「ど、どうしたのですか?急に・・・」
普段、温厚なお兄様が叫ぶ事などそうそうある事では無い。
ただならぬ雰囲気を察した私は、お兄様の方をじぃっと見つめる。
「フローラ・・・好き・・・なんだ。」
絞り出す様な声でそう呟いたお兄様は、今にも泣き出してしまいそうな程、苦悶の表情を浮かべている。
「私もお兄様の事は大好きですわよ?」
私の返事がお気に召さなかったのか、首を左右に振り「違う」と言うお兄様に私は訳が分からなくなってしまい首を傾げてしまう。
「フローラの事が・・・妹としてじゃなくて・・・一人の女性として、好きなんだ。」
「一人の・・・女性・・・と、して・・・?」
(え?え?!えぇ?!・・・つまり、それってーーー!)
お兄様の告白に思考が付いていけない私は、オウムの様に言葉を継ぎ接ぎに繰り返すと、頭を両手で抱え、目をグルグル回してしまう。
「ずっと昔から・・・好きなんだ。諦めようと何回も何回も・・・言い聞かせて来たけど、無理で・・・。ごめん・・・、」
涙をポロポロと流すお兄様の姿は、産まれて初めてみる光景で・・・思わずお兄様を胸に抱き寄せてしまった。
「べ、別に謝る事では有りません!誰を好きになろうが・・・お兄様の自由ですわ。」
とは言ったもののーーー・・・正直、腑に落ちない。
(今世の私は、類を見ない程にやりたい放題していると言うのに・・・一体、何処に惹かれる部分が有ると言うのだろうか?)
「ありがとう、フローラ・・・もう大丈夫だから。」
私が自問自答をしている内に落ち着いた様子のお兄様は、私の腕を優しく解くと・・・泣いてしまったせいが顔が真っ赤になってしまっており・・・それを隠すかの様にずっと下を向いてしまっていた。
「お兄様・・・あの・・・私・・・、」
お兄様の気持ちを否定する気は毛頭無いが、自分が男としてお兄様を好きか?と聞かれると・・・答えは分からない。
好きでも無いし、嫌いでも無いのだ。
ただ・・・お兄様の告白に対して、何の答えも出さないのは失礼な気がしてしまい、必死に何か言おうと頭をフル回転させるが・・・言葉が見付からない。
「フローラ、良いんだ。告白をしてしまったが・・・この関係を壊したい訳では無いんだ。ーーフローラさえ良ければ、変わらず接して貰えると嬉しい。」
「ええ!も、勿論です!」
お兄様の願ってもない提案に目を輝かせて食いついた私は、すでにエンスト寸前だったので一安心してしまう。
「有難う、フローラ。さぁ、帰ろうか?」
「・・・・・・?」
お兄様に手を差し出された私は、何度もやり直して来たが・・・未だかつてお兄様から手を差し出された事など無かった為、何を要求されているのか分からず、キョトン顔になってしまう。
「手を繋ぎたいんだけど・・・駄目かな?」
「いや、別に・・・かまいませんけれど・・・。」
満面の笑みで私の手を繋いで来たお兄様は、あろう事か指を絡めて所謂〝恋人繋ぎ〟をして来た。
こんな繋ぎ方をされたのは、人生5回目にして初めての事だった為、思わず赤面してしまい恥ずかしさの余り、変な事を口走ってしまう。
「こここ、これではまるで・・・恋人同士だと勘違いされてしまいそうですわね?!」
「フローラは会長の婚約者として有名人だから・・・恋人は無いんじゃない?さしずめ、僕と不埒な関係を築いている位なんじゃないかなぁ?」
何故か楽しそうにそう話すお兄様に些か違和感を覚えながらも・・・お兄様の言葉に深く考えずに素で返してしまった。
「婚約者は気持ちが無くてもなれますが・・・恋人には、気持ちが無いとなれませんよ?全く別物ですわ!」
私の言葉を聞いたお兄様は、少し驚いた表情をした後に・・・蕩けそうな程に美しい笑みを浮かべた。
「そうだね・・・、フローラの言う通りだ。」
お兄様の見た事無い男性としての表情の数々に、心臓が持たないんじゃないか?と心配になる程、ドギマギしている私の事などお構い無しに・・・髪を掻き上げるお兄様の横顔の何と破壊力の有る事かーーー!!!
「ならば・・・フローラの恋人に立候補しても良いかな?」
恋人繋ぎしたままのその手を・・・口許に寄せたお兄様は、私の手の甲に優しくチュッとキスをした。
「ひぇーーーっ?!!!」
予想外の行動に変な声が出てしまう。
「だ、駄目です!絶対に駄目です!!!」
お兄様の手の上で転がされてしまっている様な状況下に、何となく反抗したくなった私は顔を真っ赤にしながらもお兄様にそう告げる。
「どうして・・・?好きになるのは、自由なんじゃなかったの?」
「ドキドキし過ぎて心臓が持ちませんから・・・!だから・・・絶対に駄目です!」
私の返答に大笑いをしているお兄様に本格的に訳が分からなくなってしまった私は・・・何故笑うんだ!と問い正したかったが、
目の前のお兄様のこんな笑い声を聞くのは、久しぶりの事だったので、一先ず気が済むまで笑って貰おうと手を繋いだまま馬車へと向かった。
沈黙を破ったのは、私達三人の誰かでは無く・・・こちらに向かって歩いて来ているエレノアだった。
「あ、あぁ・・・!医務室に・・・運んで診て貰った方が良いだろうな。」
「はい。それで?私が運べるとでもお思いですか?」
満面の笑みでそう返事をしたエレノアに、よもや言い返せる人間はこの世のどこにも居ないと思う。
それ位、黒さを孕んだ笑みだったのだ。
「・・・はぁ、仕方ない。俺が運ぼう。」
溜息をついた殿下は、他に良い案が浮かばなかったのか、エレノアの黒い笑みに負けたのか、嫌々という感じで男子生徒の方へと歩き出すと、蹲っている男子生徒を肩を貸す形で立ち上がらせた。
「あの・・・会長・・・勝負は、どうしましょうか?」
去りゆく殿下の背中を弱々しい声でそう引き留めたお兄様に、殿下は背中を見せたまま答えた。
「本気でやる意思が無い者とする勝負など、ただの茶番だ。先ずは覚悟を決める必要が・・・有るのでは無いか?俺と勝負するよりも先に告白しなくてはいけない相手が居る筈だ・・・。」
殿下はそのままこちらをチラリとも振り返る事もせずに、庭園広場を立ち去ってしまった。
「最初で最後のチャンスだと思いますわよ?婚約者から告白のお許しが出るなんて・・・。無駄にしないで下さいませね。」
続いて殿下の後を追いかける様に歩き出したエレノアに、肩を叩かれたお兄様は何か耳元で言われている様子だが・・・私には全く聞こえなかった。
「あの~・・・お兄様?私達も帰りましょうか?」
俯いたまま微動だにしないお兄様に、堪らずそう声を掛けた私は、ベンチに置かれていたお兄様の荷物をいそいそと回収すると、お兄様の手を取り引っ張った。
「待って!!!」
お兄様の叫び声に足を止めた私は、驚きの余り目を見開いてしまう。
「ど、どうしたのですか?急に・・・」
普段、温厚なお兄様が叫ぶ事などそうそうある事では無い。
ただならぬ雰囲気を察した私は、お兄様の方をじぃっと見つめる。
「フローラ・・・好き・・・なんだ。」
絞り出す様な声でそう呟いたお兄様は、今にも泣き出してしまいそうな程、苦悶の表情を浮かべている。
「私もお兄様の事は大好きですわよ?」
私の返事がお気に召さなかったのか、首を左右に振り「違う」と言うお兄様に私は訳が分からなくなってしまい首を傾げてしまう。
「フローラの事が・・・妹としてじゃなくて・・・一人の女性として、好きなんだ。」
「一人の・・・女性・・・と、して・・・?」
(え?え?!えぇ?!・・・つまり、それってーーー!)
お兄様の告白に思考が付いていけない私は、オウムの様に言葉を継ぎ接ぎに繰り返すと、頭を両手で抱え、目をグルグル回してしまう。
「ずっと昔から・・・好きなんだ。諦めようと何回も何回も・・・言い聞かせて来たけど、無理で・・・。ごめん・・・、」
涙をポロポロと流すお兄様の姿は、産まれて初めてみる光景で・・・思わずお兄様を胸に抱き寄せてしまった。
「べ、別に謝る事では有りません!誰を好きになろうが・・・お兄様の自由ですわ。」
とは言ったもののーーー・・・正直、腑に落ちない。
(今世の私は、類を見ない程にやりたい放題していると言うのに・・・一体、何処に惹かれる部分が有ると言うのだろうか?)
「ありがとう、フローラ・・・もう大丈夫だから。」
私が自問自答をしている内に落ち着いた様子のお兄様は、私の腕を優しく解くと・・・泣いてしまったせいが顔が真っ赤になってしまっており・・・それを隠すかの様にずっと下を向いてしまっていた。
「お兄様・・・あの・・・私・・・、」
お兄様の気持ちを否定する気は毛頭無いが、自分が男としてお兄様を好きか?と聞かれると・・・答えは分からない。
好きでも無いし、嫌いでも無いのだ。
ただ・・・お兄様の告白に対して、何の答えも出さないのは失礼な気がしてしまい、必死に何か言おうと頭をフル回転させるが・・・言葉が見付からない。
「フローラ、良いんだ。告白をしてしまったが・・・この関係を壊したい訳では無いんだ。ーーフローラさえ良ければ、変わらず接して貰えると嬉しい。」
「ええ!も、勿論です!」
お兄様の願ってもない提案に目を輝かせて食いついた私は、すでにエンスト寸前だったので一安心してしまう。
「有難う、フローラ。さぁ、帰ろうか?」
「・・・・・・?」
お兄様に手を差し出された私は、何度もやり直して来たが・・・未だかつてお兄様から手を差し出された事など無かった為、何を要求されているのか分からず、キョトン顔になってしまう。
「手を繋ぎたいんだけど・・・駄目かな?」
「いや、別に・・・かまいませんけれど・・・。」
満面の笑みで私の手を繋いで来たお兄様は、あろう事か指を絡めて所謂〝恋人繋ぎ〟をして来た。
こんな繋ぎ方をされたのは、人生5回目にして初めての事だった為、思わず赤面してしまい恥ずかしさの余り、変な事を口走ってしまう。
「こここ、これではまるで・・・恋人同士だと勘違いされてしまいそうですわね?!」
「フローラは会長の婚約者として有名人だから・・・恋人は無いんじゃない?さしずめ、僕と不埒な関係を築いている位なんじゃないかなぁ?」
何故か楽しそうにそう話すお兄様に些か違和感を覚えながらも・・・お兄様の言葉に深く考えずに素で返してしまった。
「婚約者は気持ちが無くてもなれますが・・・恋人には、気持ちが無いとなれませんよ?全く別物ですわ!」
私の言葉を聞いたお兄様は、少し驚いた表情をした後に・・・蕩けそうな程に美しい笑みを浮かべた。
「そうだね・・・、フローラの言う通りだ。」
お兄様の見た事無い男性としての表情の数々に、心臓が持たないんじゃないか?と心配になる程、ドギマギしている私の事などお構い無しに・・・髪を掻き上げるお兄様の横顔の何と破壊力の有る事かーーー!!!
「ならば・・・フローラの恋人に立候補しても良いかな?」
恋人繋ぎしたままのその手を・・・口許に寄せたお兄様は、私の手の甲に優しくチュッとキスをした。
「ひぇーーーっ?!!!」
予想外の行動に変な声が出てしまう。
「だ、駄目です!絶対に駄目です!!!」
お兄様の手の上で転がされてしまっている様な状況下に、何となく反抗したくなった私は顔を真っ赤にしながらもお兄様にそう告げる。
「どうして・・・?好きになるのは、自由なんじゃなかったの?」
「ドキドキし過ぎて心臓が持ちませんから・・・!だから・・・絶対に駄目です!」
私の返答に大笑いをしているお兄様に本格的に訳が分からなくなってしまった私は・・・何故笑うんだ!と問い正したかったが、
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