【完結】殿下、5回目の婚約破棄は私の方からさせて頂きます!~やりたい放題していたら、いつの間にか逆ハー状態でした~

ゆきのこ

文字の大きさ
48 / 66
本編 第三部 〜乙女はアカデミーにて〜

一人の女性として・・・好き

しおりを挟む
「会長、そこで蹲っている男子生徒ですが・・・如何なさいますか?」

沈黙を破ったのは、私達三人の誰かでは無く・・・こちらに向かって歩いて来ているエレノアだった。

「あ、あぁ・・・!医務室に・・・運んで診て貰った方が良いだろうな。」

「はい。それで?私が運べるとでもお思いですか?」

満面の笑みでそう返事をしたエレノアに、よもや言い返せる人間はこの世のどこにも居ないと思う。
それ位、黒さを孕んだ笑みだったのだ。

「・・・はぁ、仕方ない。俺が運ぼう。」

溜息をついた殿下は、他に良い案が浮かばなかったのか、エレノアの黒い笑みに負けたのか、嫌々という感じで男子生徒の方へと歩き出すと、蹲っている男子生徒を肩を貸す形で立ち上がらせた。

「あの・・・会長・・・勝負は、どうしましょうか?」

去りゆく殿下の背中を弱々しい声でそう引き留めたお兄様に、殿下は背中を見せたまま答えた。

「本気でやる意思が無い者とする勝負など、ただの茶番だ。先ずは覚悟を決める必要が・・・有るのでは無いか?俺と勝負するよりも先に告白しなくてはいけない相手が居る筈だ・・・。」

殿下はそのままこちらをチラリとも振り返る事もせずに、庭園広場を立ち去ってしまった。

「最初で最後のチャンスだと思いますわよ?婚約者から告白のお許しが出るなんて・・・。無駄にしないで下さいませね。」

続いて殿下の後を追いかける様に歩き出したエレノアに、肩を叩かれたお兄様は何か耳元で言われている様子だが・・・私には全く聞こえなかった。



「あの~・・・お兄様?私達も帰りましょうか?」

俯いたまま微動だにしないお兄様に、堪らずそう声を掛けた私は、ベンチに置かれていたお兄様の荷物をいそいそと回収すると、お兄様の手を取り引っ張った。



「待って!!!」



お兄様の叫び声に足を止めた私は、驚きの余り目を見開いてしまう。

「ど、どうしたのですか?急に・・・」

普段、温厚なお兄様が叫ぶ事などそうそうある事では無い。
ただならぬ雰囲気を察した私は、お兄様の方をじぃっと見つめる。



「フローラ・・・好き・・・なんだ。」



絞り出す様な声でそう呟いたお兄様は、今にも泣き出してしまいそうな程、苦悶の表情を浮かべている。

「私もお兄様の事は大好きですわよ?」

私の返事がお気に召さなかったのか、首を左右に振り「違う」と言うお兄様に私は訳が分からなくなってしまい首を傾げてしまう。



「フローラの事が・・・妹としてじゃなくて・・・一人の女性として、好きなんだ。」



「一人の・・・女性・・・と、して・・・?」

(え?え?!えぇ?!・・・つまり、それってーーー!)

お兄様の告白に思考が付いていけない私は、オウムの様に言葉を継ぎ接ぎに繰り返すと、頭を両手で抱え、目をグルグル回してしまう。



「ずっと昔から・・・好きなんだ。諦めようと何回も何回も・・・言い聞かせて来たけど、無理で・・・。ごめん・・・、」



涙をポロポロと流すお兄様の姿は、産まれて初めてみる光景で・・・思わずお兄様を胸に抱き寄せてしまった。

「べ、別に謝る事では有りません!誰を好きになろうが・・・お兄様の自由ですわ。」

とは言ったもののーーー・・・正直、腑に落ちない。

(今世の私は、類を見ない程にやりたい放題していると言うのに・・・一体、何処に惹かれる部分が有ると言うのだろうか?)

「ありがとう、フローラ・・・もう大丈夫だから。」

私が自問自答をしている内に落ち着いた様子のお兄様は、私の腕を優しく解くと・・・泣いてしまったせいが顔が真っ赤になってしまっており・・・それを隠すかの様にずっと下を向いてしまっていた。

「お兄様・・・あの・・・私・・・、」

お兄様の気持ちを否定する気は毛頭無いが、自分が男としてお兄様を好きか?と聞かれると・・・答えは分からない。

好きでも無いし、嫌いでも無いのだ。

ただ・・・お兄様の告白に対して、何の答えも出さないのは失礼な気がしてしまい、必死に何か言おうと頭をフル回転させるが・・・言葉が見付からない。

「フローラ、良いんだ。告白をしてしまったが・・・この関係を壊したい訳では無いんだ。ーーフローラさえ良ければ、変わらず接して貰えると嬉しい。」

「ええ!も、勿論です!」

お兄様の願ってもない提案に目を輝かせて食いついた私は、すでにエンスト寸前だったので一安心してしまう。

「有難う、フローラ。さぁ、帰ろうか?」

「・・・・・・?」

お兄様に手を差し出された私は、何度もやり直して来たが・・・未だかつてお兄様から手を差し出された事など無かった為、何を要求されているのか分からず、キョトン顔になってしまう。

「手を繋ぎたいんだけど・・・駄目かな?」

「いや、別に・・・かまいませんけれど・・・。」

満面の笑みで私の手を繋いで来たお兄様は、あろう事か指を絡めて所謂〝恋人繋ぎ〟をして来た。

こんな繋ぎ方をされたのは、人生5回目にして初めての事だった為、思わず赤面してしまい恥ずかしさの余り、変な事を口走ってしまう。

「こここ、これではまるで・・・恋人同士だと勘違いされてしまいそうですわね?!」

「フローラは会長の婚約者として有名人だから・・・恋人は無いんじゃない?さしずめ、僕と不埒な関係を築いている位なんじゃないかなぁ?」

何故か楽しそうにそう話すお兄様に些か違和感を覚えながらも・・・お兄様の言葉に深く考えずに素で返してしまった。

「婚約者は気持ちが無くてもなれますが・・・恋人には、気持ちが無いとなれませんよ?全く別物ですわ!」

私の言葉を聞いたお兄様は、少し驚いた表情をした後に・・・蕩けそうな程に美しい笑みを浮かべた。

「そうだね・・・、フローラの言う通りだ。」

お兄様の見た事無い男性としての表情の数々に、心臓が持たないんじゃないか?と心配になる程、ドギマギしている私の事などお構い無しに・・・髪を掻き上げるお兄様の横顔の何と破壊力の有る事かーーー!!!



「ならば・・・フローラのに立候補しても良いかな?」



恋人繋ぎしたままのその手を・・・口許に寄せたお兄様は、私の手の甲に優しくチュッとキスをした。

「ひぇーーーっ?!!!」

予想外の行動に変な声が出てしまう。

「だ、駄目です!絶対に駄目です!!!」

お兄様の手の上で転がされてしまっている様な状況下に、何となく反抗したくなった私は顔を真っ赤にしながらもお兄様にそう告げる。

「どうして・・・?好きになるのは、自由なんじゃなかったの?」

「ドキドキし過ぎて心臓が持ちませんから・・・!だから・・・絶対に駄目です!」

私の返答に大笑いをしているお兄様に本格的に訳が分からなくなってしまった私は・・・何故笑うんだ!と問い正したかったが、

目の前のお兄様のこんな笑い声を聞くのは、久しぶりの事だったので、一先ず気が済むまで笑って貰おうと手を繋いだまま馬車へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...