【完結】殿下、5回目の婚約破棄は私の方からさせて頂きます!~やりたい放題していたら、いつの間にか逆ハー状態でした~

ゆきのこ

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本編 最終部 ~運命の姫君はパーティーにて~

紺色のドレス

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「お嬢様・・・とてもお似合いで御座います・・・!」

殿下が一昨日持って来て下さったドレスに袖を通した私は、アーニャからキラキラとした眼差しを受けていた。

「殿下がドレスを下さるなんて初めての事で驚いたけれど・・・本当、とても素敵だわ!」

殿下が今日の日の為にと誂えて下さったドレスは・・・紺色の落ち着いた色味に上半身は体のラインが出るピッタリとしたデザインだ。
スカート部分は下に行くほど広がり、またフリルがふんだんに配われている為ボリュームもある。
このドレスは、アーニャが言うには巷で流行中のマーメイドラインというものらしい。
とても大人っぽいデザインと色味のドレスに・・・殿下が今日という日の為に誂えて下さったという事が伺えた。

「初めて・・・?殿下からドレスの贈り物を頂くのは2回目では・・・?お嬢様」

私の言葉に小声でそう首を傾げる様子のアーニャに、思わず
「いや、そういう意味じゃなくて・・・前回迄だったら前日に婚約破棄されてたから~」
と口を滑らせてしまいそうになってしまったが、何とか口から出る前に堪える事が出来た。

「え、えぇそうね。殿下からドレスを頂くのは、4年前の王宮茶会の時以来の事だったわね・・・!」

慌ててそう訂正をすれば、アーニャがニッコリと頷いてくれたのでほっと胸を撫で下ろした。


(気を引き締めなくては・・・!)

そうなのだ。
私は、パーティー前日迄は既に4回もやり直しているのである程度分かっていたのだが・・・
今日以降は、5回目にして初めて迎える・・・言わば未知数の日々のスタートなのだ。

(今までは好き放題していても・・・ある程度、過去の経験予測で何とか出来ていたけれど・・・今日という日を今の私の状態で乗り切れるか心配・・・というか、不安しかないわ・・・!!!)

とは言えーーー。
あれだけ好き放題していた私が、今日から急に令嬢らしく慎ましくした所で嘘だとバレるのが落ちである。
ありのままの状態で何とか乗り切っていくしかない・・・。

「お嬢様、とても素敵です・・・!全て殿下にお任せしておけば大丈夫ですよ!」

俯いて考え事をしている私の姿がアーニャにはどうやら、自分のパーティーでダンスの失敗をしないかと心配している様子に見えたらしく・・・とても見当違いな励ましを受ける。

「アーニャ・・・。気持ちだけは受け取っておくわ?有難う・・・。」



ーーーコンコンッ、

「どうぞ?」

部屋にノックの音が鳴り響き、私が返事をしたと同時にアーニャが扉を開ける。

「お嬢様。ルークフォン様がいらっしゃいました。」

そこに立っていたのは執事のセバスチャンだ。
どうやら殿下を乗せた馬車が屋敷へ着いたので、玄関ホール迄お出迎えに降りて来いという事らしい。

「分かったわ。ーーーアーニャ、行ってくるわね?」

「行ってらっしゃいませ。お嬢様。」

三面鏡の前の椅子から立ち上がった私は、アーニャに軽く挨拶をすると玄関ホールへと向かった。






「お待ちしておりましたわ、殿下。」

「フローラ・・・着てくれたんだな・・・ドレス・・・。」

淑女の礼を取り殿下をお迎えしたものの・・・殿下は私が贈ったドレスを着ている事に凄く安心したらしく、出会って早々、そんなことをポツリと溢した。

よく見ると殿下のお召し物は・・・私のドレスと同じ生地で作られた燕尾服で、紺色の少し光沢のあるものだった。
私達2人が少なくともこのパーティーでは〝ペア〟であると・・・一眼で分かる様になっている。

「・・・?逆に着ない理由が有りますか?殿下が折角、今日という日の為に誂えて下さったものですから・・・有り難く袖を通させて頂きました!」

「いや・・・ドレスの感想を聞く前に帰ってしまったから・・・。でも良かったよ。着てくれて・・・俺がピエロにならずに済んだな。」

そういえば・・・そうだったわ!
殿下ったら一昨日は顔面蒼白になってしまうほど、体調が優れない様子だったけれど・・・
大丈夫だったのかしら?

(言われてみれば・・・今日も少し顔色が悪い様な?というか・・・目の下が黒い様な・・・?」

「殿下?もしかして・・・あまり眠れていないのですか?」

「少し考え込んでしまってな・・・まぁ、フローラのドレス姿を見たら吹っ飛んだから、大丈夫だ!」

(何故、そこで私のドレス姿が出てくるのだろうか?相変わらず分からない人だわ、殿下って。)

公務が立て込んでいるのか、はたまた想い人のことで眠れぬ夜を過ごしているのか・・・は分からないが、
どちらにせよ私に出来る事と言えば・・・今日のパーティーで殿下の恋の応援をする事と、殿下の手を煩わせない様にする事位な為、
敢えて深くは聞かず、そこで話を止めた。

「ご無理だけはなさらないで下さいね?気分が悪くなったらいつでも仰って下さい。」

「そしたら・・・フローラの部屋で優しく介抱でもして貰えるのか?」

ニヤリという表現がぴったりな笑みを浮かべながらそう返して来た殿下の姿に、思わず眉をひそめてしまう。

(だから何故・・・?何故、私がそこで出て来るの?!さっさと王宮に帰って、想い人に介抱して貰えば良いでしょう!寧ろ、貰うべきでしょうが?!!)

「殿下、私の事は気にせず王宮に帰って頂いて構いませんよ?まぁ別に、部屋で介抱位、して差し上げますけど・・・。」

「本当か?!!」

私の返答に食い気味でそう詰め寄って来た殿下に、思わず目を見開いてしまう。
何故か目を輝かせながら私の両手を掴み取る殿下に全く訳が分からなかったが・・・取り敢えず頷いておいた。

「仮病は・・・駄目ですよ?!本当に調子が悪くなったら、部屋で介抱位しますよ、別に・・・。」

別に殿下に限らず・・・それがサイラスでもエレノアでもそうするでしょう?普通に・・・として。
と言葉を続けようと思ったが、何故か殿下が凄く機嫌が良くなっていたので・・・何となく止めておいた。

「その言葉を聞けただけで十分だ・・・!さぁ、ではフローラ・・・お手をどうぞ?」

満面の笑みでそう格好良く腕を差し出す殿下の姿に少し胸が高鳴る。
だって・・・いつも格好良い殿下が今日は正装なんてしているのだ。
20歳の殿下の笑顔や優しい物言いに慣れていない・・・というのも有ると思うが・・・
この男、見た目だけで言うと国一番と言って差し支えないほどの格好良い男なのだ。
直視するのは賢明な判断とは言えないだろう・・・。

「あ、有難うございます・・・。」

何とか俯きながらも返事をした私は、殿下の腕を取り初めて迎える18歳の誕生パーティーの会場へと、足を進めた。


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