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第11.5輪 艶めかしい想い人
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今日は数日振りの雨が降っている。窓から滴る水の跡をなぞる色白で細長い指先は、人の形を描いた。
つり上がった目の特徴的な男だと分かる。
埃一つない整頓された長机の上へ置かれた鏡に映る光画を指先でなぞった。嫌そうに横を向いて映る赤い髪に、赤薔薇のように深い色をした双眸の男と、ふわふわした白銀の髪の自分が映っている。
壁には天井まで到達した書棚が囲み、一つの二人用ソファーと硝子机はすべて白を基調とされていて清潔感が漂っていた。此処は、副団長を務めるグラキエスに与えられた部屋である。
イグニスと二度目の危ない展開があったあと、今度ばかりはやりすぎたと反省していた。あれから仕事以外で明らかに避けられている。
ただ、嫌悪感よりも戸惑いや葛藤、恥じらいに近いものが見える姿に、グラキエスも沈んでいるわけじゃない。寧ろ、イグニスを恋愛感情として意識し、性的な目で見るようになってかれこれ約十五年間で最も進展したと言っても良いくらいだ。
「――尻尾の付け根が、あんなに敏感だとは……思ってたんだけどねぇ」
反省していると言って、正直なところしていないかもしれないグラキエスは、うっとりした表情で思い出す。
◆◆◆
あのときは本当に心配して伸ばした手だった。掴んだのは、ずっと触れたかった靭やかな尻尾のはずだったのに、聞いたことのない艶っぽい声が鼓膜を震わせた瞬間――。
自分の中に閉じ込めていた雄が育っていく。
肢体を震わせるイグニスと目が合った瞬間も、虚勢を張る小動物にしか見えていなかった。
「――てめぇ……どこ握ってやがる‼」
視線を下へ向けてから、握っている感覚からも分かっていた赤薔薇の尻尾の付け根を確認して、愛撫のように優しく上から下に撫であげたらどういう反応をするか見たくて衝動的に指が動く。
ビクビクと痙攣したように肩を揺らすイグニスが、漏れそうになる声を必死に抑えている姿は感情を煽っているようにしか見えなくなっていた。
「――ああ、そんなえっちな表情で雄を誘うんだね」
いやらしい笑みに隠した本音を心の中で呟きながら半分冗談でからかい、更にその先を知りたくなって上下に撫であげる指の動きは止まらない。
明らかに性感がイグニスの体を巡っているのを分かった上で、距離を縮めて襟首を締め上げられたときにゾクッとする感覚に襲われる。
「――やめ、ろッ……!」
「――ああ、顔を真っ赤にして……限界が近いんだね?」
自分自身も主に下半身に熱を帯びているのを感じながら、最後の仕上げとばかりに靭やかな尻尾の付け根を強く握った瞬間、思い描いていた以上の甘美な声で、グラキエスの股間は張り裂けそうなくらい膨らんだ。
ビクッと大きく体を揺らしたイグニスが胸板に顔を埋めてきた時さえ「このまま犯したい」と本能が訴えていた。
「ぁ……んっ……!」
それは普段、声の低いイグニスからは想像出来ないほど生々しい。艶かしい声は、明らかに雄を誘うものだった。我ながら理性がもったことを誇らしく思ったグラキエスは、そのあとのことを思い出して目線を下げる。
鮮明に思い出される恐怖の感情が、グラキエスの胸を打った。
明らかに恐怖の色が混ざっている絞り出された想い人から、知りたくない感情である。
グラキエスは聖女へ覚醒したときに他人の感情を読む能力に目覚めた。
自分の手にあるのは性的な神経を司る部位で、弱みを握られている以上イグニスの行動は制限される。
このあと何をされるのか、圧倒的に感情の多くを占めていた恐怖と、僅かな期待が混じっていた。期待の部分は、本能的なものだろう。
一気に熱を持っていた股間の膨らみも冷めていって萎んでしまう。
「――怖い思いをさせてごめんね?」
本当に言いたかった言葉は、拒絶されたらという恐怖で口からでなかった。当然、イグニスからの言葉は返ってこない。
下を向いたまま目を合わせないイグニスが唇を噛み締めて、震える肢体を左手で抱きしめていたとき、自分の行いへの葛藤に支配される。
「……きっと、あのまま進んでいたら、抱くことは出来ただろうけど……。イグニスの心は僕を遠ざけた。それは、最も耐え難い――」
性的な目でイグニスを見ているのは事実で変えるつもりもないが、それ以上に自分を好きになってほしいと思っているグラキエスは、やってはいけない行動をした。
雨の件を境に、自分の本能を抑えきれなくっていることに対してため息が出る。女遊びとは違った。精神が繋がって、肉体でも繋がりたいと思っているグラキエスは、煩悩を払うように頭を振る。
「……でも、イグニスも悪いんだよ。あんな、えっちな声が出るとは思わないでしょ――」
だが、ただではへこたれないグラキエスは二度の危ない展開で得られた感情に鼻歌を歌った。約十五年間。少しの性的接触に対しても侮蔑な顔をするだけだったイグニスから、嫌じゃないかもしれないという曖昧な感情を読み取っていた。これは、大きな進展である。
自分以外の男から向けられる視線や態度に、嫌悪感しか伝わってこないイグニスが唯一向ける感情を知った。
「アクアの言うとおり、押して押して引く作戦だ。次は、本来の性感帯に触れたときの感情が知りたいなー……」
最終的にまったく懲りていない男は、肉体的な甘美を植え付けて、精神的にも意識してもらおう作戦を考えてほくそ笑む。
丁度そんなときに扉を叩く音がした。イグニスのすべてを把握していると言っても過言じゃないグラキエスは、扉を叩く音の僅かな変化だけで相手を特定する。
自ら進んで開けた扉の先には、愛しい想い人の姿があった。
雨のせいで顔色の悪い様子で視線をそらす姿は、完全に自分を意識している。男らしくも高い鼻筋に、切れ長で深みのある赤薔薇を思わせる双眸は睫毛が長い。
「……仕事を、手伝ってくれ……」
聞こえてくる弱々しい声が再び股間に熱を与える。絞り出す低い声に、満面な笑みで返すグラキエスは部屋を出ると、イグニスの隣を歩きながら何度目かの「ごめんね?」を呟いた。
つり上がった目の特徴的な男だと分かる。
埃一つない整頓された長机の上へ置かれた鏡に映る光画を指先でなぞった。嫌そうに横を向いて映る赤い髪に、赤薔薇のように深い色をした双眸の男と、ふわふわした白銀の髪の自分が映っている。
壁には天井まで到達した書棚が囲み、一つの二人用ソファーと硝子机はすべて白を基調とされていて清潔感が漂っていた。此処は、副団長を務めるグラキエスに与えられた部屋である。
イグニスと二度目の危ない展開があったあと、今度ばかりはやりすぎたと反省していた。あれから仕事以外で明らかに避けられている。
ただ、嫌悪感よりも戸惑いや葛藤、恥じらいに近いものが見える姿に、グラキエスも沈んでいるわけじゃない。寧ろ、イグニスを恋愛感情として意識し、性的な目で見るようになってかれこれ約十五年間で最も進展したと言っても良いくらいだ。
「――尻尾の付け根が、あんなに敏感だとは……思ってたんだけどねぇ」
反省していると言って、正直なところしていないかもしれないグラキエスは、うっとりした表情で思い出す。
◆◆◆
あのときは本当に心配して伸ばした手だった。掴んだのは、ずっと触れたかった靭やかな尻尾のはずだったのに、聞いたことのない艶っぽい声が鼓膜を震わせた瞬間――。
自分の中に閉じ込めていた雄が育っていく。
肢体を震わせるイグニスと目が合った瞬間も、虚勢を張る小動物にしか見えていなかった。
「――てめぇ……どこ握ってやがる‼」
視線を下へ向けてから、握っている感覚からも分かっていた赤薔薇の尻尾の付け根を確認して、愛撫のように優しく上から下に撫であげたらどういう反応をするか見たくて衝動的に指が動く。
ビクビクと痙攣したように肩を揺らすイグニスが、漏れそうになる声を必死に抑えている姿は感情を煽っているようにしか見えなくなっていた。
「――ああ、そんなえっちな表情で雄を誘うんだね」
いやらしい笑みに隠した本音を心の中で呟きながら半分冗談でからかい、更にその先を知りたくなって上下に撫であげる指の動きは止まらない。
明らかに性感がイグニスの体を巡っているのを分かった上で、距離を縮めて襟首を締め上げられたときにゾクッとする感覚に襲われる。
「――やめ、ろッ……!」
「――ああ、顔を真っ赤にして……限界が近いんだね?」
自分自身も主に下半身に熱を帯びているのを感じながら、最後の仕上げとばかりに靭やかな尻尾の付け根を強く握った瞬間、思い描いていた以上の甘美な声で、グラキエスの股間は張り裂けそうなくらい膨らんだ。
ビクッと大きく体を揺らしたイグニスが胸板に顔を埋めてきた時さえ「このまま犯したい」と本能が訴えていた。
「ぁ……んっ……!」
それは普段、声の低いイグニスからは想像出来ないほど生々しい。艶かしい声は、明らかに雄を誘うものだった。我ながら理性がもったことを誇らしく思ったグラキエスは、そのあとのことを思い出して目線を下げる。
鮮明に思い出される恐怖の感情が、グラキエスの胸を打った。
明らかに恐怖の色が混ざっている絞り出された想い人から、知りたくない感情である。
グラキエスは聖女へ覚醒したときに他人の感情を読む能力に目覚めた。
自分の手にあるのは性的な神経を司る部位で、弱みを握られている以上イグニスの行動は制限される。
このあと何をされるのか、圧倒的に感情の多くを占めていた恐怖と、僅かな期待が混じっていた。期待の部分は、本能的なものだろう。
一気に熱を持っていた股間の膨らみも冷めていって萎んでしまう。
「――怖い思いをさせてごめんね?」
本当に言いたかった言葉は、拒絶されたらという恐怖で口からでなかった。当然、イグニスからの言葉は返ってこない。
下を向いたまま目を合わせないイグニスが唇を噛み締めて、震える肢体を左手で抱きしめていたとき、自分の行いへの葛藤に支配される。
「……きっと、あのまま進んでいたら、抱くことは出来ただろうけど……。イグニスの心は僕を遠ざけた。それは、最も耐え難い――」
性的な目でイグニスを見ているのは事実で変えるつもりもないが、それ以上に自分を好きになってほしいと思っているグラキエスは、やってはいけない行動をした。
雨の件を境に、自分の本能を抑えきれなくっていることに対してため息が出る。女遊びとは違った。精神が繋がって、肉体でも繋がりたいと思っているグラキエスは、煩悩を払うように頭を振る。
「……でも、イグニスも悪いんだよ。あんな、えっちな声が出るとは思わないでしょ――」
だが、ただではへこたれないグラキエスは二度の危ない展開で得られた感情に鼻歌を歌った。約十五年間。少しの性的接触に対しても侮蔑な顔をするだけだったイグニスから、嫌じゃないかもしれないという曖昧な感情を読み取っていた。これは、大きな進展である。
自分以外の男から向けられる視線や態度に、嫌悪感しか伝わってこないイグニスが唯一向ける感情を知った。
「アクアの言うとおり、押して押して引く作戦だ。次は、本来の性感帯に触れたときの感情が知りたいなー……」
最終的にまったく懲りていない男は、肉体的な甘美を植え付けて、精神的にも意識してもらおう作戦を考えてほくそ笑む。
丁度そんなときに扉を叩く音がした。イグニスのすべてを把握していると言っても過言じゃないグラキエスは、扉を叩く音の僅かな変化だけで相手を特定する。
自ら進んで開けた扉の先には、愛しい想い人の姿があった。
雨のせいで顔色の悪い様子で視線をそらす姿は、完全に自分を意識している。男らしくも高い鼻筋に、切れ長で深みのある赤薔薇を思わせる双眸は睫毛が長い。
「……仕事を、手伝ってくれ……」
聞こえてくる弱々しい声が再び股間に熱を与える。絞り出す低い声に、満面な笑みで返すグラキエスは部屋を出ると、イグニスの隣を歩きながら何度目かの「ごめんね?」を呟いた。
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