【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第12輪 枯れ落ちそうな一輪の花

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 リトス王国は魔法に愛され、国民の大半が使えるほど他国では珍しい魔法国家である。そして、現団長が薔薇を操る精霊の加護を与えられていることから、一部では“薔薇薗バラぞの”と呼ばれていた。
 王国魔法騎士団にも様々な部署が存在している。
 今日は、国王陛下の右腕である補佐官から伝えられたことを確かめるために、城内のある場所を訪れていた。

 あまり人が来ない地下室で秘密裏に置かれた部屋。一部の者しか知らない魔法具開発部だ。しかも、魔法具を開発している筆頭が癖の強い人間で、ついていけないと去る者が多く、今では一人で引きこもっている。

 報告は週の一度という約束だったのだが、二週間も音沙汰なし。どうして国王の補佐官や、他の者が確認しないかというと、噂が錯綜して不用意に関わりたくないという理由だった。そこで団長のイグニスに白羽の矢が立ったのである。

 当然、心配だからとついてくるグラキエスも、男のことは知っていた。

「まぁ、あの男は無害だから心配とか何もないんだけどねー」
「……ならどうしてついてきやがった」
「えー。言わせるのー? もちろん、イグニスとの仲を深めるためだよ……ほら、心理的な変化で僕を好きになるきっかけが生まれる可能性もあるでしょ?」

 言葉の代わりに呆れた表情と白い目で返すイグニスは、地下室を下りた奥にある壁へ触れる。壁の一枚が反応するように淡く光りだすと、どこからともなく『承認しました』と聞こえてきて、重低音を響かせながら入口が開いた。
 これは魔力認証と同じだが、それよりも高性能で、未登録の何者かが触れると電流が流れる仕掛けまである。
 あくまで入口のため、中も仄かな明かりのついた通路が続いていて、いくつか魔法具や材料の置かれた扉がない部屋を横切った先に、立派な赤い扉があった。

 軽く扉を叩くと、中から騒がしい音がしてから静まり返る。
 この扉にはなんの細工もなく、中から鍵が開けられると亡霊のような影が現れた。

「おい、ラント。俺の仕事を増やすんじゃねぇ……」
「本当だよー。僕たちの愛を育む時間が減っちゃうでしょー」
「――そんなの、大量にあってたまるか……」

 グラキエスの「ごめんね」効果と、与えられた刺激が僅かでも嫌じゃないと感じてしまったイグニスは葛藤しながらも許してしまい、関係は良好に戻っている。
 この部屋で引きこもっているラント・モナクスィアですら、個人的な二人の噂は知っていた。

 口から何かを吐き出しそうな勢いで、一歩後退るラントは部屋に招き入れる仕草を取る。散らかっているかと思った部屋の中は整頓されていた。
 効果の分からない魔法具が大事そうに置かれている棚を物色しながら、視線を亡霊のような男へ注ぐ。

 縮れ毛の黒い髪は艶もなく頭皮に張り付いたようで、影を落とすような深い闇のような双眸は曇って映った。
 王国魔法騎士団に支給されるローブは着ておらず、代わりに白衣を着ているせいで、亡霊感が際立っている。

「……風呂は入ってんのかよ」
「ひ、ひゃい⁉ こ、これでも……は、は入っている、よ……」

 言葉が詰まったように歯切れの悪さが伝わってくる小さくて、少しだけ高めの声が微かに聞こえてきた。この話し方も、噂が独り歩きして悪目立ちしている要因である。
 だが、これは本人の個性でもあるため強制的に変えろとは言わない。

 部屋の隅にある長机の後ろへ置かれた長椅子に座るラントは膝を組んで縮こまる。
 自然と上から威圧する形になるが、相手によって態度を変えたりしないイグニスは、補佐官から渡された書類を読み始めた。

「二週間も報告義務を怠った魔法具開発部長ラント・モナクスィアに、一日の外出命令を下す。本日、自室並びに地下室での活動を禁ずる――」
「ひゅ――」

 何かが口から抜け出したような音がして、顔面蒼白になったラントは暫くして絶望を体現するように床へ四つん這いとなって泣き始める。
 骨ばった細くてすぐ折れそうな体に合わない長身であり、実はイグニスより年上の男が醜態を晒していた。
 呆れを含んだ双眸を向けながら、その世話を任されたことを知ったイグニスも頭を抱える。一日世話をさせられることを知ったグラキエスだけが、ラントへ羨ましそうな眼差しを向けていた。

「むぅ……僕もイグニスに世話されたい。もちろん、湯浴みのお世話も……」
「――てめぇの目的は、一番最後だろうが……」
「えー……だって、イグニスにしもの世話をされるなんて……えっちな展開しかないよね?」

 さらに頭を抱えるイグニスの腰へ伸ばされる手を捻り上げる。第三者がいても変わらない態度のグラキエスに、顔を強張らせるラントは乾いた笑い声を上げた。

 陛下の右腕である補佐官の言葉は王命と同じで、数年ぶりに支給品の黒いローブを羽織ったラントが緊張で震えてこちらを見る。

 ――服に着られていた。

 腹を抱えて笑うグラキエスを尻目に、ラントは萎縮して膝を抱えてしゃがみ込み、イグニスの溜息が漏れる。

 なんとか外へ連れ出したラントはイグニスの後ろに隠れて背後霊と化していた。
 それを当然良く思わないグラキエスが隣で脅かしている。
 周りからは異様な眼差しが向けられた。

「……てめぇ、いい加減にしろ。一人で歩きやがれ!」
「ひっ……! で、ででも……外が、眩しくて……怖ひっ」
「からかいがいはあるよねー。ただ……イグニスにくっつきすぎだから……」
「ひっ……ぃ‼」

 さらに怯えて萎縮するラントを見て、グラキエスの頭をはたく。
 三人が歩いているのは、魔法騎士団長と副団長に設けられた部屋のある一階だった。
 外出命令とあるが、自室と地下室は駄目なだけで、王城から出ろとは書かれていなかったため団長室を目指している。団長室なら仕事をしながらラントの世話も出来るからだ。

 だが、新人や魔法騎士団に入って二、三年の者は存在すら知らない男。髪は多少整えたが、それでも人の目を引く身長と服に着られている感が拭えなかった。

 団長室へ戻ってきて漸く落ち着いたイグニスは、自分の椅子に座る。おどおどしているラントは、グラキエスの圧力で半強制的にソファーへ座らされていた。

「それで、どうして週一回の報告をしなかったんだ?」
「そ、それは……素直に、わ、忘れてました……。新作の魔法具を思いついて――!」
「君って本当、大好きな魔法具の話はまともに話せるよねー。早口だけど」

 実際、ラントは魔法具のことになると話下手が嘘のように、目も覇気に満ちて人が変わる。
 魔法具に興味があるグラキエスも、なんだかんだラントの話を聞いていた。
 ただ、苦言だけは提示する。

 グラキエスにラントを任せて仕事を再開してすぐ、激しく扉を叩く重低音が響いた。緊急事態の場合は、許可を得ず開けても良いことになっているため、団長室と分かって激しく叩く者はいない。
 イグニスの代わりに目の据わったグラキエスが扉を大きく開けた。

 扉前にいたのは、グラキエスと目線が変わらない長身の男。一般団員が着る黒いローブを纏り、明るい黄昏たそがれ色の癖っ毛が少し首にかかっている青年だった。
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