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第13輪 期待の若葉は新人わんこ
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毛色と同じ黄昏色をした瞳はらんらんとしていて、満面の笑みを浮かべる好青年という印象だった。
獣人だったら太い尻尾でも振っていそうだなと思うイグニスは、軽く咳払いする。
それに気づいた様子の好青年は、背筋を正して敬礼した。身長は扉を死守しているグラキエスとほぼ変わらない。
「申し訳ございません‼ オレは、少し前から王国魔法騎士団に配属されたグローム・ペルロです! その……珍獣が現れたと聞きまして‼」
珍獣という聞き慣れない単語に横を向くグラキエスと視線が重なる。それから、ソファーで怯えたように頭を抱えて座るラントへ向けた。
珍しい生き物と言われたら、頷いてしまいそうだが、珍獣ではない。だが、グローム・ペルロと名乗った好青年もラントに気づき「失礼します!」と明るい声で勝手に入ってきてソファーまで駆けていく。
「おい……勝手に入るんじゃねぇ、新米」
「もしかしなくても! 貴方が、珍獣さんですか⁉」
「ひっ! ひぇぇぇ⁉ よ、よ陽の気で、溶けるぅぅう‼」
ラントには眩しすぎる存在らしく話しかけられただけで萎縮して、隠れようがない長い体を更に縮めていた。
それをグラキエスと違って面白がる素振りもなく、らんらんとした双眸で見つめている姿は犬にしか見えない。
何を思ったのか不敵な笑みを浮かべるグラキエスに気づいたイグニスは椅子から立ち上がる。
「ねぇー……新人わんこ君。一部だけ変身魔法使っても良いー?」
「はい……? 痛い系じゃなかったら良いですよ! 寧ろ、メディシーナ副団長の魔法なんて光栄です‼」
「――よし、言質取った」
「おい……てめぇは何をしようとしてんだよ」
団員同士の戦闘や許可のない魔法は禁止されていた。
止めようとするイグニスの言葉を制止して、グラキエスは軽く魔法を唱えてしまう。
その瞬間、グロームの耳が消えて頭に黄昏色をした大きくてモフモフした耳と、太い尻尾が現れた。
目を見張るイグニスに反して、歓喜の声を上げるグロームの大きな尻尾はグラキエスが変身薬で飲んだとき以上にブンブン振られている。
呆れて額に手をやるイグニスと裏腹に喜んでいる獣人化したグロームは自分の尻尾を追いかけて回転し始めた。
大きな男が駆け回る音は外まで響き、何事だと他の団員たちも集まってくる。
開けっ放しだった扉を笑顔のグラキエスが閉めてから、責任持って遮断魔法を展開した。
「よし、これで外には漏れないね」
「……全然、良しじゃねぇ‼ ペルロ! てめぇも静かにしやがれ」
「はっ! 申し訳ございませんでした‼」
二人して動きを止めるが、明らかに反省していないグラキエスのだらしない笑顔で深いため息が漏れる。
相変わらず尻尾を軽快に揺らしながら、イグニスの怒鳴り声で更に怯えきったラントは部屋の隅で縮こまっていた。
懐く要素はまったくないはずのグロームも、隣で座り込んで懲りずに話しかけている。
異様な雰囲気の中、仕事も身に入らないイグニスは元凶のグラキエスを睨みつけながら、注がれた紅茶を飲んでいた。
「イグニスもさー……もっと、僕の食事や飲み物に警戒してくれないとー」
「……変なものでも入れやがったら、絶交だ……」
「ひどい! そんなの入れないから、そろそろ僕の料理に胃袋掴まれてよー」
耳元でうるさく囀るグラキエスから視線を外したイグニスは、すでに胃袋を掴まれているとも言える。
なぜなら、朝食から夕食までグラキエスが運んでくる料理しか手をつけていないからだ。
それは、グラキエスが入団してから体調不良を差し引いて、ずっと続いている。
当然、料理が美味しいと感想を述べたことは一度もない。つけ上がるのは目に見えているから。
暫くして静かになった室内の違和感で、視線を部屋の隅へ向ける。魂の抜けたような顔で放心したラントの肩に、グロームの頭が乗っていた。
朝から昼まで鍛錬が日課の魔法騎士団で、新人は特に先輩から絞られて疲弊していく。
リトス王国は、珍しく魔法大国であり、剣術指南はしない。ただ、通常の魔法使いと違って基礎体力向上のために訓練はしていた。
だから力尽きたのだろう。
「……騒がしい子犬みてぇな野郎だ」
「そうだねー……名前は知ってたけど。あと、僕と違って純粋にキラキラしてるなーって」
「…………てめぇは、欲に塗れてるからだろ」
満面の笑みを浮かべてジリジリと近づいてくる男は、後ろから抱きつこうとして両手で防がれた。
静かな攻防が始まる中、大きな欠伸と共に目を覚ましたグロームが立ち上がって、こちらを見てくる。
「聞いていたとおり、お二人は仲良しなんですね!」
ブンブンと太い尻尾を振りながら、汚れのない眼差しが向けられた。
――眩しい。
一瞬の油断は命取りと言うように、手の力が抜けたイグニスは細長い腕に抱きしめられる。
抱き締めるだけならまだしも、すぐ調子に乗るグラキエスの指先は脇腹へ伸ばされた。
素直に触らせる訳がなく、手で払いのけようとしたときだった。
逃げる指先が、布越しにイグニスの胸元へ触れる。グラキエスが薄紅色の小さな花と呼んでいる未発達な場所の、すぐ横側だった。
ほんの一瞬だけ、指の腹で触れられると服が擦れてゾクッとした痺れる感覚がして思い切り振り払う。
一部始終を見ていたグロームは、尻尾をピンと立て反対に耳を寝かせて心配そうな顔をしていた。
「あ……ごめんね? 触っちゃ駄目なところに当たったみたい」
「――当てたんだろうが……」
苦虫を噛み潰すような普段より低い声で睨みつけるイグニスの反応を見て、笑みを深める顔は心底嬉しそうで舌打ちする。
此処までなら大丈夫というのを認識しているような動きを見せるグラキエスは、イグニスを焦らしてさえ感じられた。
心配するグロームに「いつものことだから大丈夫だよ」と笑顔を向けるグラキエスの言葉で再び尻尾が揺れる。純粋さを忘れたグラキエスと違って愛らしく映った。
そんなギスギスした空気を払拭するように大きな音が鳴る。注目したのは音の出所であるグロームだった。
「はっ! すみません。昼食の時間を忘れてました‼」
恥ずかしそうに腹部を押さえるグロームは、それだけ言って「失礼しましたー!」と立ち去っていく。
嵐のような男が去ったあと、目を覚ますラントの前で再び怪しい動きを見せるグラキエスは、本気で腕を捻られ叫び声を上げた。
獣人だったら太い尻尾でも振っていそうだなと思うイグニスは、軽く咳払いする。
それに気づいた様子の好青年は、背筋を正して敬礼した。身長は扉を死守しているグラキエスとほぼ変わらない。
「申し訳ございません‼ オレは、少し前から王国魔法騎士団に配属されたグローム・ペルロです! その……珍獣が現れたと聞きまして‼」
珍獣という聞き慣れない単語に横を向くグラキエスと視線が重なる。それから、ソファーで怯えたように頭を抱えて座るラントへ向けた。
珍しい生き物と言われたら、頷いてしまいそうだが、珍獣ではない。だが、グローム・ペルロと名乗った好青年もラントに気づき「失礼します!」と明るい声で勝手に入ってきてソファーまで駆けていく。
「おい……勝手に入るんじゃねぇ、新米」
「もしかしなくても! 貴方が、珍獣さんですか⁉」
「ひっ! ひぇぇぇ⁉ よ、よ陽の気で、溶けるぅぅう‼」
ラントには眩しすぎる存在らしく話しかけられただけで萎縮して、隠れようがない長い体を更に縮めていた。
それをグラキエスと違って面白がる素振りもなく、らんらんとした双眸で見つめている姿は犬にしか見えない。
何を思ったのか不敵な笑みを浮かべるグラキエスに気づいたイグニスは椅子から立ち上がる。
「ねぇー……新人わんこ君。一部だけ変身魔法使っても良いー?」
「はい……? 痛い系じゃなかったら良いですよ! 寧ろ、メディシーナ副団長の魔法なんて光栄です‼」
「――よし、言質取った」
「おい……てめぇは何をしようとしてんだよ」
団員同士の戦闘や許可のない魔法は禁止されていた。
止めようとするイグニスの言葉を制止して、グラキエスは軽く魔法を唱えてしまう。
その瞬間、グロームの耳が消えて頭に黄昏色をした大きくてモフモフした耳と、太い尻尾が現れた。
目を見張るイグニスに反して、歓喜の声を上げるグロームの大きな尻尾はグラキエスが変身薬で飲んだとき以上にブンブン振られている。
呆れて額に手をやるイグニスと裏腹に喜んでいる獣人化したグロームは自分の尻尾を追いかけて回転し始めた。
大きな男が駆け回る音は外まで響き、何事だと他の団員たちも集まってくる。
開けっ放しだった扉を笑顔のグラキエスが閉めてから、責任持って遮断魔法を展開した。
「よし、これで外には漏れないね」
「……全然、良しじゃねぇ‼ ペルロ! てめぇも静かにしやがれ」
「はっ! 申し訳ございませんでした‼」
二人して動きを止めるが、明らかに反省していないグラキエスのだらしない笑顔で深いため息が漏れる。
相変わらず尻尾を軽快に揺らしながら、イグニスの怒鳴り声で更に怯えきったラントは部屋の隅で縮こまっていた。
懐く要素はまったくないはずのグロームも、隣で座り込んで懲りずに話しかけている。
異様な雰囲気の中、仕事も身に入らないイグニスは元凶のグラキエスを睨みつけながら、注がれた紅茶を飲んでいた。
「イグニスもさー……もっと、僕の食事や飲み物に警戒してくれないとー」
「……変なものでも入れやがったら、絶交だ……」
「ひどい! そんなの入れないから、そろそろ僕の料理に胃袋掴まれてよー」
耳元でうるさく囀るグラキエスから視線を外したイグニスは、すでに胃袋を掴まれているとも言える。
なぜなら、朝食から夕食までグラキエスが運んでくる料理しか手をつけていないからだ。
それは、グラキエスが入団してから体調不良を差し引いて、ずっと続いている。
当然、料理が美味しいと感想を述べたことは一度もない。つけ上がるのは目に見えているから。
暫くして静かになった室内の違和感で、視線を部屋の隅へ向ける。魂の抜けたような顔で放心したラントの肩に、グロームの頭が乗っていた。
朝から昼まで鍛錬が日課の魔法騎士団で、新人は特に先輩から絞られて疲弊していく。
リトス王国は、珍しく魔法大国であり、剣術指南はしない。ただ、通常の魔法使いと違って基礎体力向上のために訓練はしていた。
だから力尽きたのだろう。
「……騒がしい子犬みてぇな野郎だ」
「そうだねー……名前は知ってたけど。あと、僕と違って純粋にキラキラしてるなーって」
「…………てめぇは、欲に塗れてるからだろ」
満面の笑みを浮かべてジリジリと近づいてくる男は、後ろから抱きつこうとして両手で防がれた。
静かな攻防が始まる中、大きな欠伸と共に目を覚ましたグロームが立ち上がって、こちらを見てくる。
「聞いていたとおり、お二人は仲良しなんですね!」
ブンブンと太い尻尾を振りながら、汚れのない眼差しが向けられた。
――眩しい。
一瞬の油断は命取りと言うように、手の力が抜けたイグニスは細長い腕に抱きしめられる。
抱き締めるだけならまだしも、すぐ調子に乗るグラキエスの指先は脇腹へ伸ばされた。
素直に触らせる訳がなく、手で払いのけようとしたときだった。
逃げる指先が、布越しにイグニスの胸元へ触れる。グラキエスが薄紅色の小さな花と呼んでいる未発達な場所の、すぐ横側だった。
ほんの一瞬だけ、指の腹で触れられると服が擦れてゾクッとした痺れる感覚がして思い切り振り払う。
一部始終を見ていたグロームは、尻尾をピンと立て反対に耳を寝かせて心配そうな顔をしていた。
「あ……ごめんね? 触っちゃ駄目なところに当たったみたい」
「――当てたんだろうが……」
苦虫を噛み潰すような普段より低い声で睨みつけるイグニスの反応を見て、笑みを深める顔は心底嬉しそうで舌打ちする。
此処までなら大丈夫というのを認識しているような動きを見せるグラキエスは、イグニスを焦らしてさえ感じられた。
心配するグロームに「いつものことだから大丈夫だよ」と笑顔を向けるグラキエスの言葉で再び尻尾が揺れる。純粋さを忘れたグラキエスと違って愛らしく映った。
そんなギスギスした空気を払拭するように大きな音が鳴る。注目したのは音の出所であるグロームだった。
「はっ! すみません。昼食の時間を忘れてました‼」
恥ずかしそうに腹部を押さえるグロームは、それだけ言って「失礼しましたー!」と立ち去っていく。
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