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第14輪 てめぇが俺で、キミが僕?
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朝日が差す頃。密かに足音が廊下から漏れ聞こえて目を覚ます。忘れたくても忘れられない危険な足音は、ごく僅かなもの。だが、それを危険と本能で感じ取っているイグニスの眠りを妨げるに値するものだった。
何重にも張ってあるはずの防護結界を解いて、こっそり扉が開かれる。朝日だけが溢れる薄暗い寝室に足を踏み入れた侵入者は、ベッドから上半身を起こしたイグニスと対峙した。
「あ……イグニス、起きてた?」
誤魔化すこともせず悪びれた様子のない侵入者は一人しかいない……。部屋に何重の防護結界魔法を張っている張本人、グラキエスだった。
寝室は無防備のため、魔力認証が必要不可欠なはずなのに……この男は、それをまんまと潜り抜け扉を開けられる。
聖女として異常な進化を遂げているグラキエスが敵国にいたら、イグニスの命はないかもしれない。
乱れた髪と赤い寝衣を整えるイグニスは盛大なため息を吐く。これは週に二、三回は起きていた。二回は寝込みを襲いに、そして一回は何かの発見や見せたい物があるときだったりする。
すでに二回寝込みを襲われているイグニスは眉を寄せた。
「おい……今日はなんなんだ」
起きる時間より二時間早く起こされているため眠気で思考が回っていないイグニスを、うっとりした顔で眺めるグラキエスはゆっくり近づいてくる。
両手で何かを持っていることに気づいてベッドから立ち上がろうとするイグニスへ待ったがかかった。
「あからさまに逃げないでよー。実はねー……面白い魔法薬が出来たんだよ!」
グラキエスは副団長になるまでの間、王国魔法騎士団の魔法薬部に所属していた経歴がある。実は今でも足繁く通っているらしい。
早朝に持ってくると言うことは危険薬物で間違いなかった。
細長い硝子の瓶に入った毒々しい紫色の怪しさしかない液体が二本ある。魔物実験はしたのか、人間が飲める物なのか……色々言いたいことはあった。だが、昨日は深夜まで残業して睡眠時間が三時間程度の頭で出てくる言葉は少ない。
「……俺に向けるな……」
「えー。イグニスのために作ったのにー……これを飲むと、元気になるんだよー」
毒々しいと言うよりも、寧ろ毒と言っても過言じゃない見た目で元気になるなんて思えなかった。
ベッドの上で後退るイグニスは、得意の魔法を唱える気で口を開く。
その僅かな動きより、素早く反応したグラキエスは硝子の瓶をイグニスの口へ流し込んだ。
「うっ……ゲホ、ゲホ……てめぇ――」
「大丈夫だってー、僕も一緒に飲むからさ!」
咽て咳をする傍らで一気に飲み干すグラキエスは、平気な顔をしている。効果や時間について説明しようとしたグラキエスは、急に険しい表情をして硝子の瓶が床へ転がり落ちる。
イグニスの寝室の床はカーペットが敷かれていて割れなかった。
それよりも、喉仏を押さえて苦しそうにするグラキエスへ手を伸ばしたイグニスの胸も焼けるような激痛が走る。
「ぐっ……お、い……本当に、成功……したのか」
「はは……おかしい……な……痛っ!」
床へ四つん這いになる格好でうずくまるグラキエスと、ベッドの上で体を縮めるイグニスは長い間、激痛を味わう感覚に襲われた。ただ、時間にして数分であり大量の汗をかいたあと、二人して体を起こす。
さして変わらない景色を映す窓へ視線を流して、先に違和感を覚えたのはイグニスだった。
窓を見ている視界が違う――。
ベッドの上から見えていたのは大きな景色だった。それなのに、今はほぼ半分下と言える。まるでグラキエスの位置から眺めているようで……ふと視線を前に向けた瞬間、うろたえて目を見開いた。
――目の前に自分がいる。
「は……? ん……この声、耳に聞こえる音が違う……」
「え……? イグニス……うそ、僕……もしかして‼」
ベッドから転がり落ちるように床へ膝をついたグラキエスが硝子の瓶を手にしてわなわな震えていた。
現状から察して嫌な予感以外の何物でもない。
顔を上げるグラキエスは誤魔化すときの笑顔で、硝子の瓶に書かれていた文字を見せてくる。
『肉体交換』
胸の痛みから体が燃えるような感覚は、肉体を交換するための代償らしい。魔法と同じく原理は不明……魂の入れ替えか、意識だけの可能性も高いが、そうすると体の痛みに疑問が出る。本当に毒の可能性もあるが……。拒否反応から精神的苦痛が肉体にも伝わったり、その逆もある。
ただ、現状で第一にやることは、興奮している男の怪しい両手を阻止することだった。
「てめぇ……その手で、どこを触ろうとしてやがる!」
「え……? それは、普段したら怒られる場所とか……秘められた可愛い部分――」
「――殺す」
グラキエスの顔で凄むイグニスに対して拍子抜けした様子を向ける自分の姿は、なんとも間抜けに見える。
変な顔をするなとばかりに両手を掴むイグニスは、ぐいっと顔を寄せてきたグラキエスの思いがけない行動で手を離した。唇が触れるほど近い顔に動揺してしまう。
不敵な笑みを浮かべるグラキエスは、なぜか様になって見えた。
「てめぇ……俺の体で変なことしてみろ。絶交だ……」
「えー……それ人質だよー。はぁぁ……まさか、実験中に出来た薬を間違えて飲むなんて失態しちゃった」
「……顔が喜んでるんだよ……」
頭を抱えるイグニスは、立ち上がると姿見に映るグラキエスへ嫌な顔をする。ゆっくり体を起こすグラキエスは衝撃を受けたような顔で、軽く背中を叩いてきた。
「ひどいよー! 僕の体だよ? イグニスなら、何してもいいから……好きなこと仕放題だよ!」
更に歪む顔を見て口を押さえるグラキエスは、その場でしゃがみ込む。好きな相手なら、何かしたいと思うのだろうか考えるイグニスはグラキエスを眺めた。見た目は自分にしか見えないのに……。
そして、重要なことを思い出して強制的にグラキエスを立たせると肩を掴んで凄む。
「おい……。この魔法薬の効果はどのくらいだ」
「へ……? あ! そうだった……失敗して出来た薬だから分からないけど……長くても半日かな……」
「……短かったら?」
「うーん……二、三時間?」
人間は平均で五回から七回ほど尿意に襲われるらしい。三から五時間起き……水分量でも変わるらしいが、長いことを考慮して決め事をする。
危険行為をしようとしていたにも関わらず、生理的な現象は頭になかった様子のグラキエスは再び衝撃を受けた。
「……目隠しなんて、ひどくない!? どんなプレイさ……いや、でも……目で見るより視覚を失うことで手の感覚が研ぎ澄まされるかも……」
「…………てめぇの脳みそは、どこまでお花畑なんだ」
あからさまに侮蔑する目を向けるイグニスすら興奮した表情のグラキエスは「もっと貶して!」と近づいてきて一歩引く。
自分の見たくない顔を拝んだ気分のイグニスは、目隠しをさせた状態でグラキエスに服を着せていった。
不服な顔のグラキエスと自分の姿を交互で見返して眉を寄せる。
「……どうして、てめぇも寝衣なんだよ……」
「えー? 寝てたんだけど、急に魔法薬を思いついてね……それより、この体……寝不足じゃない? あ! 僕の体は舐め回すような目で見てくれていいからね!」
反射的に殴ってしまったグラキエスの痛がる様子で、なぜかイグニスも顔を歪ませた。
何重にも張ってあるはずの防護結界を解いて、こっそり扉が開かれる。朝日だけが溢れる薄暗い寝室に足を踏み入れた侵入者は、ベッドから上半身を起こしたイグニスと対峙した。
「あ……イグニス、起きてた?」
誤魔化すこともせず悪びれた様子のない侵入者は一人しかいない……。部屋に何重の防護結界魔法を張っている張本人、グラキエスだった。
寝室は無防備のため、魔力認証が必要不可欠なはずなのに……この男は、それをまんまと潜り抜け扉を開けられる。
聖女として異常な進化を遂げているグラキエスが敵国にいたら、イグニスの命はないかもしれない。
乱れた髪と赤い寝衣を整えるイグニスは盛大なため息を吐く。これは週に二、三回は起きていた。二回は寝込みを襲いに、そして一回は何かの発見や見せたい物があるときだったりする。
すでに二回寝込みを襲われているイグニスは眉を寄せた。
「おい……今日はなんなんだ」
起きる時間より二時間早く起こされているため眠気で思考が回っていないイグニスを、うっとりした顔で眺めるグラキエスはゆっくり近づいてくる。
両手で何かを持っていることに気づいてベッドから立ち上がろうとするイグニスへ待ったがかかった。
「あからさまに逃げないでよー。実はねー……面白い魔法薬が出来たんだよ!」
グラキエスは副団長になるまでの間、王国魔法騎士団の魔法薬部に所属していた経歴がある。実は今でも足繁く通っているらしい。
早朝に持ってくると言うことは危険薬物で間違いなかった。
細長い硝子の瓶に入った毒々しい紫色の怪しさしかない液体が二本ある。魔物実験はしたのか、人間が飲める物なのか……色々言いたいことはあった。だが、昨日は深夜まで残業して睡眠時間が三時間程度の頭で出てくる言葉は少ない。
「……俺に向けるな……」
「えー。イグニスのために作ったのにー……これを飲むと、元気になるんだよー」
毒々しいと言うよりも、寧ろ毒と言っても過言じゃない見た目で元気になるなんて思えなかった。
ベッドの上で後退るイグニスは、得意の魔法を唱える気で口を開く。
その僅かな動きより、素早く反応したグラキエスは硝子の瓶をイグニスの口へ流し込んだ。
「うっ……ゲホ、ゲホ……てめぇ――」
「大丈夫だってー、僕も一緒に飲むからさ!」
咽て咳をする傍らで一気に飲み干すグラキエスは、平気な顔をしている。効果や時間について説明しようとしたグラキエスは、急に険しい表情をして硝子の瓶が床へ転がり落ちる。
イグニスの寝室の床はカーペットが敷かれていて割れなかった。
それよりも、喉仏を押さえて苦しそうにするグラキエスへ手を伸ばしたイグニスの胸も焼けるような激痛が走る。
「ぐっ……お、い……本当に、成功……したのか」
「はは……おかしい……な……痛っ!」
床へ四つん這いになる格好でうずくまるグラキエスと、ベッドの上で体を縮めるイグニスは長い間、激痛を味わう感覚に襲われた。ただ、時間にして数分であり大量の汗をかいたあと、二人して体を起こす。
さして変わらない景色を映す窓へ視線を流して、先に違和感を覚えたのはイグニスだった。
窓を見ている視界が違う――。
ベッドの上から見えていたのは大きな景色だった。それなのに、今はほぼ半分下と言える。まるでグラキエスの位置から眺めているようで……ふと視線を前に向けた瞬間、うろたえて目を見開いた。
――目の前に自分がいる。
「は……? ん……この声、耳に聞こえる音が違う……」
「え……? イグニス……うそ、僕……もしかして‼」
ベッドから転がり落ちるように床へ膝をついたグラキエスが硝子の瓶を手にしてわなわな震えていた。
現状から察して嫌な予感以外の何物でもない。
顔を上げるグラキエスは誤魔化すときの笑顔で、硝子の瓶に書かれていた文字を見せてくる。
『肉体交換』
胸の痛みから体が燃えるような感覚は、肉体を交換するための代償らしい。魔法と同じく原理は不明……魂の入れ替えか、意識だけの可能性も高いが、そうすると体の痛みに疑問が出る。本当に毒の可能性もあるが……。拒否反応から精神的苦痛が肉体にも伝わったり、その逆もある。
ただ、現状で第一にやることは、興奮している男の怪しい両手を阻止することだった。
「てめぇ……その手で、どこを触ろうとしてやがる!」
「え……? それは、普段したら怒られる場所とか……秘められた可愛い部分――」
「――殺す」
グラキエスの顔で凄むイグニスに対して拍子抜けした様子を向ける自分の姿は、なんとも間抜けに見える。
変な顔をするなとばかりに両手を掴むイグニスは、ぐいっと顔を寄せてきたグラキエスの思いがけない行動で手を離した。唇が触れるほど近い顔に動揺してしまう。
不敵な笑みを浮かべるグラキエスは、なぜか様になって見えた。
「てめぇ……俺の体で変なことしてみろ。絶交だ……」
「えー……それ人質だよー。はぁぁ……まさか、実験中に出来た薬を間違えて飲むなんて失態しちゃった」
「……顔が喜んでるんだよ……」
頭を抱えるイグニスは、立ち上がると姿見に映るグラキエスへ嫌な顔をする。ゆっくり体を起こすグラキエスは衝撃を受けたような顔で、軽く背中を叩いてきた。
「ひどいよー! 僕の体だよ? イグニスなら、何してもいいから……好きなこと仕放題だよ!」
更に歪む顔を見て口を押さえるグラキエスは、その場でしゃがみ込む。好きな相手なら、何かしたいと思うのだろうか考えるイグニスはグラキエスを眺めた。見た目は自分にしか見えないのに……。
そして、重要なことを思い出して強制的にグラキエスを立たせると肩を掴んで凄む。
「おい……。この魔法薬の効果はどのくらいだ」
「へ……? あ! そうだった……失敗して出来た薬だから分からないけど……長くても半日かな……」
「……短かったら?」
「うーん……二、三時間?」
人間は平均で五回から七回ほど尿意に襲われるらしい。三から五時間起き……水分量でも変わるらしいが、長いことを考慮して決め事をする。
危険行為をしようとしていたにも関わらず、生理的な現象は頭になかった様子のグラキエスは再び衝撃を受けた。
「……目隠しなんて、ひどくない!? どんなプレイさ……いや、でも……目で見るより視覚を失うことで手の感覚が研ぎ澄まされるかも……」
「…………てめぇの脳みそは、どこまでお花畑なんだ」
あからさまに侮蔑する目を向けるイグニスすら興奮した表情のグラキエスは「もっと貶して!」と近づいてきて一歩引く。
自分の見たくない顔を拝んだ気分のイグニスは、目隠しをさせた状態でグラキエスに服を着せていった。
不服な顔のグラキエスと自分の姿を交互で見返して眉を寄せる。
「……どうして、てめぇも寝衣なんだよ……」
「えー? 寝てたんだけど、急に魔法薬を思いついてね……それより、この体……寝不足じゃない? あ! 僕の体は舐め回すような目で見てくれていいからね!」
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