【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第15輪 雄花の構造

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 服を着替える必要性があるため、うるさいグラキエスの目を再び隠すと興奮して体をくねらせていた。
 自分の体で変態な動きをする姿に冷ややかな視線を送りながら、白い寝衣しんいを取り去る。
 思っていたとおりの色白で、線の細さが分かった。どこから自分を押さえる力があるのかと疑問に思うほど。
 視線は自然と薄い胸筋へ注がれ、不釣り合いの薄茶色をした小さな膨らみを見てしまう。

 雨の中で濡れたシャツから覗いていた二つの小さな雄花。イグニスとは違って華やかさよりも、男らしさを感じてしまう。恨めしそうに眺めながら、隣の部屋から持参したグラキエスのシャツに袖を通した。

 恋愛感情はないイグニスでも来る者拒まずで女を抱いた経験はある。だから、性欲の対象は異性だと思っているためグラキエスの下半身に興味をそそられず、ズボンを履いてベルトを締めた。
 次にシャツのボタンを留めようとして細長い指先を伸ばした手が止まる。

 目隠しをされただけで自由を奪われていない手で布をずらしたグラキエスと、小さな雄花に伸ばした指先を見られたイグニスは思考が停止した。

「きゃー‼ イグニスのえっちぃ……」
「――うっ……ぐ」

 気づいたら伸ばしていた指先を誤魔化しきれず、言い訳が見つからない。相手も男だと認識していながら、自然に指が動いていた。
 ゆっくりと近づいてくるグラキエスは企みを含んだ双眸をしている。
 十センチ差の体が背後へ回り、下から吐息と共に腕を握られた。
 痺れるような低い声が、甘く囁きかける。

「……良いよ、触っても。残念ながら、イグニスみたいな感度はないけど……」
「うっ……俺だって、感度なんてねぇ……」

 大きな手が指先に絡み、導かれるような動きで二つの小さな雄花へ触れた。指先から伝わる仄かな柔らかさは一瞬で硬くなり、芯を持つ。
 グラキエスの言うような感度はないのに、じわじわと何かが疼いていった。触れてはいけないものに触れたような……羞恥心がある。
 何度も拒んで、嫌悪感を見せないようにしながら侮蔑な目で見てしまっていた。それなのに、グラキエスは自分の体を明け渡して触られることを喜んでいた。

 罪悪感が生まれる中、芯を持った雄花から指を離すと少しだけ赤くなっている。

「……どこでも良いから、ずっとイグニスに触られたかった。嬉しい……」
「うっ……」

 男の余裕を感じる声で、グラキエスは手の平に薄い唇を押し当ててきた。自分の体で好き勝手にと思いながら、罪悪感から何も言えない。それに、自分は何もされていない状態で本人が喜んでいるならと心に蓋をした。

 何もなかったようにボタンを留めて団服を羽織る。少しの沈黙が流れる中、扉を叩く音で声を上げた。
 当然、外から聞こえてくる声は困惑を滲ませながら扉を開ける。

「あ……メディシーナ副団長もこちらに居られたんですね」
「要件はなんだ」
「え……っと、その……森の中に穢れが発生したと報告がありまして、出動要請が……」

 グラキエスの姿でイグニスが話すのは違和感しかなく、困惑する団員に気づくと咳払いした。すぐに意図を察したグラキエスが、そのあと指示を出すと団員は準備のため部屋から出ていく。

「……よりによって、こんなときかよ」
「うーん……穢れは待ってくれないからねぇ。僕の顔でイグニスが話すのは混乱を生むから、僕がイグニスになって指示を出すよ」
「……てめぇが俺の真似なんか出来るのか?」
「フフフッ……僕を誰だと思っているのさ。イグニスのことなら、なんでも……体の構造以外は知っているよ?」

 敢えて体について触れてくるグラキエスを無視して部屋を出ると、イグニスの代わりに指示を飛ばす姿は意気揚々としていた。

 森まで魔法によって速くなった足でたどり着くと、すぐに穢れを発見する。
 問題は聖女の能力をイグニスの精神で使えるかだった。
 何も知らない団員たちはグラキエスの姿をしたイグニスのために決められた陣形を取る。

「……おい。てめぇの体で、俺が聖女の能力を使えるのかよ」
「うーん……正直分からないけどー。やってみようよ! こう……全身に力を込めるようにして」

 グラキエスの指示はふわっとしていて分からなかった。空気を吸うように穢れを取り除いているらしく、最終的に「感覚を研ぎ澄まして」など言われる始末でため息が漏れる。
 グラキエスの体へ語りかけるように全身を研ぎ澄ました。

 そんなとき、後方から騒ぐ声が聞こえてくる。朝方で日は登っているが、森の中は静けさに満ちていて、まだ魔物の活動時間内だった。

「グラス……俺の体を使って、魔法は使えるか?」
「僕の言葉で精霊様が応えてくれるかの問題はあるけど……。魔法は全部覚えているよ」
「大丈夫だ。精霊は優しいからな。そっちは任せる」

 イグニスを呼ぶ声がして、いまは自分のことじゃないと頭を振るって前を向く。なんとなく感覚は掴めてきたイグニスは、深呼吸してから周りの声を拾っていった。
 呪文を言葉に乗せる部下の声は冷静で、的確なグラキエスの指示が飛んでいる。自分の声を第三者として聞くのは不思議な感覚で、擽ったい。

 グラキエスの魔法が炸裂して、一気に魔物の群れは消し炭となる。
 次は自分の番だった。体内を巡る温かくて優しい力を感じて、それを穢れに向けて放出する。

 聖女の能力が発現した直後だった。穢れを祓うと同時に体内へ流れ込んでくる負の感情が襲いかかる。
 息苦しさで口から呼吸をするイグニスに、グラキエスは心配そうな顔で手を握ってきた。
 いつも辛さを見せずに行っていた行為は、思っていた以上の精神力と体力が削られていく。
 握られた手に力を込めた瞬間だった。魔法薬を飲んだときと同じ激痛が体を巡っていく。

「うっ……ぐっ……」
「……イグ、ニス――」

 二人の異変に気づいた団員たちが駆けつける中、額から大量の汗が吹き出して立て膝をついた。体内の熱と痛みが極限へ達したとき、一瞬だけ意識が飛ぶ。
 周りの呼び声で目を開くと、ぼんやりする頭にグラキエスの声が響いた。

「――イグニス……‼」
「…………グ、ラス……?」

 心配そうな空色の双眸に見つめられ、意識が混濁しながら思わず色白の頬へ触れる。目の前にいるのは紛れもないグラキエスだった。
 少しも照れることなく添えられた手の温もりで、意識が鮮明になっていく。

「――俺たち……元に戻ったのか」
「うん……そうだよ! 心配しちゃった……」

 潤む瞳には見覚えがあった。一体いつだったか……考えても思い出せない。ただ、今回のことでグラキエスが相当の苦しみを味わっていることを知ってしまった。
 だけど、本人は慰めの言葉じゃなく、いつも通り「良くやった」その言葉だけしか求めていないだろう……。
 
「……元はと言えば、てめぇのせいだろうが……」

 頬から手を離してすぐ怒りの鉄拳を脳天に食らわした。グラキエスは痛みで両手を乗せながら不満を口にするが、聞く耳を持たず立ち上がる。
 額の汗を拭うと、安心した団員たちに声をかけてから、しゃがみこんだままのグラキエスへ仕方なく手を伸ばした。
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