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第36輪 「それなら、キスして」
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少数部隊で現場へたどり着くと、すぐ違和感に気づく。比較的に昼間でも野生動物から小型の魔物を確認出来る場所で何も観測できない。
二人一組になって散開させると、イグニスのあとをグラキエスが走ってついてくる。
団員よりも更に奥へ踏み入れると、地面が荒らされていた。明らかな異常に、飛散した魔力を集める魔法を展開する。
複数の人間と、魔物の争ったことが分かった。イグニスが背後へ振り返ると、グラキエスの顔色も青白く強張っている。
「おい、グラス。どうし」
「ごめん! イグニス、職務放棄する……」
「は……どういう――おい!」
血相を変えて走り出すグラキエスを追いかけようと踏み出した瞬間。どこからともなく中型の魔物が阻むように現れる。
「ハッ。こんなので俺の邪魔が出来ると思ってんじゃねぇだろうな……!」
竜巻のごとく舞い上がる薔薇の渦で蹴散らして、すぐにあとを追いかけた。一掃した魔物はこの区間に居ない生体ばかりで、団員全員へ警戒するよう念話を使って指示をする。
見失ったグラキエスを探して魔力感知の出力を上げた。長い間そばにいる相棒の魔力はすぐ分かり、音を立てず慎重に近づいていく。
木の後ろに隠れて盗み見ると、あの夜見た女がいた。腰まで伸ばされた茶色の髪が揺れ、赤い唇が怪しく動く。特徴的な垂れ目の空色だけは、グラキエスと同じように感じられた。
声を拾う魔法を使う前に離れていくグラキエスが、こちらへ歩いてくる。感情が揺れているのが分かる表情は、イグニスに気づくことなく通り過ぎていった。
いつの間にか女も消えていて、グラキエスのあとを追って後ろから腕を掴む。
「……グラス」
明らかに驚いた顔をするグラキエスは目線をそらした。
内容以外は見ていたことを告げるイグニスに下を向いたまま動かなくなる。
「……あのときも言ったけど。この異変はあの女が関わる……闇魔法結社の仕業だよ」
「あの女は、てめぇの母親だな」
少しだけ沈黙が流れたあと諦めたように小さく頷いた。念話で団員たちから、魔物がいないこと以外に異常はないことを報告される。入り口で待機を言い渡し、掴んでいた腕を離した。
「……だから、僕の問題だ。あの毒親は僕がケリをつける」
「……てめぇだけの問題じゃねぇ。俺たちは、相棒で家族だろう!」
「――違った意味の家族になりたい……。それなら、キスして」
「は……? なっ……どうしてそうなんだよ!」
しかもこんな青空の下で――。
イグニスの怒鳴り声も気にすることなく、目を閉じるグラキエスに口ごもる。好きだと自覚したからこそ、少しだけ膨らんだピンク色の唇は魅力的に映った。
イグニスも男であり、やられるばかりじゃ居られない。立場は下でも男の本能を失ったわけじゃなく、吸い寄せられるように唇を触れ合わせる。
チュッと音がする程度の軽い口付けをしたあと、後ろから思いきり抱き寄せられた。
「てめ……ん、ふっ……」
激しく唇を押しつけられると、軽く口を割られて舌が侵入してくる。激しく口内を犯され、ビクビクと腰が揺れた。
抵抗出来ずに舌を絡め取られると、胸板を押すが動かず舌を噛むことすら叶わない。理性を失いかけたとき、急に離れた唇は艶めかしく濡れていた。
「ふざけ……ん、んっ!?」
息を整えている間、懐から何かを取り出して口に含むグラキエスを警戒する。だが、抱き寄せられたままの状態で再び唇が重ねられると、舌先で喉の奥へ何かを強引に入れられた。
ゴクンと飲み込んでしまうと力を込めて腕を振り解く。
「何、飲ませ……は……」
「……ごめんね、イグニス……」
強い薬なのか、すぐに視界が揺れて前へ突っ伏す形でグラキエスの薄い胸板に抱きとめられた。そのまま意識が遠のいていく感覚に襲われる。
ぼんやりとした頭の中で体が浮き上がり、抱き寄せられた。僅かに繋ぎ止めている意識で、震える腕を頬へ伸ばす。
「……即効性の薬なのに……頑張るね、イグニス」
再び重なる唇が呼吸を奪っていった。息苦しさから僅かな意識は途切れてしまう。
◆◆◆
外からの風で窓ガラスがカタカタ鳴る音で意識を浮上させた。音が鳴るように布団を剥いで起き上がるイグニスは、自分の状況を確認する。
グラキエスからキスを迫られて軽くしたら激しくされたあと、薬を飲まされたことを思い出して頭を抱えた。
すぐに自室のベッドであることが分かり、サイドテーブルに書き置きを見つける。
『愛するイグニスへ
イグニスは家族だけど、このケジメは僕自身がつけないと駄目なんだ。薬を盛ったのはごめんなさい。体に影響のない僕が調合したものだから安心して。解決したらすぐに戻るから、心配しないで。
グラキエス』
思わず書き置きを握り潰した。そのまま置き去りにして、ソファーへ畳まれた支給品のローブを掴んで外に出る。
外で待機していた部下に心配されるが、あのときの状況説明をさせた。
精霊の儀式で疲れが出たのかもと軽く説明されたらしい。思わず壁を殴ると、部下から小さな悲鳴が聞こえる。
「あの変態聖女が……調子に乗ったのを後悔させてやる」
怒りの中でも、どうしてグラキエスを好きになったんだと悶々する気持ちも合わさり魔力が湧き上がった。部下に城の警備を任せると下へ出る。
「――道を示し、照らし出せ!」
イグニスの足元に大きな赤い薔薇の結晶が現れ、花弁が宙へ舞った。
硝子のように透き通る花弁は太陽の光で室内のときよりもキラキラと輝いて、足元から伸びる無数の蔓が地面を這っていく。
これは特定の人物を追うことにも特化していた。懐から取り出した硝子瓶に赤い液体が入っている。蓋を開けて、地面へ垂らすと緑色をしていた蔓が毒々しい赤に変わっていった。
漂う匂いは血の香り――。
「――俺から逃れられると思うなよ」
イグニスが取り出した液体は以前、定期検診でグラキエスから抽出した血液だった。
二人一組になって散開させると、イグニスのあとをグラキエスが走ってついてくる。
団員よりも更に奥へ踏み入れると、地面が荒らされていた。明らかな異常に、飛散した魔力を集める魔法を展開する。
複数の人間と、魔物の争ったことが分かった。イグニスが背後へ振り返ると、グラキエスの顔色も青白く強張っている。
「おい、グラス。どうし」
「ごめん! イグニス、職務放棄する……」
「は……どういう――おい!」
血相を変えて走り出すグラキエスを追いかけようと踏み出した瞬間。どこからともなく中型の魔物が阻むように現れる。
「ハッ。こんなので俺の邪魔が出来ると思ってんじゃねぇだろうな……!」
竜巻のごとく舞い上がる薔薇の渦で蹴散らして、すぐにあとを追いかけた。一掃した魔物はこの区間に居ない生体ばかりで、団員全員へ警戒するよう念話を使って指示をする。
見失ったグラキエスを探して魔力感知の出力を上げた。長い間そばにいる相棒の魔力はすぐ分かり、音を立てず慎重に近づいていく。
木の後ろに隠れて盗み見ると、あの夜見た女がいた。腰まで伸ばされた茶色の髪が揺れ、赤い唇が怪しく動く。特徴的な垂れ目の空色だけは、グラキエスと同じように感じられた。
声を拾う魔法を使う前に離れていくグラキエスが、こちらへ歩いてくる。感情が揺れているのが分かる表情は、イグニスに気づくことなく通り過ぎていった。
いつの間にか女も消えていて、グラキエスのあとを追って後ろから腕を掴む。
「……グラス」
明らかに驚いた顔をするグラキエスは目線をそらした。
内容以外は見ていたことを告げるイグニスに下を向いたまま動かなくなる。
「……あのときも言ったけど。この異変はあの女が関わる……闇魔法結社の仕業だよ」
「あの女は、てめぇの母親だな」
少しだけ沈黙が流れたあと諦めたように小さく頷いた。念話で団員たちから、魔物がいないこと以外に異常はないことを報告される。入り口で待機を言い渡し、掴んでいた腕を離した。
「……だから、僕の問題だ。あの毒親は僕がケリをつける」
「……てめぇだけの問題じゃねぇ。俺たちは、相棒で家族だろう!」
「――違った意味の家族になりたい……。それなら、キスして」
「は……? なっ……どうしてそうなんだよ!」
しかもこんな青空の下で――。
イグニスの怒鳴り声も気にすることなく、目を閉じるグラキエスに口ごもる。好きだと自覚したからこそ、少しだけ膨らんだピンク色の唇は魅力的に映った。
イグニスも男であり、やられるばかりじゃ居られない。立場は下でも男の本能を失ったわけじゃなく、吸い寄せられるように唇を触れ合わせる。
チュッと音がする程度の軽い口付けをしたあと、後ろから思いきり抱き寄せられた。
「てめ……ん、ふっ……」
激しく唇を押しつけられると、軽く口を割られて舌が侵入してくる。激しく口内を犯され、ビクビクと腰が揺れた。
抵抗出来ずに舌を絡め取られると、胸板を押すが動かず舌を噛むことすら叶わない。理性を失いかけたとき、急に離れた唇は艶めかしく濡れていた。
「ふざけ……ん、んっ!?」
息を整えている間、懐から何かを取り出して口に含むグラキエスを警戒する。だが、抱き寄せられたままの状態で再び唇が重ねられると、舌先で喉の奥へ何かを強引に入れられた。
ゴクンと飲み込んでしまうと力を込めて腕を振り解く。
「何、飲ませ……は……」
「……ごめんね、イグニス……」
強い薬なのか、すぐに視界が揺れて前へ突っ伏す形でグラキエスの薄い胸板に抱きとめられた。そのまま意識が遠のいていく感覚に襲われる。
ぼんやりとした頭の中で体が浮き上がり、抱き寄せられた。僅かに繋ぎ止めている意識で、震える腕を頬へ伸ばす。
「……即効性の薬なのに……頑張るね、イグニス」
再び重なる唇が呼吸を奪っていった。息苦しさから僅かな意識は途切れてしまう。
◆◆◆
外からの風で窓ガラスがカタカタ鳴る音で意識を浮上させた。音が鳴るように布団を剥いで起き上がるイグニスは、自分の状況を確認する。
グラキエスからキスを迫られて軽くしたら激しくされたあと、薬を飲まされたことを思い出して頭を抱えた。
すぐに自室のベッドであることが分かり、サイドテーブルに書き置きを見つける。
『愛するイグニスへ
イグニスは家族だけど、このケジメは僕自身がつけないと駄目なんだ。薬を盛ったのはごめんなさい。体に影響のない僕が調合したものだから安心して。解決したらすぐに戻るから、心配しないで。
グラキエス』
思わず書き置きを握り潰した。そのまま置き去りにして、ソファーへ畳まれた支給品のローブを掴んで外に出る。
外で待機していた部下に心配されるが、あのときの状況説明をさせた。
精霊の儀式で疲れが出たのかもと軽く説明されたらしい。思わず壁を殴ると、部下から小さな悲鳴が聞こえる。
「あの変態聖女が……調子に乗ったのを後悔させてやる」
怒りの中でも、どうしてグラキエスを好きになったんだと悶々する気持ちも合わさり魔力が湧き上がった。部下に城の警備を任せると下へ出る。
「――道を示し、照らし出せ!」
イグニスの足元に大きな赤い薔薇の結晶が現れ、花弁が宙へ舞った。
硝子のように透き通る花弁は太陽の光で室内のときよりもキラキラと輝いて、足元から伸びる無数の蔓が地面を這っていく。
これは特定の人物を追うことにも特化していた。懐から取り出した硝子瓶に赤い液体が入っている。蓋を開けて、地面へ垂らすと緑色をしていた蔓が毒々しい赤に変わっていった。
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