【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第37輪 毒々しい赤い蔓

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 血のような赤い蔓を追って一人で走り出そうとしたときだった。背後から突然、強い力で掴まれて振り返る。気配すら感じなかった正体は新人わんこ――グローム・ペルロと……。

「…………なんで、が一緒に居るんだ」
「ローゼン団長は病み上がりで心配なので、オレたちもついていきます!」

 意気揚々と宣言するグロームに首根っこを掴まれて引きづられてきたらしい引きこもりの魔法開発具部長であるラントが泣いている。
 グロームは百歩譲って団員だからイグニスに気づいてもおかしくない。だが、地下室でずっと引きこもっている男がなぜいるのか疑問しかなかった。
 
「え……? お、おれたちって……。いやいや、む、無理だから⁉」
「こいつの言うとおりだ。足手まといはいらねぇ」
「足手まといになんて、なりません! ラントさんはオレが守ります」

 全力で拒否するラントは、骨ばった大きな体で抵抗している。だが、グロームの力が強いのか振り解けず、体力の少なさで力尽きていた。いつの間にか下の名前で呼ばれている二人の関係性も気になったが、あえて聞かない。

 イグニスは二人に向き直って遊びじゃないことを告げる。グラキエスのことだから、きっと敵のアジトへ単独で潜入してケリをつける気だ。一度襲われかけたイグニスを連れて行かなかった理由は、なんとも端的でグラキエスらしい。

「もしも行き先が闇魔法結社の組織だったら、呪いを受けるかもしれねぇんだぞ」
「大丈夫です! オレは呪いに耐性あるんで! ラントさんは、魔法具で防げるって言ってました!」

 思わずラントを睨みつけると、怯えながら頭を縦に振る。引きこもってずっと闇魔法結社の呪いに対抗できる魔法具を作っていたらしい。有能だとは知っていたが、まさかそこまでとは思わず面食らう。グロームは意外と魔力量が高いらしい。
 自分の足で立つラントの腕に、魔石が嵌まったバングル型の魔法具を見せられた。

 呪いは魔力の高さで跳ね返すことが出来ることは知られている。加えて、イグニスは精霊と契約をして加護持ちのため呪いに掛かる可能性は低い。
 一応と渡される腕輪は魔力を宿している以外、効果が一切分からなかった。鑑定という魔法は存在していないため、製作者が隠蔽したら分からない。

 利き腕じゃない方に装着すると、中心に嵌っていた小さな魔石が赤く色づいた。魔力の色で変わるらしい。
 魔法具を使ったことのなかったイグニスは不思議な感覚がして眺めていると、思いがけない言葉を投げかけられる。

「オレずっと思ってたんです。あるときから、ローゼン団長の圧が弱くなったなって!」

 圧をかけている気はサラサラなかったイグニスだったが、話を聞いて、みるみるうちに顔へ熱が集まっていった。
 その時期はグラキエスに初めて抱かれたあとで、衝撃的な事実に戸惑いと羞恥心が顔を出す。

「なので、一人は危険だと思います! あ、ちなみにメディシーナ副団長と一緒のときは、虫除け効果が出てました!」
「……は? 虫除けって」
「メディシーナ副団長が、ローゼン団長の虫除けです!」

 虫除けの理由は思った以上に脳へ大打撃を食らわせ、羞恥心で悶絶しかけるのを必死に抑えた。

「あぶねぇのはあいつだろ! 女顔だし……同性からも」
「何言ってるんですか? メディシーナ副団長のが男らしいですよ。あ、すみません! 隙がないって意味です!」

 思わず息を荒らげて反論したが、すぐに打ち返されて絶句する。自分が隙のある男だと言う事実を知って、分からない感情が湧き上がった。思い当たるところが有りすぎて何も言えなくなる。

 抱かれる前も、一週間グラキエスが居なくなったことで不安になった。初めて自慰をして街を徘徊しただけで、薔薇の甘い香りに集まる虫けらたちを寄せ付けて、探していたグラキエスに救われたこと。脳内を黒歴史が埋め尽くす。

「――もういい。足手まといにならねぇなら、ついてこい」

 すべての感情を捨てたイグニスの言葉で明るい顔をするグロームに引きづられて泣き喚くラントと三人で蔓のあとを追う。


 蔓が導いた場所は、まさかの旧市街にある水路だった。大きな穴のように暗闇が広がっている。普段は入れないよう徹底的に魔法で封じられているはずだった。中の様子を窺う前に魔物の呻き声のような風が通り抜けていく。

「開いてる」
「そ、それって……⁉」
「ワクワクしてきました!」

 おかしいことを言う新人わんこの言葉には応えず、中へ侵入する。中は外よりもひんやりしていて、ローブを羽織っていなかったラントは痩せすぎのせいか震えていた。どこか仲睦まじく、自分のローブを着せてやるグロームと二人の関係性が気になったとき、奥から人の声が聞こえて壁に背中をつけて立ち止まる。

 ちょうど分かれ道がある場所に差し掛かかって覗き込んだ。すぐの部屋には、色とりどりの薬品が並べられている。魔法具の専門家であるラントは魔法薬の知識もあるらしく凝視していた。

「あ、あれ……魔物の遺伝子について、調べるとき使っている薬だ……。人間と同じで、個体によって遺伝子は違っていて」
「そのくらいでいい。専門的なのは今知りたい情報じゃねぇ」

 研究員ぽい白衣姿だが、その下から覗く服装は紛れもない闇魔法結社のもの。イグニスたちが潜入した場所は案の定、敵の拠点だった。
 気づかれないように先へ進んでいくと、ツンと鼻につく異臭で立ち止まる。地下水路だからか、複数の穴が空いていて部屋に作り変えているようだった。
 異臭の正体はすぐに判明する。

「ひっ‼」

 背後と前から同時に口を塞がれるラントは涙目だった。中の研究員は気づいていないようで、ホッと息を吐く。
 滴る赤い液体と、様々な種類の首が地面に転がっていた。胴体は台の上に乗せられていて解剖されている。すべて魔物の死骸だった。

 魔物が少なかった理由は闇魔法結社によるもので間違いない。魔物の遺伝子を調べて、新たな生命でも作り出そうとしているのか、はたまた呪いの実験かは不明だ。

 ただ、目的のグラキエスは疎か例の女もいないため一旦戻ろうとしたところで、横穴から細い腕が伸びてくる。いち早く気づいたグロームが口を開こうとして正体に面食らった顔をした。

 「どうして」そう口へ出す前に大きな手で塞がれる。驚く二人に指示をして、四人は離れの食料庫らしい部屋へ連れてこられた。部屋に入ってすぐ腰を抱いていた腕を振り解くイグニスは、熱がこもる体を怒りで震わせる。

「てめぇ……その格好はどう言うことだ!」
「しー……イグニス。ここ、敵の拠点だからね?」

 黒装束姿をして黒いフードで顔を隠していた男は、少しだけ高い声で指摘した。敵のフリをして潜入していたグラキエスと再会出来たのは収穫だった。
 ただ、余裕そうに見える顔はイグニスの姿を見て戸惑いが見え隠れしている。そして、グラキエスの感情が爆発したようで壁へ背中を押しつけられた。

 凄むような顔で見下ろされると、追い詰められた獲物の気分でゾクッと肩が揺れる。
 二人のことなど眼中にない様子のグラキエスだったが、近づいてきた顔は肩に乗せられる。

「――なんで、こんな危険なところに来ちゃうんだよ……。イグニスに何かあったら、僕は」
「それは、俺も同じだ……! 一人で危険に飛び込んでんじゃねぇ! てめぇは……聖女だって自覚をしやがれ」
「……ごめん。実は、イグニス成分が足りなかったんだ……頭撫でて」

 子犬みたいことを言うグラキエスに、前からの視線を感じながらポンポンと撫でてやる。完全に蚊帳の外だった二人も笑顔を向けた。そして、図太い神経の本物のわんこは胸を張って要求してくる。

「オレも褒めてください! ここまで、ローゼン団長の安全を確保してきました!」
「なるほど……それは忠犬だ。よしよし」

 グラキエスから頭を撫でられるグロームは目を輝かせて喜んでいた。単純で心配になる。
 冷静になって体を離したグラキエスは、衝撃的な事実を聞かせてきた。グラキエスと出会うまでに見た魔物の死骸や、怪しい薬品などの実態。

「闇魔法結社は、思った以上に危険だった。知ってる? 聖女の力は呪いにもなるんだ……」
「は? そんなこと」
「そ、それって……! は、反転の力……闇堕ちした聖女の話。じゃあ、闇魔法結社が聖女を敵視してたのって……」
「グラキエスを闇堕ちさせるため……? そんなことしなくても、奴らは呪いを使えるだろう」

 小さく首を振るグラキエスは、闇堕ちだけじゃなく真の目的のためだと話す。

 それは、【】の研究を成功させるための癒やしの力――。
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