【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

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第38輪 穢れた命の正体は

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 【キメラ】とは複数の魔物をかけ合わせたり、生まれる前の遺伝子操作で作り出した生命体のことを指していた。掛け合わせる場合は、どちらかの部位を切り落とし、魔法で繋ぎ合わせる。細胞や遺伝子が拒否反応を起こすと壊死してしまい、成功例はまだない。しかも、切り落とされた部位は、一分で壊死するため繊細な作業だと言う。
 魔物は穢れを浴びることで変貌してしまった野生動物の説があり、ただの狂気的な命の冒涜でしかない。

 遺伝子操作は、複数の魔物から精巣や卵巣を取り出して、特殊な液体に漬けて培養する。特殊な液体と言うのが、ラントの熱く説明していた遺伝子を調べるために使っている薬だ。それだけじゃなく、魔物による別種族への苗床として有名な魔植物の体液などを配合した液体らしい。ただ、こちらは産まれてみないと分からず、苗床にする魔物は子供を産んだあと死ぬ。だが、こちらも拒否反応を起こすと体内から壊死してしまい成功例はない。
 どちらにしろ闇魔法では狂気的で有名な魔物の実験だった。

 グラキエスが一週間行方をくらませた理由も話してくれる。母親についていく振りをして内部を探ろうとしたのが露見して、思った以上に敵の数も多く潜伏していたらしい。

「だけど、そのおかげでイグニスの危機を救えたから良いんだけどね」
「……っ。てめぇが居なくならなきゃ、そもそも……あんな失態は」
「うん……ごめんね?」

 都合よく年下の顔をするグラキエスは卑怯だ。しかも、自分たち二人だけの空間のように振る舞って、密着しようと手を伸ばしてくる。
 厄介なのは感情が読めるという聖女の能力だ。すでに何度か触れられているから、イグニスの感情を見据している可能性もある。

 当初の目的はグラキエスを探すことだった。目的が果たされた今、この人数で闇魔法結社のアジトを潰すには骨が折れるだろう。

 生死を問わないのなら、イグニスの魔法で沈めることは可能だ。だが、イグニスは良くてもグラキエスが首を縦に振ることはない。この聖女はイグニス絶対主義だ。人の命は平等だとか、尊いなどの次元で生きていない。イグニスの幸せだけを願って、自分の手を汚しても構わないとすら思っている。

 ただ、実際はそれも叶わない。なぜなら、聖女が人の命を奪ったら能力ちからを失ってしまう。イグニスが寿命で尽きるまで、添い遂げる溺愛っぷりだから――。

「キメラの問題は大きいが、今出来ることはねぇ……撤収するぞ」
「うん……ここで薬や機械を破壊しても、すべてのアジトを潰さないと意味がないからね」
「あー、派手に魔法使いたかったなー」

 忠犬から本音が漏れる。リトス王国は魔法で栄えている国だが、無闇矢鱈に派手な魔法を使えるわけじゃない。派手な魔法は決まって威力が高いため、施設を破壊したり、大きな場所でしか使用が禁止されている。

 こういう入り組んだ場所は、出る方が大変なのも相場で決まっていた。ただ、食糧庫にいるとはいえ外の足音が一切しないどころか、響いていた声も聞こえなくなる。

 グラキエスを見つけたときは、確かにそこら中で人の気配がしていた。
 違和感を覚えるイグニスは信徒がいる場所を選んで出口へ向かう。

「イグニス、危ない道ばっかり行ってない?」
「……入ったときより、人数が減ってねぇか」
「そ、そう言われると……人の多い、場所を通ってるのに……遭遇しない、ね」

 地下水路の中が穴だらけだったのは初めて知った。いや、この地下が単に特殊なのか……はたまた魔法か魔法具の線もある。これなら隠れ家に最適だ。
 闇魔法結社の拠点を炙り出すためにも違和感の元を慎重に探る。
 魔物実験の部屋以外で寝床とは違った広い部屋を見つけた。

「……此処って、何かの儀式か?」
「この魔法文字……呪いの実験かも」

 薄暗い部屋の中で、魔法文字や記号のような絵文字が地面の隅々までに描かれている。しかも、良く見ると血文字だった。
 悲鳴を上げそうなラントの口をグロームが塞ぐ。しゃがみ込んで文字へ触れようとするイグニスの手に無骨な手が重ねられた。

「……駄目だよ。こんな危険なものに触れちゃ」
「……そうだな。これは、既に使われた跡か」

 立ち上がるとそのまま手を撫でてくるグラキエスを振り解く。手袋によって体温を感じないことで気持ちを誤魔化すイグニスをグラキエスは緩んだ表情で見てきた。
 此処で、野生動物を人為的に魔物化させている疑惑も浮上する。呪いは一番穢れに近い存在だから。

 最初に通った道でも、信徒の数は半分以下に減っている。その中には魔物の死骸がある部屋や、怪しい薬が置かれたところも通り抜けた。

「ローゼン団長! さっき血生臭かった部屋の前を通ったら、首が減ってました」

 首というのは魔物の死骸があった部屋だ。数を記憶していることにラントは引いているが、思うと胴体や研究員の姿も見なかった。

 イグニスは嫌な予感がして眉を寄せる。今までも、団長、副団長、二人揃って王城を空けることはあったが、闇魔法結社の内情を知って不安に駆られる。

「――早く戻るぞ」


 
 ◆◆◆


 
 イグニスがグラキエスを探しに王城を空けてから一時間。白くて大きな月が闇夜を照らし、いつもより街灯も少なく感じられた。夜でも風は冷たく感じることなく、そろそろ気候も暖かくなるだろう。

「――大きな月が綺麗ですね」
 
 ローゼン家の庭で寝る前に花の観賞を楽しんでいた妹アクアは、侍女へ微笑んだ。
 白くて大きな月が色づいた薔薇を照らしている。いつもと変わらない日常を過ごしていたアクアへ、光の粒子が降り注いで精霊が囁いた。

 『禍々しい生命体が、城下町へ降り立った』と――。
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