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第40輪 過去との決別
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大物を討ち取ったからと争いは終わっていない。二人は急いで城下町へ走る。
避難は済んでいるはずだが、未だに魔法の光で空は輝いていた。見つけ次第片っ端から黒装束の信徒を潰していく中、女の悲鳴が聞こえてくる。
イグニスたちが戦っていた時間を考えても国民はすべて避難されているはずの悲鳴に、すぐ駆けつけた。だが、そこにいたのは見覚えのある女の顔。
首と胴体が明らかに異なる魔物の姿を捉える。キメラだろう魔物二匹に崩れた家屋の壁へ追いつめられていた。
「――グラス」
「……僕が行く」
怯えた瞳をしていたグラキエスの母親は、息子の存在に気づいた瞬間。小鳥のように囀った。
「ああ‼ 私の可愛い坊や……お願いよ、お母様を助けて……」
「――逃げ遅れたか。それとも、また男に見捨てられたんだろうね」
一瞬で顔色を変える女は大きく口を開いたが、自分の状況も分からない無能ではないようで祈る仕草をする。
魔物もグラキエスに気づいたようで威嚇の声を上げるが、なんの予備動作もなく白い光へ包まれ地に伏せた。事切れたように動かなくなった魔物を見て、腰が抜けたのか体を這う女はグラキエスのローブを掴む。
その表情は、部外者であるイグニスも驚くほど、男をたらし込む女の顔をしていた。
「ねぇ、グラキエス……色々あったけど、またよりを戻したいの……お願い」
蔑んだ顔で微動だにしないグラキエスを見ても動じない女は呆れも通り越すほど自己中心的だった。怒りがこみ上げたイグニスも二人へ近づいていく。
「――反吐が出る。アンタは母親じゃない。僕にとっての呪いだ」
細い手を振り解き背中を向けるグラキエスに罵声が飛んだ。
「あー‼ やっぱり、アンタなんて産まなきゃよかった! 私の家名を捨てた恥さらしが!」
最後まで自分大好きな女はフラフラと立ち上がって最大級の暴言を吐く。その言葉を聞いたグラキエスの肩が一瞬だけ震え、唇を噛み締めた。この女の言うとおり、グラキエスが呼ばれているメディシーナはイグニスの母親の家名を借りているにすぎない。過去を知られたくないグラキエスの願いや、同じ騎士団所属の二人が義兄弟だと知られないためだった――。
悲痛で歪む顔のグラキエスとすれ違いざまで、女へ歩み寄るイグニスの平手打ちが響く。拍子抜けする女の襟首を掴んで持ち上げると、赤く鋭い双眸で威圧した。
「ふざけてんじゃねぇ‼ てめぇの息子は、無能と違ってこの世界に必要な存在だ」
「な……な、なんなのよ‼ アンタ! ああ……その髪色と瞳は団長よね……。か弱い女に、こんなことして許されると思ってるの!?」
「ハッ……誰が、か弱いだ? 悪の根源である闇魔法結社に寝返った無能女の間違いだろう」
捨てるように手を離すと、立ち尽くすグラキエスの元へ向かう。後ろから頭をポンポン撫でると、勢い余って抱きつくグラキエスに女の歯を鳴らす音が聞こえてきた。悔しさが滲み出る女にもう一度だけ振り返る。
「ああ、忘れてた……。こいつを産んでくれたことだけは感謝している。もう二度と俺たちの前に現れるんじゃねぇ――」
二人の姿に気づいた団員たちが駆け寄ってきて、事情を説明すると女は拘束されて連れて行かれた。城下町は半壊したが、無傷な王城から顔を出す国王によって終戦が伝えられる。
◆◆◆
半壊した城下町で奇跡的に死者はゼロだった。闇魔法結社の信徒は半分がキメラ化した魔物に襲われて息絶え、残りは捕らえられている。
だが、そのほとんどが使いっぱなしの無能でありフルーフは当然、大物は一人もいなかった――。
翌日。国民と共に半壊した街へ派遣された魔法騎士団の様子を団長室の窓から流し見るイグニスは、グラキエスの膝に抱きかかえられていた。
「……それで、この体勢はなんだ」
「えー? イグニスが言いたいことあるって呼び出すから、勢い余って」
平穏を取り戻したあとも、晴れない表情のグラキエスにイグニスも心を決める。早朝から出払っている団員たちを良いことに、団長室へ呼んだのだが……。
会って早々抱きつかれ、お姫様抱っこされて今に至る。完全に感情を読まれているのが目に見えて分かった。
頭を抱えるイグニスは、腰を抱かれたまま向かい合わされる。輝くような空色の垂れ目が、答えを待っていた。昨日の疲労から、二人は王城で一日休暇扱いされている。
意を決したのに目が泳ぐイグニスは、笑顔を向けたまま何も言わないグラキエスへ短い息を吐いた。
すでに分かった上で言うのは恥ずかしさがあり、抱きかかえられている状況もイグニスにとって最悪である。
「……まず、降ろせ」
「えー! 可愛く収まってるのに?」
「可愛くねぇ! 密着したままとか、ありえねぇし……顔が近い」
「もー、イグニスの恥ずかしがり屋さ――ちょ、痛い!」
顔が熱くなるイグニスの拳骨がグラキエスの脳天へ直撃した。それでも、離さない腕を強引に引き剥がそうとするが全く動かない。
こういうときのグラキエスには敵わないことも把握しているイグニスだったが、魔法以外の抵抗を試みて息を荒げて敗北する。
「……イグニス、早く……」
強請るような言葉をかけるグラキエスは、前面に年下の可愛らしさを押し出してきた。二十五の男が可愛いかは置いておく……。見た目だけなら化粧で女にも化けられるだろうグラキエスの懇願する顔は破壊力抜群だった。
「――グラス……いや、グラキエス・メディ――ローゼン。俺は、世界中の誰よりも……お前のことを、愛してる。遅くなったが、一生幸せに」
「イグニス‼ 僕も愛してるよ。イグニスの命が尽きても、骨の髄まで愛すからね」
「――いまの撤回してもいいか? 骨の髄までとか、引いた……」
「えぇぇぇ⁉」
部屋中にグラキエスの叫び声が木霊する。即座に撤回を申し出るイグニスだったが、グラキエスの腕から逃れることは出来ず、近づいてくる顔へ目を閉じて唇を触れ合わせた。
避難は済んでいるはずだが、未だに魔法の光で空は輝いていた。見つけ次第片っ端から黒装束の信徒を潰していく中、女の悲鳴が聞こえてくる。
イグニスたちが戦っていた時間を考えても国民はすべて避難されているはずの悲鳴に、すぐ駆けつけた。だが、そこにいたのは見覚えのある女の顔。
首と胴体が明らかに異なる魔物の姿を捉える。キメラだろう魔物二匹に崩れた家屋の壁へ追いつめられていた。
「――グラス」
「……僕が行く」
怯えた瞳をしていたグラキエスの母親は、息子の存在に気づいた瞬間。小鳥のように囀った。
「ああ‼ 私の可愛い坊や……お願いよ、お母様を助けて……」
「――逃げ遅れたか。それとも、また男に見捨てられたんだろうね」
一瞬で顔色を変える女は大きく口を開いたが、自分の状況も分からない無能ではないようで祈る仕草をする。
魔物もグラキエスに気づいたようで威嚇の声を上げるが、なんの予備動作もなく白い光へ包まれ地に伏せた。事切れたように動かなくなった魔物を見て、腰が抜けたのか体を這う女はグラキエスのローブを掴む。
その表情は、部外者であるイグニスも驚くほど、男をたらし込む女の顔をしていた。
「ねぇ、グラキエス……色々あったけど、またよりを戻したいの……お願い」
蔑んだ顔で微動だにしないグラキエスを見ても動じない女は呆れも通り越すほど自己中心的だった。怒りがこみ上げたイグニスも二人へ近づいていく。
「――反吐が出る。アンタは母親じゃない。僕にとっての呪いだ」
細い手を振り解き背中を向けるグラキエスに罵声が飛んだ。
「あー‼ やっぱり、アンタなんて産まなきゃよかった! 私の家名を捨てた恥さらしが!」
最後まで自分大好きな女はフラフラと立ち上がって最大級の暴言を吐く。その言葉を聞いたグラキエスの肩が一瞬だけ震え、唇を噛み締めた。この女の言うとおり、グラキエスが呼ばれているメディシーナはイグニスの母親の家名を借りているにすぎない。過去を知られたくないグラキエスの願いや、同じ騎士団所属の二人が義兄弟だと知られないためだった――。
悲痛で歪む顔のグラキエスとすれ違いざまで、女へ歩み寄るイグニスの平手打ちが響く。拍子抜けする女の襟首を掴んで持ち上げると、赤く鋭い双眸で威圧した。
「ふざけてんじゃねぇ‼ てめぇの息子は、無能と違ってこの世界に必要な存在だ」
「な……な、なんなのよ‼ アンタ! ああ……その髪色と瞳は団長よね……。か弱い女に、こんなことして許されると思ってるの!?」
「ハッ……誰が、か弱いだ? 悪の根源である闇魔法結社に寝返った無能女の間違いだろう」
捨てるように手を離すと、立ち尽くすグラキエスの元へ向かう。後ろから頭をポンポン撫でると、勢い余って抱きつくグラキエスに女の歯を鳴らす音が聞こえてきた。悔しさが滲み出る女にもう一度だけ振り返る。
「ああ、忘れてた……。こいつを産んでくれたことだけは感謝している。もう二度と俺たちの前に現れるんじゃねぇ――」
二人の姿に気づいた団員たちが駆け寄ってきて、事情を説明すると女は拘束されて連れて行かれた。城下町は半壊したが、無傷な王城から顔を出す国王によって終戦が伝えられる。
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半壊した城下町で奇跡的に死者はゼロだった。闇魔法結社の信徒は半分がキメラ化した魔物に襲われて息絶え、残りは捕らえられている。
だが、そのほとんどが使いっぱなしの無能でありフルーフは当然、大物は一人もいなかった――。
翌日。国民と共に半壊した街へ派遣された魔法騎士団の様子を団長室の窓から流し見るイグニスは、グラキエスの膝に抱きかかえられていた。
「……それで、この体勢はなんだ」
「えー? イグニスが言いたいことあるって呼び出すから、勢い余って」
平穏を取り戻したあとも、晴れない表情のグラキエスにイグニスも心を決める。早朝から出払っている団員たちを良いことに、団長室へ呼んだのだが……。
会って早々抱きつかれ、お姫様抱っこされて今に至る。完全に感情を読まれているのが目に見えて分かった。
頭を抱えるイグニスは、腰を抱かれたまま向かい合わされる。輝くような空色の垂れ目が、答えを待っていた。昨日の疲労から、二人は王城で一日休暇扱いされている。
意を決したのに目が泳ぐイグニスは、笑顔を向けたまま何も言わないグラキエスへ短い息を吐いた。
すでに分かった上で言うのは恥ずかしさがあり、抱きかかえられている状況もイグニスにとって最悪である。
「……まず、降ろせ」
「えー! 可愛く収まってるのに?」
「可愛くねぇ! 密着したままとか、ありえねぇし……顔が近い」
「もー、イグニスの恥ずかしがり屋さ――ちょ、痛い!」
顔が熱くなるイグニスの拳骨がグラキエスの脳天へ直撃した。それでも、離さない腕を強引に引き剥がそうとするが全く動かない。
こういうときのグラキエスには敵わないことも把握しているイグニスだったが、魔法以外の抵抗を試みて息を荒げて敗北する。
「……イグニス、早く……」
強請るような言葉をかけるグラキエスは、前面に年下の可愛らしさを押し出してきた。二十五の男が可愛いかは置いておく……。見た目だけなら化粧で女にも化けられるだろうグラキエスの懇願する顔は破壊力抜群だった。
「――グラス……いや、グラキエス・メディ――ローゼン。俺は、世界中の誰よりも……お前のことを、愛してる。遅くなったが、一生幸せに」
「イグニス‼ 僕も愛してるよ。イグニスの命が尽きても、骨の髄まで愛すからね」
「――いまの撤回してもいいか? 骨の髄までとか、引いた……」
「えぇぇぇ⁉」
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