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後日談
初めてのデート
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首に掛からないほどに伸ばされた白銀色のふわふわした髪。色白の肌に垂れた一重の空色をした瞳と少しだけ膨らみを帯びた薄ピンク色の唇を持つ正真正銘の男。横顔だけでも絵になる美貌の持ち主は、清楚な白いシャツに空色のベストとズボンで遠目からでもキラキラしていた。
何人かに声をかけられる度、態度を変えている。同性に対しては当たりが強い顔をしていた。
それなのに――。
炎のように赤い髪を持ち、赤い薔薇のような鋭い一重の瞳をしたイグニスへ気づいた瞬間、その顔は破顔する。
グラキエスとは違った男らしい美貌の持ち主だが、目つきの悪さから強面に思われて近づく男はいない。女からも一目置かれた姿は、灰色のシャツに黒紅色のズボンでまったくお洒落じゃなかった。
それなのに腰はくびれ、着痩せする容姿の良さが目を引いている。
「イグニス~! 今日も格好良いね」
「……てめぇの言葉は嘘にしか聞こえねぇ」
何度も可愛いしか言われていないせいで顔を逸らすイグニスの腰を抱き寄せるグラキエスに、周りから悲鳴が上がった。
他人を気にするイグニスじゃないが、格好良いと言う相手へする行為でないことからすぐ引き剥がす。
それを照れてると自分勝手な思い込みをするグラキエスはだらしない笑みを向けてきた。
「もう、何度もそれ以上のことしてるのに……恥ずかしがるイグニス、本当かわいいな~」
「ぐっ……うるせぇ! てめぇが……欲情して、盛るからだろう」
恋人になる前も、なってからは両手で数えられるほど体を重ねているのに、デートは一度もしたことがない二人。
今日はイグニスの二十八歳と言う記念すべき誕生祭で、初デートしようと提案された。
そのため、イグニスから出された条件は性的なことをしないこと。グラキエスの誕生祭で恋人としてあるまじき変態行為を強要されたからだ。
二人がいるのは恋人の待ち合わせ場所として有名な時計台のある広場で、わざわざ時間をずらして来ている。
「たまには彼氏の僕が待つっているのも悪くないからねぇ」
「……誰が彼氏だ。それより、どこ行くんだよ」
「それはヒ・ミ・ツ~。イグニスを楽しませるためのね?」
「……変なところに連れ込んだら容赦しねぇぞ」
いつもと変わらないやり取りをする二人は、はたから見たらまったく恋人に見えなかった。
ただ、そんな他人事を気にする二人じゃない。会ったときから終始笑顔のグラキエスを呆れ顔ながら優しい表情で見ているイグニスは、歩きながらそっと襟足に触れる。
「……イグニスのえっち」
「なっ……髪に触ったくらいだろ……!」
思いもしない言葉が返されて頭の悪い返答をしてしまうイグニスは足を止めた。同じように指で横髪を絡め取るグラキエスは顔を近づけてきて、そのまま唇が触れると目を見張る。
「――隙あり」
「ぐっ……てめぇのが変態だろうが!」
不覚にもドキッとしてしまったイグニスは誤魔化すように手を払った。
その瞬間、髪の毛から仄かな薔薇の香りが舞って空気とともにグラキエスの鼻をくすぐる。
しかも、イグニスの香りは昨日取り寄せたばかりの新作だった。
「……良い香り。甘すぎず、刺激も強くなくていいね……僕が好きな匂いだよ」
「そ、うかよ……」
思わず歯切れが悪くなってしまうのは、今日に合わせて調合して貰った香りだったから。この顔で意外に甘いのが苦手なグラキエスの気にいる匂いに……。
普段から使っているのは自然由来で匂いは強くない。イグニスのことで知らない情報のないグラキエスは、知らないふりをして嬉しそうに笑う。いつも監視紛いなことをされているなど微塵も思っていないイグニスは、視線をそらして頭を掻いた。
歩きだして体感十分くらい経った頃。王都の中心部から離れていくと、旧市街の手前に広場があった。
長さを揃えるよう刈り取られた芝生には、リトス王国だと珍しい生き物がいる。
立派な鬣に艶のある毛並みをして蹄を鳴らす馬の姿があった。
「え……乗馬?」
「うん……。イグニスならお洒落な喫茶店より、体を動かす方が良いかなって」
爽やかな笑みを浮かべるグラキエスの横顔にドキッとしてしまうイグニスは思わず視線をそらす。
グラキエスが連れてきた場所は、最近出来たばかりの乗馬ができる施設だった。
事前に頼んでいた乗馬用の装備をしてから連れてこられた馬は、赤馬と芦毛。
見た目に反して気性は荒くない大人しい馬を撫でる。動物に好かれやすいイグニスは頭を擦り寄せられていた。
「やっぱりイグニスは動物に好かれるよねー。フェロモンかな……」
「……妙なこと言ってんじゃねぇ。それよりも、てめぇは乗馬の経験あるのかよ」
「実は、イグニスを誘うために猛特訓しましたー」
努力は隠すことの方が多いところ、包み隠さず言うのがグラキエスの美点である。
イグニスは乗馬初体験と言うことで、補助員が声をかけてきた。
肩にかかる若草色の髪を一つに結んだ垂れ目の男が爽やかな笑みを浮かべる。
翠眼の瞳が微笑む姿を見ると、どこかグラキエスに似た部分を感じた。
どちらも垂れ目だからだろうかと思案していたとき、急に顎を掴まれる。強制的に横を向かされると、不満顔のグラキエスが眉を寄せていた。
「……イグニス、見過ぎだから」
「あ? 考え事してただけだ」
「――補助員をさせてもらいます。困ったことがあったら遠慮せず頼ってくださいね」
挨拶を交わして握手する手をすぐ引き剥がすグラキエスに二人して乾いた笑みを浮かべたあと、馬の乗り方を教わって鞍を掴んで跨る。
すでに馬へ乗っていたグラキエスが横まで歩いてくると、手綱を握りながら補助員の誘導で歩き出した。
「……思ったより乗り心地は良いとは言えねぇな」
「うん。体幹もないと振り落とされちゃうかもだけど――」
「ローゼン様は体幹がしっかりされていて見栄えも素敵ですよ」
グラキエスに被せるような言葉が飛ぶと、褒め慣れていないイグニスは照れたような笑みを浮かべる。完全に闘志が燃えるグラキエスは、乗馬へ慣れてきた頃合いで施設員に声をかけていた。勿論、視線だけはイグニスの方を向いている。
その間、色々話しかけてくる補助員に笑顔で対応するイグニスは、グラキエスと恋人になったことで前より丸くなっていた。
警戒心も削がれてしまったイグニスへ馬から降りて歩いてきたグラキエスは冷たい視線を補助員へ向ける。
魔物に睨まれたような顔で息を呑む補助員へイグニスが口を挟んだ。
「おい……威圧してんじゃねぇよ。それより、もう乗馬は辞めるのか?」
「――イグニスが前より可愛くなっちゃったから悪いんだ……」
「は……? 誰が可愛くなっただ――」
視線を下へ向けて嗜めようとしたときだった。横に影が出来て振り向くと思わず言葉を失ってしまう。
白銀色をした光沢のある鱗。長い鼻先に口から覗く鋭い牙。長い鉤爪に、太くて靭やかな尻尾が揺れている。蝙蝠のような長い双翼を地面へつけた飛竜だった。
通常の魔物と違って古来から棲息している聖獣とも呼ばれ、賢い魔法生物だ。
因みに人間側の竜人とは別個体で、先祖などでもない。
伝説上の生き物が視界に映る神秘的な姿へ息を呑む。
「……イグニスのために、聖女の力をフル活用したんだよ」
「え……俺のため?」
「うん。イグニスと二人で空を飛びたいなって……」
再びドキッと心臓の高鳴りを感じたイグニスは目を泳がせていた。機嫌を良くしたグラキエスの伸ばされる手を取って馬から降りる。
近づいていくとイグニスを吟味するような眼差しが、胸板へ鼻先を擦り合わせた。馬と同じく気に入った相手へする行動である。
ただ、馬と違って胸板へ擦り合わせる姿へグラキエスが間に入る。
「ちょっと……イグニスの可憐な花に触れないでくれる」
「なっ……人間以外に嫉妬してんじゃねぇ」
当然ながら飛竜に擦られても反応はしなかったが、グラキエスの言葉で疼くものを感じた。
気を取り直して先に飛竜へ飛び乗るグラキエスは、それだけで絵になって心が揺れ動く。上から伸ばされる手を握ってグラキエスの前へ乗るイグニスは強く腰を抱かれた。
「おい、グラス……」
「二人乗りは、この乗り方が普通だからね? 飛竜は飛び上がったあとは馬と違って掴まってなくても大丈夫だけど、飛ぶときに振り落とされかねないから」
至極真っ当なことを口にする姿を真に受けて密着しながら飛竜へ合図を出した瞬間、大きく双翼が広げられる。空中へ浮き上がった際に一瞬だけ体が揺れたあと、後ろからグラキエスの声が飛んだ。
「自分で飛ぶのと違った景色が見えるでしょ?」
「ああ……そうだな。綺麗だ……」
雲一つない青空から映る城下町は陽の光で輝いて見える。
自分では飛べない高さまで飛び上がった飛竜からの眺めは絶景だった。
水平に飛ぶ飛竜は安定感があり、馬とはまったく違う感覚で年甲斐もなく心は踊る。少ししても抱きしめる腕はそのままで、顔を寄せてくるグラキエスに呆れた顔を向けた。
「てめぇ、調子に乗ってんだろう……」
「えー? 乗ってないよー。せっかくの二人乗りなんだから、密着しないとね」
普段から所構わず腰を抱いてくるグラキエスの行動は、二人きりなのもあって許してしまう。団服よりも薄いからか、心臓の音も聞こえてきそうなほど密着したまま空高く舞っていた。
いつの間にかグラキエスの体へ頭を預ける形で心地良い風に目を細めていると、後ろから手が伸びてくる。
伸ばされた手は頬へ触れて、後ろを向かされた。何をしたいかは一目瞭然で、自然と目を閉じる。
「――誕生日、おめでとう……イグニス。愛してる……」
「ああ……有難う。俺も、愛してるよグラキエス――」
チュッと音がするように唇を触れ合わせ、暫くの間啄むような口付けを交わしていた――。
何人かに声をかけられる度、態度を変えている。同性に対しては当たりが強い顔をしていた。
それなのに――。
炎のように赤い髪を持ち、赤い薔薇のような鋭い一重の瞳をしたイグニスへ気づいた瞬間、その顔は破顔する。
グラキエスとは違った男らしい美貌の持ち主だが、目つきの悪さから強面に思われて近づく男はいない。女からも一目置かれた姿は、灰色のシャツに黒紅色のズボンでまったくお洒落じゃなかった。
それなのに腰はくびれ、着痩せする容姿の良さが目を引いている。
「イグニス~! 今日も格好良いね」
「……てめぇの言葉は嘘にしか聞こえねぇ」
何度も可愛いしか言われていないせいで顔を逸らすイグニスの腰を抱き寄せるグラキエスに、周りから悲鳴が上がった。
他人を気にするイグニスじゃないが、格好良いと言う相手へする行為でないことからすぐ引き剥がす。
それを照れてると自分勝手な思い込みをするグラキエスはだらしない笑みを向けてきた。
「もう、何度もそれ以上のことしてるのに……恥ずかしがるイグニス、本当かわいいな~」
「ぐっ……うるせぇ! てめぇが……欲情して、盛るからだろう」
恋人になる前も、なってからは両手で数えられるほど体を重ねているのに、デートは一度もしたことがない二人。
今日はイグニスの二十八歳と言う記念すべき誕生祭で、初デートしようと提案された。
そのため、イグニスから出された条件は性的なことをしないこと。グラキエスの誕生祭で恋人としてあるまじき変態行為を強要されたからだ。
二人がいるのは恋人の待ち合わせ場所として有名な時計台のある広場で、わざわざ時間をずらして来ている。
「たまには彼氏の僕が待つっているのも悪くないからねぇ」
「……誰が彼氏だ。それより、どこ行くんだよ」
「それはヒ・ミ・ツ~。イグニスを楽しませるためのね?」
「……変なところに連れ込んだら容赦しねぇぞ」
いつもと変わらないやり取りをする二人は、はたから見たらまったく恋人に見えなかった。
ただ、そんな他人事を気にする二人じゃない。会ったときから終始笑顔のグラキエスを呆れ顔ながら優しい表情で見ているイグニスは、歩きながらそっと襟足に触れる。
「……イグニスのえっち」
「なっ……髪に触ったくらいだろ……!」
思いもしない言葉が返されて頭の悪い返答をしてしまうイグニスは足を止めた。同じように指で横髪を絡め取るグラキエスは顔を近づけてきて、そのまま唇が触れると目を見張る。
「――隙あり」
「ぐっ……てめぇのが変態だろうが!」
不覚にもドキッとしてしまったイグニスは誤魔化すように手を払った。
その瞬間、髪の毛から仄かな薔薇の香りが舞って空気とともにグラキエスの鼻をくすぐる。
しかも、イグニスの香りは昨日取り寄せたばかりの新作だった。
「……良い香り。甘すぎず、刺激も強くなくていいね……僕が好きな匂いだよ」
「そ、うかよ……」
思わず歯切れが悪くなってしまうのは、今日に合わせて調合して貰った香りだったから。この顔で意外に甘いのが苦手なグラキエスの気にいる匂いに……。
普段から使っているのは自然由来で匂いは強くない。イグニスのことで知らない情報のないグラキエスは、知らないふりをして嬉しそうに笑う。いつも監視紛いなことをされているなど微塵も思っていないイグニスは、視線をそらして頭を掻いた。
歩きだして体感十分くらい経った頃。王都の中心部から離れていくと、旧市街の手前に広場があった。
長さを揃えるよう刈り取られた芝生には、リトス王国だと珍しい生き物がいる。
立派な鬣に艶のある毛並みをして蹄を鳴らす馬の姿があった。
「え……乗馬?」
「うん……。イグニスならお洒落な喫茶店より、体を動かす方が良いかなって」
爽やかな笑みを浮かべるグラキエスの横顔にドキッとしてしまうイグニスは思わず視線をそらす。
グラキエスが連れてきた場所は、最近出来たばかりの乗馬ができる施設だった。
事前に頼んでいた乗馬用の装備をしてから連れてこられた馬は、赤馬と芦毛。
見た目に反して気性は荒くない大人しい馬を撫でる。動物に好かれやすいイグニスは頭を擦り寄せられていた。
「やっぱりイグニスは動物に好かれるよねー。フェロモンかな……」
「……妙なこと言ってんじゃねぇ。それよりも、てめぇは乗馬の経験あるのかよ」
「実は、イグニスを誘うために猛特訓しましたー」
努力は隠すことの方が多いところ、包み隠さず言うのがグラキエスの美点である。
イグニスは乗馬初体験と言うことで、補助員が声をかけてきた。
肩にかかる若草色の髪を一つに結んだ垂れ目の男が爽やかな笑みを浮かべる。
翠眼の瞳が微笑む姿を見ると、どこかグラキエスに似た部分を感じた。
どちらも垂れ目だからだろうかと思案していたとき、急に顎を掴まれる。強制的に横を向かされると、不満顔のグラキエスが眉を寄せていた。
「……イグニス、見過ぎだから」
「あ? 考え事してただけだ」
「――補助員をさせてもらいます。困ったことがあったら遠慮せず頼ってくださいね」
挨拶を交わして握手する手をすぐ引き剥がすグラキエスに二人して乾いた笑みを浮かべたあと、馬の乗り方を教わって鞍を掴んで跨る。
すでに馬へ乗っていたグラキエスが横まで歩いてくると、手綱を握りながら補助員の誘導で歩き出した。
「……思ったより乗り心地は良いとは言えねぇな」
「うん。体幹もないと振り落とされちゃうかもだけど――」
「ローゼン様は体幹がしっかりされていて見栄えも素敵ですよ」
グラキエスに被せるような言葉が飛ぶと、褒め慣れていないイグニスは照れたような笑みを浮かべる。完全に闘志が燃えるグラキエスは、乗馬へ慣れてきた頃合いで施設員に声をかけていた。勿論、視線だけはイグニスの方を向いている。
その間、色々話しかけてくる補助員に笑顔で対応するイグニスは、グラキエスと恋人になったことで前より丸くなっていた。
警戒心も削がれてしまったイグニスへ馬から降りて歩いてきたグラキエスは冷たい視線を補助員へ向ける。
魔物に睨まれたような顔で息を呑む補助員へイグニスが口を挟んだ。
「おい……威圧してんじゃねぇよ。それより、もう乗馬は辞めるのか?」
「――イグニスが前より可愛くなっちゃったから悪いんだ……」
「は……? 誰が可愛くなっただ――」
視線を下へ向けて嗜めようとしたときだった。横に影が出来て振り向くと思わず言葉を失ってしまう。
白銀色をした光沢のある鱗。長い鼻先に口から覗く鋭い牙。長い鉤爪に、太くて靭やかな尻尾が揺れている。蝙蝠のような長い双翼を地面へつけた飛竜だった。
通常の魔物と違って古来から棲息している聖獣とも呼ばれ、賢い魔法生物だ。
因みに人間側の竜人とは別個体で、先祖などでもない。
伝説上の生き物が視界に映る神秘的な姿へ息を呑む。
「……イグニスのために、聖女の力をフル活用したんだよ」
「え……俺のため?」
「うん。イグニスと二人で空を飛びたいなって……」
再びドキッと心臓の高鳴りを感じたイグニスは目を泳がせていた。機嫌を良くしたグラキエスの伸ばされる手を取って馬から降りる。
近づいていくとイグニスを吟味するような眼差しが、胸板へ鼻先を擦り合わせた。馬と同じく気に入った相手へする行動である。
ただ、馬と違って胸板へ擦り合わせる姿へグラキエスが間に入る。
「ちょっと……イグニスの可憐な花に触れないでくれる」
「なっ……人間以外に嫉妬してんじゃねぇ」
当然ながら飛竜に擦られても反応はしなかったが、グラキエスの言葉で疼くものを感じた。
気を取り直して先に飛竜へ飛び乗るグラキエスは、それだけで絵になって心が揺れ動く。上から伸ばされる手を握ってグラキエスの前へ乗るイグニスは強く腰を抱かれた。
「おい、グラス……」
「二人乗りは、この乗り方が普通だからね? 飛竜は飛び上がったあとは馬と違って掴まってなくても大丈夫だけど、飛ぶときに振り落とされかねないから」
至極真っ当なことを口にする姿を真に受けて密着しながら飛竜へ合図を出した瞬間、大きく双翼が広げられる。空中へ浮き上がった際に一瞬だけ体が揺れたあと、後ろからグラキエスの声が飛んだ。
「自分で飛ぶのと違った景色が見えるでしょ?」
「ああ……そうだな。綺麗だ……」
雲一つない青空から映る城下町は陽の光で輝いて見える。
自分では飛べない高さまで飛び上がった飛竜からの眺めは絶景だった。
水平に飛ぶ飛竜は安定感があり、馬とはまったく違う感覚で年甲斐もなく心は踊る。少ししても抱きしめる腕はそのままで、顔を寄せてくるグラキエスに呆れた顔を向けた。
「てめぇ、調子に乗ってんだろう……」
「えー? 乗ってないよー。せっかくの二人乗りなんだから、密着しないとね」
普段から所構わず腰を抱いてくるグラキエスの行動は、二人きりなのもあって許してしまう。団服よりも薄いからか、心臓の音も聞こえてきそうなほど密着したまま空高く舞っていた。
いつの間にかグラキエスの体へ頭を預ける形で心地良い風に目を細めていると、後ろから手が伸びてくる。
伸ばされた手は頬へ触れて、後ろを向かされた。何をしたいかは一目瞭然で、自然と目を閉じる。
「――誕生日、おめでとう……イグニス。愛してる……」
「ああ……有難う。俺も、愛してるよグラキエス――」
チュッと音がするように唇を触れ合わせ、暫くの間啄むような口付けを交わしていた――。
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