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【第1話】自称モブ男は、恋愛フラグを回避する
恋愛フラグから逃れられない。
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徐々に速さを増す竜種へ、振り落とされないようにしがみついて風を感じていた。
魔法は便利なはずなのに、相手の近況を知ることすら出来ない俺は、やるせなさを感じている。
次第に遠ざかる故郷と、見えてくる王都。何事もないように笑い声が聞こえてきそうな国民を目で追った。
きっとただの遠征と思っている国民ばかりなんだろう。軽く通り過ぎて、見えてくる景色の中に人里は消えていった。
不安を胸に抱きながら、次に見えてきたのは魔窟の穴と呼ばれる場所。上空からだと盛り上がった山半分くらいの大きさで広がった大地に感じられる。
「……上から見ることなんてなかったから、異様に映るな……」
入口を探して滑空する最中、数十頭の馬を発見した。
人の姿はなく、既に中へ侵入していることが分かる。
外の魔物は一掃したのか? 中は穴だけあって狭いだろうし、この馬の数からして20人くらいの少数精鋭だよな。
馬が怖がらないよう少し離れた場所で竜種から降りると、召喚を解除する。再び光の中に消えていく姿を眺めたあと、馬のいる入口へ向かった。
そんなとき、急に馬が蹄を鳴らして騒ぎ出す。最初は、急に現れた俺に驚いたのかと思ったら、続々と中から騎士団服を着た男たちが飛び出してきた。
「うおっ」
思わず声を上げると、1人の騎士団員が気づいて剣を向けてくる。他の団員も気づいた様子で一気に囲まれるが、その中にソラティオの姿はない。
俺の格好と言ったら、故郷の自警団で支給されている魔法使いの格好だ。王都の隣ってこともあって1人が叫ぶ。
「その服! 隣町の自警団員じゃないか?」
「え……言われてみたら、紋章もあるな」
「あー……すみません。ちょっと、騎士団員の友人から手紙を貰って……心配で」
事情を説明すると納得してくれて剣が下ろされた。
だけどソラティオの名前を出した瞬間、全員の顔が曇る。
そして、中心人物の現・騎士団長が歩み寄ってきた。襟足が少し伸びた灰色の髪をした男前。年齢は30後半か……。
口を開いて聞こえてきた声は重低音で、体の芯を震わせる。
「……彼は、殿を務めてくれた」
「え……」
殿って……えっと、確か――部隊を逃がすために最後尾で敵を止めるって言うやつだったか……?
でも、騎士団の数からして全員出てきたはず……。
「……全員いますよね? なのに、どうしてアイツはいないんですか」
「それは……退路が分かれ道になっているところで、魔物が溢れ出したんだと――」
つまり、いまアイツはたった1人で魔物たちを相手しているのか?
居ても立ってもいられず走り出そうと地面を蹴る俺の腕を騎士団長が掴む。
言いたいことは分かるけど、俺が此処にきた目的はただ一つだ。
「悪いけど、俺を止められるのはアイツだけだ……!」
魔法で軽く騎士団長の腕を吹き飛ばし、離れた瞬間に加速する。
もう風を切る足を止められる者はいない。
加速したまま初めての内部へ侵入する。入口から遠ざかるほど暗くなっていくのが分かり、魔法の明かりを灯す。
入口付近の魔物は一掃されたからかシーンと静まり返っていた。中は本当の洞穴みたいで、地面は硬い土に、天井を照らしてみると岩肌が見える。
それから遠くを照らしたら地面や壁に結晶体の魔石が吐出していた。
「確か、分かれ道があるって言ってたよな……そこから魔物の気配を探って」
今一度、魔法で足を加速させると一本道を駆けていく。
甲冑姿の騎士でも5人は横並び出来るほど広い穴の中を進んでいくと、例の分かれ道へ差し掛かった。
よし。このどっちかにソラティオがいる。
「魔力感知!」
一瞬だけ瞳孔の開いた感覚がしてから、左側に青い色が見えた。魔力は、色で表すなら濃い青をしているなんて言われている。
よし、左だ!
再び加速すると魔物の声が聞こえてくる。感情の赴くままにアイツの名前を叫んだ。
「――ソラティオ!」
反応は返ってこない……。
無我夢中で突っ走ると見えてきた広い空間の中心に魔物の群れが見えてくる。
とぐろを巻くように、様々な魔物が囲んで見える異様な光景に思わず息を呑んだ。
嘘だと言ってくれ……!
「ソラ――ソラティオ!!」
「――火焔乱舞!」
血の匂いと共に天井まで伸びる炎の竜巻が上がる。燃え盛る炎は魔物を焼き尽くし塵と化した。
「ハァ、ハァ……」
聞こえてくる息遣いに胸が熱くなる。黒い煙が薄れていき人の影が目に映った。
全身ボロボロの騎士団服に、所々血が滲んでいる。
危機的状況だったのは見てすぐ分かった。傷ついた片腕を押さえる姿はとても痛々しい……。
だけど、こんな傷だらけでも生きていたのは……恋愛フラグが立っているからこそだろう。
「えっ……? フー」
「お前が無事で良かった!!」
思わず叫んでしまったー!
血の気の引いたような顔をしていた男が、顔を赤らめたぞ……。ちょっと待て――これは、確実に恋愛フラグ立ちまくりだろう!?
焦る俺を嘲笑うかのように、一方通行の道から無数の魔物が押し寄せていた。
うん。知ってた。魔力暴走は、待ってくれるほどお人好しじゃない……。魔物だから、そもそも人じゃないけどな。
「それじゃ。一発でキメちまうか」
ソラティオが何かを言いたそうにしていたけど、その前に俺は極大魔法を放つ。
眩しいほどの極太な白い光線が壁をぶち抜く音と共に魔物は消えて無くなった。
周囲に濃い青色で光り輝く魔石が山盛りとなって道を照らしたことで、壁に空いた巨大な穴を見て乾いた笑いが溢れる。
興奮してやっちまった……。
一人で魔力暴走を止めてしまった自称モブ男って、ないよ……。ないない。
背後から圧のような熱い視線を感じてビクッと肩を揺らして振り返る。
「――君は、本当に……僕の心を搦め捕って離さないね」
「え……っと、いや……これは、その……」
しどろもどろになる俺の両手を掴むソラティオは、完全にキマっていた。何がとは言わない……。
これは、うん……。
ソラティオの死亡フラグをへし折ったことで、恋愛フラグから逃れられなくなったアレだ。
真剣な眼差しを向けてくるソラティオは、何かを決意した男の顔をしている。
いやいや、決意しなくて良いから……それに血なまぐさい場所で、何をしようとしているんだ。
場所を考えろよ……!
「……こんな場所で、何言ってるんだって思うかもしれない……。でも、今じゃなきゃ駄目なんだ。――ずっと前から好きだった……。その、婚約を前提に僕と付き合ってほしい!」
あー……うん。告白された――。
魔法は便利なはずなのに、相手の近況を知ることすら出来ない俺は、やるせなさを感じている。
次第に遠ざかる故郷と、見えてくる王都。何事もないように笑い声が聞こえてきそうな国民を目で追った。
きっとただの遠征と思っている国民ばかりなんだろう。軽く通り過ぎて、見えてくる景色の中に人里は消えていった。
不安を胸に抱きながら、次に見えてきたのは魔窟の穴と呼ばれる場所。上空からだと盛り上がった山半分くらいの大きさで広がった大地に感じられる。
「……上から見ることなんてなかったから、異様に映るな……」
入口を探して滑空する最中、数十頭の馬を発見した。
人の姿はなく、既に中へ侵入していることが分かる。
外の魔物は一掃したのか? 中は穴だけあって狭いだろうし、この馬の数からして20人くらいの少数精鋭だよな。
馬が怖がらないよう少し離れた場所で竜種から降りると、召喚を解除する。再び光の中に消えていく姿を眺めたあと、馬のいる入口へ向かった。
そんなとき、急に馬が蹄を鳴らして騒ぎ出す。最初は、急に現れた俺に驚いたのかと思ったら、続々と中から騎士団服を着た男たちが飛び出してきた。
「うおっ」
思わず声を上げると、1人の騎士団員が気づいて剣を向けてくる。他の団員も気づいた様子で一気に囲まれるが、その中にソラティオの姿はない。
俺の格好と言ったら、故郷の自警団で支給されている魔法使いの格好だ。王都の隣ってこともあって1人が叫ぶ。
「その服! 隣町の自警団員じゃないか?」
「え……言われてみたら、紋章もあるな」
「あー……すみません。ちょっと、騎士団員の友人から手紙を貰って……心配で」
事情を説明すると納得してくれて剣が下ろされた。
だけどソラティオの名前を出した瞬間、全員の顔が曇る。
そして、中心人物の現・騎士団長が歩み寄ってきた。襟足が少し伸びた灰色の髪をした男前。年齢は30後半か……。
口を開いて聞こえてきた声は重低音で、体の芯を震わせる。
「……彼は、殿を務めてくれた」
「え……」
殿って……えっと、確か――部隊を逃がすために最後尾で敵を止めるって言うやつだったか……?
でも、騎士団の数からして全員出てきたはず……。
「……全員いますよね? なのに、どうしてアイツはいないんですか」
「それは……退路が分かれ道になっているところで、魔物が溢れ出したんだと――」
つまり、いまアイツはたった1人で魔物たちを相手しているのか?
居ても立ってもいられず走り出そうと地面を蹴る俺の腕を騎士団長が掴む。
言いたいことは分かるけど、俺が此処にきた目的はただ一つだ。
「悪いけど、俺を止められるのはアイツだけだ……!」
魔法で軽く騎士団長の腕を吹き飛ばし、離れた瞬間に加速する。
もう風を切る足を止められる者はいない。
加速したまま初めての内部へ侵入する。入口から遠ざかるほど暗くなっていくのが分かり、魔法の明かりを灯す。
入口付近の魔物は一掃されたからかシーンと静まり返っていた。中は本当の洞穴みたいで、地面は硬い土に、天井を照らしてみると岩肌が見える。
それから遠くを照らしたら地面や壁に結晶体の魔石が吐出していた。
「確か、分かれ道があるって言ってたよな……そこから魔物の気配を探って」
今一度、魔法で足を加速させると一本道を駆けていく。
甲冑姿の騎士でも5人は横並び出来るほど広い穴の中を進んでいくと、例の分かれ道へ差し掛かった。
よし。このどっちかにソラティオがいる。
「魔力感知!」
一瞬だけ瞳孔の開いた感覚がしてから、左側に青い色が見えた。魔力は、色で表すなら濃い青をしているなんて言われている。
よし、左だ!
再び加速すると魔物の声が聞こえてくる。感情の赴くままにアイツの名前を叫んだ。
「――ソラティオ!」
反応は返ってこない……。
無我夢中で突っ走ると見えてきた広い空間の中心に魔物の群れが見えてくる。
とぐろを巻くように、様々な魔物が囲んで見える異様な光景に思わず息を呑んだ。
嘘だと言ってくれ……!
「ソラ――ソラティオ!!」
「――火焔乱舞!」
血の匂いと共に天井まで伸びる炎の竜巻が上がる。燃え盛る炎は魔物を焼き尽くし塵と化した。
「ハァ、ハァ……」
聞こえてくる息遣いに胸が熱くなる。黒い煙が薄れていき人の影が目に映った。
全身ボロボロの騎士団服に、所々血が滲んでいる。
危機的状況だったのは見てすぐ分かった。傷ついた片腕を押さえる姿はとても痛々しい……。
だけど、こんな傷だらけでも生きていたのは……恋愛フラグが立っているからこそだろう。
「えっ……? フー」
「お前が無事で良かった!!」
思わず叫んでしまったー!
血の気の引いたような顔をしていた男が、顔を赤らめたぞ……。ちょっと待て――これは、確実に恋愛フラグ立ちまくりだろう!?
焦る俺を嘲笑うかのように、一方通行の道から無数の魔物が押し寄せていた。
うん。知ってた。魔力暴走は、待ってくれるほどお人好しじゃない……。魔物だから、そもそも人じゃないけどな。
「それじゃ。一発でキメちまうか」
ソラティオが何かを言いたそうにしていたけど、その前に俺は極大魔法を放つ。
眩しいほどの極太な白い光線が壁をぶち抜く音と共に魔物は消えて無くなった。
周囲に濃い青色で光り輝く魔石が山盛りとなって道を照らしたことで、壁に空いた巨大な穴を見て乾いた笑いが溢れる。
興奮してやっちまった……。
一人で魔力暴走を止めてしまった自称モブ男って、ないよ……。ないない。
背後から圧のような熱い視線を感じてビクッと肩を揺らして振り返る。
「――君は、本当に……僕の心を搦め捕って離さないね」
「え……っと、いや……これは、その……」
しどろもどろになる俺の両手を掴むソラティオは、完全にキマっていた。何がとは言わない……。
これは、うん……。
ソラティオの死亡フラグをへし折ったことで、恋愛フラグから逃れられなくなったアレだ。
真剣な眼差しを向けてくるソラティオは、何かを決意した男の顔をしている。
いやいや、決意しなくて良いから……それに血なまぐさい場所で、何をしようとしているんだ。
場所を考えろよ……!
「……こんな場所で、何言ってるんだって思うかもしれない……。でも、今じゃなきゃ駄目なんだ。――ずっと前から好きだった……。その、婚約を前提に僕と付き合ってほしい!」
あー……うん。告白された――。
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