白き乙女

神在琉葵(かみありるき)

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「早いですわね…もうこんな時間…」

 月子はまるで見えない月を見上げるかのような仕草をし、吐息混じりにそう呟いた。
いつもこうだ。



 以前…おそらく月子と知り合って二、三年が経った頃、私は月子に訊ねたことがあった。
なぜ、空を見上げるのか、なぜ時間がわかるのかと。
そんな時、月子はただ黙って微笑むだけだった。



「剣四郎様…
実は、こうしてお逢い出来るのは今宵限りです。」

「……そうか。」

 予想はしていた。
だけど、聞きたくはなかったその言葉に、私は一切の感情を込めずそう答えた。



 私とは違い、月子は初めて会った時と少しも変わってはいない。
ただ…逢う回数を重ねる度に、月子の生気が薄れていくことを私は感じていた。
 近いうちにこんな時が来ることを、私ははっきりと予感しつつ、それをあえて気付かないふりをしていた。



「剣四郎様、今までどうもありがとうございました。」

切ない笑顔を浮かべた月子は、軽く頭を下げ、闇の中に溶け込むように消えていった。
印象的な甘い香りだけを残して…



本当は月子の華奢な肩を抱き締め、行くなと声を上げたかった。
だが、それが無理だということを私は知っていて、無理だとわかっていてもなおそうしてしまう程の情熱は私にはもうなくて…
そんな自分自身を疎ましく感じながら、私は家路に着いた。

きっと来年の今頃は、今よりもずっと心が苦しいだろうことを予感しながら…
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