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なんちゃって男爵令嬢は自重しない②
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ルンルンとステップを踏みながら出来上がった冊子を抱きしめる。
ずっと待ち望んでいた推しとの出会い。ずっとずっと待ち望んで妄想を全て冊子にぶつけていた。だけど本物のしかも私の知ってる『花君』のシュネーより数倍バージョンアップして現れた彼に私の妄想なんて拙いものだったと思い知らされる。
彼を見ると更に妄想が膨らむ。
どんどんペンが進んでいく。
血色のいい白い肌はきっと美しい桜色に染まるだろう。少し薄い桃色の唇から出るあの声はベッドの上ではどんな甘い声で鳴くのか。強い意志のあるアメシストの瞳が揺れる姿も見てみたい。
これは早く紙におこして、カールやクリスタ様達にお見せして、この気持ちを共有したい。
ルンルンステップを踏みながら放課後の廊下を歩いていると急に足元に出てきた何かに躓き、私は盛大に転け、冊子をぶちまけた。
「ねぇ、君。何で男爵令嬢如きが俺のシュネーに近づいてるの。」
怒声混じりなのに人を惹きつける甘い美声。
サラサラな黒髪に凍るような冷たいものを帯びた黒曜石の瞳が転けた私を容赦なく見下す。
『花君』でも美しく過ぎる悪役令息としてプレイヤー達の心を掴んだ彼もやはり本物はその上を行く。こんな状況なのに美し過ぎて思わず目が離せない。
『クランクハイトの黒薔薇』
美しいものには棘があるというが、彼に関しては棘なんて生易しいものではない。
私私は今、シュネー様に近付き過ぎた事で彼に不興を買ったのだろう。
「シュネー様は私の友達ですの、クランクハイト様。」
『友達』に反応してピクリッと眉が動く。
彼はおそらく、シュネー様を独占したくて周りに圧を掛けている。だからその言葉が面白くないのだろう。
そもそも入学してから日が浅いといえ、シュネー様が常に一人でいるのはおかしい。シュネー様の性格や容姿ならそもそも入学前から同年代に数人友達が居てもおかしくない。ストーリー通り、彼がシュネー様の友人作りを邪魔しているのだ。そうに違いない。
フウッと息を整え、冊子を拾う。
そして覚悟を決めて、冊子を渡す。
「私、このような特技がありますの。」
にこりと強気に微笑むと彼は怪訝そうにそれを受け取り、パラパラと開く。そして冷気をまとったその表情に熱い激しい怒りが浮かぶ。
まあ、執着する程愛している相手が知らない男とまぐわってる姿なんて絵でも見たくはないだろう。
「殺せれたいの? 」
「いいえ。でもよく描けてると思いません。ほら、隅の隅まで。」
殺気に満ちた目が私を捉える。
今にも私を殺しそうなその瞳。
とても怖いがここで怯めば私の明日はない。
趣味と実益を兼ねた私の磨きに磨いた才能の見せ所だ。
「私には時を切り取ったかのように鮮明に描き出す画力があります。クランクハイト様が望めば貴方の望む情景を切り取ったように貴方の元に残して差し上げられます。」
「ほう。この俺と交渉するか。」
仰々しく礼を取り、提案すると彼は怒りを収め、興味深げにこちらを見下ろす。その姿は第二王子より気高く、威厳に溢れてる。
「お前がそれを俺に捧げる代わりにシュネーに近付く事を許せと。」
「はい、悪くない話かと。」
彼はしばらく思考する。
そして彼は私が渡した冊子を懐にしまい。「許す。職を全うしろ。」っと尊大な態度で背を向けて去っていった。
これだけ仰々しくやっているが、実際言ってる事は
「アンタの好きな人隠し撮りしてその写真あげるから居ていい? 」
「オーケー。なら、いいよ。」
である。
この世界はカメラがないので姿絵だが。シュネーがこの場に居たなら苦虫を噛み潰したような顔をしただろう。
フウッと身体から力が抜ける。
ブワッと汗が額から溢れ出す。
「いやー、やっぱりヤンデレ悪役令息は怖いわ。アレともう一人のヤンデレをどうにかしなきゃハッピーエンドにいけないとか無理ゲーしょッ!! 」
放課後。
誰も居なくなった廊下で私は叫ぶ。
モノホンのヤンデレはやっぱヤバイ。
「はぁ、シュネー様のルートはプレイヤー泣かせの難易度ルナティック。バットエンド四つに対してハッピーエンドは一つだからなぁ。ムズッ!! 」
私の叫びは放課後の廊下で誰にも聞かれず霧散した。
ずっと待ち望んでいた推しとの出会い。ずっとずっと待ち望んで妄想を全て冊子にぶつけていた。だけど本物のしかも私の知ってる『花君』のシュネーより数倍バージョンアップして現れた彼に私の妄想なんて拙いものだったと思い知らされる。
彼を見ると更に妄想が膨らむ。
どんどんペンが進んでいく。
血色のいい白い肌はきっと美しい桜色に染まるだろう。少し薄い桃色の唇から出るあの声はベッドの上ではどんな甘い声で鳴くのか。強い意志のあるアメシストの瞳が揺れる姿も見てみたい。
これは早く紙におこして、カールやクリスタ様達にお見せして、この気持ちを共有したい。
ルンルンステップを踏みながら放課後の廊下を歩いていると急に足元に出てきた何かに躓き、私は盛大に転け、冊子をぶちまけた。
「ねぇ、君。何で男爵令嬢如きが俺のシュネーに近づいてるの。」
怒声混じりなのに人を惹きつける甘い美声。
サラサラな黒髪に凍るような冷たいものを帯びた黒曜石の瞳が転けた私を容赦なく見下す。
『花君』でも美しく過ぎる悪役令息としてプレイヤー達の心を掴んだ彼もやはり本物はその上を行く。こんな状況なのに美し過ぎて思わず目が離せない。
『クランクハイトの黒薔薇』
美しいものには棘があるというが、彼に関しては棘なんて生易しいものではない。
私私は今、シュネー様に近付き過ぎた事で彼に不興を買ったのだろう。
「シュネー様は私の友達ですの、クランクハイト様。」
『友達』に反応してピクリッと眉が動く。
彼はおそらく、シュネー様を独占したくて周りに圧を掛けている。だからその言葉が面白くないのだろう。
そもそも入学してから日が浅いといえ、シュネー様が常に一人でいるのはおかしい。シュネー様の性格や容姿ならそもそも入学前から同年代に数人友達が居てもおかしくない。ストーリー通り、彼がシュネー様の友人作りを邪魔しているのだ。そうに違いない。
フウッと息を整え、冊子を拾う。
そして覚悟を決めて、冊子を渡す。
「私、このような特技がありますの。」
にこりと強気に微笑むと彼は怪訝そうにそれを受け取り、パラパラと開く。そして冷気をまとったその表情に熱い激しい怒りが浮かぶ。
まあ、執着する程愛している相手が知らない男とまぐわってる姿なんて絵でも見たくはないだろう。
「殺せれたいの? 」
「いいえ。でもよく描けてると思いません。ほら、隅の隅まで。」
殺気に満ちた目が私を捉える。
今にも私を殺しそうなその瞳。
とても怖いがここで怯めば私の明日はない。
趣味と実益を兼ねた私の磨きに磨いた才能の見せ所だ。
「私には時を切り取ったかのように鮮明に描き出す画力があります。クランクハイト様が望めば貴方の望む情景を切り取ったように貴方の元に残して差し上げられます。」
「ほう。この俺と交渉するか。」
仰々しく礼を取り、提案すると彼は怒りを収め、興味深げにこちらを見下ろす。その姿は第二王子より気高く、威厳に溢れてる。
「お前がそれを俺に捧げる代わりにシュネーに近付く事を許せと。」
「はい、悪くない話かと。」
彼はしばらく思考する。
そして彼は私が渡した冊子を懐にしまい。「許す。職を全うしろ。」っと尊大な態度で背を向けて去っていった。
これだけ仰々しくやっているが、実際言ってる事は
「アンタの好きな人隠し撮りしてその写真あげるから居ていい? 」
「オーケー。なら、いいよ。」
である。
この世界はカメラがないので姿絵だが。シュネーがこの場に居たなら苦虫を噛み潰したような顔をしただろう。
フウッと身体から力が抜ける。
ブワッと汗が額から溢れ出す。
「いやー、やっぱりヤンデレ悪役令息は怖いわ。アレともう一人のヤンデレをどうにかしなきゃハッピーエンドにいけないとか無理ゲーしょッ!! 」
放課後。
誰も居なくなった廊下で私は叫ぶ。
モノホンのヤンデレはやっぱヤバイ。
「はぁ、シュネー様のルートはプレイヤー泣かせの難易度ルナティック。バットエンド四つに対してハッピーエンドは一つだからなぁ。ムズッ!! 」
私の叫びは放課後の廊下で誰にも聞かれず霧散した。
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