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バッドエンド
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王城の前の大広場。
建国記念日や国民に向けた式典などで主に使用されるその場。建国記念日の際は王城から突き出たバルコニーから国王や王族達が国民に手を振る。舞い散る紙吹雪の中、その王族特有の黄金色の髪が華やかに風にたなびく姿は一種の風物詩だ。
しかしそんな華やかさも今はなく、集まった平民も貴族達もバルコニーから現状を見下ろす王族達もその面持ちは固い。
大広場に設けられた普段は劇の舞台として使われる壇上には宰相と数人の護衛、そして第二王子リヒトが立っていた。
リヒト王子はまるで本当の罪人のようにこうべを垂れ、その手には手錠が嵌められている。
リヒト王子が出てくると大広場からは
「このッ売国奴め!! 」
「裏切り者ッ!! 恥を知れッ!! 」
平民から多くのヤジが飛んだ。
平民達の怒りの矛先は完全にリヒト王子一人に向いており、石を投げようとする者もいた。
怒りと非難の声に大広場が包まれる中、一人、震えている女性がいた。その女性はその事態に顔を覆い、項垂れていた。
「ヴィルマ。」
そう声を掛けるとヴィルマは涙に濡れる顔をこちらに向け、必死に言い訳を始める。
「私…私はッ。だってバッドエンドの確率は10% でッ。バッドエンドになる方が難しくてッ。それ…それでッ!! 」
「そうだね。この世界はヴィルマの知る『花君』の世界に沿って進んでいる。私のバッドエンドも予見された通りに起こった。」
「だからッ…。」
「それでもここは現実の世界なんだよ。だからゲームの確率なんかで推し測れるものじゃなかった。私もそれを忘れていた。あまりにもゲーム通りに進んでいるように感じたから。」
ぐすぐすと泣き、壇上を見上げるヴィルマ。宰相が直々に断罪し、国民達はそんな宰相を正義の味方かのように見ている。リヒト王子は俯き、ただ何も言わず断罪を受けている。
「宰相が糸を引いているの? 」
「はい…。宰相とシャルロッテ侯爵が共謀して起こしたものよ。毒殺が成功したら第二王子を傀儡の王として立てて裏から操ろうと、失敗しても全ての罪を第二王子一人に被せようと。それをクギを刺す為に宰相に呼び出されていてたまたま聞いてしまった主人公は、宰相の書斎から計画に関わる書面を盗み出し、追っ手をかい潜り、リヒト王子に届けるのよ。」
「だが、届ける前に追っ手に捕まり殺された…か。ゲームでは簡単でも現実ではそうも行かなかったと。」
無残な死体で見つかったゲルダ。
あれはやはり暴動に巻き込まれてではなく、前日に殺されていた。
レオノールよりくすんだ紅茶色の髪が風に揺れてなびく。目の辺りには深い皺が刻まれていて、その目は国民達に訴えかけるように壇上から国民を見下ろしている。
「リヒト王子は娼婦の子。この国賊は王を国を恨んでいた。復讐の為だけに侵略しようと企む隣国ラフムと手を組み、我々を、国を脅かそうとしたッ。」
宰相の合図とともに間者と思われる男が壇上に投げ出される。男は縛られており、その為受け身も取れず壇上の床に叩き付けられた。
毒の瓶、間者とやりとりした書簡、そして繋がっていただろう間者自身。証拠は揃いに揃っている。
例えこれが仕組まれた冤罪でも覆す事は出来ないだろう。例えヴィルマが全ての事実を知っていたとしてもそれを証明する証拠はない。
リヒト王子は『刑受の森』に送られる。それだけの重罪を背負わされた。
『刑受の森』には『メールフォルスト』よりも凶暴な魔獣達の巣窟。そして『刑受の森』に持ち込めるのはその身一つ。待っているのは魔獣に食い殺される最期だけ。
俯くリヒト王子の表情が少し見えた。
その表情はただ絶望も涙も苦渋の表情もなく、ただ全てを受け入れていた。
『私なんて居なくて良いのに。何で生きてるんだろう。』
その顔をみると誰かの言葉が頭に浮かんだ。雪の中、消えていった誰かの言葉が。
ー 守らなければ
そんな感情に動かされ、足を前に出したが、なんとか感情を意志で押さえつけて、身体の主導権を取り戻した。
ー お前はシュネーを守るんだろうッ。シュネーを危険に晒す気か。あれは元々破滅に向かっていた。幼い頃から分かっていた筈だ。関わってはならないと。
必死に感情を抑えているのにその感情は全てを流す激流のように意志を押し流そうとする。
それでも押さえつけ、必死に押し殺そうとした時、頭に声が響いた。
『僕は大丈夫だよ。行って、君は君のしたいようにすればいい。』
それは私の声だった。
それはシュネーの声だった。
ー シュネー?
そう呼び掛けたがもう声が聞こえる事はなかった。
「私は私がしたい事をすれば良い…か。」
「シュネー様? 」
ふうーと息を吐き出し、リヒト王子を見た。
あの王子はもう諦めている。
自身の人生を命を。
何処かの誰かのようにまるで要らない価値のないもののように。
「ホント、馬鹿馬鹿しい。」
悲しみとともに怒りが湧いてくる。
これは冤罪だが、どうにもならない。しかし冤罪なら喚くなり、騒ぐなり、罪を認めないなり、抵抗する筈だ。それなのにそれすらしない。まるで殺して下さいと言っているようなもの。
ー これは自害か
ふと、ゲルダの幸せそうな表情が浮かぶ。
『俺、リヒトの事を愛してる。だからさ、リヒトの為にもっと強くなりたい。リヒトが世界一幸せになれるように。』
きっとあの言葉はあんな姿になるまで願っていた筈だ。
リヒト王子を助ける為に命を懸けたのだから。
「ムカつくな。あの馬鹿王子。」
「シュネー様!? 」
苛立ち沸騰し掛けた頭を深呼吸をして落ち着けた。百面相を浮かべる私にヴィルマが訳も分からずあたふたしていた。
「ヴィルマ。」
「はっ、はい!? 」
私の真剣な眼差しにヴィルマは思わず頷いた。そのなんちゃって男爵令嬢は相変わらず令嬢らしからぬ表情で泣いている。鼻水垂らして汚いぐちゃぐちゃな顔で。
「これから何が起きてもヴィルマに落ち度はない。何も気に病まなくていい。」
「何を…? 」
「だけどもし叶うならその君の持つ記憶で私達を助けて欲しい。」
「一体何をするつもりですの!? シュネー様!! 」
「喧嘩を売りに。」
ニッとヴィルマに笑い掛ける。
ポカンッと固まるヴィルマを置いて、私は私の舞台に向かう。
建国記念日や国民に向けた式典などで主に使用されるその場。建国記念日の際は王城から突き出たバルコニーから国王や王族達が国民に手を振る。舞い散る紙吹雪の中、その王族特有の黄金色の髪が華やかに風にたなびく姿は一種の風物詩だ。
しかしそんな華やかさも今はなく、集まった平民も貴族達もバルコニーから現状を見下ろす王族達もその面持ちは固い。
大広場に設けられた普段は劇の舞台として使われる壇上には宰相と数人の護衛、そして第二王子リヒトが立っていた。
リヒト王子はまるで本当の罪人のようにこうべを垂れ、その手には手錠が嵌められている。
リヒト王子が出てくると大広場からは
「このッ売国奴め!! 」
「裏切り者ッ!! 恥を知れッ!! 」
平民から多くのヤジが飛んだ。
平民達の怒りの矛先は完全にリヒト王子一人に向いており、石を投げようとする者もいた。
怒りと非難の声に大広場が包まれる中、一人、震えている女性がいた。その女性はその事態に顔を覆い、項垂れていた。
「ヴィルマ。」
そう声を掛けるとヴィルマは涙に濡れる顔をこちらに向け、必死に言い訳を始める。
「私…私はッ。だってバッドエンドの確率は10% でッ。バッドエンドになる方が難しくてッ。それ…それでッ!! 」
「そうだね。この世界はヴィルマの知る『花君』の世界に沿って進んでいる。私のバッドエンドも予見された通りに起こった。」
「だからッ…。」
「それでもここは現実の世界なんだよ。だからゲームの確率なんかで推し測れるものじゃなかった。私もそれを忘れていた。あまりにもゲーム通りに進んでいるように感じたから。」
ぐすぐすと泣き、壇上を見上げるヴィルマ。宰相が直々に断罪し、国民達はそんな宰相を正義の味方かのように見ている。リヒト王子は俯き、ただ何も言わず断罪を受けている。
「宰相が糸を引いているの? 」
「はい…。宰相とシャルロッテ侯爵が共謀して起こしたものよ。毒殺が成功したら第二王子を傀儡の王として立てて裏から操ろうと、失敗しても全ての罪を第二王子一人に被せようと。それをクギを刺す為に宰相に呼び出されていてたまたま聞いてしまった主人公は、宰相の書斎から計画に関わる書面を盗み出し、追っ手をかい潜り、リヒト王子に届けるのよ。」
「だが、届ける前に追っ手に捕まり殺された…か。ゲームでは簡単でも現実ではそうも行かなかったと。」
無残な死体で見つかったゲルダ。
あれはやはり暴動に巻き込まれてではなく、前日に殺されていた。
レオノールよりくすんだ紅茶色の髪が風に揺れてなびく。目の辺りには深い皺が刻まれていて、その目は国民達に訴えかけるように壇上から国民を見下ろしている。
「リヒト王子は娼婦の子。この国賊は王を国を恨んでいた。復讐の為だけに侵略しようと企む隣国ラフムと手を組み、我々を、国を脅かそうとしたッ。」
宰相の合図とともに間者と思われる男が壇上に投げ出される。男は縛られており、その為受け身も取れず壇上の床に叩き付けられた。
毒の瓶、間者とやりとりした書簡、そして繋がっていただろう間者自身。証拠は揃いに揃っている。
例えこれが仕組まれた冤罪でも覆す事は出来ないだろう。例えヴィルマが全ての事実を知っていたとしてもそれを証明する証拠はない。
リヒト王子は『刑受の森』に送られる。それだけの重罪を背負わされた。
『刑受の森』には『メールフォルスト』よりも凶暴な魔獣達の巣窟。そして『刑受の森』に持ち込めるのはその身一つ。待っているのは魔獣に食い殺される最期だけ。
俯くリヒト王子の表情が少し見えた。
その表情はただ絶望も涙も苦渋の表情もなく、ただ全てを受け入れていた。
『私なんて居なくて良いのに。何で生きてるんだろう。』
その顔をみると誰かの言葉が頭に浮かんだ。雪の中、消えていった誰かの言葉が。
ー 守らなければ
そんな感情に動かされ、足を前に出したが、なんとか感情を意志で押さえつけて、身体の主導権を取り戻した。
ー お前はシュネーを守るんだろうッ。シュネーを危険に晒す気か。あれは元々破滅に向かっていた。幼い頃から分かっていた筈だ。関わってはならないと。
必死に感情を抑えているのにその感情は全てを流す激流のように意志を押し流そうとする。
それでも押さえつけ、必死に押し殺そうとした時、頭に声が響いた。
『僕は大丈夫だよ。行って、君は君のしたいようにすればいい。』
それは私の声だった。
それはシュネーの声だった。
ー シュネー?
そう呼び掛けたがもう声が聞こえる事はなかった。
「私は私がしたい事をすれば良い…か。」
「シュネー様? 」
ふうーと息を吐き出し、リヒト王子を見た。
あの王子はもう諦めている。
自身の人生を命を。
何処かの誰かのようにまるで要らない価値のないもののように。
「ホント、馬鹿馬鹿しい。」
悲しみとともに怒りが湧いてくる。
これは冤罪だが、どうにもならない。しかし冤罪なら喚くなり、騒ぐなり、罪を認めないなり、抵抗する筈だ。それなのにそれすらしない。まるで殺して下さいと言っているようなもの。
ー これは自害か
ふと、ゲルダの幸せそうな表情が浮かぶ。
『俺、リヒトの事を愛してる。だからさ、リヒトの為にもっと強くなりたい。リヒトが世界一幸せになれるように。』
きっとあの言葉はあんな姿になるまで願っていた筈だ。
リヒト王子を助ける為に命を懸けたのだから。
「ムカつくな。あの馬鹿王子。」
「シュネー様!? 」
苛立ち沸騰し掛けた頭を深呼吸をして落ち着けた。百面相を浮かべる私にヴィルマが訳も分からずあたふたしていた。
「ヴィルマ。」
「はっ、はい!? 」
私の真剣な眼差しにヴィルマは思わず頷いた。そのなんちゃって男爵令嬢は相変わらず令嬢らしからぬ表情で泣いている。鼻水垂らして汚いぐちゃぐちゃな顔で。
「これから何が起きてもヴィルマに落ち度はない。何も気に病まなくていい。」
「何を…? 」
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