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王都組⑪
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「思った以上に事は順調ですね。」
レオノールは目の前の修羅場を見て見ぬ振りしてそう言い切ったが、表情筋は目の前の光景が完全に無視出来ず、痙攣している。
「何故もう兄弟でもない君がここにいるの? 恥ってものを知らないの? 」
「貴方こそストーカーの分際で何故ここに? 僕はもう兄ではないけどこれは感化出来ないね。」
悪魔と狂人が笑みを浮かべながら言葉のナイフを投げ合ってる。二人とも上手く笑みを貼り付けているが、その下に隠れているものはドス黒い殺意。
どちらも味方になると確実に仕事をこなしてくれる存在だが、やはり扱うにも持つ毒が猛毒過ぎて容量が難しい。
そこを上手く回す役目が己の役目だとレオノールは分かっている。分かっているのだが…………。
「誰です!? この二人を呼んだのは!? 呼ぶなら個別で呼べって言ったでしょう!! 」
上手く扱うつもりだった。
この二人を使うならば、出来るだけこの猛毒達を混ぜ合わせないように指示も報告も時間や日にちをズラしたりしていた。なのに、まぜるな危険の猛毒達が何故目の前にいるのか。
そもそもどちらも今日、呼んではいない。エリアスは何時でも勝手に来るが、フェルゼンはシュネー以外に興味がないので何時もここには来ない筈。
それが何故!?
この二人の参戦で、宰相のあげた証拠は後もう少しで崩れる。冤罪を晴らすという目的は思っていた以上にスムーズにいっている。
猛毒だって容量を調節すれば良薬にもなるのだ。
頭を抱えていると目の前にいい香りのする紅茶が差し出される。フェルゼンが連れてきたルノという執事が勝手に紅茶を淹れてきた。
「まぁまぁ、レオノール様。紅茶でも飲んで落ち着いて下さい。……きっと貴方のような仔猫ちゃんにはあの猛毒どもは扱い切れないんですから。」
オマエも毒の一部だろう!!
レオノールはそう叫びたかった。なだめるように見せかけて毒をかけてきたこの執事もどきに。
ルノをキッと睨むとルノはサラッとレオノールを無視した。そしてうっとり主人達の修羅場を見ている。
「ああ、フェルゼン様があんな生き生きと………。このまま二人で殴り合って共倒れになったらいいのに。そうすれば怪我している間、フェルゼン様は家で良い子に療養。フェルゼン様が良い子ならわたくしの仕事も減る。そうすればシュネー様をもう家から出てくなんて言えなくなる程脳みそまで蕩ける甘いお菓子を開発する時間が出来るのに……。」
「誰です!? 猛毒より更に猛毒な執事を率いれたのは!? 」
ルノの言葉にガタガタと震えながら悲痛な叫びをあげるとカールとヴィルマがスッと目を逸らした。
オマエらか!!
先程のルノの発言を聞き、アルヴィンが飲もうとしていたルノの淹れた紅茶をスッとテーブルに戻した。
この執事が淹れた紅茶は危ないと思ったのだろう。
ジョセフは飲んでしまったようで顔を真っ青にしてトイレに駆け込もうと部屋から出ようとしたが、ヴィルマに取り押さえられた。
「大丈夫ですわ、おそらく。彼はドSだけど『オカン』らしいですから…。」
「『オカン』!? オカンはお菓子に薬は盛らねぇよ!! あれはただのヤバい奴だろ!! 絶対なんか入ってる!! あんなヤバイ奴が善意で淹れる訳がない!! 」
「別に薬を盛るなんて一言も言ってませんよ。そうなるように努力して作るだけです。紅茶は善意ではありません。執事として当然です。」
やれやれとルノが溜息をつく。
なんなんだ。この執事もどきは!?
レオノールは疲れて隣でこんなやり取りの中、悠長にルノの淹れた紅茶を飲んでいるシュヴェルトを見た。
こういう時、レオノールは心底こんなアホに自分もなれたらと本気で思う。おそらく、レオノールは相当疲れている。
すると何を思ったんだからシュヴェルトがいきなりニッコリとレオノールに笑い掛けた。
その不意打ちの笑顔にポッと頰を染めているといきなり抱き抱えられ………え?
「ちょっと!? 何し…人様の前で何をして!? 」
「レオ、疲れんてだろ? ずっと休まず指揮とってるし。疲れた嫁さんを甘やかすのは夫の務めだって、この前町であったカイルが顔にもみじマーク付けて泣きながら言ってたぞ。」
「甘やかす…。」
シュヴェルトの膝の上に抱きかかえられながら座るレオノール。
何時もの彼なら「うるさい。下ろせ!! 」やら「俺を甘やかすなんて百年早い!! 」と赤面しながら大いに言葉で応酬した事だろう。
もう一度言おう。
レオノールは疲れている。
主に旦那と猛毒達の所為で。
「エリアス無しで? シュヴェルトが俺を甘やかしてくれるの? 」
「おう、いっぱい甘やかすぞ。」
シュヴェルトの笑顔がキラキラして見える。見ているだけで疲れが吹き飛ぶような。
レオノールはその表情に魅入って、熱い眼差しをシュヴェルトに向ける。
レオノールは疲れている。
そして彼はもともと推しに弱い。今、二人は二人の世界にいる。
そんな口から砂を吐きそうな光景を目の前に、流石のエリアスとフェルゼンも喧嘩をやめて、冷めた表情で見つめていたがやがて……。
「忘れ物した。確かいい玩具が家にあるんだよね。新婚さんには御誂え向きのが。」
「へぇ、それなら僕からも彼等に送りたいなお祝いで。二本送ってあげよう。きっと泣いて喜ぶよ。」
二人の勝負の見えない怒りの矛先(八つ当たり)がレオノールに向いた瞬間だった。
ブルリッとジョゼフが身震いをした。
二人の冷気を感じ取り、逃げようとしたアルヴィンを捕まえて、必死に話を替えようとジョセフの口が動く。
「レ、レオノール。今日はその…何かまた動くんだろ!? 」
「……離してジョゼさん。俺もう無理。甘いのも寒いのも。」
「ほら、フェルゼンやエリアスにだけ仕事させるのもさ。」
「………俺、町の友人達使って王都中に冤罪疑惑再燃させてくる。だから俺がここにいる必要ない。」
「オマエは俺を置いて逃げたいだけだろッ!! 」
レオノールがやっと二人の世界から帰ってきて思案する。
ホッとジョセフが胸を撫で下ろした束の間、「そうですね。是非広めて来て下さい。世論も大切です。」とアルヴィンを解放した。
アルヴィンは表情はあまり変わらなかったが相当ここから出れて嬉しかったのだろう。初めて彼が少しスキップして騎士団寮から出ていくのをジョセフは見た。
もう十年来の友人だというのに……。
「俺…も。」
「いえ、ジョゼフにはやって頂きたい事があります。カールさんも。」
「えっ!? 僕!!? 」
「待って!! カールが行くなら私も!! 」
「さて、カールさんとジョセフと…フェルゼンさん。」
「サラッと私を無視しましたわね……。」
「「待って!? ついでとばかりにフェルゼン入れたよね!!? 」」
何だか嫌な予感がしてカールとジョゼフの身体から冷や汗が噴き出す。もしや、自分達にフェルゼン(+ルノ)を押し付けるつもりではないかと。
そしてもう一つ不穏なのがサラッとエリアスが帰った事。
ジョゼフは心の中でレオノールに合掌した。そして今日は耳栓をして寝ようと心に決めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
レオノール・デーゲン
元宰相の息子。シュヴェルトの嫁(男)。冤罪を晴らす指揮を執っているので疲れ気味のツンデレ。
エリアス・クランクハイト
『クランクハイトの黒薔薇』と呼ばれる貴族社会でその身体を用いて暗躍する男。フェルゼンとは元? 恋敵。
フェルゼン・ハースト
シュネーの元兄でハースト伯爵。現在は裏のシャルロッテ侯爵を兼ねている。シュネー以外に興味がない。
ルノ
ハースト家の執事。ドS で『オカン』。果たして彼の『オカン』の部分が作中で発揮されるのから分からない。
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。前世の記憶のある腐女子。
カール・アーバイン
ヴィルマの婚約者。最近女装する暇がない。フェルゼンとはローレン王太子の『友人』仲間。
シュヴェルト・デーゲン
騎士団長の所の次男。最近嫁を労わるという事覚えつつある(本人的には)。能天気のアホ。
アルヴィン・クリフト
健全な十五歳の騎士。このお年頃にはあの甘々な空気は辛い。面倒ごとは基本苦手。
ジョゼフ・デーゲン
シュヴェルトの兄で、騎士団長補佐。弟夫婦の事は家族として大切に思っている…が、それとこれは別。平穏な睡眠を求めて最近、王都で借家を探しているとか探していないとか。
カイル
シュヴェルト達の先輩騎士。嫁さんの「疲れてるでしょう? 家事は私に任せて。」の言葉を真に受けて、全て仕事以外の生活を嫁さんに投げた結果、嫁さんがキレた。「女心は難しい。」と、そう後に彼は仲間に吐露した。
レオノールは目の前の修羅場を見て見ぬ振りしてそう言い切ったが、表情筋は目の前の光景が完全に無視出来ず、痙攣している。
「何故もう兄弟でもない君がここにいるの? 恥ってものを知らないの? 」
「貴方こそストーカーの分際で何故ここに? 僕はもう兄ではないけどこれは感化出来ないね。」
悪魔と狂人が笑みを浮かべながら言葉のナイフを投げ合ってる。二人とも上手く笑みを貼り付けているが、その下に隠れているものはドス黒い殺意。
どちらも味方になると確実に仕事をこなしてくれる存在だが、やはり扱うにも持つ毒が猛毒過ぎて容量が難しい。
そこを上手く回す役目が己の役目だとレオノールは分かっている。分かっているのだが…………。
「誰です!? この二人を呼んだのは!? 呼ぶなら個別で呼べって言ったでしょう!! 」
上手く扱うつもりだった。
この二人を使うならば、出来るだけこの猛毒達を混ぜ合わせないように指示も報告も時間や日にちをズラしたりしていた。なのに、まぜるな危険の猛毒達が何故目の前にいるのか。
そもそもどちらも今日、呼んではいない。エリアスは何時でも勝手に来るが、フェルゼンはシュネー以外に興味がないので何時もここには来ない筈。
それが何故!?
この二人の参戦で、宰相のあげた証拠は後もう少しで崩れる。冤罪を晴らすという目的は思っていた以上にスムーズにいっている。
猛毒だって容量を調節すれば良薬にもなるのだ。
頭を抱えていると目の前にいい香りのする紅茶が差し出される。フェルゼンが連れてきたルノという執事が勝手に紅茶を淹れてきた。
「まぁまぁ、レオノール様。紅茶でも飲んで落ち着いて下さい。……きっと貴方のような仔猫ちゃんにはあの猛毒どもは扱い切れないんですから。」
オマエも毒の一部だろう!!
レオノールはそう叫びたかった。なだめるように見せかけて毒をかけてきたこの執事もどきに。
ルノをキッと睨むとルノはサラッとレオノールを無視した。そしてうっとり主人達の修羅場を見ている。
「ああ、フェルゼン様があんな生き生きと………。このまま二人で殴り合って共倒れになったらいいのに。そうすれば怪我している間、フェルゼン様は家で良い子に療養。フェルゼン様が良い子ならわたくしの仕事も減る。そうすればシュネー様をもう家から出てくなんて言えなくなる程脳みそまで蕩ける甘いお菓子を開発する時間が出来るのに……。」
「誰です!? 猛毒より更に猛毒な執事を率いれたのは!? 」
ルノの言葉にガタガタと震えながら悲痛な叫びをあげるとカールとヴィルマがスッと目を逸らした。
オマエらか!!
先程のルノの発言を聞き、アルヴィンが飲もうとしていたルノの淹れた紅茶をスッとテーブルに戻した。
この執事が淹れた紅茶は危ないと思ったのだろう。
ジョセフは飲んでしまったようで顔を真っ青にしてトイレに駆け込もうと部屋から出ようとしたが、ヴィルマに取り押さえられた。
「大丈夫ですわ、おそらく。彼はドSだけど『オカン』らしいですから…。」
「『オカン』!? オカンはお菓子に薬は盛らねぇよ!! あれはただのヤバい奴だろ!! 絶対なんか入ってる!! あんなヤバイ奴が善意で淹れる訳がない!! 」
「別に薬を盛るなんて一言も言ってませんよ。そうなるように努力して作るだけです。紅茶は善意ではありません。執事として当然です。」
やれやれとルノが溜息をつく。
なんなんだ。この執事もどきは!?
レオノールは疲れて隣でこんなやり取りの中、悠長にルノの淹れた紅茶を飲んでいるシュヴェルトを見た。
こういう時、レオノールは心底こんなアホに自分もなれたらと本気で思う。おそらく、レオノールは相当疲れている。
すると何を思ったんだからシュヴェルトがいきなりニッコリとレオノールに笑い掛けた。
その不意打ちの笑顔にポッと頰を染めているといきなり抱き抱えられ………え?
「ちょっと!? 何し…人様の前で何をして!? 」
「レオ、疲れんてだろ? ずっと休まず指揮とってるし。疲れた嫁さんを甘やかすのは夫の務めだって、この前町であったカイルが顔にもみじマーク付けて泣きながら言ってたぞ。」
「甘やかす…。」
シュヴェルトの膝の上に抱きかかえられながら座るレオノール。
何時もの彼なら「うるさい。下ろせ!! 」やら「俺を甘やかすなんて百年早い!! 」と赤面しながら大いに言葉で応酬した事だろう。
もう一度言おう。
レオノールは疲れている。
主に旦那と猛毒達の所為で。
「エリアス無しで? シュヴェルトが俺を甘やかしてくれるの? 」
「おう、いっぱい甘やかすぞ。」
シュヴェルトの笑顔がキラキラして見える。見ているだけで疲れが吹き飛ぶような。
レオノールはその表情に魅入って、熱い眼差しをシュヴェルトに向ける。
レオノールは疲れている。
そして彼はもともと推しに弱い。今、二人は二人の世界にいる。
そんな口から砂を吐きそうな光景を目の前に、流石のエリアスとフェルゼンも喧嘩をやめて、冷めた表情で見つめていたがやがて……。
「忘れ物した。確かいい玩具が家にあるんだよね。新婚さんには御誂え向きのが。」
「へぇ、それなら僕からも彼等に送りたいなお祝いで。二本送ってあげよう。きっと泣いて喜ぶよ。」
二人の勝負の見えない怒りの矛先(八つ当たり)がレオノールに向いた瞬間だった。
ブルリッとジョゼフが身震いをした。
二人の冷気を感じ取り、逃げようとしたアルヴィンを捕まえて、必死に話を替えようとジョセフの口が動く。
「レ、レオノール。今日はその…何かまた動くんだろ!? 」
「……離してジョゼさん。俺もう無理。甘いのも寒いのも。」
「ほら、フェルゼンやエリアスにだけ仕事させるのもさ。」
「………俺、町の友人達使って王都中に冤罪疑惑再燃させてくる。だから俺がここにいる必要ない。」
「オマエは俺を置いて逃げたいだけだろッ!! 」
レオノールがやっと二人の世界から帰ってきて思案する。
ホッとジョセフが胸を撫で下ろした束の間、「そうですね。是非広めて来て下さい。世論も大切です。」とアルヴィンを解放した。
アルヴィンは表情はあまり変わらなかったが相当ここから出れて嬉しかったのだろう。初めて彼が少しスキップして騎士団寮から出ていくのをジョセフは見た。
もう十年来の友人だというのに……。
「俺…も。」
「いえ、ジョゼフにはやって頂きたい事があります。カールさんも。」
「えっ!? 僕!!? 」
「待って!! カールが行くなら私も!! 」
「さて、カールさんとジョセフと…フェルゼンさん。」
「サラッと私を無視しましたわね……。」
「「待って!? ついでとばかりにフェルゼン入れたよね!!? 」」
何だか嫌な予感がしてカールとジョゼフの身体から冷や汗が噴き出す。もしや、自分達にフェルゼン(+ルノ)を押し付けるつもりではないかと。
そしてもう一つ不穏なのがサラッとエリアスが帰った事。
ジョゼフは心の中でレオノールに合掌した。そして今日は耳栓をして寝ようと心に決めた。
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なんちゃってキャラ紹介
レオノール・デーゲン
元宰相の息子。シュヴェルトの嫁(男)。冤罪を晴らす指揮を執っているので疲れ気味のツンデレ。
エリアス・クランクハイト
『クランクハイトの黒薔薇』と呼ばれる貴族社会でその身体を用いて暗躍する男。フェルゼンとは元? 恋敵。
フェルゼン・ハースト
シュネーの元兄でハースト伯爵。現在は裏のシャルロッテ侯爵を兼ねている。シュネー以外に興味がない。
ルノ
ハースト家の執事。ドS で『オカン』。果たして彼の『オカン』の部分が作中で発揮されるのから分からない。
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。前世の記憶のある腐女子。
カール・アーバイン
ヴィルマの婚約者。最近女装する暇がない。フェルゼンとはローレン王太子の『友人』仲間。
シュヴェルト・デーゲン
騎士団長の所の次男。最近嫁を労わるという事覚えつつある(本人的には)。能天気のアホ。
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健全な十五歳の騎士。このお年頃にはあの甘々な空気は辛い。面倒ごとは基本苦手。
ジョゼフ・デーゲン
シュヴェルトの兄で、騎士団長補佐。弟夫婦の事は家族として大切に思っている…が、それとこれは別。平穏な睡眠を求めて最近、王都で借家を探しているとか探していないとか。
カイル
シュヴェルト達の先輩騎士。嫁さんの「疲れてるでしょう? 家事は私に任せて。」の言葉を真に受けて、全て仕事以外の生活を嫁さんに投げた結果、嫁さんがキレた。「女心は難しい。」と、そう後に彼は仲間に吐露した。
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