僕は伯爵様の抱きまくら………だったはず?

ゆずは

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番外編

執事は微笑む




 私はアーデルグレイス伯爵家に仕える執事であります。もう数十年務めており、そろそろ引退を考えておりますが、当代領主代理である弟君のラウドリアス様から中々隠居の許可が降りません。
 曰く、「私一人で兄上を御せると思うのか?無理だろ?」だそうです。
 なるほど。
 現状で、当代当主であり魔術師団総帥の座に就いているファビラウス様に真正面から意見を言えるのは、ラウドリアス様と私だけというのは確かなことです。
 老いた自覚はありますが、まだまだ必要としてくださっているのならば、なんとしてもご期待に添えようと思います。

 ファビラウス様は、何も、傲慢で我儘で奔放な性格や態度というわけではありません。
 幼い頃から見守っている私から見れば、ファビラウス様はとても真面目な方です。ただ問題があるとすれば、娯楽よりも食事よりも睡眠よりも、魔術書を好んでいるというところでしょうか。
 魔術の研究を優先し、社交に関しては全くの放置です。折角優れた美しい黒髪と金色の瞳を持ち、目鼻立ちも整っているというのに、他家からの招待にも見向きもしません。
 そんな態度ですから、当然のように婚約者候補すらできない状況でした。

「伯爵領に関しては私がどうにかするから」

 学院に入学したばかりのラウドリアス様が、私に苦笑しながらそう仰られたことを未だによく覚えております。
 なにか問題が起きればファビラウス様はその魔術ですぐに解決してくださるし、領民の生活が楽になるようにと簡易な魔導具も自ら作り上げ領民たちに与えております。そのことで領民たちからは感謝や敬愛といったものを寄せられますが、領地統治はそれだけで終わるわけではありません。むしろ、魔導具にしろ整備にしろ、ファビラウス様にとっては魔術の実験の一環でしかないのです。

 ファビラウス様が魔術師団に入団したことは、ある意味当然のことでしょう。数年後、歴代最年少で総帥の座についたことも、わかりきっていたことです。
 その頃から極端に伯爵家へ帰宅されることが減りました。食事に睡眠にと、常に注意を向ける家族がそばにいないことで、研究にのみ時間を費やしているのでしょう。
 こうなってしまうと正すことは難しく、恐れ多くも国王陛下のお言葉も受け入れないご様子。当然、ラウドリアス様からのご注進にも耳を貸さない状態。どれほど魔術師団の方々から泣きつかれても、改善できない日々が続きました。

 研究が一段落しますと、ファビラウス様は一度伯爵家へお戻りになられます。
 ラウドリアス様はせめて一日だけでも魔術師団の方々に休んでもらおうと、その日を狙ってファビラウス様を王都の孤児院へ連れ出しました。

「慰問に訪れたときに、子供たちに魔術を見せてやってほしいんです。普段と違うことをすることで、兄上の中にまた閃きが浮かぶかもしれないでしょう?」

 というラウドリアス様のお言葉に、ファビラウス様は渋々頷かれました。
 ああ、これで、一日だけでもお休みを確保できる。
 国王陛下からも魔術師団副総帥殿からも懇願されていたことが少しは解消できる。
 そう思うと、安堵の溜息が漏れました。

 ――――ですが、この慰問から、伯爵家の、ファビラウス様の運命は大きく変わることになりました。

 誰が予想できたのでしょうか。
 まさか、その孤児院で一人の少年を見初めて、その日のうちに連れ帰り、伴侶と言わずに『抱き枕』として説明をしたなんて。

「……兄上が何を考えてるのかわからない……。いや、伴侶を決めたことは喜ばしいことなんだけど……、それが男の子ということも、別にどうでもいいんだけど。シュリは可愛いし。でも、なんで『抱き枕』なんだ?シュリがまだ未成年だから?孤児で何も知らないから?……ごめん。最初から婚約者として連れてきたらよかったのに……、貴方にはとても迷惑をかけると思う……」
「私にも旦那様のお考えは理解できかねますが……、ではシュリにはそれとなく教育をつけましょう。シュリが成人するまで三年あります。もしかしたら、ご自分が心変わりするかもと考えてのことかもしれませんし」
「う、ん。そうだね。もし兄上がシュリのことを手放しても、彼が苦労しないよう手配してもらえるかな」
「ええ。お任せください」

 私もラウドリアス様も、これはファビラウス様の気まぐれじゃないかと疑っていたのです。
 ……ですが、その日を境に、ファビラウス様は毎日ご帰宅され、目尻を下げながらシュリを可愛がる毎日。
 夜のお支度も、朝のお支度も、いつの間にかシュリだけのお仕事になりました。
 ……『抱き枕』として連れてこられたシュリは、毎晩、ファビラウス様の元で眠ることを疑いもしていません。
 そして、屋敷の使用人たちには、シュリが成人を迎えたらすぐに伴侶とすることが伝えられました。
 ……どうやら、ご自分の心変わりの可能性を考えての抱き枕宣言ではなかったようです。
 私はラウドリアス様と苦笑しあい、見守ることに決めました。










*****
周りには苦労人がいっぱい……。
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