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新婚旅行は海辺の街へ

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 魚型魔物――――魔魚まぎょと呼ぼう――――振舞い臨時パーティーは、大盛況のうちに終わった。なんせ数が多かったからね。

「海からもやっぱり魔物ってくるよねぇ」
「そうだな。報告の数自体は少ないが、被害が全くないわけでもないんだ」
「じゃ、領主さんとかに頑張ってもらわなきゃ、だね」
「一応話をしておこう」

 数匹の魔魚なら、ほんと、屈強な筋肉の持ち主である漁師さんたちがどうにかできるらしいけど、流石に魔法を使ってくるようなやつとか、クラーケンとかのように超大型になると太刀打ちできなくなるから。

「王都からこれだけ離れてると、すぐに救援にくることもできないしね…」
「ああ。この近くにも駐屯兵師団はいるから、救援が来るまではなんとかしのげるとは思うが」
「俺が転移で」
「ん。却下だな」
「だよねぇ」

 なんて話を、浜辺の片付けをしているみんなを見ながらなんとなく話してた。
 王都から離れちゃうと、ほんと、救援が遅くなるのはもう仕方ないと言えば仕方ないんだけど。移動手段だってお馬だし…。

「考えることは山積みだが、とりあえず今はいいだろう。漁師たちがああやって魔物を処理していたということが知れてよかったよ」
「他の港町でも同じようにしてるのかな」
「念のため確認はさせておく」
「うん」

 帰ったらやること山盛りだねぇ。
 本当に電話がほしいね。
 そしたら聞き取り調査も簡単なのに。

 私兵の護衛さんたちや警備兵さんたちに指示を出していたフランツさんが、俺達の方に来た。
 オットーさんとザイルさんは、俺達の後ろ側に一歩下がる。

「殿下、奥方様、此度の討伐ありがとうございました」
「この場に私たちがいたのは偶然なので、今後は海岸沿いの警戒も絶やさないように願う」
「はい。領民を守るのも私たちの役割であることは心得ております」

 うんうん。もうちょっと私兵さんたちなり、警備兵さんたちなり、鍛えてくれてもいいと思う。クリス隊並みに…なんて無茶なことは言わないからさ。

「本来の目的があまり果てせていませんが、どうなさいますか?本日は屋敷に戻りますか?」
「そうだな。一度情報のすり合わせをしておこう。…いいか?アキ」
「うん」

 釣りとか、漁師さんがどうやってるのかとか見たかったけど。
 結構汚れちゃったしね。

「では、馬車の方へ。こちらの片付けは漁師の者たちと兵で終わりますので」

 にこにこ笑うフランツさんが、俺たちを馬車の方に促した。
 …フランツさんって、どこでも笑ってるよね。
 その笑顔に嫌な感じはしないけど、この人の素の顔とも当然思えなくて。
 笑うだけの人って何を考えてるかわからなくて不安。
 感情を表に出さないってことでは、それでもいいのかもしれないけど。にこにこしてた方が、場が和むことの方が多いだろうから。

 なんとなくクリスの手を握ったら、クリスの視線が一瞬俺に降りてきて、すぐに手を握り返してくれた。
 大丈夫大丈夫。
 俺の考えすぎなだけ。
 だって、ね。
 何考えてるかわからないけど、嫌な気配とか感情とかは感じないし、純粋にいい人って気はしてるからさ。
 うんうん。
 俺の思い過ごし。うん。





◆side:クリストフ

 初対面であるはずの漁師たちに、アキが案外受け入れられていた。
 タリカでもそうだったな。
 本人はあまり自覚はないが、表裏のないアキの態度が、周囲――――特に民たちに受け入れられやすいのだろう。

 魔物の中にはその身を食べることができる物もいる。
 簡単には手に入らない物もあり、それなりの価格で市場にも出回っているのだが、魚型も同様に食されているとは思っていなかった。
 王都に流通していないせいか、俺もその事実に驚いたのだが。
 現地で領地として治めているフランツまで驚いているということは、伯爵家でも把握していないのかもしれない。
 漁師たちが独断でこれまでの経験や知識から行っていることだろうが、伯爵家に魔物出没の情報が流れないのも問題がある。
 …改善点ばかりだな。
 とりあえず伯爵にはより詳しい報告書をあげてもらうことにしよう。

「疲れていないか?」
「…魔力ももらったし、俺、ほとんど何もしてなくて食べてばっかりだけど」

 馬車の中、目の前にはフランツがいるが、隣に座るアキを膝の上に抱え上げた。

「クリスっ」
「力を抜け。少し眠った方がいい」
「疲れてないってば」

 すいっと視線を逸らせるアキの頬が、僅かに上気する。
 肩に陣取っているマシロが、耳を伏せながらアキの目元を舐めていた。
 アキを心配して、気遣う仕草。
 ちらりと、赤い瞳が俺を見る。

「いいから眠れ。ちゃんと部屋まで連れていくから」
「……疲れてないし、眠くもないし……」
「わかったわかった」

 アキの座る向きを変えて、対面で抱き込んだ。
 背中を軽く叩いてるうちに、アキの目元が緩んでいく。

「くりす」
「大丈夫。何も気にするな」

 すり…っと俺の胸元に額を寄せてくる。
 本人は気づいていなくても、気を張って疲れているのだろう。

「……奥方様は、お疲れなのですね」

 アキの微かな寝息が聞こえ始めると、フランツが声を抑えて話しかけてきた。

「病み上がりだからな」

 まだそれほど体力は戻っていない。
 痩せすぎてる感じはしないが、以前よりもまだ細い。
 感知で捉えた魔物の気配に気が気ではなかっただろう。

「奥方様はどうして魔物が迫っていることをお気づきになられたのですか?」
「勘がいいんだ」
「勘……ですか」
「ああ」

 事実を伝えるつもりもない。その必要もない。

「奥方様はやはり素晴らしい魔法師なのですね。最初の攻撃はとても正確で素早かった」
「そうだな」
「お疲れなのは、魔力を使いすぎたせいでもありますか?」
「どうだろうな」

 正直、最初の攻撃魔法よりも、その後展開を続けていた障壁の方が魔力消費は多い。
 口付けていくらかの魔力は補充したが、満ではない。けれど、眠らなければならないほど消費しているということでもない。
 フランツが何を意図して質問してきているのかわからない。
 そしてこの男が魔法に詳しいとも思えない。

「屋敷に到着しましたら昨夜の果汁をお届けいたします。奥方様が目覚められましたら、お飲みください」
「ああ。感謝する」
「いえ」

 笑うフランツ。
 …警戒、しておくか。


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