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自由の国『リーデンベルグ』

26 学院二日目です

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「ロレッロ様、この杖を見てください!!このしなやかなところとか、はめ込まれた宝石が美しいと思いませんか!?」
「いや、この自然な木の曲がり具合の方が綺麗だろ」
「樹木素材もいいですが、僕の杖は水晶を削り出して作られた一品もので…!!」
「あ、あの、仕込み杖なんて、どうですか?」
「え、えっと、はい、全部、いいと思います…?」

 翌日の登校。
 チェリオ君と話してる間に、俺は多数の生徒さんたちに取り囲まれ、謎の自分の杖大披露大会に巻き込まれた。
 何故。
 チェリオ君よ。
 笑ってないで助けてはくれまいか。
 とりあえず、水晶製の杖はキラキラしてとても綺麗だった。




 俺が聴講生として学院に通うために、クリスといくつか約束をした。
 まず、護衛としてザイルさんを常に同行させること。これは、学院長先生からも了承を得ていて、今俺がいる教室の後ろに、しっかりと濃紺の制服を着こんで隙なくたたずむザイルさんがいる。教室に入ってきた生徒さんたちは、最初ぎょっとした顔をしていたけど、俺の護衛で…って説明したら、すんなり納得してくれた。そしてザイルさん、何気に女子生徒さんたちに人気。全て断ってはいるけれど、話しかけられたりお菓子を渡されそうになっていたりと、人気ぶり。大丈夫。オットーさんに告げ口したりしないから。
 それから、ムヤミヤタラに『格好いい』と言わないこと。俺がそれを言うことで、好意を寄せてくる人が出ないとも限らないし、そんな生徒さんや教師が出たら、クリスとしては気が気じゃないから通学は許せなくなる、と。『格好いい』だけじゃなくて、褒めちぎるのも駄目って言われた。
 そして、触らない、触らせない、こと。授業でどうしても必要なとき以外、って注釈付き。俺がごまかそうとしても、ザイルさんが監視の役目も担っているから、隠し事はできない。する気もない。

「アキラ、大人気」
「なんで突然……」

 ようやく人の波が引けた。
 教室の外の廊下には、恐らく下の学年の生徒さんらしき姿もちらほら見えるけど、気づかないことにする。
 チェリオ君はこの状況を面白そうに見るだけ。

「……まあ、予想はできてたけど」
「なんで」
「お前が昨日杖を褒めまくってたから」
「……だって」

 本心からの言葉だったわけで、こんなことになるなんて思ってなかった。

「駄目だったのかなぁ」
「そんなことないだろ」

 チェリオ君は俺の頭をなでようとして、すぐにひっこめた。昨日、俺が避けたからね。

「杖を持たないやつが杖持ちを馬鹿にする風潮はあったし、それ自体は嫌な雰囲気だったからな。教え方に偏りがあるせいってこともあるだろうけど」
「やっぱり杖を持たない方がいいっていう感じ?」
「まあな。杖がなきゃまともに魔法が使えない状況だと、いざってときに何もできなくなる時があるかも、だから基本は杖は持たない方がいい、ってやつ」
「変なの」
「偏ってるだろ?」
「うん」

 教師の人たちに杖もちの人、いないんだろうか。
 でも、そうか。
 俺の学院で杖についての教科を取り入れるのもいい。
 あと、食堂必須!おいしいごはん提供してほしい!

 教室を移動するとき、昨日よりも視線を感じた。
 魔法学院、基本的には一学年一クラス。魔法師になれる人がそれほど多くはないから、この規模。でも、魔法師の育成は国にとっても大事なことだから、設備としてはかなり充実している。食堂が基本無料でとてもおいしいこともその一環だし、一部の生徒さんのために寮が完備されているのもいいことだと思う。

 今日の授業は五講全て座学。
 その中でも魔物に関する授業については真剣に聞けた。……ほかのだってそれなりにちゃんと聞いているけど。
 今のところ知られている魔物の生態系とか弱点とか。最高学年になると、実際に郊外で魔物討伐に参加する実習もあるのだとか。
 これも、必要だよな。俺の知識も混ぜれば、専門的なものになりそう。




 午前の授業を平和に過ごし食堂に移動するとき、こっそりザイルさんに確認した。

「クリス、いる?」
「今日はいません」

 って、ザイルさんもこっそり教えてくれた。
 一応、朝のうちに予定は確認したけれど、予定になかった視察に来たのが昨日だったからな。
 ザイルさんがそういうなら間違いないだろう。
 内心ほっとしつつ、チェリオ君と肩を並べて食堂に入った。
 今日もそれなりの込み具合。

「あ、ザイルさん、お昼は?一緒に食べないと食べる時間ないよね」
「それなら、セシリア嬢がお弁当を持たせてくれたので」
「え」

 なんと。
 それは知らなかった。
 リアさんのお弁当……ちょっとうらやましい。絶対おいしいやつ。

「……アキラ、護衛の人とそんなに親しく話すんだな」
「え?」
「護衛はめったなこと話さないし、呼び方だってそんな呼び方しないだろ」
「あー……」

 改めてザイルさんを見たら苦笑された。
 ザイルさん、だし、アキラさん、だし。
 確かに、護衛と護衛対象の呼び方にしては、不自然だったかもしれない。

「別に。ザイルさん、俺のお兄さんみたいな存在だし、俺たちにとっては不思議じゃないから」

 嘘じゃないよ。ほんとにそう思ってるから。
 ザイルさんはどこか嬉しそうに笑ってくれた。

「そうなんだ」

 チェリオ君はうんうんと頷いてくれた。
 深く突っ込まれなくてよかったと思う。

「じゃあ、今日は何を食べる?」
「んー」

 メニュー表を改めて見ていたときだった。

「すみません。私たちも同席させてもらえますか?」
「え」

 俺とチェリオ君に、そんな言葉がかかった。
 驚いて振り向いたら、やたらキラキラしい人たちが五人。キラキラしい笑顔で立っていた。






*****
「きょう、ういすぱぱ、いっしょ?」
「ああ。今日はマシロと一緒だ」
「ふあああああ」
「よかったね、マシロちゃん」
「う!う!りーあ、ましろね、うれち!」
「……そうだ。マシロ、俺と城下町にでも行ってみるか」
「じょーか、まち?」
「そう。西町のように色々売っているだろうから、お前やアキが好む菓子もあるかもしれない」
「いく!」
「ん。じゃあそうしよう。――――セシリア、グレゴリオ殿下に連絡をいれてくれ」
「かしこまりました」
「同行はオットーとセシリア。それ以上の護衛はいらないとも伝えてくれ」
「はい」
「おでかけ~おでかけ~」
「マシロ、セシリアの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「う!きく!」
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