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自由の国『リーデンベルグ』

33 バレたわぁ…………

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 研究所は王城から馬車で十分程度の貴族街の中にあった。
 立地的にここで良いのかと思ったけれど、平民の職員さんでも発行される身分証明書を門番に見せればすぐに通れるんだって。それなら通いづらいってことはないんだろうな。多分。

「魔導具というのは、媒体となる物――――強度や性質から宝石が多いのですが、その媒体に魔法陣を刻み、魔力を流すことでその魔法陣に組むこまれた魔法を発動させます。…これは学院の五学年が魔導具基礎で学ぶことです」

 俺たちを出迎えてくれたのはベルエルテ伯爵本人だった。
 まるで授業のように、魔導具についてくわしく説明をしてくれる。歩きながらだけど。

「幸いにも、我が国には魔法学院があり、国から援助を受ける研究所がありますから、他国に比べて魔導具を研究、開発する環境が整っております。……自国贔屓に聞こえるかもしれませんが、我が国の魔導具技術は他国より一歩も二歩も前を進んでいると自負しております」

 自信と誇りを持った人の顔をしてた。
 ギルマスが前所長だったんだよな。だったら、生半可なことはしなさそうだから、実績のある当然の自信……だと思う。

「魔法陣を描くにあたり、覚えなければならないのは古代語と呼ばれている言語です」
「古代語…」
「ええ。女神の時代以前に使用されていた言語で、本来、魔法とはその言語を用いて使用されるものだったと考えられています。――――これは三学年の魔法史で学ぶ内容です」
「はぁ…」

 俺が零点出したあの教科か。……なんかなぁ。研究所の視察というより、補講を受けてる気分になってきた……。

「媒体の宝石に魔法陣を刻む際、その古代語を用いますので、魔導具技師はまずその古代語を覚えなければなりません。もちろん、辞書は用意がありますが、全てではありません。一人ひとりが古代語を深く学び、己で考え構築することが重要なのです」
「はい……」

 辞書の意味ないな。それ。
 ……英単語を辞書無しで深く理解しろと言われてる気分だ……。

「えっと……、遮音魔導具が大きいのは」
「あれは、刻む魔法陣が大きく、それに合わせた大きさの石を使用しているからですね。……まだまだ改良の余地はあると思うのですが、現状ではあの大きさが限界です。もちろん、研究は続けています」
「そうなんですね…」
「さ、こちらにどうぞ」

 グレゴリオ殿下は知ってる内容だからいいんだけど、クリスは俺の腰に腕を回したまま何も言わない。だから、ベルエルテ伯爵のを聞いて頷くのは俺だけ。
 仕方ないなぁ。
 でも、リアさんの言葉じゃないけど、正直、俺の好きな分野だと感じた。
 古代語で魔法陣を宝石に刻んでそれを使うなんて、厨二心がくすぐられるし、ゲーマーの血が騒ぐ。
 ベルエルテ伯爵が開けた扉の向こうは、広い作業所だった。
 職員さんと思われる人たちは、それぞれの机についていたり、書棚から大量の本を取り出していたりと、みんな忙しなく動いてる。
 伯爵に促されるまま、作業中の男性の手元を覗き込む。
 男性の机の上には、魔法陣らしきものが描かれた紙と、直径三センチくらいの赤い宝石らしい石。
 ペコリと頭を下げたその男性職員さんが、俺が見えやすいように体の位置をずらしてくれた。

「特殊なペンを使用します。魔法ではなく、純粋な魔力を流しながら、この宝石に出来上がった魔法陣を刻んでいきます」

 刻むって言うから、彫ったりするのかと思ったけれど、なんというか、文字を魔力で定着させていくような感じだった。
 直径三センチなんて小さいところに、その職員さんは迷うことなく魔法陣を刻んでいく。
 でも魔力を流しながらだから、魔力制御がうまくできなきゃ無理な作業だ。
 職員さんの手が止まったとき、石には鈍く光る魔法陣が浮かび上がっていた。
 ふう…っと息をついて、出来上がったばかりの魔法陣付きの石を、用意されていた台座に置く。

「あとはこれを固定したら終わりです」

 固定にも魔力を使ってた。
 属性なんて関係ない純粋な魔力が、魔導具作りには必要なもの。

「魔導具ってこうやって作るんですね…!」

 色々我慢できなくてそう口にしてた。
 少し大きくなってしまってうるさかったのか、ガタンって椅子を蹴るような音が聞こえた。

「アキラ?」

 うるさかったのかな……っていう俺の考えはどうやら間違ってたみたいだ。
 俺を呼んだ声はここ数日ですっかり聞き慣れたものになってた。

「あ、チェリオ君」

 俺はいつも通り彼を呼んで、手を振った。
 なんでここにいるんだろ。今日は野暮用とか言ってなかったっけ。
 それにしてもなんでそんなに驚いた顔してるんだろ……と思い、はたっと気づいた。
 笑顔のまんま。
 手は、振っていた形のまんま。
 凍りついたチェリオ君と、凍りついた俺。

「アキ」
「アキラさんのご友人ですね。学院でご一緒しています」
「ああ、なるほど。そういえばブリアーニと親しくしていると仰ってましたね」

 クリスに呼ばれ腰を抱く腕に力が入ったことに気づき、ザイルさんやグレゴリオ殿下からの追加情報が入り。

「……豊穣の国の、王族?」

 呆然と呟いたチェリオ君の声が、妙に静まり返った作業所の中に響いた……。








*****
「お昼ごはんは……あら、どうするんだったかしら」
「おひりゅ」
「うん。ここで食べていくのか、向こうで済ませてくるのか、はたまた城下町で食べるのか……うーん」
「りーあ、しゅいた?」
「ええ?」
「あね、こえ、たべぅ。ちあわせになりゅ」
「(ちあわせ………可愛いの暴力がすぎる…!!)これは……クッキー?」
「う!あきぱぱの、おはにゃの、ぉかし!」
「ああ……あのお花の。そっか。そうよね。ミナだけが食べれるお花じゃないものね。んー、料理長様のクッキー美味しい」
「う!あんまぃの」
「うふふ。そうね。あー……、今度、冷たいおかし作りましょう。マシロちゃんのお花も使って」
「ちゅめたい?」
「そう。ひんやりしてて、暑い日に食べたら、とーっても美味しいの。見た目も綺麗だし」
「ましろ、たべりゅ。ぃま、あむ?」
「ごめんね。まだ作ってないから……、ここの厨房借りれるといいんだけど……。作るときはマシロちゃんも手伝ってくれる?花びらぱらぱらーってふらせてほしいの」
「ほわ…っ!ましろ、ちゅくる!しゅる!あきぱぱ、うれち、なる?」
「なるなる」
「くりすぱぱ、おこ、しない?」
「もちろん!よくやったー!って褒めてくれる」
「ひゃあ………。ましろ、めちぁ、うれち」
「(可愛すぎて鼻血でる……………っ)」
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