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本編
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しおりを挟む小さい頃から仲のよかったぼくたち三人。
王太子のレイナルド・バランディンは、体格も良くて頭も良くて、当然、魔力も高い、王族の中の王族と呼ばれてる。
流れるように美しい金髪と、空を映したかのような透き通った空色の瞳。そして、顔の作りも飛び抜けて良くて、小さな頃から婚約の申し出が殺到してたんだ。
もう一人は、公爵家の長男で、アベルシス・ベニート。
レイに負けず劣らずの美丈夫で、キラキラした銀髪に、濁りのない紫色の瞳をしてる。
レイに比べると細く見えるけど、服の下にはきれいに整った筋肉がついていて、剣技だってレイに劣らない。
そして、ぼく。セレスティノ・カレスティア。男爵家次男。どこにでもいそうなミルクティー色の髪と、普通の緑色の瞳。背も低いし、筋肉つかないし、とにかく細い。もう、二人とは真逆のようなぼく。
……正直、なんで貴族のなかでも最下層にいるようなぼくと、レイやアベルのような上級身分の人が友達なのか……ってのは、よくわからない。
王太子のことを『レイ』って愛称で呼ぶことも、貴族の中でも最高位の公爵家の跡取りを『アベル』って、これまた愛称で呼ぶことも、ほんと、なぜなのか、ぼくにもよくわからない。
わからないけど、ぼくたちにとってはこれが普通で、ぼくたちをよく知ってるレイの侍従さんや、アベルの家の人たちは、何も言わない。
ほんと、不思議。
貴族の子どもたちは、十二歳から十八歳まで学院に通うことになる。
そこで、更に深い教養や、世界の成り立ち、魔力の扱い、剣技の向上……などなど、様々な知識と技能を身に着けていくんだ。
魔力が高かったり、頭のいい平民の子も通ってくることがある。
平民には平民の学園があるのだけど、能力の高い子は、折角持ってる力を伸ばし切ることができないんだって。だから、貴族学院に入って、能力を高める必要があるんだとか。
すごいよね!
そういう子達は少なくなくて、みんな、とても努力家なんだ。
ぼくはだめだなぁ。
勉強も自信がないから、いつもレイとアベルに教えてもらってるし、剣技なんて、いくらやっても身につかない。
唯一秀でてるといえば魔力だけで、それだってうまく使いこなせなくて、宝の持ち腐れとよく言われてしまう。
ほんと、ぼくってだめなやつだ。
「セレス、図書館に行こう」
「レイ、アベル」
授業が終わってすぐ、レイとアベルがぼくをむかえに来てくれた。
貴族学院では家柄や成績でクラスが別れてしまうから、レイとアベルは同じクラスだけど、ぼくは違うクラスなんだよね。
「ちょっと待って」
あたふたとカバンに教科書を詰めていたら、周りからひそひそと声がする。
……慣れたけどさ。
ひそひそは、身分も何もかも低いぼくが、王太子と公爵家の跡取りを愛称で呼んで近くにいるから、それに対する中傷。
わかってるよ。
ぼくだって。
でも、二人といると楽しいし、それが普通のことだし。
少しだけ胃はきりきり痛むけれど、いつものことだから。
ぼくがこの二人と一緒にいることを、快く思わない人たちはたくさんいる。
……ほんとに、仕方ないんだ。
わかってるんだ。身分違いだ、って。
でも、ぼくは二人のことが大好きだし、二人だって、嫌な顔ひとつしないんだから。
だから、クラスに友達がいなくても、ぼくは平気。
二人と過ごせるのはこの学院にいる間だけってことも、わかってるけど、それも平気。
学院の最高学年になったぼくたちだから、二人と一緒に過ごせるのは、あと半年もない。
年の終わりの卒業式を迎えたら、レイは王太子として国政に携わって、アベルはレイの側近として、仕事を補佐していくことが決まってるはず。
……ぼくは、男爵家の生まれだし、特別頭がいいわけでもないから、お城の仕事になんてつけない。
領地は兄様がしっかり治めていけるだろうし、ぼくはこんななりだから、学院を卒業したら、すぐにでもお嫁に出されるだろう。
まだその印は現出していないけれど、ぼくの体格や腕力のなさは、ぼくが『孕み側』ってことを否が応でも証明してるみたい。
歴史の中では、『女性』という存在がいたと記されている。ぼくたちのような陰茎を持つのは『男性』で、子供を宿せるのは『女性』だけだったらしい。
でも、あるときから、『女性』はいなくなってしまった。
それと同時に、『男性』の中に、子供を宿せる人が現れた。
全員が宿せるわけではなく、下腹部に『花籠』とか『花印』と呼ばれる印を持った人だけが、子を宿せるんだ。
その印は、十歳から二十歳くらいまでの間で現出して、ピンク色に染まったら、子を宿すための『器官』が成熟したサインなのだそう。
花籠を授かる男性は、だいたいがぼくのように筋肉があまりつかない体質だったり、背が低かったり、全体的に華奢な雰囲気のある人なんだって。
たまに例外はあるらしいけど。
多分ぼくは子を宿す『孕み側』だから、卒業したらお嫁に出される。……もし、貰い手がなかったら、兄様に嫁ぐことになる。
兄弟で婚姻関係を結ぶことも、珍しくないから。
「セレス、考え事か?」
「セレス、どこか具合悪い?」
「ううん。大丈夫。ありがとう、レイ、アベル」
カバンを手にしたまま考え事にふけってしまったから、二人が心配してぼくのところまで来てくれた。
「行こう」
へへ、って笑いかけたら、二人とも笑ってうなずいてくれた。
もうちょっとだけ。
この楽しい時間を過ごしてもいいかな?
応援ありがとうございます!
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